銀魂高校の別棟はさっきまでいた校舎と打って変わって少し古びた見た目をしており、少し気味が悪かった。

夜にここを一人で歩きたくないなぁなんて考えながら朧先生の後をついて行くと"生徒指導準備室"と雑な文字で書かれたプレートが目に入る。

「ここだ」
「ありがとうございます!先生のおかげで時間にも間に合いそうです」
「それは良かったな」
「はい!」

ここまで案内をしてくれた朧先生に深く頭を下げ、教室のドアに手を掛ける。





どんな人がいるのかな。風紀委員会というくらいだからきっと真面目な生徒が多いのだろう。


「失礼しまー、ッあが!!!」

遅くもなく速くもない、適切なスピードでドアを横にスライドした瞬間、顔に何かが直撃しその反動で尻餅をついてしまった。視線を下に落とせば近くに「沖田」と書かれた上履きが落ちている。

「いっ、たた」
「あり?土方さんじゃなかったのか」
「ちょっ!総悟何してんの!!」
「すいやせん近藤さん、てっきり土方かと思って」
「いやとりあえずその子に謝ろう!!」
「あー……悪かったねィ」
「……いえ、大丈夫です…」

突然の出来事で何が起きたのか分からなかったが、少し変わった口調で話す童顔な少年の投げた上履きがちょうど私の顔に当たったらしい。話を聞く限り本当はヒジカタさんに投げるつもりだったようだが、それはそれでどういうことなのかよく分からない。


「でも、即座に避けられなかったお前にも非はありまさァ」
「…………はい?」

何を言っているんだこの男は?しかし、私は大人なので、完全お前が悪いだろという言葉は飲み込む。

「やめんか総悟。……悪かったね、怪我はないか?」
「あ、はい、大丈夫です」

嘘だ、滅茶苦茶に痛い。主に鼻が。しかし、痛いと言ったところで痛みが治まるわけでもなければ、私に上履きを投げてきた沖田という生徒に心から謝ってもらえるわけでもなさそうなので我慢することにした。


「そうか…すまないね。君も風紀委員会の子かな?」
「はい、一年のみょうじです」
「みょうじちゃんね、俺は去年委員長を務めていた三年の近藤だ。で、こっちが二年の、」
「沖田総悟でさァ」
「……は、はい。よろしくお願いします」

本校舎ではなくわざわざ別棟の生徒指導準備室に足を運んでいる時点で当たり前だが近藤先輩はともかく、この沖田先輩が同じ委員会という事実をどうしても信じたくなった。


今朝のホームルーム後に言われた「風紀委員、頑張って」という言葉を思い出す。彼女の言葉の意味が分かったような気がした。







「つーわけで、今年度の風紀委員会の活動はこの紙にまとめてある。各自読み落としのねェようじっくり確認しとけ」

委員会は時間通りに始まったが、高圧的な態度で教壇に立って場を進めていく先輩が怖くて仕方ない。彼こそが、沖田先輩が上履きを投げたかった相手―――土方先輩らしいのだが、こんな瞳孔ガン開きの人にそんなことしたらタダじゃ済まないような気がする。沖田先輩は相当肝が座っているのだろう。

先ほど配られた用紙に目を向ければ、A4サイズいっぱいにびっしりと文字が埋め尽くされており、年間の活動は勿論、委員会のルールまでもが綴られていた。

内容を一部取り上げれば、"毎朝七時から校門前で生徒の服装チェック"だとか"文化祭の校内見回り"だとか、それから"髪染め禁止""ピアス開けるな""制服に手を加えるな"だとか。ふむふむ、風紀委員はやっぱり校則を徹底してるんですね、流石…………ってなるかァァァ!!!!!

何コレ何コレ何コレ?!?!?!

交代制とはいえ、朝七時から服装チェックなんて無理だ。だいたい私は七時に朝起きて一時間で準備を済ませているのだが。朝がめっぽう弱い私は六時になんて起きれるわけがない。
それだけではない、髪染め禁止やピアス、制服に関する項目はもっと受け入れがたい。何のために銀魂高校選んだと思ってるんだこの野郎!そんな校則無かったぞ!!!


新入りの一年が先輩に物申すだけでもハードルが高いというのに、ここ風紀委員に所属する上級生に反抗するなどハードルが万里の長城に達するレベルの高さだった。先ほど土方先輩に意見した同級生の山崎くんは先輩から「アァ?!」という返事をもらってビビり散らかしていた。勿論私も全身全霊でビビり散らかしている。ヤベーとこに来ちまったよ。


強面ヤクザと童顔DV責任転嫁男のいる委員会なんてやっていける気がしない。どうにかして他の委員会に変えてもらうことしか私が救われる方法は無いだろう。どんな言い訳が良いか考えているうちに、委員長と副委員長の役職が決まっていたようだった。
活動予定表やルールを作成しただけあって、やる気いっぱいの土方先輩は副委員長に、そして沖田先輩を手懐けていたように思われた近藤先輩が去年と同様委員長に。


「じゃ、最後は書記一人だな。やりたい奴いるか?」

土方先輩が言葉を言い終わるか終わらないかのタイミングで天高く挙手した生徒がいた。その生徒に目を向ければかのDV男ではないか。ビシッと手を挙げるなんてそんなに書記がやりたいのだろうか。どうぞどうぞお好きにしてください。


「アイツがやりたいって言ってました」
「アイツ?」

役職決めが終わればこの地獄といっても過言ではない空間から解放される。今日は帰りにコンビニでちょっと高いプリン買って帰ろう。贅沢しても今日くらいは許されるよね。

「オイ。何無視決め込んでるんでィ」

誰に言ってるんだろう?沖田先輩の推薦者、早く名乗り上げたら良いのに。

「お前だろィ、みょうじ」
「………………エ!?」
「さっきやりたいって言ってたよな」

いや言ってねーけど?!?!?!

「そうなのか?じゃァ、みょうじつったか。他にやりたい奴もいなさそうだし決定で」
「え?!ちょっと待ってくだ、」
「あっ!みょうじちゃん鼻血出てるよ!!」
「えっ」

書記なんかやりたくないです、そう言いたかったのに。近藤先輩に言われるがまま鼻に手を当てると確かに鼻血が出ていた。なんで今鼻血が出るのだろうか。タイミングが悪すぎる。

「大丈夫か?保健室行ってきた方がいいな」
「いえ!私は大丈夫なんで、とりあえず書記を…」
「安心しろ、お前の希望通り書記にしてやるから早く保健室行け。今日はそのまま帰っていいぞ」
「いやちょ、」

追い出されるようにして廊下に出た私の背中でピシャリと閉められたドアを数秒睨んだが、状況が変わるわけでもないので別棟の出口を探すことにした。


おそらくこの鼻血はさっき沖田先輩に投げられた上履きに誘発されて出たのだろう。その上、立候補した記憶もないのに沖田先輩の悪巧みで書記をやる羽目になった。先輩後輩関係なく一発殴らせてもらいたいところだ。そのくらい許されてもいいと思う。



朧先生に案内してもらったおかげで出口はすぐに見つかり、本校舎に戻ることも出来た。ただその間に鼻血は止まっていたので近くの水道で鼻を洗ってそのまま帰ることにした。

なんだか散々な一日だった。というか、今日起こったことが濃密すぎて一日の、それも学校で起きた数時間の出来事だとは信じられなかった。

お父さんお母さん、私この学校であと三年間もやっていけるのか不安で仕方がないです。


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