どうしても食べたかったロイズのプレシャス。バレンタインに間に合うように届いてホッと一安心だ。
自分が食べたいものをプレゼントするだなんてきっと彼は鼻で笑うだろう。
けれど結局何をあげても最後には私が食べるのだからこれで良いんだと思う。


『ね、今日光のうちに行ってもいい?』
「良いッスけど明日も仕事やないん?」
『そうなんだけどたまには平日お泊まりもいあかなーって』
「明日早起き出来るなら良いんじゃないですか。俺は起こさないんで」
『え』
「明日は講義が午後からですし」
『……ちゃんとアラームセットする』
「ならえぇんとちゃいますか」


光と同じ時間に起きればいいと思ってたのにまさかの明日午後から!?
起こしてもらえないのは困る。ならば家に帰って母親に起こしてもらうのが一番だ。
けどそしたらせっかくのプレシャスが食べれなくなってしまう。
悩みに悩んだ結果自分で起きることを約束して光の家に向かうことになった。


「ワイン飲むんすか」
『うん、今日はワインの気分』
「まぁ俺は何でもいいですけど飲みすぎんでくださいよ」
『大丈夫、一本だし』
「相変わらず化け物ッスね」
『そうかな?普通だよ?』


デパ地下で適当な赤ワインとチーズ、それにオードブルを物色する。
夕飯を食べた帰りなのにそれだけの物を購入したから隣の光は呆れたような目で終始私のことを見ていた。


「買いすぎですわ」
『だって久しぶりのお泊まりだし』
「アンタが忙しいのがあかんのですよ」
『まぁ、確かにねぇ』
「さっさと実家から出たらいいのに」
『一人じゃ起きれないから』
「こどもじゃあるまいしいい加減一人で起きるっちゅーことをするべきやと思いますけど」


これも何回も光に言われてることだ。
分かってるんだけど起きれないのは仕方無いと思いません?頑張っても起きれないんだもの。
社会人にもなって親に起こされてる私が悪いのだろうけどどう頑張っても無理なものは無理だ。
それに比べて大学から関東で一人暮らししてる光は本当に凄いと思う。


『さ、飲もう飲もう!』
「はぁ、テンション高すぎ」
『光のうち来たの久しぶりだから』
「いつでも来たらいいんですよ」
『うーん、でもねぇ。起きれないと困るからなぁ』
「ワイングラスも凛さんが勝手に置いてったんですよ。使わんと埃が被るやないですか」
『あ、ありがと』


ワインを飲むならワイングラスだ。当然光のうちにはそんなもの無かったから前々回お邪魔したときに二つ置いてった。それを洗って光が用意してくれた。ソファの前のローテーブルには既にオードブルとチーズ、クラッカーそれと私が大事に持ってきたプレシャスが並んでいる。
さてどれから食べようかなと悩んでいたら光が手慣れた様子で赤ワインの栓をキュキュと開けてくれた。そういえばこのワインオープナーも私が置いてったやつだったなぁ。


「それ何すか」
『あ、これ?気付いた?』
「そんなの買ってるの見てないですしね」
『ふふー。バレンタインのチョコレートでーす!』
「あぁ、そないなこと言ってどうせ自分が食べたいもん買ったんやろ」
『光、何故それを知っている』
「チョコレートは俺より凛さんのが好きやないですか」
『和菓子が好きなら洋菓子も好きになりなよ光ー』
「別に嫌いやって言ったことないですけど」


好きだって言ったこともないよね?赤ワインをトクトクとワイングラスに注いでくれているので私はプレシャスを取り出すことにした。まだ渡してすらいないけど光は大して気にしないだろう。


『ほら、見てみて可愛いでしょ!』
「俺には女子の可愛い全く分かりません。チョコレートに可愛いとか意味不明ッスわ」
『えぇ、器もチョコレートなんだよ?凄くない?』
「チョコレート業界の戦略に目一杯踊らされてるんとちゃいます?」
『いいの!』


丁寧にプレシャスの包装を解いていく。もうワクワクが止まらない。じゃーんと光に見えるように掲げて用意してもらったお皿へと置いた。蓋までチョコレートとか本当に可愛いと思う。その蓋をぱかりと開ける。あぁもう本当に美味しそうなんですけど!


「これプリンなんですか?」
『いや、チョコレートだよ?』
「ほんなら何でスプーンが付いてるんですか」
『これはね、スプーンで食べるチョコレートなんだよ光。ほらあーん』
「自分で食えるんで」


付属の銀のスプーンを1つ光に渡して自分はもう1つのスプーンでプレシャスを掬う。プリンほど柔らかくはないけれど中の生チョコレートは柔らかくて簡単に掬うことが出来た。
ミルクチョコとホワイトチョコの二層になっていて見た目は本当にプリンみたいだ。
ワクワクしながら光に食べさせようと思ったらあっさり拒否られてしまった。拗ねた顔をした私をスルーして光は自分でプレシャスにスプーンを入れている。
美味しいって言ってくれるかな?どんな反応するかな?そう思いながら眺めていたらそのスプーンが此方へと近付いてきた。


「毒味宜しくお願いします」
『毒味!?』
「ほらアンタが食べたくて買ってきたんですよ」
『でも私自分で』
「とりあえずこっちからッスね」


私だって自分で食べれると言うのに目の前にスプーンが迫っていて口を開くしかなかった。
毒味とか酷くない?そう文句の1つも言いたかったのにプレシャスの甘さに潔く負けた。
赤ワインと貴腐ワインを使ってるだけのことはある。そしてこの柔らかさ、二層のチョコレートは口の中で混ざりあい直ぐ様溶けて消えた。


『〜〜〜!!!』
「あぁ、言わんでもその顔で分かりますわ。旨かったんスね」


これをどう言葉で表現していいかはわからない。けれどとっても美味しくて光の顔を見たらそれだけで言いたいことは伝わったらしい。
問いかけに頷くとスプーンを持ってた方の手首を掴まれて誘導されるまま光の口元へと導かれる。結局食べるんじゃん、そう思いながらも光をじっと見つめていたら躊躇することなく私のスプーンの上のチョコレートを食べるのだった。


「あぁ、これもワイン入ってるんスね」
『うん』
「まぁまぁですわ」
『手厳しい』
「ぜんざいには勝てないッスね。でもまぁ年に一回くらいならえぇですよ」
『何が?』
「年に一回くらいぜんざいよりチョコレートが上の日があってもえぇって言ったんですけど」
『光ってツンデレだよね』
「俺はそんなつもり全く無いですけどね」


二口目のプレシャスを口に入れて赤ワインを飲む。あぁもう、それだけでとっても幸せだ。
光はオードブルを食べることにしたらしい。ぜんざいよりチョコレートの日があってもいいって言ったのに結局一口止まりか。


「それ後から食べるんで残しといてくださいよ」
『えっ』
「甘いもんはデザートって決まってるやないですか」
『あぁ、…じゃあ冷蔵庫に入れてくる』
「じゃあそれで」


まさかの全部食べるなって御達しがきたー!今までそんなこと無かったからちょっとびっくりした。と言うことはプレシャスはそこそこ気に入ったのかもしれない。驚きつつも食べかけのプレシャスに蓋をして箱に戻してから冷蔵庫に入れておいた。
いつもと違う光の言動に嬉しくなってしまう。


「顔がおかしなことになってますやん」
『だって光が後から食べるって言うから』
「年に一回だけっすわ」


冷蔵庫から戻ると光に失礼なことを言われた。彼女に向かっておかしな顔とか酷くない?けれどまだ嬉しさが勝ってたのでそのままの気持ちをお伝えしたらふいと顔をそらされてしまう。
何が光をこうさせたのかは分からないけれど貴重なデレなので何も突っ込まずに隣に座ることにした。
さて、私もチーズとオードブルをつまみにして赤ワインを楽しむことにしよう。クラッカーもあるからつまみに困ることは無いはずだ。


「凛さん、寝るんならベッドいかな」
『んー、うん』
「飲みすぎんでって言うたやないですか」
『うん』
「アホッスわほんまに」


うつらうつらと朦朧とした意識の中で光の声が聞こえる。どうやらいつもよりはしゃいでペースを間違えたらしい。
唇に触れる柔らかい感触を最後に私の意識は途切れたんだった。


「朝ッスよ、はよ起きんと遅刻するで」
『んー』
「凛さん、起きんと残しといたチョコ全部食ってまうから」
『それは困るー』
「なら起きてくださいよ。朝メシ用意したんで」
『は?』


ぐらぐらと身体を揺さぶられて意識がゆっくりと覚醒していく。光の「朝メシ用意したんで」の言葉で一気に目が覚めた。がばりと起き上がると既に光の姿は無い。


「シャワー浴びると思っていつもより早めに起こしたんやからはよしてくださいよ」
『わ、分かった!』


キッチンからは珈琲の香りが漂ってくる。
昨日は起こさないって言ってたよね?なのに起こしてくれて尚且つ朝御飯まで作ってくれちゃうとかかなりのVIP待遇だ。
光やっぱり可愛すぎる。一緒に住んでくれるのなら一人暮らししてもいいよって言ってみようかな。
朝からニヤニヤが止まらない。
それはシャワーを浴びた後もそうで結局光に手厳しい言葉を投げられるのだった。


2019年バレンタイン第一弾は財前で。ツンデレさん可愛いよねやっぱり。ロイズのプレシャス食べたこと無いんだけど一目見て食べたくなった。そっから書き上げた作品(笑)
2019/02/07

プレシャス

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