↓花巻視点




彼女にキスをしようと顔を近付けると、いきなり体を押されて距離を取られた。キスを拒まれたことにムッとする。さっきまでいつもと変わらなかったのに、なんで急に拒むわけ?


「別れよ、貴大」
「……は?」


拒まれる理由がわからなくて気分が傾きそうになったとき、彼女の口から予想外の言葉が飛び出した。突然のことに意味がわからなくて、なんとも間抜けな声が出たけどそんなの気にしてられない。渇いた喉からようやく、なんでという言葉を絞り出したけどそれは彼女にとっては愚問であったらしい。視線が少しだけ鋭いものへと変わった。


「なんでって、それ本気で言ってる?」
「……」
「貴大にとって、あたしじゃなきゃだめな必要ってないでしょ」
「だから俺は、」
「本当に好きなのはあたしだけ?……ごめん、もうその言葉信じれそうにない」


今まで何度も、言ってきた。本当に好きなのはお前だけで他の女は遊びだって。その言葉に嘘はない。他の女を抱く度にやっぱり彼女のことが好きだと再認識していた。彼女のことが好きなのは本当なんだからこれは別に浮気じゃないって、ずっとそう思っていた。


「貴大はあたしのことは本気で他は遊びだっていうけど、じゃあその違いってなに?」
「……」
「結局本気でも遊びでもしてることは一緒なんだから、あたしがいなくてもいいじゃん」


彼女以外の女を抱いていたのは本当にただの気まぐれで、俺に好意を持っている女がいたからただなんとなく。そのことに理由や意味なんてものは何もなかった。俺の浮気を咎めることはせず、ただ俺のことが好きだと言ってくれる彼女に甘えて、俺の行動が彼女を傷付けていたことに今の今まで気付けなかったのだから馬鹿すぎる。
彼女はずっと俺のことを信じてくれていたはずなのに、俺は一体なにやってんだ。


「……ごめん、俺が悪かった。もう絶対しないから、頼むから別れるなんて言うなよ。…お前じゃなきゃ、だめなんだよ」


彼女をどうにかして俺の傍に引き留めたくて、抱き締めてすがり付いた。だけど、彼女は俺を抱き締め返してはくれなくて、その事にどんどん焦りが生まれる。


「…もっとはやくにその言葉を聞きたかったなあ」
「ごめん、本当にごめん。我が儘だってわかってるけど、別れたくない」


抱き締める腕に力が入る。頼むから俺から離れるなんて言うなよ。好きなんだ。本当に。大切なものはなくなってから気付くってよく聞くけど、こんな風に身をもって知るとは思わなかった。彼女はずっと俺の隣にいてくれるなんて、なんの根拠もないのになんでそんな自信を持ってたんだ。

彼女がそっと俺から離れる。彼女の目は揺れていたけど、でも別れの言葉を撤回してはくれなかった。

最後まで謝ることしかできないような情けない男でごめんな。



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ところどころ不完全燃焼な部分もありますが書いてて楽しかったです。
花巻のちゃんとした話書くの初めてなのにこんな話でごめんね花巻…。




2014/12/12

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