1年が試合をする土曜日の朝。
藍音はいつものように早く来て、潔子と一緒に部員全員分のドリンクを作っていた。 途中、来た田中先輩以外の2年の先輩方ともお話をして。
「藍音ちゃん、悪いんだけど…備品の追加お願いしてもいい?」
「わかりました。いってきます」
ヒナちゃん、影山君、月島君、山口君の試合を観たい気持ちはあるけど、ここは仕事優先だもんね。渡されたメモにはドリンクの粉と雑巾用の布ととテーピングとコールドスプレーのリストが書いてある。
平日、部活が終わる時だと時間が間に合わないから休日しか行けないらしい。
ドリンクの粉は箱で買い、翌日指定した所まで送ってくれる様に注文を済ませた。 後は徹兄さん達がオススメしていたスポーツショップで買おうかな。ここから近いし、早く戻って1年生の試合が見たいもの。
バレーは突き指とと隣り合わせ。だからすぐにテーピングは切れてしまう。 藍音は慣れた様子でカゴに5cmのテーピングをいくつか放り込む。 そして、藍音はマネージャーで必要になるホイッスルも買い込み、スポーツショップから出ていく。
そんな時、藍音は誰かとすれ違う。その人は藍音を避けた時にポケットから携帯を落とした。普通なら気がつくが、床はフワフワのマットが敷かれており、物が落下しても気がつかない。
「あの、携帯落としましたよ」
その人に携帯を拾う。 そして、その人の方を剥いて渡そうとした藍音は固まった。
「ああ…すまない。………女王か」
「その呼び方止めてくれませんか?」
「だが、女王だろう」
「それは昔の話ですよ、若さん」
携帯を落とした人…牛島若利。白鳥沢学園バレーボール部主将で「絶対王者」と呼ばれる宮城県屈指の超高校級エース。
徹兄さんにとって中学時代からの因縁の相手。 そんな、彼と藍音は知り合いでもあった。
「今の私は及川藍音。それ以上も以下もありませんよ。」
「では藍音か。」
うん。流石はマイペースな若さんです。相変わらず……あ。
「あの、今日は失礼します。」
「ああ…」
1年達の練習試合だと思い出した藍音。牛島ににっこり微笑んで立ち去っていった。 一方の牛島はスポーツショップの前で藍音の後ろ姿を見つめていた。
「"烏野"か」
なんだかんだバレーを捨てきれない彼女は男バレのマネになったと確信し。
"堕ちた烏豪"と呼ばれるそこのマネになったと思う藍音を勿体ないと思って。
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