騒がしい移動時間マスコミ騒動の翌日。
今は午後の授業はヒーロー基礎学。
いつも通り、皆それぞれの席に着き授業に備えていればチャイムが鳴り終わるとほぼ同時に相澤先生が教室に入ってきた。
「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」
なった、という事は前は違うカリキュラムだったのかな。そんな考えが一瞬、頭を通り抜けたが先生にも色々あるのだろう。
今回は救助レスキュー訓練で個人のコスチュームの中には活動を限定するのもあって着用は各自の判断で構わないらしい。
「百、焦凍はコスチューム?」
「ええ、勿論ですわ」
「俺もだ。琉音もコスチュームだろ?」
「うん」
クラスの殆んどが教室の壁に収納されていた自分のコスチュームのケースを取り出し、更衣室へと向かって行く。
琉音も百と耳朗と自分の棚からコスチュームを取り出し、皆の後を追った。
今日の訓練場は少し離れた場所にあるらしく、バスでの移動となった。
窓側に座る焦凍の隣に自然に座る琉音。後ろには麗日と百がいる。焦凍に話しかけるとどこか鈍い反応をしていて琉音は首を傾げた。
「焦凍、眠いの?」
「ちょっとな」
「着いたら起こすから、寝ていいよ?」
「悪い」
そう言うと焦凍は椅子に深くもたれかかって目を閉じた。すぐに静かな寝息が聞こえてきて琉音は小さな笑みを浮かべる。
普段は大人びた雰囲気があり、気をはっている焦凍が人が寝たから。
バスの移動中、車内は自分達の“個性”について話していた。琉音はと言うと黙って聞き役に徹しているがバスの揺れで眠りそうになる。目蓋まぶたが重くなって……
「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな!琉音のも使い道がすげぇしよ!」
自分の名前が出て来て意識が浮上する。
前にいる爆豪がイライラしているのをぼーと見つめる。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!!」
「ホラ」
梅雨がまた何の前触れも無くそう言うと、視線を横に逸らしていた爆豪がいきなり前を振り返りかなりの声量で怒鳴り散らすものだから、思わず目を丸くする。
これで完全に目が覚めた。
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」
梅雨の言葉に怒りを憶えている爆豪を更に追い打ちをかけるように上鳴がニヤニヤと笑いながら言う。
案の定火に油を注ぐが如く、爆豪の怒りのボルテージは上がって行く。
「…爆発くん、殺す殺すうるさい。ヒーローなりたい人が殺す言っていいのー?」
「んだとテメェ!!殺す1回しか言ってねーし!」
「言ったじゃんか」
「あ"あ"!?」
「きゃー、切島くん助けてー」
後ろを向いてきた爆豪にとっさに見ていた切島に棒読みで助けを求める。
切島は呆れながらも爆豪を落ち着かせようと話しかける。
「おいおい爆豪、落ち着けって!」
「コイツ…ぜっていに許せねぇ…!」
爆豪くんってからかうと面白いんだなぁなんて、すっかり雄英のノリに溶け込み始めている自分に驚きながらも笑う。
隣でこんなに煩いのに起きない焦凍はすごいと思う。そんなに、眠かったのかな。
「低俗な会話ですこと!」
「でもこういうの好きだ私」
こんなくだらないやり取りですら傍の座席に座っていたお茶子ちゃんは楽しそうに笑っていて、百は少し不機嫌そうに表情を歪めていた。
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