『夜久!ねぇ夜久!』
「おお、どうした椎名」
『今日も芝山君がかっこ可愛くて死ねる!』
「それは良かったな」
『どうしてあんなにかっこ可愛いんだろうか?』
「一生懸命だからじゃねぇの?」
『そうだよね!ほんとそうだよね!』


それだけ俺に伝えて椎名はマネージャーの仕事に戻った。
あ、ちげぇ。あれは多分黒尾に同じこと伝えてんな。
黒尾の表情が面倒臭そうだ。
あいついい加減にそれを本人に伝えてやればいいのに。


「夜久さん」
「おお、芝山。どうした?」
「椎名先輩ってどうして僕以外と話す時あんなに楽しそうなんですかね」
「あー」


ほらまたこれだよ。
椎名、お前の大好きな芝山は最近お前が誰かと芝山の話をしてる時こんな感じなんだぞ。確実に勘違いしてるぞ。
いっそ俺がほんとのこと言ってもいいんだけどなー。
椎名に後から怒られたくねぇしな。


「椎名先輩って僕と話す時あんなに楽しそうに話してくれないんですよ」
「いやそれはな」
「夜久さん何か聞いてるんですか?」
「そういうんじゃないけど」
「僕、椎名先輩に何かしちゃったんですかね」


芝山はがっくりと肩を落としている。
どうすっかなー?
つーか、こいつの気持ちってどこに向いてるんだろ?


「なぁ、芝山は椎名のことどう思ってるんだ?」
「えっ」
「いや、気になるってことはそういうことなんだろ?」
「そんな!べべ別にそういうんじゃないですよ」
「そうなのか?」
「僕なんかがそんな風に言えないです!レシーブ練してきます!」


そんな風に言えないってことはそういうことじゃねぇか。
仕方無い。俺が一肌脱ぎますか。
じゃないとそろそろ面倒臭ぇ。


『え?』
「だから芝山の誕生日だぞ明日」
『嘘』
「何でそういうとこ把握してないんだよ」
『え?本当に?』
「俺が芝山の嘘の誕生日を教えるメリットないだろ」
『確かに』
「せっかくだしちゃんとお祝いしてやれよ」
『夜久、芝山君に何をあげたら喜ぶかな?』
「何でも喜ぶだろ」
『何だよ適当過ぎるよ!今日練習終わってから買い物付き合ってよ!』
「やだよ」
『頼むよー!夜久が可愛いって言ってたこ紹介するから!』
「え?マジで?彼氏いるんじゃねぇの?」
『別れたんだってー』
「それなら付き合ってやるよ!」
『さすが親友ですね!』


俺はこの時に自分のことしか考えてなかったことを後々後悔することになる。


『これなら芝山君喜んでくれるよねー?』
「まぁ大丈夫だろ」
『夜久ありがとね!』
「おい!はしゃぐと転けるぞ」


芝山のために買ったプレゼントをゆらゆら揺らしながら椎名がはしゃぐ。
黙ってりゃ綺麗だって黒尾が言うだけのことはあると思う。
俺の好みじゃねぇけど。
案の定バランスを崩した所を転けない様に支えてやった。


『おっと』
「だから言っただろ」
『夜久は下心が無いから楽なんだよねぇ』
「そりゃな、俺の好みじゃないし。椎名が芝山一筋なのも知ってるしな」
『夜久に好みじゃないって言われても傷付かないのは何故だろう?』
「俺がお前の好みじゃないからだろ」
『あぁ!確かに!』


俺はこの時芝山達一年坊主が俺達を見てたなんて思ってもなかった。


「夜久さん夜久さん!」
「なんだよ、朝から山本暑苦しいぞ」
「椎名先輩と付き合ってるって本当っすか?」
「はぁ?」


次の日の朝練。
部室に着くなり山本から意味の分からないことを言われた。
過去にも椎名と付き合ってるのかって聞かれたことはあるけど何でこのタイミングなんだ?


「昨日リエーフ達が夜久さん達を見かけたって」
「あぁあれな」
「すげーらぶらぶだったって言ってましたよ?」
「は?」


昨日じゃなくても過去に俺と椎名がそんな風な空気になったことは一回もない。断じて無い。
リエーフ達は昨日何を見たんだ?
ちょっと待て。リエーフ達!?「達」って誰だ?
その時部室の扉ががちゃりと開いた。
挨拶が無い。いつもなら大抵みんな挨拶をして入ってくるはずだ。
福永か?いやあいつは俺の目の前で着替えている。
もしかして…
振り向くとそこには不機嫌そうな芝山の姿。
こいつ思いっきり勘違いしてるじゃねぇか!


「芝山?どうした?体調でも悪いのか?」
「そういうんじゃないです」


山本が珍しい物を見たとでも言う顔をして芝山を気遣う。
それに不機嫌さを隠さずに芝山が答えた。やべぇなこれ。
あぁもう、荒療治するしか無いな。
福永をこっそりと呼んで山本を連れ出すことと椎名を部室前に呼び出すことを頼んだ。
まぁ福永ならちゃんと任務を遂行してくれるだろう。
山本を連れて福永が出て行った。
他の部員もきっともう体育館にいるだろうから部室には俺と芝山しかいない。
お互い無言でジャージへと着替え終わった所だった。


「夜久さん」
「どうした?」
「昨日俺に聞きましたよね」
「椎名のこと?」
「あれどういうつもりなんですか?」
「単に気になっただけだぞ」


芝山も着替え終わったのだろう。
部室の入口で俺を待ち構えている。
勘違いなんだよ。椎名もお前が好きなんだよって言えたらどれだけいいか。
芝山越しに部室の扉の磨硝子の向こうで人影が動いた気がする。


「僕のこと二人で笑ってたんですか」
「そんなことしてねぇよ」
「僕、本当に椎名先輩のこと好きだったのに!酷いですよ夜久さん!」


だってよ椎名。
聞いてただろ?ちゃんと入ってこいよ。
俺、これ以上勘違いで芝山に怒られたくないし。
人影が見えた気がするけど誰かが部室へと入ってくる気配は無い。


「聞いてるんですか!夜久さん!」
「ちょ!芝山落ち着けって!」


呆気に取られていたら俺の態度にキレた芝山に胸倉を掴まれた。
そのままロッカーまで押し付けられる。
いや、何でこんなことになってんだ?


「僕が昨日どんな気持ちで言ったか分かってるんですか!」
「知らねぇよ!そんなもん!」


芝山がギリギリと俺の胸倉を締め付ける。
ちょ!俺それかなり辛いやつ!


「芝山、俺別に椎名と付き合ってねぇから」
「もう信用出来ません!」


駄目だ。完全に頭に血が上ってるぞこいつ。
おい、もう誰でもいいから部室に入ってこい。


「はい芝山そこまでーやっくんのこと離してあげてねー」


がちゃりと部室の扉が開いた。
助かった。黒尾ってのが気にくわないけどこの際気にしない。
部室の外には黒尾と顔を赤くした椎名の姿。
お前何やってたんだよ。
照れてる場合じゃねぇし。
芝山も椎名の姿が視界に入ったのだろう。俺を締め付ける力が緩んだ。
そこで俺は芝山を振り払った。


「え、椎名先輩?」
「やっくん、怒らないでよ」
「椎名ー!」


俺は黒尾の隣に珍しく大人しくしている椎名に詰め寄った。
こいつが入って来ないせいで俺無駄に芝山に詰め寄られたんだぞ!


「やっくん!落ち着いて」
「はぁ?芝山の話聞いてたんだろこいつ!」
「えっ」


俺の台詞に反応したのは芝山だけで椎名は何も言わない。
芝山だけにデレるのほんとやめろよお前。
椎名に詰め寄る俺を黒尾がさりげなく制止する。
結局俺の言葉に反応したのは芝山だけだ。


「椎名ちゃん、芝山の言葉さっき聞いてたよね?」


黒尾が優しく椎名に語りかける。
すると椎名はその問いにゆっくりと首を縦に振った。


「あの、僕」
「椎名ちゃん、ちゃんと言わないと芝山が誤解したままだよ」
『夜久とは付き合ってない。昨日だって芝山君の誕生日プレゼント買いに行っただけで私が好きなのは』
「早く言えよ」
「やっくん、急かさないの」
「え?本当に付き合って無いんですか?」
『わ、私が好きなの芝山君、だけだもん』


え?芝山?反応しねぇの?
椎名が振り絞って出した告白に芝山は固まってるし黒尾は何も言わずニヤニヤ顔だ。
芝山は顔が真っ赤になっている。
椎名の表情は今は俯いてて分かんないけど耳は赤いからきっとまだ照れてるんだろう。


「俺も好きです。先輩のこと」


辛うじて芝山が言った言葉に椎名はやっと顔を上げた。


『し、芝山君ほんと?』
「本当です」
『誕生日プレゼント渡してもいい?』
「はい!先輩がくれるのなら何でも欲しいです!」
『じゃああのこれなんだけど』


この甘ったるい空気にイライラして二人を放って黒尾と部室を後にした。
あいつはもう俺達の存在忘れてただろ!


「やっくん」
「あぁ!?」
「ドンマイ」
「お前ふざけんなよ黒尾!」


黒尾の尻を蹴りあげて体育館へと向かう。
このイライラは全員にレシーブ練させねぇと収まらないと思う。


遅れてきた芝山が平謝りしてきた所で俺のイライラはやっと収まった。
リエーフは既に死んでたけど。


椎名にはきっちり友達を紹介してもらった。
そのこと俺が上手く行くのはまた別の話。


椎名と芝山が幸せそうだからまぁ今回は許してやることにした。
誕生日おめでとうな芝山。


2017年12月16日ハッピーバースデー芝山!

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