「凛!朝やで!はよ、起き!」
『眠い』
「何言っとんのや!今日は何の日か知っとるやろ!」
『んん、後五分』


せっかくふわふわとした気持ちの良いところにいたのに聞きなれた大きな声に意識がぼんやりと覚醒していく。
あぁ、これは謙也の声だ。でも、眠い。まだ全然寝足りない。これも昨日の夜遅かったせいだ。謙也が寝かしてくれなかったのが悪い。
ゆさゆさと私を揺り起こそうとしてくる謙也に抵抗するように布団の中に深く潜り込んだ。


「アカンて凛!今日は俺の誕生日やろ!」
『んー日付け変わってからお祝いしたよぉ』
「彼女には一番にお祝いしてほしいやろ!せやからそれは当たり前のことや、それに今日も予定詰まっとんで!」
『予定?…今、何時?』
「六時や!」


寝たの三時だったよね?三時間で起こされるとかやだやだ、眠い。
布団を引き剥がそうとする謙也と私の攻防戦が始まる。これ続くと私が不利だよなきっと。


『謙也は眠くないの?』
「おう!もうすっかりおめめもパッチリやな!」


そうだよね、冬だろうが夏だろうが秋だろうが謙也は寝起きが良いのだから春だってそうだろう。けれどここで屈するわけにはいかない。私が今欲しているのは睡眠なのだから。


『私はもう少し寝たいなぁ』
「アカン、俺は眠たない」


ぐいぐいと布団を引き剥がそうとする手を緩めずに謙也が即答する。このままでは私の安眠が奪われてしまう。なので観念してとりあえず顔だけ出すことにした。


「凛の服も用意しといたで」
『謙也』
「夜は白石達との集まりがあるからそれまではデートしよな!」
『謙也、私の話聞いて』
「もうプランはバッチリや」


全然私の話を聞いてない。それどころか楽しそうに今日のプランを説明する始末だ。
謙也の考えるデートも楽しそうだけどもう少し寝たいよ。謙也の声がもう子守唄のように聴こえてきた。あ、これ気持ちよく寝れそう。


「凛寝たらあかーん!死ぬで!死んでまうで!」
『揺らさないで謙也ー』


せっかくうつらうつらしてたのに私の肩をがっつり掴んで謙也が揺らしてくる。あぁ、私の眠気さんが去っていってしまう。
普段ならユウジばりにツッコんであげるけど今日は無理。今なら睡魔と結婚出来そう。


『謙也』
「おお、やっと起きる気になったんか」


言葉じゃ伝わりそうも無いのでこうなったら実力行使だ。渋々と上半身を起こすと何やら勘違いをしている。
ベッド際に立っている謙也の腕を引いて力いっぱい自分の方へと引っ張った。


「ちょ!何しとんのや!あぶ、危なっ!」
『お布団の世界へいらっしゃーい』


謙也が上手いことベッドへと倒れこんできてくれた。傍から見たら謙也が私を押し倒してるように見えるかもしれない。
腕で自分の体重を支えてるから私は見下ろされてる状態だ。咄嗟にそれが出来るのが謙也なのだけど押し潰されても良かったんだけどな。


『謙也ー』
「ちょ、俺は眠たくないねん!」
『まだちょっと寒いから謙也の体温ちょうだい』
「そんなこと言ってもアカン」
『謙也、お願い。後三時間一緒に寝よ?』
「凛それは」
『お願い謙也』


少しだけ上半身を上げて謙也の首にすがりついた。片手で自身の体を支えてもう片方の手で私の体を支えてくれている。あぁもう、普段は抜けてるとこあるのにこういうとこちゃんとしてるんだから。こんな謙也が堪らなく好き。
耳元にそっと甘えるように囁くと少しずつ態度が軟化していく。よし、後一押しだ。


『謙也、後ちょっとだけ』
「せやけど予定が」
『もうちょっと謙也とここでごろごろしてたいなー』
「俺今日のために色々考えとったのに」
『お昼からでもいい?』
「んー」
『だぁめ?』
「…しゃあないな。今日だけやぞ」
『ん、ありがと謙也』


甘えた作戦が功を奏した。謙也は私のお願いに折れると体重を支えてる腕の力を抜きゆっくりと隣に寝転んでくれる。
尚且つ自然と肩に私の頭が乗るように導いてくれるのだから本当に謙也は優しい。


『謙也、誕生日おめでとう』
「昼からは付き合ってもらうで」
『うん、大丈夫』
「ほんならもうちょい寝や」
『大好き』
「アホ、俺のが好きに決まっとるやろ」


謙也の体温があったかくてそのまま直ぐに寝てしまった。
結局謙也は私に肩枕をしたまま三時間起きててくれたらしい。一回目が覚めたらなかなか眠れないもんね。それでも私のためにとじっとしていてくれたことが嬉しくてとても愛しい。
じっとしてるのも本当は苦手なのにね。私のために耐えてくれてありがとね。ワガママ言ってごめんね。


「凛!九時や!起き!」
『うん』
「なんや元気無いな、せや腹減っとるんやろ?朝メシソッコーで作ったるからな!待っとり!」
『お目覚めのチューも無いのか』


三時間寝ても足りないくらいだけど何とか目を覚ますことに成功する。と言うか肩から頭が落とされて起きた。気付いた時には謙也の姿は寝室から消えている。じっとしてるのが限界だったのかもしれないな。
そんな謙也も愛しくて思わず笑みが溢れてしまうのだった。


「ケンヤ誕生日おめでとう」
「ケンヤくんおめでと!」
「小春と来てやったでケンヤ!」
「ケンヤ誕生日おめでとうな!」
「謙也さんおめでとうございます」
「ケンヤ、おめでとう。これ博多のお土産たい」
「ケンヤ、これは東京土産や」
「俺からは誕生日プレゼントやで」
「お前ら全員来てくれたんか!プレゼントもありがとう!ほんま嬉しいわ」
『良かったね、謙也』


高校を卒業するとみんな進路はバラバラでなかなか集まれなくなる。そんななか、謙也のためにとはるばる集まってくれたのだ、嬉しくないはずがない。あ、謙也泣きそうだし。


「なぁなぁタコ焼き食ってもいい?」


金ちゃんが感動的な空気をぶち壊す一言を告げどっと笑いが巻き起こり、それが誕生日パーティーの始まりの合図となった。


「おっちゃん!タコ焼き追加してん!」
『金ちゃん、タコ焼き以外も食べなきゃダメだよ』
「えぇ」
『大きくなれないよ?』
「いや、椎名さんそれはもう通用しないと思いますけど」
「ちゅーかもう充分でかいやろ!俺の背越しやがって」
「大きくなれへんのは嫌や!」
『じゃあサラダも食べようね』
「タコ焼きも食うていい?」
『サラダ食べるならいいよ』
「銀!そのサラダワイが全部食うで!タコ焼きのために食うたるでぇ!」
「金太郎はん、食べすぎもあかんのですよ」
「相変わらず椎名は金ちゃんの扱い上手いなぁ」


久々に集まるというのに空気は高校の時のままだ。それぞれが昔のまま会話を楽しんでいる。あぁ、こういうの本当にいいなぁ。


『楽しかったね』
「ほんま楽しかったわ」
『またみんなで集まれたらいいねぇ』
「いつだって集まれるやろ、大丈夫や」
『そうだね』
「凛、俺の隣にずっとおってくれてありがとう」
『急にどうしたの?』


楽しい時間はあっという間に終わってしまい、今は謙也と二人きり。自宅への道をのんびりと歩く。大量の誕生日プレゼントを手分けして持って空いた片手を繋いでいる。
柄にもなく真面目な顔をしてそんなこと言うから少しだけ驚いた。


「ふと思っただけや」
『謙也こそこんな私の隣にいてくれてありがとね』
「アホか、当たり前やろ!帰ったら千歳のお土産つまみにもっかい飲もな」
『辛子明太子だっけ?楽しみだね!』


あ、照れてる。二度寝する前は大好きって言ってもそんな素振りなかったのになぁ。耳が赤くなってるよ謙也。
家だと私からの愛の言葉を余裕で受け止める謙也も、外だと落ち着かないのかソワソワして照れて話を変えちゃう謙也もそのどちらも大好きだ。


『今度は二人で千歳のとこか銀さんのとこ遊びに行こうか』
「東京なら侑士に泊めてもらえばえぇしな、千歳は千歳んとこ泊まらしてもらおか」
『忍足くんからお祝いの言葉あった?』
「起きたら連絡来とったわ」
『それなら良かったね』
「せや!どうせなら侑士の誕生日の時に銀のとこ遊びに行こうや!」
『これが一石二鳥ってやつか』
「頻繁には遊びに行けへんからな、ちょうどえぇやろ。侑士も銀も喜ぶで!」


それなら銀さんの誕生日の方がいいんじゃないかなぁ?結局一年に二回は東京に行くことになりそうだなと一人予測してこっそりと笑うのだった。


みんなでワイワイしてる時の軽い謙也も二人の時に思いきり甘やかしてくれる謙也もどちらも本当に大好きで、こんな日々がとても愛おしい。
朝は私が甘やかしてもらったから夜は私が甘やかしてあげよう。
誕生日おめでとう。この一年も二人で沢山笑って過ごそうね。
繋いだ手を握りしめるとその手が自然と握り返されて私はまた幸せな気持ちに包まれるのだった。


レイラの初恋様より
初めての謙也。
誕生日おめでとう!
題名とはずれたお話になってしまった。
いいのそれでも。この題名でいいの。
2019/03/17

どうしても起きたくなかったの、貴方が私を甘やかすから

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