只今朝の五時三分。普段であれば今はまだ夢の中である。それなのに、枕元でけたたましく鳴り響く電話の音に叩き起こされ、私はとても機嫌が悪かった。
しかも今良い夢を見ていたところだったのに!物理の試験で百点取って朧先生に滅茶苦茶褒めてもらう夢だ。

スマホの画面には"山崎退"と表示されており、こんな馬鹿早い時間に何の用だと渋々通話ボタンを押した。


「……山崎くん、今何時か分かってる?」
《ご、ごめん!でもみょうじさんにお願いがあって、》
「あーハイハイなるほどねぇ、でもごめん無理。じゃ」
《待っ》

山崎くんの返事を待つことなく、通話を切り布団を被る。が、数秒待たずにまた煩い電子音が鳴るもんだから仕方なくもう一度電話に出る。

「何?」
《いや、内容も聞かずに切るなんて酷いよ!!》
「あー、ごめんね寝惚けてたかも。今もまだ寝惚けてるから大事な話なら後六時間後くらいに学校でよろしく。じゃあ」
《本当にお願いだから待って!?》
「……」
《こんな朝早くにごめんね。その、今日俺風邪引いちゃったから朝の服装チェック行けなくなったんだ。その、》
「代わりに出て欲しいと」
《そう!ごめん、頼めるのはみょうじさんしかいないっていうか……》
「良いけど、これで物理の点数平均点超えてなかったら山崎くんのこと末代まで呪うからね」
《え、どういうこと?!もう試験は終わっ》

風邪引いた割には元気いっぱいの山崎くんの声は寝起きの私に毒だった為、またもや言葉を聞き終わる前に電話を切らせてもらった。


さて、服装チェックの時間までまだ余裕があるが、ここで二度寝をしたらそれこそ学校すら間に合わないかもしれない気がしたのできちんと起きて学校の準備をすることにした。




あとはご飯さえ食べれば家を出ることが出来るところまで身支度を終え、リビングへ向かうと私の早起きがそんなに珍しいのか両親からは「熱でもあるのか」と聞かれる始末だった。熱があるのは山崎くんの方です。
まあ、何を隠そう私はアラームに頼っても一人で起きられないことがあるガキんちょなので、高校生になった今でもよく親に起こしてもらっている。なので、こんな早くに一人で起きてくることにびっくりしたのだろう。今日も例に漏れず私の力じゃなくて山崎くんに起こされたんですけどね。





「おはよう!みょうじちゃん」
「近藤先輩、おはようございます」
「アイツから聞いてるよ、ありがとね!」
「いえいえとんでもないです」

学校に着くと近藤先輩が元気で迎えてくれる。そういえば金曜日の服装チェック担当者は山崎くんと近藤先輩だったか。土方先輩がペアだったら私は来た道を戻るところだった。まあ土方先輩相手にそんなことできるわけもないのだけど。


「試験はどうだった?赤点取ったらトシに怒られちゃうと思うけど」
「やっぱり土方先輩怒りますよね……」
「え!なに、もしかして赤点疑惑アリ?」
「あぁ、いや、それに関しては多分大丈夫だと思います」
「それなら良いけどね。あ、そろそろ生徒が登校してきたようだよ」


近藤先輩と別れてメモを片手に校門の端に立つ。このメモは校則違反者の名前を書くためにと土方先輩から渡されたものだ。

おはようございまーす、とこちらに挨拶してくれる生徒に挨拶し返しながら目の前を通る生徒の服装や頭髪を確認する。
左手に持ったメモ帳は全くと言って良いほどページが進んでいなかった。土方先輩にはこんなチェックじゃ甘ェだろうが!と怒られたのは記憶に新しい。先輩のメモ帳は既に七冊目だそうだ。正直メモ帳とペンの無駄遣いだと思う。

うちの学校は服装も髪型も生徒の好きに着飾ることを良しとしているはずだ。だからこそ私は地元の高校に進むことなく少し遠い場所であっても我慢して銀校に進学したのである。
勿論校則は守らねばならないルールであり、それに則って学園生活を送るべきであるが風紀委員の独断で厳しくしてもなぁと思うわけだ。

しかし、以前佐々木先生と顔を合わせた時に風紀委員の仕事について伺ったところ、今の風紀委員メンバーが入学するまでは学校が無法地帯であり困っていた、だから今の風紀委員には感謝している、と言っていた。
確かに緩すぎる校則も心の歪みに繋がってしまうのかもしれない。


とまあそんなことがあったので、どっちもどっちだと思った私は率先して仕事はしないにしても風紀委員の活動にはきちんと参加しているわけだった。




「お妙さん!!今日も素敵でっスゴァァ!!!」
「え?!」

向かいに立っていた近藤先輩が突然こちらに吹っ飛んできた。一体何が?!

「あら、またゴリラが放し飼いされてる。危ないったらありゃしない……ここで殺しておかないとうちの生徒が怪我してしまうわ」

いやその人もうちの生徒!!もう既に怪我してますから!!


「近藤先輩?!大丈夫ですか?」

意識のない先輩の肩を揺らしていると、お妙さんと呼ばれた女子生徒は穏やかな笑みを浮かべてこちらに向かってくる。笑っているけど笑っていない。

「アナタ、風紀委員の生徒かしら?あまりこの野生動物に近付かない方が身のためよ」
「えっ」
「……ハッ!!」
「先輩!」
「お妙さんっ!どんな貴女も美し、」
「死ねゴリラァ!!!!」
「ひィィィ!!!!!」

意識が戻った近藤先輩に安堵したのも束の間、お妙さんは凶悪な顔で先輩の右頬にストレートを決めにきていたので私は恐怖から一メートルほど後ずさる。

「ふぅ。動かないわね、死んだかしら?」
「………………」

綺麗な顔立ちをしているのにこんな凶暴な女性がいるだろうか?周りにいた生徒はこの光景を見て何とも思わないのかそのまま素通りしていく。何?コレ日常的に行われてるの?もしかして。


「アナタお名前は?」
「みょうじ、なまえです」
「そう、なまえちゃん。悪いんだけどあのゴリラを早く動物園に戻してくるよう学校に掛け合ってくれないかしら」
「え?いや、このひとは人じゃ、」
「聞 こ え な か っ た ?」
「ヒッ!?は、ハイ!!直ちに校長と相談してきますぅ!!!」

走って逃げた。




先ほどの出来事を報告するため土方先輩の教室へ向かう。
それにしてもなんなんだ、この学校は。というか風紀委員に入って散々な目にしか遭っていない。絶対来年は他の委員会に入ってやる。絶対委員会決めの日は吐血してでも学校行ってやる。そのせいで他の生徒に血が掛かったところで知らねーーーーー!!!!!!そんでもって風紀委員になっちまった奴はせいぜい私と同じ思いをすればいいんだ。ヘッ!!!!



「みょうじ?どうした」
「山崎くんの代わりに今日近藤先輩と朝の服装チェックしてたんですけど」
「おお、そりゃご苦労だったな」
「いや……近藤先輩がお妙さんという、女子生徒からボコボコに……」
「あー、またか」
「…また?」
「近藤さんはそのお妙って奴に相当惚れ込んでんだよ」
「ハイ?!いや、確かに綺麗な方でしたけど、すごい暴力振るわれてましたが!?」
「それさえ嬉しいんだよ。近藤さんは」
「…………」
「オイ、ドン引いた顔すんな」

それだけでなく、近藤先輩はお妙さんが好きで堪らずストーカーをしているということも土方先輩の口から語られる。
あの人はまともだと思っていたのに。根底から覆されてしまった。


「ま、とにかくだ。よくあることだからいちいちリアクションしてねェで慣れるこった」
「……そんなぁ」
「じゃァ俺は近藤さん拾ってくから」

去っていく土方先輩の背中を見つめていると予鈴が鳴る。
もう二度と山崎くんの代わりはしないと心に決め、自分の教室へ向かった。


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