入学式は不思議なほどあっさりと終わる。高校での心構えなど説明が終わると、1年生の教室の前では部活の勧誘合戦が行われていた。
「部活、かぁ…」
私はこれからどうするんだろう。 目を伏せた藍音。くっきり二重の大きな目を縁どる長い睫が伏せる姿は、儚くて美しく、何人もの人が見惚れる。
栗色の髪を優しくなびかせる彼女が美少女として学校中に既に広まっていた。
「あ、あの……!」
「ん?なにかな?」
「サッカー部のマネージャーやってくれませんか!」
クラスメイト…ではない。なかなか顔が整っている人が顔を赤らめながら藍音に声を掛ける。 んー…顔立ちの整っている人は幼馴染み達と従兄弟で見慣れているからねぇ。
「ごめんなさい。何処の部活に入るか大体決まっているの。」
藍音は当たり障りのない笑顔を浮かべてやんわりと断った。勿論、大体決まったなんて嘘だけど。 それでも諦めきれないのか何か言葉を紡ごうとする男の人。
「……ちょっと邪魔なんだけど」
「はあ?俺は今……」
男の人は後ろから聞こえた声に怒ろうとしたが、その長身に怯える。 情けないわねぇ……なんて、言わないけど
「ごめんね、月島くん。……彼にも悪いからもう、いいかな……?」
「っ……分かったよ!」
逃げる様に教室から出ていった男の人。 長身…月島はさっきまで男の人が立っていた場所…すなわち藍音の隣の席に置いていた鞄を持つ。
「及川さんも大変だね…」
「まあ……心配してくれてありがとう、山口くん。」
月島くんと一緒にいる男の人。 なんというか、見ているだけで和むのよねぇ。帰るらしい二人にまた明日と言い机から窓を眺める。
「部活、どうしよう…」
二人に何部に入るか参考として聞いとけば良かった。 少しは落ち着いた部活勧誘の隙をねらい藍音は教室から出てくる。そして、階段の方へ曲がろうとした時、誰かとぶつかる。
「きゃっ…」
「うひゃぁっ!!」
藍音と反対方向へと倒れた少女。 ちょっと叫び方が可笑しかったのは無視しとこう。
「あの、大丈夫…?」
「は、はい!(うわああああああ、どうしようううううう!!!めっっちゃ美少女さんにぶつかっちゃったぁぁぁあ!!!)」
「なら、よかった…」
「はい!美少女さんも大丈夫ですか!!!」
「え…」
「あ…」
思わず固まる二人。少女は冷や汗をかいている。そんな時、藍音がクスクス笑った。
「貴方面白いね。私は1年4組及川藍音。貴方は?」
「(笑顔可愛い!ありがとうごさいます!!!)わ、私は1年5組の谷地仁花でごさいます!ど、どうぞ名前で呼んで下さい!!(名前で呼んでとか上から目線!!!ひえええ土下座か!!土下座してお詫びを!!!)」
「仁花、ちゃん……?」
「は、はい!!!!」
覚悟を決めてキリッと藍音の方へと向く谷地。藍音は…嬉しそうに、でも何処か悲しそうに微笑んでいた。
「私も名前で呼んで欲しいな。……後、同じ学年だから敬語も」
「は……うん!これからよろしくです、藍音ちゃん!!」
これが後に大親友となる子との始まり。
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