あぁもうどこにいるんだか!
主役だから忙しいのは分かってるけど彼女の私まで放ったらかしってのはどうなの!


今日は景吾の誕生日で何故か景吾主催でのダンスパーティーが行われることになった。
授業までなくなって学校全体でのダンスパーティーだ。生徒職員全員にタキシードとドレスを支給するとか生徒会長はやることが相変わらずド派手だ。と言うか生徒全員にはそれぞれ似合うドレスとタキシードを見繕ったって言うからスケールが大きいとかそういう問題じゃ無い気がする。
私にもアンティークの振袖をわざわざ仕立て直したドレスを用意してくれた。けれどまだ景吾には見せてあげれていない。
主役は一体どこに行ってしまったのだろう?


「あ、椎名何やってんだよ!」
『岳人?ねぇ景吾知らない?』
「跡部ー?いや見てねぇ」
『どこ行っちゃったんだろ』
「体育館も大ホールも小ホールもカフェテリアも今日はダンス会場になってるからなぁ」
『とにかく景吾に会ったら探してたって伝えといて』
「おお」


岳人も見てないとかほんとどこにいるんだろ?このドレス景吾に見せたいし直接おめでとうって伝えたいんだけどなぁ。
ドレスを踏みつけないように気をつけながら次の会場へと向かうことにする。


「凛ー!」
『あ、ジロー!ねぇ、景吾知らない?』
「跡部ー?んー今日は見てないC〜」
『そっか』
「どしたの凛。お腹空いた〜?」
『景吾にまだ一回も会ってないの。最初の挨拶は見たけどそっから全然』
「んーどこ行っちゃったんだろね?」
『とりあえず探してみる』
「俺も見付けたら凛が探してたって伝えとくから」
『ん、ジローありがとね』


ここにも居ないとかほんと何処に行っちゃったんだろ?と言うか岳人もジローも色気より食い気とか。食べてばっかりじゃなくて少しはダンスすればいいのに。周りに何人も女の子が待ってたよ?景吾が「ダンスは男から誘うのが基本だ」とか決めたせいで女子からは誘えないのだ。
あれじゃ岳人とジローは最後まで踊らないだろうなぁ。宍戸も日吉も多分無いだろなぁ。
まぁテニス部にはこのルールがあって良かったのかもしれない。じゃないときっと満足に食事も出来なかっただろうしね。


「椎名さん?こんなとこで何してるんですか」
『日吉こそテニスコートで何やってるの』
「見れば分かりませんか?テニスですけど」


この子は相変わらず自由と言うかマイペースと言うか我が道を行くと言うか。
タキシードのジャケットを脱いでひたすら壁打ちをしている。
壁打ちじゃテニスの練習にならないんじゃないの?もしかしたら景吾が部室にいるかなと来てみたけど下剋上が目標の後輩しか居ないようだ。


「跡部さんなら見てませんよ」
『そっか。相変わらず察しはいいねぇ。たまにはテニスから目を離して女の子誘ってあげたらいいのに』
「そんなことにうつつを抜かしてる暇は無いんでね」
『大学で待ってるからね』
「跡部さんを直ぐに追い越してみせますから」
『ん、楽しみにしとく』


景吾はこの生意気な後輩が可愛くて仕方無いんだろうなぁ。まぁアイツからしたら日吉も鳳も樺地も全員可愛いんだろうけど。
さて、部室に居ないとなると会場にはもう居ないんだろう。
あちこちで女子生徒からの「跡部様見た?」って声が上がっている。
こうなったらもうあそこにしか居ないだろう。


『失礼します』
「なんだお前か」


私の予測は当たったらしい。生徒会室をノックしてみれば一言「入れ」と声が聞こえた。
呆れて溜息が出てしまう。


『主役がこんな所で何してるの』
「ちょっと仕事が残ってたからな」
『それなら手伝ったよ私』
「アーン?それじゃダンスパーティーの意味がねぇだろが」
『あのさ、私一応景吾の彼女のなんだけど。それに副会長なんですけど』
「あぁ、そうか」
『景吾と踊らずに誰と踊るって言うのさ』
「ちょっと待て。もう少し仕事が残ってる」
『景吾の誕生日なんだけど樺地も居ないし一人で何してるのさ』
「誕生日は祝ってもらう日じゃねぇからな」
『そんなこと言うの景吾だけだよ』
「凛」
『何?』
「お前の気持ちは分かったからとりあえず忍足達とダンスでもしとけ。全員と踊り終わるくらいには行く」


それから手元の書類に再び視線を落としてしまった。あ、仕事モードのスイッチが入っちゃったからもうこれ何言っても樺地の声以外聞こえないやつだ。
仕方無いから全員と踊ってやろう。
もう!誕生日おめでとうもドレスありがとうも言えなかったし!


「何で俺が椎名さんと踊らないといけないんですか」
『景吾からの指令だからしょうがないでしょ。それとも私が相手じゃ不足でも?』
「日吉、跡部が言うたのならしゃあないで」
「そうだぞ日吉〜!俺が一番に凛と踊りたかったのに〜!」
「別に不足とかでは無いですよ。じゃあ椎名さん、俺と踊って貰えますか」
『喜んで』


『景吾が言ったから』って伝えるとレギュラー陣は迅速に動く。未だにコートでテニスをしていた日吉を捕まえて樺地に全員を集めてもらった。社交ダンスの授業もあるからみんな大丈夫でしょ。
日吉の差し出した手を取ってダンスに専念することにした。


「で、椎名さんを放って跡部さんは何やってるんですか」
『生徒会室で仕事してたよ』
「は?」
『景吾が主役なのにね』
「相変わらずですね跡部さん」


日吉が踊ってることに周りはざわついたけれど相手が私だからか直ぐに騒ぎは収まった。
まぁマネージャーの私には誘ってもらえる権利はあるしあの景吾の彼女だしね。


「んじゃ次俺〜!」
『はーい』
「えーと、俺と踊ってもらえますか?」
『ふふ、喜んで』


曲が終わって次はジローとだ。
あ、これ気合いいれないと最終的にしんどくなるやつ。ジローとのダンスも日吉とはまた違ったリードで楽しめた。
そうやって順番にみんなと踊っていく。
みんなそれぞれやっぱりリードが違って面白いなぁ。宍戸は最初予測通り緊張してガチガチだったのにいざ組むとそれなりにリードしてくれてて笑ってしまった。一番はやっぱり鳳だったけれど。慣れてる人間はやっぱり違うよねぇ。
最後のお相手は滝だった。


「意外と元気だね椎名」
『景吾が来る前にへたれたら踊ってもらえなくなるでしょ?』
「あぁ、それは確かに」
『じゃあキッチリ言われたことをやらないとね』


鳳までとは言わないけれど滝のリードも踊りやすいなぁ。さすが女ゴコロを分かってると言うか無茶なリードをしないもんね。
ジローやがっくんはこっちの気も知らずに突っ走ったりするからなぁ。
その時場がざわついたのが踊ってる私にも分かった。


「やっとお出ましだよ」
『あ、景吾来た?』
「こんな日にも仕事とかほんと凄いよね跡部はさ」
『景吾だからねぇ』


それから曲が終わると景吾がこちらへとやってきた。とても仕事を終わらせてきたとは思えない涼しげな表情だ。


「楽しめたか?」
『勿論』
「では最後に俺と踊っていただけますか?マドモアゼル」
『Oui , avec plaisir.』


景吾が私の前に跪いて恭しく手を差し出すから私もそれに習って仏語で返す。景吾の手を取った所で曲が始まった。まるで私達の動向を見守ってたんじゃないかって思うくらいのタイミングの良さだ。


「てっきりへばってるかと思ったが」
『景吾とまだ踊ってないのにへばるわけ無いでしょ』
「そうだな」
『仕事は終わったの?』
「あぁ。完璧に終わらせた」
『それなら良かった。誕生日おめでとう景吾』
「祝ってもらう日じゃねぇとは言ったがお前に言われるのは良いもんだな」
『後ドレスもありがとう』
「曾祖母のアンティークの振袖を仕立てたものだが似合って良かった」
『え?』
「そのままじゃ誰も着ないからな」
『や、いいの?』
「いいも何ももうお前のために仕立てちまったからな。曾祖母も喜んでんだろきっと」


まさかそんな大事な振袖だったとは思わなかった。やっぱりスケールが大きすぎるよ景吾。


『ありがとね』
「少しばかり肩や背中が出すぎな気もするがな」
『ヤキモチ?』
「バーカ、そんくらいじゃ妬かねぇよ」
『まぁ、そうだよね』
「それに妬く相手がいねぇ」
『ふふ、そっか』
「お前が俺様のものなのは周知のことだろう?」


確かにねぇ。今日だって私に踊ろうと声を掛けてくる男子生徒居なかったもんなぁ。
景吾を探してる最中に忍足が冗談で言ってきたくらいだ。


『この後はダンスパーティー参加するの?』
「いや、俺はお前を迎えに来ただけだからな」
『へ?』
「俺が居たらみんな楽しめないだろ」
『そんなこと無いと思うんだけど』
「いや、ダンスはしたからもういい」
『えぇ』


曲が終わり手を引かれホールを後にする。去り際に「ジュレロワイヤルを用意した。お前達存分に堪能しろ」とまたもやみんなをもてなしていた。ジュレロワイヤルは生徒に人気だもんなぁ。景吾の言葉に場がわっと沸いたのだ。


どこに行くのかと思ったら何故かまたもや生徒会室に戻ることになった。仕事は完璧に終わらせたって言ってたよね?


『景吾?仕事まだ残ってたの?』
「いや、終わらせた」
『じゃあ何で』
「少し疲れたから寝かせろ」


私をお気に入りのソファに座らせて景吾はごろんと横になった。ジャケット着たままじゃ皺になっちゃうでしょうに。まぁ生徒会の仕事と平行してダンスパーティーの計画も一人でやったのだから本当に疲れてるのかとしれない。
私の膝枕で休まるならいいか。
こんなに無防備な景吾を見られるのも私だけの特権だろうな。
誕生日おめでとう景吾。素敵なダンスパーティーになったよ。ありがとうね。


跡部誕生日おめでとう!間に合って良かった!
2018/10/04

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