藍音が買い出しから帰ってきた時見えたのは、日向が瞬時に反応し影山の後ろに回る姿だった。かすってしまい、フェイントのようなボールになってしまったが。
「お前、何をいきなり!」
「でもちゃんとボール来た!中学のことなんか知らねえ!俺にとっては、どんなトスだってありがたぁーいトスなんだ!俺はどこにだって跳ぶ!どんなボールだって打つ!だから……俺にトス、持ってこい!!」
日向の力強い言葉。 面白い、素直にそう思った藍音。藍音は思わず小さく笑う。 その後、影山くと日向で速攻をしようとするものの、なかなか上手くいかない。そうじゃない、と言いかけたとき。
「それじゃあ中学のときと同じだよ」
影山ほどの才能と技術があれば、きっと仲間のことが見えるはず。日向をもっと生かしてやれるはず。菅原はそう言った。
「……影山君」
「あ…?」
「人に合わせる事は大切。コート内の司令塔が一番に気づかなければいけないんだよ。」
意味が分からないのだろう、首を傾げていたけど。でも、今の彼にはこの言葉が一番だろう。 選手同士でしか分かり合えないものを彼はまだ知らないだろうけど。
暫く考え込んでいた影山は日向にこう言った。"ボールは俺が持っていく" と。 その言葉通り、全力で跳んだ日向の元へ、影山のトスがピンポイントでとんでいく。
ドバンッ
「……おもしろい」
思わず藍音が零した言葉は、それだった。
言葉通り日向が跳んだ場所へトスを上げる影山。 そしてそれを信じきり、目をつぶって跳び、スパイクを打つ日向。
二人の怒涛の速攻は、とどまるどころかどんどん制度を増して行った。 彼らはまだまだ進化する。目を瞑って打ったヒナちゃんも。寸分の狂いもなくボールを持っていく影山君の技術も。
頂の景色。 それを確かにヒナちゃんは見た。 ハッキリとくっきりと見える"ソレ"は何よりも気持ちよくて。
「そう何本も抜かせるかよ!!」
大声を出して日向へブロックを仕掛ける月島。技術的にはまだまだだけど、彼もまた進化出来る。 月島君少し心配だったけれど、彼は大丈夫。ちゃんと本気になれる。 山口君も他の三人に対しては目立ってはいないけれど、今はまだだと思うけれど、自分だけの技術を見つれられる気がする。
「…潔子さん」
「どうしたの?」
「私、マネージャー、やります」
そう伝えた時、本当に嬉しそうに微笑んでいたくれた潔子さんに泣きそうになる。 それを誤魔化す様に藍音はタオルを用意しに行った。
「ヒナちゃんと影山君と田中先輩の勝ち、か…」
丁度戻ってきた時に試合は終わっていた。タオルを皆に配っていく藍音。
「はい、影山君くん。」
「………ちゃんと協力したぞ。」
影山の言葉にキョトンとする藍音。そして、この前の言葉に対してだと気付いた彼女は口元を隠して笑う。
「影山君、面白いね。まだまだ課題点だらけだけど」
「かだいてん?」
「ヒナちゃん…1つの目標を乗り越えたけれどまだ至らない点の事や改善することが出来る点の事を課題点って言うんだよ」
日向への説明のはずなのに隣で納得している影山。 ヒナちゃんも影山君も頭、そんなに良くないのかな。
けれど、意外だった。 彼があの事を覚えているなんて。 笑った藍音は山口と月島へとタオルを渡しに行った。
「お疲れ様」
「ん。」
「ありがとう!及川さん」
水を飲んでいる月島に渡し、山口にもタオルを渡す。そして戻ろうとした藍音は、あっと二人の所に戻っていく。
「私の事、及川さんじゃなくて名前で呼んで!」
「分かった!藍音ちゃん!ほら、ツッキー!」
「…藍音」
名前を一言呼んでまたペットボトルで水を飲む月島。そんな彼に山口と顔を合わせて笑っていた時、日向と影山がきて藍音は潔子の所にへと向かう。 一気に向こうが盛り上がった様子に小さく笑いながら。
もっと彼らのプレーを見たい。
この場所で皆の活躍を見てみたい。
「澤村先輩」
「ん?」
鉄朗、研磨、徹兄さん、一お兄ちゃん、若さん、皆の活躍をこの目で見たい。
「私、男子バレー部のマネージャーになります。これからよろしくお願いします!」
そう言った藍音は何かを吹っ切れた様な溢れるばかりの笑顔だった。
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