帰り道と朝の不穏
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あれ…どうやって私は昇降口に戻ったんだろ。
いずちゃん追い掛けて、爆豪くんがいて、それで……記憶がない。

ぼんやりとする琉音の表情は何も読めない。
そんな彼女の後ろから近づいてくる焦凍。

「琉音…?」

「ん。焦凍…」

呼んだ焦凍に答えた時、焦凍は顔色を変えて琉音の方へ行く。
どうして、そんなに焦っているのか分からない琉音は首を傾げた。

「どうしたの、焦凍」

「お前、苦しそうな表情して…!」

「…苦しそう…?」

本当に不思議そうな琉音にハッとする焦凍。
脳内に浮かぶのは彼女の父親に言われた言葉



―――あの子は強いよ。強くて…弱い。



―――だから焦凍くん。無責任だけど君があの子を見ていてくれないか。



眉を下げて、俺の頭を撫でながら言ったあの人の多分最初で最後の頼み。
苦しみも悲しみにも疎くなった琉音。
俺も同じだが、人一倍憎しみを抱いている琉音。
大切で…今度こそ絶対に守りたい幼馴染み。

「なんでもねぇ……風を操るの疲れただろ。さっさと行くぞ」

「うん。焦凍こそ…大丈夫?」

「ああ。加減はしたからな。」

もし、こいつが――――しようとするなら、俺はどうすんだろうな。
それは、まだ知らない。

「あ、いずちゃん」

「お、響吹さん!?と、轟くん!?」

「ふふ、名前でいいのに。いずちゃんはどうしたの?」

「あ、えっと…そのぉ…かっちゃんは反省会に出ないのかなぁーと思って……お…琉音さん達は帰るの?」

「うん。用事があって明日切島くんと瀬呂くんに教えてもらうの。あ、腕大丈夫?」

「大丈夫だよ!あ、僕教室に戻るね。また明日!」

「またね。」

慌てた様子で学校に戻っていく緑谷に手を振る琉音に、どこ吹く風な焦凍は歩いて巨大な校門を出ていった。



















「うわあ……」


 翌日、登校してきた琉音は校門前に群がる人混みを見て思わずそう呟いていた。隣にいる焦凍も眉を潜めているのが横目でも分かる。
あまり朝に強くない琉音は寝ぼけ眼を擦り、焦凍に手を引かれながらのろのろと校門に足を向けた。報道陣がすこぶる邪魔だが、そこを通らなければ学校には入れない。

「あ、君ヒーロー科の子だよね?ちょっとお話聞いても…」

「……んあ?」

「……俺達急いでるんで」

「あれ、もしかして君、エンデヴァーの息子さんじゃ!」

記者の1人がそう言ったのが耳に入る。眠気が少し飛んで、琉音は目を細めま記者を見た。焦凍を庇うように少し前に体を出して。

「エンデヴァーの母校ですものね。やはりお父さんに憧れてヒーローを志したんですか?」

「…別に。」


一瞬嫌な顔をしたのを隠した焦凍。すっかり目を覚ました琉音はすぐに笑顔を見せて、やんわりとその場を通り過ぎようとした。
しかし始業間際になって生徒も教師も殆ど通らなくなった今の時間帯、これがラストチャンスとばかりに記者が食らいついてなかなか離してくれない。

「一言だけでいいので!」

「何かコメントを下さい!」

「あれ?君ってもしかして…」

「…もう始業だから行きます。」


焦凍は琉音の手を掴むと突然走り出した。不思議そうにした琉音だが、朝から記者に囲まれて疲れていたのか大人しくついていく。
最後にどれかの記者が言おうとした言葉を遮ったけれど何を言おうとしたのかな。
と思っても時間に厳しい担任に怒られたくないから黙って教室に向かっていく。
ちなみに途中で校門に向かっていく担任とマイクに早く行けよと言われた。







校門……「雄英バリアー」に阻まれ話を聞けなかった報道陣は、ラストチャンスを逃してしまい心底悔しそうに項垂れていた。

そんな報道陣の後方で、静かに佇む1つの影。




「………アレかぁ、―――が言っていたのは」





その影は愉快に嗤う



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