幼馴染みの総悟


忘れられない、人がいる。
小さい頃ずっと一緒に遊んでいた男の子。その子のことが、大人になった今でも忘れられない。

毎日毎日飽きもせず会いに行った。その子と一緒にいるその時間が好きだった。
その子はあたしのことをどう思っていたのかはわからなかったけどあたしは大好きで暇さえあればその子と一緒にいた。
だけど、そんな日常に変化が起きた。その子が突然道場に通いだしたのだ。そうなると必然的に遊ぶ時間が減る。それがあたしには少し不服だったけど竹刀を振るうその子の姿がかっこよくてあたしは毎日道場を見学していた。

道場の人はとても優しかった。その子を道場に誘ったという人はいつも道場を見学しにくるあたしを邪険に扱うこともなく、歓迎してくれてあたしに優しくしてくれた。その子がその人のことを好きな理由が、なんとなくわかった気がした。

だけど、そのせいでその子がいなくなるなんて全く考えもしなかった。

その子がその人に着いて江戸に行くと言い出したのだ。あたしは悲しくて悲しくてその子に泣きついた。だけど、その子の決意が揺るぐことはなくて、あたしはつい勢いで「大嫌い」と言ってしまった。
するとその子は途端に悲しそうに、苦しそうに、寂しそうに顔を歪めて見たことのない顔をするのだから胸は痛むし涙は止まらないしであたしはそれ以降言葉を紡ぐことができなかった。
それがその子との最後。見送りの日、仲直りしたかったのに去って行くその子の姿を見たくなくて、あたしは見送りに行かなかった。





「…懐かしいなぁ」


みたらし団子を片手に新聞を見ながら懐かしさから頬が緩む。新聞には数年前に大嫌いと言ってから会っていない相手、そうちゃんが写っている。相変わらずやんちゃをやってるみたいだけどその元気な姿をこうして見れることが嬉しくて、そして少し安心する。

…約一月前、あたしは江戸に来た。別にそうちゃんに会いに来たわけではない。女手一つであたしを育ててくれたお母さんがこの間病に倒れて亡くなってしまったのだ。寂しくて途方にくれているとき、江戸で甘味処を営んでいる親戚のおじさんとおばさんがもう年齢が年齢だから二人でやるには少し大変で、是非あたしに手伝いに来てほしい、と言ってくれてそんな二人の言葉に甘えて一月前からあたしはここで住み込みで働かせてもらっている。
江戸だってそんなに狭いわけでもないし人も多い。だからそうちゃんに会えるかもなんてそんな淡い期待はしていない。


「総一郎くんじゃねーか」


知り合いでも来たのだろうか、常連さんである銀さんの声を背後に聞きながら最後の一つを頬張り串をごみ箱に捨て、休憩を終了する。


「こんな所で会うなんて奇遇ですねィ、旦那。それと総一郎じゃなくて、総悟です」


どくん、ちょうど立ち上がったところでそんな声が聞こえて思わず動きが止まった。
あたしの知っているものより低い声に、きっと名前が同じなだけで違う人物だと必死に逸る気持ちを押し止める。だけど、どくどくと先程よりはやく波打つ心臓の鼓動は素直で、きっとどこかで期待している。


「姉ちゃん、俺にもみたらし団子頼まァ」


不意にあたしに向かって掛けられた声に思わずびくりと肩が跳ね上がってしまった。お客様に声を掛けられたからには返事をするために振り向かないわけにはいかず、ゆっくりと後ろを、振り向いた。


「っ、そう、ちゃ…」


そこには先程新聞で見たまんまのそうちゃんの姿。まさか会えるとは思っていなくて、驚いているとそうちゃんもあたしのことに気付いたみたいで確かめるように名前を呼ばれた。


「なんでここにいるんでィ」
「…ちょっと、ね。いろいろあって江戸に出てきて今はここで働いてるの」



2014/07/08

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