逆らえないで、繋いだままの手を引っ張られる先には大地くんの住む場所のドアで。入るなり強い力で抱き込まれた。混乱しながらもおずおずと背中に手を回せばその力が更に強まっていく。

「やっと……捕まえた」

耳に直接注ぎ込むような囁きに頭がくらくらしてくる。力が抜けた身体はしっかりと腰を支えられ、大きな手が後頭部を胸元に強く押し付けた。全身に響き渡る激しい鼓動はどちらのものか判らない。ずっと寄り添っていたいと思いながらも、自分がいまこの場所にいる理由が分からなく、小首を傾げながら若菜が不思議そうに問い掛ける。

「あの、どうしてあそこにいたの?飲み会の帰り?私、帰らないと…」

見上げた先の澤村はむっとした表情を浮かべ、若菜の頬を両手で包むなり鼻先にかぷりと歯を立てた。

「ひゃっ…!え、なに…!」

「はぁ…会う為に決まってるだろ。孝支に教えてもらったんだよ」

「え、菅原くんにっ!?」

「まあ、色々聞きたいし、話したい事もあるけど…」

真剣な眼差しを真っ直ぐに向けられて目が逸らせない。膝に乗せた両手はいつの間にか大きな熱に包み込まれていた。

「もう一度だけ、俺と付き合って欲しい」









「う、そ……」

零れ出た呟きに自嘲気味に笑った澤村。

「信じられないのも無理ないよな。ずっと俺は佐野に甘えていて、自分の想っている事を1度も声にしてない。別れようってメールが来て、凄いショックだった。必死で仕事を終わらせてさ、電話したら通じなくなってるしLINEも返ってないし……心臓が潰れるかと思うくらい辛かった。ずっと前から名前で呼びたかったけど変えるタイミングが見つからないし、もっと会いたかった。」

菅原に聞かされた電話。2人との会話でどれだけ若菜に自分が愛されていたのか知った。嬉しい思う同士に、愛しいと思って。
若菜、と耳元で囁けば頬を真っ赤に染め、音を立ててキスを落とすとぴくんと肩が跳ね上がった。頬をうっすらと赤く染め、潤んだ瞳で見上げてくる若菜の唇を甘噛みする。

「大地、くん……好き」

その囁きが澤村の耳朶を打った瞬間、全身が歓喜で満ち溢れる。ようやく捕まえた愛しい身体を更に強く抱きしめた。

「若菜、好きだ。ずっと…傍にいてくれ」

恥ずかしさと嬉しさでこのまま死んでしまいそう。そう思っている事に気付いたのか頭上から彼の笑う声が降ってきた。

「ひゃっ…」

ふわりと持ち上がった身体が優しく着地したのは……ベッドの上。覆い被さるようにして抱きしめてくる澤村は嬉しそうに笑う。

「若菜の事をもっと知りたい。若菜の全部が…見たい」

「だ、いちく…」

どちらともなく顔を寄せ合い、2人はベットに沈んでいっな。

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