※デコボッコ教ネタ



「あ、団子買った。あそこのお団子美味しいんですよねぇ」
「団子はいいから奴を見ておけ」
「監視終わったらお団子買っていいですか?」
「…勝手にしろ」

現在私達は奈落が暗殺を予定している男の動向を把握し、実行当日スムーズに執り行う為の前準備をしていた。心の中から敬愛する朧様と二人きりの任務なのでこれはもう実質デートである。真剣な眼差しでターゲットを見つめる朧様の横顔は彫刻のように美しく、気を抜いたら任務を放り出して見惚れてしまうほどだ。

朧様のようなかっこよさが一ミリも感じられない男をじっと見張るのも飽きてきたので、一瞬だけなら許してもらえるだろうと視線を逸らしてみたところ、近くを歩いていた人々が揃いも揃って空を指差し見上げており何だか様子が変だった。上空に何かあるのかと私も彼らと同じように顔を上に向ける。……ん?何だあの赤い光は。

「あ、あの、朧様……?あれ、見てください」
「何だ。…よそ見するなと言っただろう」
「いやいや、やばいですよアレ」

上空で起きている出来事に全く気付くことなくターゲットをじっと見つめている朧様の腕をぐいっと引っ張ると、やっと空を見上げてくれた。そして、彼は赤い光を視認した後眉を潜めてこちらを振り向く。あれは何だ、と言いたげな顔であるが残念ながら私にも分からない。私たち奈落の襲撃でないことは確かだ。他の連中からの攻撃だろうか?疑問に思っている間も光はどんどんこちらに近付いてきており、逃げなければならないと頭では分かっているのに足が動かず、そうこうしている間にソレはとんでもない爆風を放ちながらかぶき町全体を覆ってしまう。私は恐怖から体が固まってしまっていたが、朧様が光から庇うように私を軽く抱きしめてくれるものだから違う意味でも更に体が動かなくなった。



「おい、大丈夫か」

少しすると光や砂埃が落ち着いたらしく、朧様の体が離れてしまったので少し寂しく思いながら瞼をゆっくり開く。

「……え」
「何だ」
「誰?!?!」
「はぁ?記憶でも失くしたか」
「いや、記憶は問題ないと思うんですけど……え、まさか…朧様ですか?」
「そうだが」

嘘だぁ!!!有名なあの台詞が出そうになるのを必死に抑えながら、私の目の前に立つボンキュッボンの女性(?)を頭からつま先まで舐めるように見る。グレーがかった癖っ毛、額から頬まで斜めに入った一本の傷跡や高い背丈を見れば確かに朧様に見えなくもないが、腰まで伸びた髪や沢○みゆきボイス、そしてグラビアアイドル顔負けのスタイルのおかげで私の知っている男らしい朧様の面影は一欠片も無かった。


「本当に朧様なんですよね……?」
「だからそうだと言っているだろう」
「本当かなぁ」
「……信じられないと言うのなら貴様と私しか答えを知らない質問でもすればいい」
「あっ成る程!天才ですね!」
「……お前が馬鹿なだけだ」
「うん、辛辣なところは朧様そっくり〜!……コホン、じゃあ私たちが恋人になった記念日をお答えください」
「そんな日など無い」
「即答!!……確かに無いですけど!これからその日を作っていくんですよねっ」
「そんな気は毛頭無い」
「……つ、ツンデレなんだからぁ〜」

本当に私のことを何とも思っていないのだと分かり少し傷つきながらも、素直になれないだけだよねと自分に言い聞かせるよう冗談めかして朧様の肩をポンポン叩く。
何故か分からないけれども女性になってしまった朧様の肩幅や体の薄さは以前の約二分の一ほどであり、今まで鍛えてきたはずの筋肉は何処かにいってしまったようだ。華奢な体なのに胸だけは立派で大変羨ましい。
体の突然変異に焦るというより呆れて溜め息を吐く朧様。

「これからどうする」
「…………朧様」
「なんだ」
「私、朧様相手なら女の子同士でもいけます」
「今私は任務の話をしているんだが」
「アッでも女の子同士って正直どうやるんですかね?夜のいとな、イタァァ!!何するんですかぁ!!」
「ハァ…ターゲットを見失った上に謎の現象が起きているというのに能天気な奴だな」

どう考えても握力が三十も無さそうな見た目をしている朧様の華奢な体のどこに力が隠されているのか分からないが、ふんだんにパワーが込められたチョップを脳天にお見舞いされ普通に涙が出る。

「……あと、気付いていないようだがお前も性転換しているぞ」
「へ?」

手鏡などは持ち歩かない主義だったので、数歩進んだ先に佇む店のショーウィンドウの前に立ってガラスの反射を使い自分の容姿を確認する。

「%◎☆$〆!?!?」

朧様が女性になってしまった時は驚きはしたものの案外すんなり受け入れていた自分だったが、流石に自分のこととなるとハイそうですかとはいかず開いた口が塞がらない。
適度な長さまで伸ばしていた髪はうなじが丸見えになるくらいまで短くなっており、はっきり確認出来たわけではなかったが顔つきも凛々しくなるなど変貌を遂げていた。それに、意識してみて気付いたが自分の声も今までとは異なり斉藤○馬みたいな爽やかなイケメンボイスになっている。


「朧様……」
「何だ」
「こういうことはもっと前に言うもんじゃないですかね?!」
「いや、周りの動揺ぶりを見れば分かると思ったんだが。……ああすまない、お前は観察力が無に等しかったことを忘れていた」
「……すみませんね観察力皆無で」

朧様の言う通り、私は観察力もそうだが索敵能力や剣の腕も素手で戦える強さも持ち合わせていない。無能な私をよく思わない仲間からは、数年前奈落から姿を消したのが骸ではなくお前だったら良かったのにと事あるごとに言われる日々を送っていた。ド正論すぎて何も言い返せないし何故こんなお荷物を奈落が抱えているのかと我ながら不思議に思っているので、彼らのお気持ちをただただ静かに受け止めているが。

それにしても、朧様の言葉を聞くまで周囲の確認をしていなかったが確かに町中で騒めきが起こっているようだ。軽く見回すだけでも女物の着物を着ている男性と男物の着流しを着ている女性が多数おり、事の重大さを身に沁みて感じた。



これからどうするのかと尋ねるべく朧様の方へ顔を向けだ瞬間、耳障りなブザー音とともに緊急警報が鳴り響いた。同時に聞こえてくる町内放送によるとかぶき町は周辺から遮断され、中にいる人がここから出ることは叶わないらしい。
私はまだしも、身体能力に秀でた朧様なら遮断用に降ろされた鉄の壁の向こうへ行くことなど赤子の手をひねるようなものだろう。しかし、性転換したことで忘れかけていたがターゲットの暗殺実行は明後日であった。奴の監視に失敗したとなれば実行に支障が出るかもしれない。私が無能であることは自分でも分かっているし誰に何を言われようと構わないが、朧様の元にも非難がいくのは避けたいところ。おそらくターゲットもこの町に閉じ込められているはずなので、女性化した彼を見つければ問題ないだろう。

「朧様。私、奴のこと探してきます!」
「何?…おい、待て!」

朧様の声が聞こえたが私は無視してターゲットを探すべく脱兎の如く走り出した。待っていてください!私がすぐ奴を見つけ出しますからね!






未だに混乱が渦巻くかぶき町内中を駆け回り数十分が経過した頃、ターゲットらしき女を発見した。よし、と軽くガッツポーズしバレないよう静かに彼女の後を追っていくと、機能していないと思われる廃工場に到着する。
こんな所で何をするつもりだろうか?確か奴は政界と裏で繋がっているとかなんとか、朧様が言っていたような気がする。もしかしたら誰かと密会でも…そう思った瞬間。工場の入り口に備え付けられたシャッターが全て勢いよく閉まり、出口が無くなってしまった。加えて外からの光も遮断されてしまったので暗闇の中で立ち尽くす。
工場内に入ってしまった私は今起きていることに慌てふためくしかなく、冷や汗が額や首元を伝うのが分かる。
数秒もしないうちに明かりが点きホッと胸をなで下ろすが、同時に私の左肩と右足に一発ずつ銃弾が撃ち込まれ驚きと痛みから尻餅をついてしまった。

「な、何…?!」
「君が尾行下手くそで良かったよ」

拳銃をこちらに向けながらゆっくり歩いてくるターゲットの女。それだけではない。奥から刀を構えた十数人の女もやって来た。
……これは終わった。撃たれた箇所にそっと手をやると大量の血液が流れ出ており、目の前の光景に加えて焦りを覚える。しかしドクドクと脈を打つ感覚はあれど、アドレナリンが出ているおかげか酷い痛みはなかった。とはいえその効果は今だけであり、数分と経たないうちに痛みがやってくるだろう。

「君、どこの組織のモンか知らないけど、尾行も駄目、不意の攻撃も避けられない…足手纏いって言われない?」
「…………」

"足手纏い"だなんて言われ慣れていることなのに、初対面のコイツにさえお荷物認定されたことで悔しさから顔が歪む。ただ、本当のことなので何も言い返せないでいると女は私の心臓に狙いを定めて拳銃を構え直した。

「お前が死んだところで誰も悲しまないだろうし、ひと思いにやっちゃうね」

殺される。

どうにか走ってこの場から逃げなければ。しかし不幸なことに、遅れてやってきた患部の痛みに襲われ身動きが取れなくなってしまった。
仕方ない、もういいや。逃げ切れたところで私は出欠多量で死ぬだろう。無駄な足掻きは無様なだけだ。

有難いことに私が奈落の差し金だとは勘付かれていないようで安心した。自白剤を打たれない限りは朧様や仲間に迷惑をかけずに死ねるだろう。いや、迷惑なんて最初からかけ続けていたか。どっちにしろ私が死ねば奈落もお荷物を抱える必要もなくなり、少しは活動しやすいかもしれない。朧様だって何も出来ない部下のお守りから解放されるのだ。いいことづくめじゃないか。
いつも誰かに助けられてばかりだったから最後くらい誰かの役に立ってみたかったけど。



朧様、ごめんなさい。



大好きな人の姿を思い出しながら、これから来るであろう痛みに備えて目を閉じ歯をくいしばる。
が、しかし。いつになっても痛みはやって来ず不思議に思って目をうっすら開けると、私の周りを囲んでいた女達は全員血を流して倒れているのが目に入る。よく見てみるとターゲットの女も血まみれかつ息をしていなかった。おいおいやっちゃったよ、暗殺しちゃったよ誰かが。

「だ、誰が…?」
「これ以上手間取らせるな」
「…朧さ、ま……っごめん、なさい」

眉間に皺を寄せ、普段以上の怖い顔をした朧様が立っていた。足手纏いのくせに分不相応なことをして、朧様に迷惑をかけてしまったからきっと怒っているのだろう。痛みからか、それとも彼の冷たい視線でかは分からないが視界が霞んでいく。
朧様は黙々と慣れた手つきで自分の着物の袖を引きちぎって私の肩と足に巻き止血をし、その後鎮痛薬の塗られた針を刺してくれた。おかげで幾分か楽になってきたような気がする。心理的なものだが。


「私がこの場に来なければお前は死んでいた」
「……そう、ですね」
「奈落を抜けろ」
「え、」
「聞こえなかったか。奈落から出て行けと言っている」
「いや、ま、待って下さい。どうして…」
「この状況下において分からないことはないだろう」
「…………」

言い返す言葉がなかった。
無能だと散々言われてきたのにも関わらず、私は奈落に身を置いて何年も経過していた中で一度も今回のような危機的状況に陥ったことはない。仲間が任務に出てから帰って来ないことも、目の前で死ぬことも何度も目にしてきた。奈落の中で一番弱くて役立たずの私がそうなっていてもおかしくなかったのに。だから、調子に乗っていたのかもしれない。

いつ死んだっておかしくないほど軟弱な私が大きな怪我なく生きていることができたのは、いつだって朧様が側で守っていてくれたからなのだと今気付いた。
私みたいなのがいたら、いつか取り返しのつかない何かをしでかすかもしれない。私だけならまだしも朧様や他の仲間にまで被害が及ぶのならば、それは避けなければならないことだろう。

「そう、ですよね……私、いつも迷惑ばかり、かけて……」
「違う」
「はい?」
「お前のこんな姿はもう見たくない」
「……あ、血だらけで汚い、ですよね…すみません」
「そんなこと言っていないだろう。馬鹿なのか」

確かに私は馬鹿だ。
寺子屋になど通ったことはなく、骸に連れられて牢獄の中で吉田松陽という人物に手習いを軽く受けただけで、字は読めても書けなけいし当たり前だが学も一切ない。

「すまなかった」
「いや、大丈夫です。馬鹿なのは、合ってますし…」
「そうではない。お前をこんな目に遭わせたのは私のせいだ」
「違います。私が勝手に行動したから、ですよ」
「少し黙っていろ」
「ハイ」

突然しおらしくなった朧様に首を傾げつつ、彼の言葉を訂正していくが気分を害したらしい。怒られてしまった。

「……私は、お前を側に置いておきたいが為に無能ながらも奈落に居られるよう手を回していた」
「……へぇ、そうなんで……ん?え?」
「私が一緒に行動すれば問題ないと思っていたが、そんなことはなかった」

苦しそうな顔をした朧様が私の頬に手を当てる。何が起きているのか私にはさっぱり分からず、ただただ顔が良すぎる朧様を見つめながら口をパクパクする他なかった。

「これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない。だから、普通の女として地球で暮ら、」
「あ、今は男です」
「…………いいか、帰ったらすぐに荷物を纏めろ。あと、空気を読む練習もしておけ」
「空気読む練習って何ですか?!…というか住む場所も無いのに荷物をまとめるって…?」
「家は私がなんとかする」
「……え…」











謎の性転換が起きたあの日、廃工場から抜け出した私達はタイミングよく空から降ってきた赤い光に包まれ、朧様は男に、そして私は女に戻り、他のかぶき町の住人も無事に元の性別を取り戻すことに成功し混乱は幕を閉じた。結局誰が何の為にそんなことをしたのかは不明のままだが。まあ、終わりよければ全て良しということだ。グラマラス美女な朧様も良かったが、やっぱり濃い隈を下瞼に飼い慣らしている目付きの悪い朧様が一番である。

しかしあれから数週間経ち、大好きな朧様とお別れをしなくてはならない日がやってきた。
私は今日から地球で静かに暮らすらしい。何故他人事みたいに言うのかって?認めてないからですよ!!
戦いの場で朧様に迷惑をかけるのは嫌だったが、それでも一緒にいられないことはもっと嫌だったので奈落の拠点に戻ってからというもの、毎日体を鍛えます!もう怪我もしません!だからお願いします!奈落においてください!!朧様と離れたくないです!!!と号泣しながら朧様にせがんだのだが、頑固な朧様が頷くことはなくただ周りの仲間にドン引きされただけだった。
そんなんだから地球へ向かう船に乗り込む私を見送りに来たのは虚様だけだったのかもしれない。ただ、一つ疑問があって。普通はこういう組織から抜ける時って小指詰めたりするものなのではないのか?小指云々は比喩だが、平気で脱退を見送るってどういう……いや、虚様が笑顔で見送ってしまうくらい私は邪魔な存在だったのかもしれない。




「ここだ」
「あ……どうも…。お邪魔します……」

地球に上陸後、朧様に連れられて到着した家は新築かと思うほど綺麗な見た目や最新の作りをしていた。憂鬱な気持ちを隠すこともなくダダ下がりのテンションのまま挨拶し、恐る恐る扉を開けて中へ入る。

短めの廊下を通ってリビングに着くと、まるで誰かが住んでいるのかと思ってしまうほどに家具が揃えられており、疑問から後に立っていた朧様へ顔を向ける。

「あの、まさかとは思いますけどここに住んでた人を追い出して、家ごと奪ったとかじゃないですよね……?」
「大工に一から作らせた家だが」
「明らかに私が使わない器具とかありますけど……」

家電製品やテーブル、ソファなど生活に必要なものはほぼ取り揃えられており、私の新生活のためにここまでしてくれて大変ありがたかったがよく観察してみると、洗面台には髭剃り機が置いてあったり歯ブラシが二つコップに刺さっていたりしていた。本当に誰も住んでないの?!

「ああ、それは私の私物だ」
「……な、何でですか?…もしかしていらなくなったものを私の家に置いて断捨離する魂胆ですか?」
「いや、私もこの家に顔を出すつもりで置かせてもらった」
「…………えっ?」
「私と離れたくないなどと喚いていただろう」

朧様の言葉から導き出される答えは、同棲。っていうか……、

「……………………それならそうと先に言えェェェェ!!!!!!!今生の別れかと思ったわボケェ!!!朧様の馬鹿!!!阿保!!!イケメン!!!!!!!!!大好き!!!!!!!!」

傷口が開くのも気にせず腹の底からを声出して叫んだ。結果怪我の治りが二週間伸びたのは言うまでもない。



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