「では、文化祭の出し物を決めるので案を出してくれるか」

委員長である桂くんが黒板の前に立ってチョークを握りしめる。

桂くんは委員長に自ら立候補したり、クラスの決め事を真剣に行おうとするなど硬派で真面目な生徒に感じられるが、彼にとって頭髪はどうしても譲れないチャームポイントなのか、いくら先生に注意されても長髪を貫き通している真面目か不良か分からない生徒であった。



「はいはいはい!!メイド喫茶やりたいでーす!」
「メイド喫茶!?なんて破廉恥な!……猫耳メイドが客に色々なご奉仕をするのだろう!けしからんぞ!!」
「……え、いや、この人何勝手に色々妄想してんの?俺別にそこまで考えて言ってないけど」

これを提案した男子生徒はただ単に高校生の文化祭で行われるお遊戯程度と考えて言っただけだろうに、アダルトな方向で読み取った桂くんは一人でブツブツ文句を垂れていた。
そんな桂くんを見兼ねて、エリザベスと呼ばれる謎の生命体が彼からチョークを奪い取り黒板に"メイド喫茶"と書く。

エリザベスはうちのクラスの斉藤くんと同じく言葉を発しないので、彼がどこからともなく取り出すプラカードに書かれた文字を見て私たちは会話をしなければならない。


「な、何をしているんだエリザベス!メイド喫茶など俺は認められん!」

"桂さん、それAVだけの話ですよ"

「何だと?」

"実際の文化祭で催されるメイド喫茶はただメイド服着て食べ物やドリンクを出すだけです"

「そうなのか?!………それならば構わんな」


いや、構うけど!?!?何の話してんだコイツらは!!クラスメイト三十八人の前でメイド喫茶もののAVを見ていることがバラされてしまった桂くんだったが、文化祭の催し物についてしか気が回っていないのか特に恥ずかしがることもなく他の案を求めて声を上げていた。


「はーい!あたし、男女逆転カフェとかやりたい」
「…男女逆転カフェ?それはいかん!!」
「はぁ?何でよ」
「貴様、男女逆転カフェの本当の意味を知らんのか?!男女逆転というのはな、男のピーーを女に付けてそれを男のピーーにピーーするピーーなのだぞ!?」

もうお前黙れよ。この教室中の誰もが思っただろう。
しかも男女逆転の本当の意味って何だよ。ちげーよ。どんなAV見てんだお前。ていうか高一が18禁見たら駄目だろがい、と申し訳程度に風紀委員を心の中で発揮した。

大体そんなつもりで男女逆転カフェを提案したわけではない女子生徒は勿論納得がいかないような表情をしていたが、またしても桂くんのAV事情を自ら露呈していくスタイルに開いた口が塞がらないようだった。

男女逆転というのはおそらく、男子がセーラー服を着たり他の女性ものの服を着たりして女装し、女子はその逆という意味だろう。私はこれにしろメイド喫茶にしろ、どちらも表に出ず裏方に回ることができれば何でもいいと思っている。



「エリザベス?!まだ黒板に書く許可していないぞ!それに男女逆転カフェは認めっグボァァ!!」

この場空気を察したエリザベスは持っていたプラカードで桂くんをタコ殴りにし教室の端にポイと投げ捨て、ここからは自分が進行を務めると言わんばかりに黒板の前に立った。いつもは静かで大人しいエリザベスのとても凶暴な一面を見てしまい驚きはしたものの、正直なところ良くやったと親指を立てざるを得なかった。




「たこ焼き!」
「お化け屋敷やりたい」
「アトラクションつくろーよ」
「縁日はー?」

桂くんの茶々が入ることもなく皆が皆思いつく限りの催しを挙げていくので、エリザベスが生徒の提案を黒板に書き終えた頃にはほとんど緑の余白が残っていなかった。


"ざっと数えて50個ほど案が出たが、多数決をやっていたら日が暮れる"

"ということで、俺の作るあみだくじでアタリの番号の奴が出し物を決める権利を得るということでいいか"

そんな決め方では文句の一つや二つ出るのではないか?と危惧していたが、黒板に羅列された案の数々を見てエリザベスの言う通りだと思ったのか、異議なしーという声が四方から聞こえた。


反対する生徒がいないことを確認したエリザベスは、一枚のA4サイズの紙を取り出してあみだくじを作成し始める。

あみだくじの決め方は出席番号ということだったので、ルートさえエリザベスが決めてくれればあとはアタリから逆走すれば良いというわけだ。



「誰がアタリ引くんだろうね」
「誰でもいい」
「…まあ、信女ちゃんはあんまり文化祭興味なさそうだもんね」
「ただ面倒なだけ」
「私もちょこーっと分かるけど、信女ちゃんと一緒に模擬店とか回ったら楽しそうだなって思うよ」
「……なまえがどうしてもっていうなら一緒に回ってあげる」
「ふふ、ありがと!」

信女ちゃんと呑気に文化祭当日の話をしていたら、突然エリザベスのプラカードに番号が書き込まれ皆の視線が集まる。


「あれ、この番号って……」
「今井さんじゃね」
「…………」
「信女ちゃんがアタリみたいだよ!」

"どんな案でも恨みっこなしだ"

生徒全員が信女ちゃんを見つめる中、彼女は静かに「ドーナツ」とだけ答えて机に突っ伏してしまったのだった。



「ドーナツ屋さんってこと?」
「だろうな」
「あー、でも良いかもね!」
「揚げるだけだしな」
「余ったら俺らも食えっかな?」
「駄目よ、ちゃんと買うの!」
「余らないくらい大盛況にしよーぜ」
「おう!今から腕がなるわ」


ということで「恨みっこなし」と前もって言われていたおかげもあり反対意見は一切出ず、うちのクラスはドーナツ屋さんをすることに決まったのだった。

これなら桂くんも頷いてくれるだろう。


しかし、「ドーナツだと?!真ん中に穴が空いているではないか!!」と訳の分からない批判をしていたのでクラスメイト全員にリンチされることになるのはまた別の話。

思春期って大変だね。


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