『あれ?仁花ちゃんと山口は?』
「君、久しぶりに会っておいて一言目がそれなの」


日向が日本に帰ってきた。
ブラジルに行ってた二年、その間は本当に心配だった。無事に帰って来てくれて心底安堵したのは数ヶ月前のことだ。
連絡は取り合っていたけれど帰ってきてから一度も会っていない。
山口が空港に迎えに行った時も都合が合わなかったのだ。


『久しぶり月島』
「間に合って良かったネ」
『新幹線ギリギリだったからほんとにそれ』


今日は何が何でも試合を観戦したくて地元に戻ってきた。
待ち合わせのカメイアリーナの指定された席に行くと月島しかいない。


「とりあえず君はそこ座って、山口と谷地さんは買い出し」
『あ、そういうことね』


月島が指差した席へと座って深呼吸をし気持ちを落ち着ける。
久しぶりの日向だ、それこそブラジルに旅立つ時に見送りに行った以来。二年半以上経っていた。


『エアーサロンパスの匂いする?』
「日向みたいなこと言わないでくれる」
『日向ならきっと嗅ぎわけてる気がして』
「相変わらずだね」
『うん、そうだね』


荷物を置いて会場の空気を思い切り吸い込む。
私の日向への気持ちは本人と影山以外みんなが知っている。多分隣の月島はそういうことを言いたいんだろう。


「それでどうだったの?」
『就職?』
「そろそろ決まったデショ」
『勿論、ムスビイに就職出来たよ。月島は?』
「僕も山口も谷地さんも無事に決まったよ。ちなみに谷地さんは春から東京」
『そうなの?私まだ聞いてない』
「谷地さんのことだから君の就職決まるまで遠慮してたんじゃないかな」
『仁花ちゃんらしいなぁ』


日向元気にしてるかな?連絡は取り合っているから元気なのは知ってるけど、自分で確認したい。
やっと日向がバレーしてるところを観れるんだ。朝から楽しみでドキドキが止まらない。


「日向がムスビイに入る前から就職先絞ってたとか」
『やっぱ気持ち悪いかな?』
「僕は驚いたけど、日向はそういうの気にしないからいいんじゃない。そこまで追っかけるならそろそろ告白でもすればと思うケド」
『告白かぁ、どうかなぁ』


私の片想いは高校一年の冬からだ。
当時から日向はバレーボール一筋で日々そのことしか考えてなかった。
著しく成長したのもその時期だったと思う。
白鳥沢の合宿に押し掛けていったり、春高バレーで試合を重ねるごとに成長を重ねていった。
あれだけバレーに真っ直ぐな日向にどうして告白することが出来たのだろう。


「もういいんじゃないの」
『月島にそんなことを言われるとは』
「僕じゃなくても言うと思う。君の気持ち大体みんな知ってるし」
『まぁそうだよねぇ』


まさか月島から背中を押されるなんて笑ってしまった。
高校時代、日向がブラジルに行くと決めた時や実際に行ってしまってからは辛かったし寂しかったし色々しんどかった。
そういう想いを全部押し込めて日向のために私も色々と協力した。高校三年の時に仁花ちゃんと二人でポルトガル語を教え込んだのが懐かしい。
告白よりもバレーボールを追いかける日向を応援することを私は選んだのだ。
日向が日向らしく、バレーボールに真っ直ぐにいてくれるならそれで良かった。


『なんかね、告白とかそう言うのをするって時期が過ぎちゃって』
「は?」
『そんなことより日向が幸せならいいかなぁって』
「何悟りを開いたみたいなこと言ってるのさ、バカなの?あ、そうだね椎名さんも日向に関してはバカ極めてたね」
『わ、月島からのバカ久しぶりに聞いた』


心の底から思ってそうな「バカ」を久しぶりに月島からいただいた。懐かしいなぁ、月島の言うことは間違ってないのでまたもや笑ってしまう。


「笑ってる場合じゃないデショ。そんなこと言ってムスビイに就職するのに日向が他の女と結婚でもしたら君死ぬよ」
『あーそれは考えてなかった。日向はバレーと結婚すると思ってたし』
「椎名さんてバカだよねほんと」


昔のことを思い出して笑ってたのに続く月島の
言葉がぐさりと痛いところを突いた。
バレーならば勝ち目はないからこのままで良いと思ってたけど、日向が他の女の人と結婚するのは正直見たくない。


『悟りを開いてたのになぁ』
「君のそれは悟りなんかじゃなくて単なる現実逃避」


抗議するように半ば冗談混じりにへらへらと返したらさらに追い打ちをかけられた。
久しぶりに会うって言うのに月島は容赦する気がないらしい。


「とりあえず今の話烏野会の時に先輩達に言うから」
『え』
「あの人達にも君は一度怒られとくといいよ」
『ちょ、月島それは』
「参加しないって今更言わないでよ、無理にでも連れてくから」


澤村さんスガさん潔子さんの顔が目に浮かぶ。今回のことに関しては東峰さんも私の味方をしてくれないかもしれない。
月島にそれは勘弁してほしいと伝えようとしたのに戻ってきた仁花ちゃんと山口に遮られてこの話は打ち切られた。


日向に告白?私が?
月島に背中を押されてもそれが出来る気はしなかった。今更なんて伝えればいいのかわからなかった。


2020/01/28

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