「あぁ。そういえばお前風紀委員になったから」
「え?あ、はい!」


朝のホームルームが終わり一時間目の準備をする為学生鞄に手を伸ばすと、重い前髪をこさえた担任の服部先生が私の席までのっそりやってきてそう言った。



一昨日入学式を迎えて華のJKになった私。中学生時代は学校のお堅い規則のせいで卒業アルバムを見返すことが自殺行為になるほどの芋っぷりを披露しながら三年間過ごしていたが、高校は違う。髪を染める、ピアスを開ける、スカートを折る、エトセトラ…今まで校則に縛られていた生徒が求める自由を叶えてくれる。そう、銀魂高校ならね。


しかし昨日は、待ちわびていた学園生活二日目にして熱を出し学校を休むことになってしまった。おそらく先生の言葉からして私が欠席した先日に委員会決めなどが行われたのだろう。休んだ生徒は勝手に役職を決められてしまうのが義務教育あるあるだ。とはいえ、委員会ごときで地を這ってでも学校に行けば良かったと思うこともないので来年度以降は出来る限り体調管理に気をつけようと思った。




「風紀委員、頑張って」
「……え?あ、えっと…ありがとう!」

突然隣の席に座っていた女子生徒の平坦な声色で発せられた言葉に驚きつつも、振り向き笑顔で感謝を述べる。

「違う、分かってない」
「えっ?わ、分かっていないとは……?」
「行けばわかる」
「…………」

何だろう、この子と会話出来ている気がしないのだけど。どう返せばいいのか分からず口籠っていると会話終了と受け取ったのか、彼女は私から視線を外し授業の準備を始めてしまったのでこちらも真似るように一時間目の教科書を取り出した。

そういえば先ほどのホームルームで今日は委員会の顔合わせがあるとかないとか言っていたような……。隣の女子生徒がどのような意味を持って声を掛けてきたのかは放課後になるまで分からなそうだし、それまでは大人しく授業を受けよう。

そうだ、せっかく話しかけてくれたのだから友達になってもらおう!そう意気込んでもう一度隣の席に顔を向けたが、言おうと思っていた「あのさ」という単語は発せられることはなかった。

何故なら、彼女がドーナツを口いっぱいに頬張っていたからだ。早弁?え?どういう状況?一時間目が始まるまであと五分のこの時間に夢中でドーナツを手づかみでモサモサと食している女子高校生とはどういう絵面だろうか。……あ、あぁ、この子は朝ごはんを食べ損ねてしまったのだろう。それできっとこの空いた時間に急いでお腹を満たしているのだ。そうに違いない。目だけを動かし周りを見渡すと、他の生徒も私と同じく彼女に目が釘付けになっていた。まあそうだよね、ちょっと驚くよね。






一時間目は国語だった。文系教師だというのに坂田先生は白衣を着ており、彼が教室に入ってきた時は事前に渡された時間割が間違っているのではないかと疑ったものだ。ただ、白衣云々よりも教卓の上に名簿と少年ジャンプが置かれており首を傾げた。誰か他の生徒が持ち込んだ物で没収でもしてきたのだろうか。

二時間目は数学。個性的な笑い方をしながら楽しそうに数学について語っており、私自身数学は苦手だったがこの先生なら面白く学べるのではないかと心が弾んだ。のも束の間、寝不足だったのだろうクラスメイトが頭を前後に揺らし居眠りをしそうになっていたのだが「おまん、船を漕いどるオボロシャァァァ!!」といった具合に教室で吐いて強制退場させられた。大丈夫かな?二日酔いだったのかな???

この辺りでここの学校の教師に不信感を覚え始める。一、二時間目の先生が特殊だったのかもしれない。そう願って三時間目を迎えたが私の嫌な予感が当たり、以降の授業でもこれまた癖の強い教師ばかりが教卓に立つのだった。



そして迎えた六時間目、クセが強いGPに出たら余裕で優勝出来そうな人達の授業で疲れ果てながらももしかしたらやばいところに来てしまったのかもしれない?!?!と冷や汗ダラダラ顔面蒼白だった私に救世主が現れる。



「物理担当の朧だ。年間予定表を配る。目を通せ」

額から頬にかけて斜めについている傷痕はあれど、おかしかったのは私の感覚ではなく今までの担当教師達であったということを何もせずとも証明してくれた朧先生に心の中で涙し、合掌した。正直感動しすぎて自己紹介の後に先生が何を話していたかは全く覚えていない。






「はい、つーことでホームルーム終わりだ。気ィつけて帰れよ」

そんなこんなでお腹いっぱいの一日だったが、この後は委員会の顔合わせがあるということで机に忘れ物はないか確認し、指定された教室へ向かうことにした。



「…………うん。どこだここは?」

完全に迷子だ。校内で迷子と言うのは本物の迷子に謝らなければならないだろうか。なんにせよ、指定の教室が見当たらない。
一度一階に降りて全ての教室を確認し、上の階に上がって教室の確認、それが済んだらまた上の階へ…とやっていくうちに最上階に着いてしまった。全ての教室を確認したはずのに委員会の集合場所はどこにも無かった。見落としがあるかもしれないと思い、もう一度同じことを蹴り返したが結果は変わらなかった。はて、どういうことだろうか。

朝担任から渡された"委員会の集まりについて"と書かれた用紙を開く。もしかしたら私は入学早々先生からいじめを受けているのではないだろうか?という考えが過ぎる。まあそんな筈はないので落ち着いて用紙を折り、職員室へ向かうことにした。
きっと職員室ならこの教室を知っている先生がわんさかいるだろう。
しかし、校内に詳しくない新入生には職員室を探すだけでも一苦労だった。確か昨日はオリエンテーションが行われており、その中に校内探索も入っていたはずだ。昨日休んだことを後悔した。




「おい、そこのお前」
「……?はい」

校内をウロウロ徘徊するだけしたのちやっと職員室という文字を見つけ、喜んでいたところに後ろから声をかけられる。まさか、不審者と思われ………あ、この人さっきの救世主!!

「さっきの授業で見た顔だな。新入生か」
「あっ、はい!一年のみょうじです」
「そうか。何度もこの辺りを行ったり来たりしていたが何か探しているのか?」
「う、ウロウロしてすみません……!実はこの、生徒指導準備室?という教室を探しているんですが見当たらなくて」

"委員会の集まりについて"と書かれた用紙を取り出し朧先生に見せると「あぁ」と分かったように相槌を打つ。良かった、助かった!!


「別館にある」
「…………なんて?」
「別館だ。うちの高校は校舎が二つに分かれている。昨日の説明を聞いていなかったのか」
「…すみません、休んでおりまして……」

先生ははぁ、と浅く溜め息を吐きスタスタと歩き出す。見捨てられた?!とその場で慌てる私に気付いて立ち止まった先生がこちらへ向き、顎を前へ振って一言。

「連れて行ってやる。……ついてこい」
「ありがとうございます!!」

委員会についての用紙を握りしめて先生の後を追う。
お父さんお母さん、変人だらけの高校だけど、何とかうまくやっていけそうです。


そんな心の声を前言撤回する出来事が起きるまであと数分。


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