「ねぇ凛俺もうすぐ誕生日なんだけど」
『知ってるけど』
「あのさ、俺ってお前の彼氏だよね?」
『うん、一応』
「一応って言うなってこないだも言ったよね俺!」
『えぇと』
「会いに来ないと殺すからね!」
『物騒なこと言わないでって切れちゃった』


まだ新年の挨拶すらしてないのに鳴からの電話は切れてしまった。
ペディキュアを塗ってたから返事が曖昧になってしまったのだ、きっとそれに腹を立てたんだろう。はみ出さないように必死だったからそこは申し訳無く思うけど、やっぱり私の彼氏は勝手だ。そんなところも大好きなのだけど。
丁寧に丁寧に小指までペディキュアを塗り終えたところでホッと一息吐いた。


『誰のためにやってると思ってるのさ』


これでマニキュアもペディキュアも完璧だ。鳴に少しでも可愛いって思われたくてやってることなのに怒られるだなんてなぁ。それも鳴らしくてマニキュアを眺めながら笑みが溢れてしまう。ちゃんと会いに行くから心配しないで待っててね鳴。


「遅い」
『ごめん、電車人が沢山で』
「俺10分も待ったんだけど」
『本当にごめんね』
「他に言うことないの?」
『誕生日おめでとう』
「ん、忘れてないならいいよ」


待ち合わせの10分前に着く予定だったのにまだ正月休みなのか駅も電車もどこもかしこも人が沢山だった。三が日過ぎたら大丈夫だろうと甘くみてたのかもしれない。結果待ち合わせに遅れて鳴は初っぱなから不機嫌だった。ちゃんと遅れることも伝えたし待ち合わせの時刻を10分遅くしていいって伝えたのにだ。球団の寮から歩いて5分の距離にある最寄り駅なのだからゆっくりきてくれて良かったのになぁ。
けれど鳴は鳴できっと一刻も早く私に早く会いたかったんだろう。私がそうであるように。


「髪の毛ボサボサだよ」
『やっぱり?風が強いし人混みも凄いしで大変だった』
「ま、急いできたのはほんとみたいだし許してあげるよ凛」
『ありがと』


すっと鳴の手が伸びて私の右手をさらっていく。鳴は昔から自信満々で、私はそれにいつだって引っ張られた。もしかしたら躊躇すると言う言葉は鳴の辞書には無いのかもしれない。それも鳴らしくてマフラーに顔を埋めて笑ってしまった。


「何、一人でニヤニヤして」
『鳴が鳴で良かったなぁって』
「は?いきなり気持ち悪いこと言わないでよ」
『ほんとのことだよ』


鳴の口が悪いのは照れ隠しだ。本気で思ってる時もあるけど私に対しては照れ隠しのことが多い。今もそうでふいと顔をそらされてしまった。いくつになってもこういうとこは可愛いと思う。言ったら確実に激怒するから言わないけれど。


『どこに行くの』
「寒くないとこ」
『確かに外は寒いから暖かいとこに行きたいよね』


かと言って寮は関係者以外立ち入り禁止だ。会いに来いって言ったけど鳴がうちに来た方が良かったんじゃないかと思う。まぁきっと今日も練習してから来たんだろうけど。去年から地元の球団に入団して早々に一軍に上がった鳴の活躍は凄まじいものがあった。おかげで元々人気だったのにファンが二倍にも三倍にも増えたって樹が言ってたような気がする。今だって周りが遠巻きに鳴のことを見てるのが分かるし。そんなこと気にもせず堂々と私の手をとって歩く鳴はやっぱり鳴らしい。私の方が気後れしてしまいそうだ。


『え、電車に乗るの?』
「そうだけど」
『どこに行くの鳴』
「はぁ?お前の家に決まってるでしょ。外泊届け出してきたし」
『あぁ』


それがさぞ当たり前かのように鳴が言いはなった。私に迎えに来て欲しかっただけとか普通なら呆れてしまうところだろう。けど私はそんな鳴が大好きだからまた頬が緩んでしまう。やっぱり気後れしてる場合じゃない。鳴に釣り合うように私も頑張らないといけない。


「凛は将来何になるの?」
『んーアナウンサーとか?』
「何それ。俺初耳なんだけど」
『英語の先生でも良かったんだけどねぇ』
「と言うかそれしか知らないよ」


満員電車に揺られながら鳴との会話が弾む。いつもは静かなことも多いのに今日は機嫌が良いらしい。
アナウンサーになりたいって決めたのは最近だから鳴は知らなくて当然だ。釣り合いたくて決めたのだから。外国語大で英語を専攻してるし今から頑張れば充分狙えそうな気はしていた。


「何でアナウンサーなんか」
『鳴と接点作りたいし』
「別にお前は今でも充分あるでしょ」
『仕事でもそうなれたらいいなぁって』


予想通り鳴は押し黙ってしまった。きっと機嫌を損ねてしまったんだと思う。何となく予測はしていたけれど、どうしても鳴に並びたかったんだ。そう私なりに考えに考えた結果がアナウンサーだった。例えテレビ局に入社出来てもスポーツ部門に行けない可能性があるのも分かってる。それでも、ほんの少しでいいから鳴の自慢の彼女になりたかったんだ。こうやって周りに私の存在を隠そうとしない鳴だからこそ、そう強く思ったんだった。


「それで」
『え?』
「だーかーらー、急にアナウンサーになりたいだなんて言い出した理由だよ!」


誕生日だと言うのに鳴からのリクエストは普段と大して変わらない。好きな食べ物小学生の時から変わってないんじゃないかと思う。
そんな鳴のリクエストに答えて手料理を振る舞ってる時のことだった。好物だからいくらか機嫌も良くなってるように見える。ふいに鳴が話を戻したのだ。


『さっき言ったよ』
「接点?そんな理由でアナウンサーなんて止めときなよ」
『もう決めたし』
「別にアナウンサーなんかじゃなくたっていいでしょ」
『他に鳴との接点作れる仕事ってないよ』
「俺と仕事で接点作ってどうしたいのさお前は」


ついさっきまでニコニコ顔だったのが私の返答が気に入らなかったようでみるみると眉間に皺が寄っていく。


『鳴に釣り合いたいの』
「は?」


仕方無いので理由を話すことにした。元々隠すつもりもなかったからいいんだけどそれによって鳴はぽかんと口を開ける。眉間の皺もどこかにいってしまったらしく今度は間抜け面だ。野球してる時も好戦的で格好良いけれど私はこっちの可愛い鳴の表情の方が好きだったりする。くるくると移り変わっていく鳴の表情のそのどれもが大好きだ。


「ちょっと、またニヤニヤして気持ち悪いよ凛」
『鳴のことが大好きだから、そんな鳴に釣り合う人になりたいの』


たまにはいいかもしれないと思って素直に気持ちを伝えてみた。普段はこんな風にストレートに鳴に好きだと言うことはしない。気恥ずかしくもあるしそんなこと言わなくても鳴はきっと分かってるから。滅多に伝えない愛の言葉に鳴はほんのり頬を赤く染める。


「ばっかじゃないの。そんなこと言われなくても知ってるし」
『うん、だからアナウンサー目指してもいいかな?』
「そんなに甘くないと思うよ」
『分かってる』
「お前ってさ、たまに物凄く頑固だよね」
『鳴が駄目って言っても諦めないよ』
「後で泣き言言っても聞かないからね」
『うん、大丈夫』
「あそ、それならやってみれば」
『ありがと』
「いいんじゃない?凛にインタビューされるのも楽しいだろうしね」


気を良くしたのか鳴が先に折れてくれた。良かった、このまま平行線だと喧嘩になりかねない。そしたら周りを巻き込んで大変なことになるところだった。まぁ、主に雅さんか樹だけど。鳴が許可をくれたことが本当に嬉しい。張り切って頑張らないとな。


『ねぇ鳴』
「何?俺もう眠い」


誕生日のお祝いをして二人でケーキを食べて順番にお風呂に入ってベッドへと潜り込んだ。鳴は隣で既にうとうとしている。お風呂に入ると直ぐに眠くなるところも昔から変わってないね。


『私ね、鳴のこと本当に大好きだからね』
「そんなこと俺が一番知ってるし」
『だからね』
「何?早く言いなよ凛」
死ぬまでずっと一緒に居てね
「…当たり前でしょ。何言ってんのさ。それにお前より俺のが凛のこと好きなんだからね。いい加減にちゃんと理解しなよ」
『うん、知ってる』


私の気持ちちゃんと伝わったかな?伝わってるといいな。私に背を向けて寝ちゃったけれど、それも照れ隠しなのは分かってるからその背中にくっついて寝るとしよう。
誕生日おめでとう。今年も鳴が活躍出来る一年になりますように。


誰そ彼様より
スランプの波が…月イチスランプこないと気が済まないのだろうか?
鳴、遅れてごめんよごめんよ。
誕生日おめでとう。
2019/01/08

極上の甘い言葉を用意致しました

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