沖田さん@薄桜鬼


どたばたと慌ただしい音が響く屯所。その屯所の一部であるはずの自分の部屋は、その騒々しさが嘘のように静まり返っている。


「寂しい、な…」


まるでそれが隔離されてるみたいで、無意識に呟いた言葉は自分には似合わない柄にもない言葉。それがなんだかおかしくて自分自身を嘲笑うかのように笑い声が零れた。


「ははっ…っごほっごほ」


途端に咳へと変わる笑い声。その咳が治まる頃にはもう屯所内は静かになっていて、その静けさに虚しさと焦燥感を感じずにはいられない。

刀を握りたいのに握れない苛立ち。……否、刀はすぐそばにあっていつだって握ることは出来る。だが、その刀を振るう力が今の自分にはない。振るえば今この瞬間も自分を蝕んでいる病によってさっきみたいに咳込んでしまい、その隙に敵に斬られるのが目に見えている。それを土方さんもわかっているからこそ今日の討ち入りに僕を連れて行かなかったのはわかっている。

だけど、それでも僕は…


どうせ死ぬなら刀を握って死にたい。


ただ近藤さんの役に立ちたいだけなのに、これじゃただの足手まといだ。
そうわかっていてもどうにもならない自分の体が憎くて仕方ない。


死ぬのは怖くないのに、自分の体が病に侵されていくのはとても怖い。

…どうして僕なんだ。どうして咳が出る。どうしてどうしてどうして…!


「…あの、」


胸に熱いものがこみあげてきて、無性に泣きわめきたいのにちっぽけな自尊心が邪魔をして涙なんて出やしない。そのことやすべてのことに対してどうしようもない苛立ちを感じて、何も見たくなくて二の腕を顔に押してけていたときに聞こえた控え目な声。


「沖田さん、起きてますか?」


遠慮がちに呟かれた言葉は声が小さく、だけどそれでもこの静かな部屋にいる僕に十分に伝わった。

一度落ち着くために深呼吸をして作り笑顔を顔に張り付けると起き上がって廊下と部屋を隔てる襖を開けると夕日の赤い光が目に滲みて眩しい。そこには先ほどの声の人物。


「どうしたの?」

「近藤さんが討ち入りに行ってる間暇だろうから討ち入りに行けなくて退屈してそうな沖田さんとこれでも食べてなさい、ってまんじゅうを下さったんで一緒に食べませんか?」


そういうこの子の手には確かにまんじゅうと湯気が立ち上るお茶が乗ったお盆がある。


「別にいいよ。君が寝るのを邪魔したせいでもう眠れそうにないからね」

「す、すみません…。睡眠の邪魔しちゃって…」


本当はこの子のせいなんかじゃないのにちょっとからかっただけですぐに本気にする。その純粋さ故にすぐに誰かに騙されそうで放っておけないだなんて思ってしまうのも全部全部病気のせいだったらいいのに…。


「…ねぇ、僕は今までずっと死ぬときは刀を握りながら死ぬんだって思ってたんだ。…それなのに、もし今刀を握れないまま不治の病とかで寝たきりになったりしたらそれは生き地獄だと思わない?刀を握れなくなる前に死んだ方が幸せだと思うんだ」

「…どうしたんですか、いきなり」

「ん?ちょっと最近討ち入りにも連れて行ってもらえないからふと思っただけだよ。…ねぇ、君はどう思う?」

「私は…、自分勝手な考えかもしれないですけどそれでも沖田さんには生きていて欲しいです」


汚れを知らない瞳にまっすぐと見つめられて声が出ない。


「確かに剣一筋で生きてきた沖田さんにとってはすごく辛いことかもしれません。…けど、それでも生きてたら何時か絶対にいいことがあります。きっと、また生きる理由が見つかると思うんです」


それに、


「沖田さんが亡くなられたら近藤さんや土方さん…皆さんが悲しまれます。…だから、そんなこと言わないで下さい」


不安と悲しさが入り混じったような瞳。





2014/07/08

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