「……ということで、二学期も全員気を引き締めて生活するのじゃぞ」


どう考えても顔色がおかしいだけに飽き足らず額から何かが生えている謎の地球外生命体ことハタ校長の長ったらしい挨拶が大半を占める全校集会がやっと終わり、学年ごとに教室へ解散することとなった。


冒頭で校長が言ったように、本日から二学期が始まる。授業は明日からだ。
それにしても夏休みは快適だった。何が快適かと言うと、

「よォ豚」
「………………」

人間性に問題を多く抱えた悪魔・沖田先輩と一切関わることがなかったからである。
なのに新学期早々この人に会うとは。ツイてない。

「オイ、無視してんじゃねェ。あ、誰とも会話しない寂しい夏休みを過ごして人語喋れなくなったか?」
「はいそうです、なので早くどっか行ってください」
「そうしてェけど、これから風紀委員会あんの知ってるか」
「え、」
「やっぱ知らなかったかィ。土方さんに怒られなくて済んで良かったな」
「……ありがとうございます」


今日は信女ちゃんと久々に放課後どこか遊びに行こうかと思っていたのだが、委員会の集まりがあるならば仕方ない。また今度にしよう。








「沖田さんの言葉を信じた私が馬鹿でした」
「みょうじが馬鹿なのは知ってら」
「そうじゃねーよ、何ですか?これは」

急いで帰り支度を済ませて生徒指導準備室に入ると中には沖田先輩しかおらず、机には大量に積まれた紙の束が置かれていた。
よくよく見ると、この前私が土方先輩と作り、その後沖田先輩になすり付けられたあの忌まわしきアンケート用紙だった。
一学期末に全生徒が回答したものを二学期の始めに集計するのだと以前土方先輩が教えてくれたことを思い出す。

おそらく、沖田先輩に任せられたこの仕事を一人でやりたくないとかいうゴミみたいな理由で私のことを騙してここに連れてきたのだろう。本当に性根が腐っているなこの人。


「お前が用紙を振り分ける仕事やりたいですって言うからやらせてやったのに、俺が無理やりやらせたって土方さんにチクったみたいだねィ。怒られちまったじゃねーか」
「話を捏造してんじゃないですよ。いつ私がやりたいって言ったよ、言ってねーよ。あと、怒られて当然だよ!しかも何で反省してないんですか?」
「前から思ってたがお前、先輩に対して口の利き方がなってねェな」
「アンタのどこにも敬う要素がないからですけど?」

すると沖田先輩はズボンのポケットから手錠を取り出し慣れた手つきで私の右手首に嵌め、もう片方の輪を先輩の左手首に嵌めた。

「え、え?!」

な、何してんのこの人!?!?前から人格終わってるなとは思っていたけど破綻してるにも程があるだろ!二人で手錠付けて何する気だよここ学校だよ?!こんな光景誰かに見られたら一貫の終わりだよ!!

「今日この集計をやらねーと土方さんがうるさいんでねェ」
「……えっと、この前の振り分けを人にやらせた罰として集計しろってことですよね」
「そうとも言う〜」
「誰がしんちゃんの真似しろって言ったよ。……っじゃなくて!アンタの自業自得ですよね?なんで私が巻き込まれなきゃいけないんですか、勘弁してくださいよマジで……」
「この量俺一人で出来ると思うのかよ」
「出来るかじゃなくてやるんだよ!そんくらいの業が先輩にはあんの!!」

私の怒号に顔を歪めながら両手で耳を塞ぐ沖田先輩。反省の色くらい見せてくれたら一緒にやってあげないこともないのに、そんな態度取るんだったら私は帰らせてもらいますよ、そう思ったが、自然と上がる右腕に目を向けて顔が真っ青になる。


そう言えば今この人と手錠で繋がってたんだ。


「俺はこれ終わらせるまで帰るなって土方さんに言われてやしてねェ。……この意味頭のいい豚なら分かるよな?」

この手錠の鍵は沖田先輩が持っているはず。
それは、目の前に広がるアンケート用紙を捌き終わらない限り解放してもらえないということを意味している。


「……こ、これおもちゃですよね!?ね!?ちょっと力込めたら壊れますよね!?」
「何興奮してんだ。みょうじがこんなに大人のオモチャに興味があるたァ知らなかったねィ」
「ちげーよ!!!!マジでアンタほんと終わってんな!もういいです、壊しますからね。おもちゃなら簡単に壊れますもんね」

自由な左手を使って手錠を弄ってみるが、うんともすんともしなかった。冷や汗が額を伝う。
本当にこれがおもちゃなのか不安になってきたからである。もし警察官が使う本物の手錠をどこからか盗んできたのだとしたらどうしよう、とか私まで共犯者になってしまうのではないか?とか色々考えて左手の動きが止まる。


「どうした?やらねーのかィ。ま、壊したら壊したで弁償してもらうけどな」
「弁償……?」
「そ。コレこう見えて一万すんだぜ」
「い、ち…まん?!」

ちゃんと買ってきた物である事に安心したが、それでも一万円の手錠って何だよ!と心の中でツッコまざるを得なかった。弁償なんて御免だし冷静になって考えてみたらこのやりとりの時間が無駄であることに気が付いて、近くの椅子に腰を下ろし沖田先輩の仕事を手伝う選択肢を選んだ。








作業を始めてからはお互い一言も話さずにアンケート結果を真面目にまとめていったおかげもあり、下校時刻ギリギリまでには終わらせることが出来た。

やっとのことでアンケート地獄から抜け出した私と沖田先輩は疲労から軽口を叩く余裕もなく、手錠を外してもらったのち一緒に家路を急ぐ。



「じゃあ、うちここなんで」
「おー」
「先輩も気をつけて帰ってくださいね」
「俺は大丈夫でさァ」
「じゃあまた明日の朝に〜」
「遅刻すんなよ」
「先輩もね」



家のドアを閉め、やっと家だ〜!と伸びをする。


…………。


…………?



あれ、何で私沖田先輩と一緒に帰っていたんだっけ?何でうちまで送ってもらったんだっけ?そんな会話してたっけ?

…………きっと先輩疲れてたから気の迷いで間違って一緒に私の家までついてきちゃったんだよね?そうだよね?!でなきゃあの人が家まで送ってくれるわけないもんね?!
もしかして、明日は季節外れの雪が降る……のか?


ピコンと、手に持っていたスマホが振動したので画面を見ると"お前今失礼なこと考えてたろ"というメッセージが沖田先輩から届いていた。なんで分かるの?エスパー?それとも手錠で繋がれた瞬間に心まで繋がっちゃった?
対する私はあの人の性格がひん曲がってること以外は何もわからないままだった。


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