『ジロー先輩、雨降ってきちゃいましたねぇ』
「あぁ、ほんとだ〜」
『こうなるなら跡部先輩に送ってもらえば良かったですねぇ』
「そうだね〜」


大学を卒業して二年目。
いつものようにテニス部の集まりがあったその帰りのこと。
珍しく岳人先輩と日吉が酔っぱらって眠りこけたので跡部先輩に二人を送ってもらうように頼んで他の部員はそれぞれ帰宅することになった。
私とジロー先輩だけ電車の路線が違ったので今は二人きりだ。
雨が降るだなんてテレビで言ってただろうか?
今日は久しぶりの集まりだったから浮かれてて天気予報なんて確認しなかったからなぁ。


『結構雨足が強くなってきましたね先輩』
「ん〜じゃあ雨宿りしてこうか凛〜」
『雨宿りですか?』
「そうそう。濡れちゃったら困るでしょ〜?」
『確かに濡れるのは困りますねぇ』
「じゃあ決まりだね〜」
『はい!』


てっきりその辺のファミレスとかに行くかと思ったのにジロー先輩に連れられて辿り着いたのはド派手なラブホテルだった。
え、何故に?確かに一番近い雨宿り出来る場所ってここくらいしか無かった気もするけど先輩本気ですか?


『あのジロー先輩』
「ん〜?」
『どうしてここなんですか?』
「何かね〜岳人がこないだここに来たら凄い楽しかったんだって〜」
『なるほど』


岳人先輩なんてことをジロー先輩に言ってくれちゃったのか!
いや、さすがのジロー先輩だってここがどういう場所かは分かってるよね?大丈夫だよね?
気付いた時にはジロー先輩に手を引かれ部屋を選ぶパネルの前にいた。


『先輩でもこういうとこって』
「なんかね〜遊べるラブホテルってコンセプトなんだって。だから俺でも楽しめるって岳人が言ってたんだけど俺今彼女居ないC〜」
『そうなんですか』
「ちょうど雨も降ってきたからちょうど良かったよね〜。岳人オススメの部屋空いてたからここにしよ〜」


きっとこれはやましい気持ちは無いんだよね?純粋に岳人先輩の話を聞いてここに来てみたかったってことだよね?そういうことでいいんだよね?
なんて直接ジロー先輩には聞けないよ!
さっきまで眠そうに目がショボショボしてたのに少しずつ起きつつあるような気がする。


「だから俺に付き合ってね?他に頼める人居ないし!」
『私でいいんですかね?』
「何で?凛にしか頼めないんだって〜ほら行こ〜」


あ、完全に起きた。
楽しそうに私の手を引っ張るのでもう拒否権は無さそうだ。…あ、でもジロー先輩だし最初から拒否権は無かったのかも。


「すっげぇ!」
『わぁ』


岳人先輩オススメの部屋には何故かプールがあった。え、本格的なやつ。
何なら小さなウォータースライダーまでついてるんですけど。


「わー!ほんとすっげぇ!」
『温度も温いからちょうど良さそうですね』
「泳ごー!」
『先輩でも水着が無いですよ』
「大丈夫〜ここ水着も置いてあるんだって〜」
『私もですか!?』
「一人より二人のが楽しいよ?凛のも俺が買ってあげるから大丈夫大丈夫!」


ジロー先輩、そっちの心配してませんよ!
今までだってテニス部の集まりで海とかプールに行ったことあるからいいんだけど先輩ここラブホテルって本当に理解してます!?
水着のカタログを意気揚々と広げてるけどやっぱりジロー先輩だしあんまり気にして無いのかな?いいのかな?


「凛、どれにする?」
『えぇと、じゃあこれにします』
「花柄可愛いEよね〜」
『先輩は?どうします?』
「ん〜俺何でもE〜かな〜?」
『じゃあこれとかどうですか?』
「凛がそう言うならそれにする〜!」
『頼んできますね』
「宜しくね〜」


先輩がせっかく起きてるしもうこうなったら私も開き直ることにした。
思い返してみれば中学時代からこういうことってちょこちょこあったような気がするし。
フロントに電話して水着を注文した。
今年の夏は忙しくて泳ぐ暇も無かったから良かったかもしれない。


「凛ー!浮き輪もあったー!」
『本格的ですね』
「ね〜!がっくんに感謝しよ〜!」


開き直ってからのプールは楽しかった。
きっとジロー先輩が私以上にはしゃいでるせいかもしれない。一瞬ここがどこなのか忘れそうになったし。
ウォータースライダーで楽しんだ後は浮き輪でプカプカとプールに浮いている。
ぼーっと浮いてるだけでもなんだか楽しいなぁ。あ、でもやっぱりそれってジロー先輩が隣にいるからかもしれない。
これが日吉じゃきっとこんな風には楽しめないよね。アイツはきっと私が50メートル泳げないのを弄ってくるに違いないし。


「寝ちゃいそうだよね〜」
『先輩!寝ちゃ駄目ですよ!ここプールだから溺れちゃいますよ!』
「うーん、そうだよね〜」


遊び疲れたのか一瞬でジロー先輩のスイッチがオフになってしまった!
これはマズい。こんなとこで寝られても私は樺地みたいにベッドまで運んであげれないし!
放っておいたら容赦なく寝ちゃうだろうからプールから出るしかないよね。
うつらうつらし始めた先輩を浮き輪ごとプール際まで連れていく。


『先輩、寝るならお布団行かないと駄目ですよ』
「ん〜そうだよね〜」


先輩をぐいぐいとプールから引っ張り出してとりあえずタオルでわしゃわしゃと水気を拭き取っていく。
こうなるともう先輩がお風呂上がりの大型犬にしか見えないよねほんと。


『ジロー先輩、さすがに着替えは自分でしてくださいね』
「このままじゃ駄目〜?」
『水着のまま寝たら布団がベショベショになっちゃうから駄目です。パンツに履き替えてガウン羽織るだけでもいいですから』
「ん〜分かった〜」
『その後はちゃんとベッドまで行ってくださいよ?』
「頑張る〜。あれぇ?凛は?」
『私はお風呂に入ってきます』
「分かったよ〜」


ジロー先輩が着替え始める前にお風呂に避難することにした。さすがに目の前で着替えられるのは気まずい。嫁入り前の女子が受け入れたら駄目なような気がする。
ジロー先輩はきっと気にしないんだろうけど。
お風呂も溜めておけば良かったかもなぁ。
そう思いながら水着のままシャワーを浴びることにした。


『ジロー先輩?』


ついでに髪の毛も洗ってさっぱりした後にお風呂を出てベッドへと呼び掛けるも返事は予測通り無かった。
寝てくれたのなら私も気にしないで着替えれるよね。水着に着替えるのも苦労したもん。
下着を付けた所でどうしようかと悩んだ。


時間的にもう終電も終わってるから今日はここに泊まっていくしかないとは思う。
着てきた服を再度着て寝るのかガウンを着るのか。…まぁジロー先輩だしガウンでいいか。
一度開き直ってプールで遊んじゃったしいいよね。服が皺になるのも嫌だし。
さっさとガウンを着て先輩が寝ているであろうベッドへとそろっと近付く。
端っこでいいのでお邪魔しますジロー先輩。
どうか起きませんように。
学生の時のプールの授業の後眠くなったのを思い出した。何でプールの後ってあんなに眠くなったんだろう。
そろっとジロー先輩の隣に滑り込んで寝ることにする。明日は私もジロー先輩もお休みだから寝坊しても問題は無いよね。


「凛〜?」
『あ、起こしちゃいました?ごめんなさい』
「ん〜だいじょぶ〜なんか良い匂いするね〜」
『ちょ、先輩!?』


明日の確認を頭の中でしていたらジロー先輩を起こしてしまったらしい。
寝惚け声だったから大丈夫だと思ったのにきづけば先輩の腕の中だ。あぁ、忘れてた。
寝惚けてるジロー先輩は人を抱き枕にする癖があったんだった。
…え、そうだよね?大丈夫だよね?


「凛ふわふわで気持ち良いよね〜」
『ジロー先輩!?く、くすぐったいですよ!?』


人の首筋に頭を埋めて匂いを嗅ぐの止めてほしい。恥ずかしいしくすぐったいし困るよ先輩。
…私本当に大丈夫かな?ほんの少しだけ身の危険を感じたから先輩から距離を取ろうかなと思った瞬間少しだけ力が抜けたのが分かった。
耳を澄ませばすやすやと寝息が聞こえる。良かった、どうやらまた寝てくれたらしい。
まぁジロー先輩はこんな感じだよね。私も眠くて仕方無いので先輩の抱き枕になったまま寝ることにする。
とりあえず起きたら忍足先輩に岳人先輩のことを報告しなくちゃ。
ジロー先輩に余計なことは言ったら駄目って注意してもらわなきゃ。


「アホはお前や凛」
『へ?』
「ジローやったから良かったものの何やっとんのや。付き合ってもない男にラブホテル誘われて着いてったらあかんで」
『いやでもジロー先輩だったから着いてったと言うか半強制的に連れてかれたんですが』
「それでも断らんとあかん」
『すみません』
「ほんでジローは何しとるんや」
『まだ寝てます』
「迎えに行くで起こしとき。ほんでランチにでも行こか」
『はーい』


何故か私が怒られてしまったのだった。
ジロー先輩にも岳人先輩にも怒ってほしかったのに。理不尽な気がしてならない。
結局何故か跡部先輩も居て私は二重でお叱りを受けることになりましたとさ。


ラブホで雨宿りをしようseries第四弾。
まぁジローはこんな感じよね。
そして悪いのは岳人(笑)
2018/10/07

芥川慈郎の場合

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