「マネージャーの清水潔子です。貴方が及川藍音さん?」
「は、はい。及川藍音です。よろしくお願いします!」
背が高くて、スタイルが良くて、眼鏡が知的で、口元のホクロが大人っぽくて美人……女の私も思わず見とれてしまった。
次の日…火曜日の放課後、男バレの唯一のマネージャーと藍音は対面していた。
「一週間、先輩マネージャーとしてよろしくね。」
にこと笑う潔子に思わず藍音も緊張が解れ、ふにゃっと笑う。
「何だ…ここが楽園だったのか…」
「おい田中、大丈夫か?」
「ほっとけ菅原、じきに戻るだろ」
なんて会話は藍音も潔子も知らない。
「藍音ちゃん、とりあえずボールの用意はしたからドリンクの用意しよっか」
「はい。よろしくお願いします。えっとボトルは…」
「ここだよ」
すっと目の前から取り出されるボトル。 そのボトルと同時に#n#の目に飛び込んで来たのは痛々しい潔子の指だった。
「潔子さん…この指のひび割れどうしたんですか…!」
潔子さの指には無数のひび割れ、赤切れがあり、花の女子高生の指には程遠い痛々しい指をしていた。
「この時期はどうしてもボトルとか洗ってるとね、水冷たいから。」
困った様で仕方がなさそうな潔子の言葉に思わずぐっと押し黙る。バレー部員達はもう15分後にはアップを始める。
その前にマネージャーである潔子はもうボールやゼッケンを選手達が来る前に用意していなければいけない。 また、部員一人一人の体調管理にマッサージやテーピング、またアイスパックなどの保冷剤の管理など、マネージャーの仕事は多い。
とても一人でこなせる仕事の量ではない。無理をしていたのだろう。良く見れば顔色が少し悪い。
なんで今まで気がつかなかったんだろう。マネージャーも選手達と同じぐらいとても大変な思いをしていた事を。
「わた、し…」
マネージャーとして本入部する、そう言えたらどんなにいいんだろう。 まだ、怖くて、本当に入っていいのか、またバレーに触れていいのか…
そんな藍音を潔子が優しく頭を撫でる。
「ゆっくり、決めていけばいいよ」
「はいっ…ありがとうございます…!」
そして、仮入部してから水曜、木曜と進み、金曜日になる。その間にも、仁花や日向、月島山口ら1年は勿論、菅原と澤村と田中と潔子の先輩とも仲良くなっていった。
「明日、ですね」
眠そうにしている田中と菅原に声を掛ける藍音。藍音は二人が影山と日向のバレーの練習に付き合っているのを知っていた。朝は苦手でなかなか起きれないが、こっそりお握りを作って渡したりしていたのだ。
「ふあぁ…だいぶ良くなったよ…」
「なら良かったです!あ、私、ボトルと作ってきますね。」
ボトルを作り終わった時、丁度先輩たちのウォームアップが落ち着いた。ボトルを渡しに行こうとした時、二人の男子生徒が入って来た。 ものすごく背が高くて眼鏡をかけている人と、ぱっちりとした目とそばかすが特徴の人。
「月島くんと山口くんもバレー部なの?」
「あれ?及川さん…あ、もしかして噂になってた及川さんの部活って…」
「この男子バレー部様々が手に入れたんだぜ!!」
驚いた様子の山口に自慢気に話す田中。 その隣で月島が藍音を見た。
「どうしたの?」
「……男子バレー部に入ったのが意外」
「まあ…」
元々は入るつもりはなかったし。 けれど、今はだいぶ心が揺れているのが自分でも分かる。 潔子さんの大変さも知ったから。
けれど、入る決め手となる"何か"がないのだ。もしかしたら、
「明日、かな…」
日向、影山、月島、山口。 明日の彼らのプレーが藍音にとって楽しみだった。
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