本誌ネタバレ注意。2018、2019生誕祭の続き。



「夜久選手!婚約を発表されましたが婚約者の方とは御一緒ではないんでしょうか?」
「夜久選手!一言お願いします!」


三月、日本に戻って早々に熱烈な歓迎を取材陣から受けている。
引き攣りそうになるのをグッと堪えてなんとか笑顔を作った。
じゃねーと黒尾に何て言われるかわかんねぇし、取材陣の相手も仕事のうちだってこないだ注意されたからなぁ。
こういうのは侑とか木兎、日向とかが向いてそうだ。
愛想笑いで取材陣をかわしてタクシー乗り場へと直行する。
そもそも凛はまだ日本にいるんだよなぁ。残念でした。


凛との付き合いは遠距離ながらも何の問題もなく続いていた。
まぁ相手はあのド天然凛だし、両家の母親達ががっつり囲ってくれてたおかげもあると思う。あの人達結託して俺に嫁がす気満々だったからなぁ。
そのおかげもあってか大学に入ってもVリーグ入りしても海外に行ってからも凛との付き合いは円満そのものだ。


ちなみに凛との婚約発表はロシアでしてきた。
向こうの取材陣だけにやったもんだからこっちではちょっとしたお祭り騒ぎになってるらしい。
プロポーズは正月に帰って来たときに済ませてるし何の問題もねぇ。
後はオリンピック終わってロシアに連れてっちまえばいいだけだ。
タクシーに行き先を告げて一息吐くとスマホが着信音を鳴らす。


「もしもし」
『あ、衛輔くん?着いた?日本にいる?』
「おお、無事に帰ってきたぞ」
『おかえりなさい!』
「ただいま。お前は?今どこ?」
『今ね研磨くんのうちにいるよ!黒尾以外もうみんな揃ってるから!』
「は?」


いや、待て。そこは聞いてねぇ。
俺の帰国に合わせてみんなで集まろうって話にはなってる。んでそこに凛も招待されてる。
けど、俺が家まで迎えに行くって話になってたよな?
記憶を手繰り寄せて確認してみるも予定が変更になった覚えはない。
お前相変わらず自由過ぎんだろ。
肩の力がどっと抜ける。
まぁ凛だし、これも考えてみれば想定内だ。


『え、ダメだった?』
「ダメじゃねーけど俺それ聞いてなくね?」
『あ、黒尾に言われるまま行動したけど確かにそうだ!』
「いつまでたっても抜けてるとこ変わんねぇよなぁ」
『衛輔くんから言われたことは直してるつもりだけどなぁ』
「あくまでもつもりなそれ」


渋谷寄ってから向かわなきゃなんねーし、まぁこれはこれでいいか。
つーかいつの間にか馴染み過ぎじゃね?
電話の向こうでリエーフや研磨達と和気藹々話してんのが聞こえてくる。


「凛さん!鍋ボコボコしてます!」
『あ!お鍋!じゃあ衛輔くん気を付けてね!待ってるから!』
「は?一人で作ってんのかよ」
『ボルシチ作ってるの!じゃあまた後でね!』
「ボルシチ?俺普通にこっちの鍋食うつもりで帰ってきたんだけど。って聞いてねーな」


突っ込みどころ満載だったにも関わらず凛からの電話はブチりと切れた。
慣れたもんだけど、この会話だけ評価するなら俺の言うこと全く直せてないからな。
それから灰羽姉弟のどでかい広告を渋谷で見学して研磨の家に向かった。
リエーフの姉ちゃんは未だしもリエーフがモデルとか笑うしかねぇ。


『楽しかったねー』
「アイツらも変わってなくて安心した」
『元気そうで良かったよね。それにみんな披露宴張り切ってたよ』
「あー何かするんだっけ?」
『それは内緒』
「お前その言い方自分は内容知ってんだな」
『へへ』


何かやりたいってリエーフが言い出して、周りを巻き込んで出し物すんのは知ってる。
いつもならここで何すんのか意気揚々と報告してくんのにそれがないってことは凛も一緒に企んでんな。
まぁ楽しそうだし、ここは当日まで放っておくか。
俺はそっちよりやることやんねーとだ。


「やっくん!翔陽くんと飛雄くん結婚式行くて言うとるんやけどほんま?俺は?俺には招待状来てへんのやけど!」
「あー」


翌日には代表合宿が始まった。
結婚式の準備は凛と母親達に任せとけば問題ないから俺はこっちに集中だ。
気合い入れて来てみれば即座に侑が寄ってくる。


「俺も行くー!」
「木兎、話がややこしくなるからやめとき」
「何でや!ぼっくん行くなら俺もええやろ!」
「あー会場の問題とか?」
「一人くらいええやろが!俺もやっくんの結婚式行きたいねん!」


影山日向木兎は学生時代からの付き合いがあるから呼んだけど、それ以上になると新婦側の客との兼ね合いが悪くなる。
だから呼ぶの止めたんだけど、これもう招待状出すって言わねぇと話が収まらなくね?
何とか誤魔化せるか?
侑が騒いだもんだからぞろぞろと人が集まってくる。


「や、お前を呼ぶと全員に招待状出さなきゃなんねーだろ?」
「俺以外断るから大丈夫や!」
「牛若も行くだろ?百沢は?」
「お前達が行くなら俺も行こう」
「や、牛島さんまだ夜久さんは招待するって言ってないですよ」
「木兎アカンてアカン!収拾付かなくなるやつやろこれ!」


アランくんが一人頑張ってくれてるけど、これはもう流れが決まった気がする。


「夜久さん!俺も!俺も行きたい!」
「俺は別に」
「ちょ、星海も佐久早も空気読もうよ」


俺の味方はアランくんと古森しか居ないらしい。
何でこの話の流れで星海まで乗ってくるのか。
まぁ、しょうがねぇ。せっかくこうやって代表で集まれてるんだしこうなったら呼んでやるか。
式はオリンピック終わって直ぐだし全員まだこっちにいるだろうしな。


「仕方ねぇな」
「ほんなら俺も呼んでくれるん?」
「こうなったら全員呼んでやるよ。ちゃんと祝儀弾めよ」
「やっくんありがとー!」
「俺も?」
「佐久早、嫌な顔しない」
「芽生!良かったな!」
「俺は別に何も言ってないけど」
「ごちゃごちゃうるせーぞ!」
「あの夜久さん」
「お、どうした日向」
「監督とキャプテンと岩泉さんが俺達は?って聞いてこいって」
「あーマジか」
「はい!」


結果的に代表全員と監督コーチ岩泉さんその他もろもろに招待状を出す羽目になった。
これ何人増えるんだ?何十人単位だよな?
まぁいいか。今から増える分には多分問題ねぇし凛達に任せとけば大丈夫だ。


『衛輔くん、凄いねー!』
「俺はマイペース過ぎるお前が凄いと思うよ」


代表合宿からのオリンピックを経てあっという間に結婚式がやってきた。
凛がマリッジブルーになることもなく、ナーバスになることも、ロシア行きの不安を抱えることなく今日を迎えている。
まぁこいつだしな、俺は元々心配してねぇ。
何なら親達だってそんな不安は持ってなかった。
うるさかったのは黒尾とかその辺だけだ。
出席者のあまりの多さに凛は隣で瞳を輝かせている。


『料理食べれるかな?』
「いや待て。そんな暇ねぇだろ」
『えっ?楽しみにしてたのに?』
「無理じゃね?ちょ、待て。ここでそんな悲しそうな顔をするな!主役の自覚あんのかお前は!」
『あ!そうだった!』


ったく、こんなとこでショックを受けた顔なんてされたら誰に何を言われるかわかったもんじゃねーだろ。
突っ込むと凛は気を取り直したように座り直して正面を向いた。
そうそう、そうやってお前は笑って楽しんどけばいいんだよ。
予定通りに進行して一回目のお色直しのために退場する。
やけにリエーフ達がニヤニヤしてたから何かあんならこの後くらいだろ。


「は?」
「ですから新郎様お一人での入場となります」
「はぁ?」


そんなお色直し過去に見たことも聞いたこともないんだけど。
予定だと会場に備え付けてある階段から凛と二人で降りてく予定だったよな?
俺が通されたのは一階の入り口だ。
誰だよこんなこと考えたやつ。
導かれるまま中へと入るとスポットライトが眩しくて目を細める。
拍手と共に音楽がかかって二階にもスポットライトが当たった。
お前そんなとこで一人で何してんだ。
呆気に取られたと同時に歌が始まる。
あぁ、これ取り扱い説明書のやつか。
それの歌詞を変えてアリサさんとあかねちゃんが歌いはじめるのがうっすらと見える。


「凛可愛いー!」
「ヒュー!」


同時に凛が曲に合わせてダンスをはじめる。
あーこれあれか。フラッシュモブ?ってやつだろ?
階段には黒尾達が点在して立ってて凛が降りるのに手を貸してやっていた。
何か企んでるとは気付いてたけど、お前発信だったとか。そこまではさすがに予測してなくて笑ってしまう。
階段を降りきったところで音駒のバレー部員とダンスを合わせる。
終わったとこでこっちに来るかと思いきや今度は木兎の出番だ。
えぇと、お前らはお前らで何してんの?


木兎や日向、赤葦や影山が参加してんのはわかる。
そこに侑や星海、それと牛島まで混じってフラッシュモブに参加してるからもう吹き出すしかなかった。
しかも完璧に踊ってるから余計にだ。
そんなのいつ練習したんだよ。
新郎側との合わせが終わったと思ったら三年の時のクラスメイトが俺を迎えにきた。
おい、ちょっと待て。それは想定してねぇ。


「ほら今度は夜久の番だから」
「ほらじゃねぇ!やるなら最初から教えとけよ!」
「はい夜久黙ってー!今教えるから!簡単だから大丈夫!」
「はぁ!?」
「やっくんやるしかないから」
「お前もしれっと混ざってんじゃねーぞ黒尾!」


周りは大ウケ、俺は内心大慌てだ。
正直、高校時代に凛が連れ去られた時より焦ってる。
サビのとこのフリを頭に叩き込んだとこで凛がやってきた。


『衛輔くん大丈夫?』
「お前よくこんな大掛かりなの黙っとけたな」
『えへへ。サプライズー!』


後半の歌詞全然聴けてないんだけど。
これも沢山の人間で考えたのかすげぇ凛らしい歌詞になってた。
まぁ後から観れば…や、俺は観ない。ぜってぇに観ない。
そんなことを考えながら最後の大サビは全員で踊ってフラッシュモブは終わった。
二度と、二度としたくねぇな。


『〜〜〜♪』
「よっぽど気に入ったんだなその歌」
『歌詞が可愛いよねぇ』


結婚式、披露宴、二次会が終わり三次会を断ってホテルに戻ってきた。
風呂上がりの凛はご機嫌で、替え歌バージョンの方で歌を口ずさんでいる。


「今更だけどほんとに良かったのか?俺の誕生日に籍入れんの」
『うん、大丈夫だよ?衛輔くんは嫌だった?』
「嫌じゃないけど俺は別にお前の誕生日でも良かったし」
『うーん、でもそうなると全員参加出来たかな?』
「あー」


凛の言う通りこの時期だからこそ、オリンピックが終わって直ぐだからこそ、大勢の人間に祝ってもらえたんだと思う。


「や、別に籍入れんのはいつでも良かっただろ。今日だって俺の誕生日じゃないし」
『あ、そうだねー。でも衛輔くんの誕生日なら絶対に忘れないし、ロシア行く前に籍は入れといた方がいいってお母さんも夜久ママも言うから』
「そっちか」
『それにね、早く衛輔くんに付いていきたかったんだよ』
「お前またそうやって突然ぶちこんでくるのな」
『アリサさんがロシアは美人が多いって言ってたんだもん』


今の今までそうやって言ったことなかったよな?離れてるのが寂しいとか全く聞いたことなかったっつーのに。
今ここでそれを言うのかよ。
ったくほんと敵わねぇなぁ。
荷物の片付けを強引に終わらせて既にベッドへと寝転んでいる凛の隣へと移動する。


「ずっとこっち向いててくれてありがとな」
『そんなの当たり前だよ。変なの』
「や、当たり前じゃないと思うぞ」
『衛輔くん以外居なかったよ?』
「俺にとっては有り難いことだけど、まぁいいか。それがお前だよな」
『衛輔くんがずっと隣に居てくれたおかげなんだけどなぁ』
「ずっとは無理だったろ」
『いいの。だからお嫁さんにしてくれてありがとね』


別に目移りしてほしかったわけじゃない。
したかったわけでもなく凛は俺に真っ直ぐだったし俺もそうだった。
それこそ喧嘩だってしたことなかった。
多分、それはこの先も変わらない。


「寝ちまったな」


高校を卒業してここまで来るまでに色んなことがあった。
代表の座も努力して努力して掴んだものだ。
遠距離に文句一つ言わずに付き合ってくれてた凛には感謝しかない。


「ほんとありがとな」


穏やかな寝息を立てる凛を見て白雪姫のことを思い出した。
あの時はまだ名前で呼んでやれてなかったんだよな。思い出して笑ってしまう。
あの時のように凛の額にかかる前髪を避けてそっとキスを落とした。
俺だけがお前のこと幸せに出来るから、そこだけは絶対に迷わないからな。


夜久さんの誕生日に書きたかった作品。大幅に遅れましてごめんなさい。
20200819

それはまるで向日葵のように

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