『ツッキー!顔が不機嫌だぞー』
「先輩酒臭いので近寄らないでください」
『はぁ?ツッキーも結構飲んでたでしょー?』


サークルの飲み会なんて出来れば参加したく無かったのに運悪く黒尾さんに捕まってしまったのだ。
ただでさえ面倒だったのに帰りに方向が同じだからと黒尾さんと同じくらい面倒な椎名先輩を押し付けられた。
何で僕がこんなことしなきゃいけないのか。
はぁと大きく溜め息を吐いたところで酔っぱらっている椎名先輩の耳に届くはずもない。


『あ、雨降ってきた』
「は?」
『あはは、結構大粒だよ?』
「笑ってる場合じゃ無いと思うんだけど」
『んー確かに。じゃあ雨宿りしてこ!』
「何処に雨宿りするつもりなんですか」
『あっこ!』
「は」


椎名先輩が意気揚々と指差した建物はきらびやかなネオンに包まれている。
この先輩酔っぱらって頭のネジが三本くらい飛んだんじゃないよね。
あんなとこで雨宿りするくらいならずぶ濡れの方がマシなんだけど。


『ほらツッキーはーやーく!』
「僕まだ行くって言ってませんけど」
『ツッキーの意見なんて聞いてないよ』
「はぁ?」


グイグイと僕の腕を引っ張ってラブホテルへと椎名先輩が歩いていく。
この手を振り払うことは簡単だけど酔っぱらいをここに放置して帰るのはかなり危険な気がする。
「ツッキー、ちゃんと責任持って椎名のこと家まで送ってやれよ。頼んだからなー」と釘まで刺されてしまったのだからこれはもう僕に選択肢なんてものはきっと残されていない。


『ねぇねぇ何処にするー?』
「僕は別に何処でもいいよ」


僕の腕に手を回したままこの酔っぱらいは楽しそうに部屋を吟味している。
これじゃ端から見たらただのカップルにしか見えないよね。この人酒グセも悪いの忘れてた。
こんなんでよく今まで怖い思いとかしなかったよねほんと。


『ツッキーここにしよ?』
「好きにしたらいいって言ってるんですけど」


先輩が選んだ部屋をろくに確認もせず返事をしたことに僕は直ぐ後悔することとなった。


「はぁ?」
『凄いよねー!和室とかあるんだよ?畳に掘炬燵とか本格的ー!』


この人は明日どれだけ記憶が残ってるんだろうか。
男を自らラブホテルに連れ込むとか(しかも後輩を)普通有り得ないでしょ。
部屋に入って早速先輩は畳に敷いてある布団にダイブしてるし。


『お布団気持ちいいー』
「椎名先輩そのままじゃ風邪ひきますよ」
『えー?』


僕の言葉に動く気は無いらしい。
何で僕が先輩の面倒を見なきゃいけないのか。
再び大きな溜め息を吐いてハンドタオルを一枚持ってくる。そのまま先輩の頭へと放り投げた。


『ツッキー、どうせなら拭いてよ』
「嫌ですけど」
『いいじゃん早くー!風邪ひいちゃうよ』
「もういっそ風邪でも何でもひいてください。面倒なんで」
『そんなこと言うなら今からSNSでツッキーとラブホなうって「拭きますからそれだけは止めてください先輩」
『んふふ、じゃあ宜しくー』


放り投げたハンドタオルを拾って先輩の髪の毛の水気を拭いていく。
乱暴にしたら何を呟かれるか分かったものじゃないしなるべく丁寧に拭くことにした。


『後はー』
「まだ何かあるんですか」
『お風呂入りたーい』
「は」
『だから浴槽にお湯溜めてきてー』
「酔っぱらってること理解してます?」
『お風呂に入りたいの!』
「はぁ、分かりました。いってきます」
『宜しくツッキー』


何を否定しても結局『SNSで』と脅されそうだったからもう歯向かうのを止めた。
最初からタクシーにでも放り込めば良かったような気がする。僕ほんと何やってんだろ。
言われた通りにお風呂にお湯を溜めにきたけどあの人ここで逆上せたりしないよね?
お風呂溜めてる間に寝てくれると一番いいんだけど。


『ツッキー』
「何ですか」
『暑い』
「は」
『あーつーいー』
「先輩それ襲われても文句言えないですよ」
『んー?』


あ、駄目だ。この人多分明日記憶無い気がする。
こないだ『酔っぱらうと記憶無くなるんだよねー』って言ってたし。
案の定服を脱ぎ出した先輩を直視出来ずに視線をそらすことしか出来ない。
この人きっと僕のことをからかってるんだろう。


言われたことはやったからもうこの際レポートでもやろう。
無音耐えれそうに無いので適当にテレビをつけてレポートを始めることにした。


『ねぇツッキー』
「何」
『暇』
「僕は暇じゃ無いですけど」
『お風呂まだ溜まって無いし』
「そうですか」
『えぇ、もっとちゃんと構ってよ!酷い!』
「先輩が下着姿なのがいけないんですけど」


咄嗟に出た本音だった。
これじゃ下着姿だから構ってあげれないって言ってるようなものだ。
気恥ずかしくてレポートの手が止まった。
さっきからさほど進んでも無かったけれど。


『ふうん』


凛先輩から機嫌良さそうな返事が聞こえる。
立ち上がる気配がしたのでやっとお風呂にでも行ってくれるのだろう。
これでレポートに集中出来ると思っていたのに。
この先輩は今日僕をおもちゃにすることに決めたらしい。


「何やってるんですか」
『ツッキーに構って攻撃』


どうやらお風呂に行ったのではなくただガウンを着にいっただけみたいだ。
戻ってきた先輩は掘炬燵へと座る僕の背中に後ろからのしかかってきた。


「面倒臭いですよ先輩」
『ツッキー、耳が赤くなってるよ?』
「気のせいだと思うんですが」
『えー』


首に手を回され背中には柔らかい感触が容赦なく押し付けられ吐息が首元を擽る。
これで落ちない男は居ないと言わんばかりだ。
これを受け流せる男はきっとそう居ないだろう。


「重いんですけど」
『ツッキーは鍛えてるからヘーキヘーキ』
「先輩今襲われても文句言えないことしてる自覚あります?」
『んー?』


あぁさっきからこの話はわざと聞こえないフリをしてるのか。
ほんとタチが悪いよね。
これ以上は理性を抑える自信も無くなりそうだったので首元に回された手をほどいて離れてもらおうと思った時だった。


「〜〜〜ッ!?」
『んふ、ツッキーかーわい』


先輩がかぷりと僕の耳を甘噛みしたのだ。
小さな悲鳴みたいなものが口から漏れた気がする。
咄嗟に噛まれた耳を手で押さえる。
この人ほんと僕のことからかい過ぎでしょ。


「お風呂入ってきたらどうですか?」
『それはお誘いなのツッキー?』
「違います。ほらお湯が止まりましたよ」
『あ、ほんとだ。じゃあ行ってくる』
「ごゆっくりどうぞ」


これで先輩に振り回されずに済む。
明日には記憶が無いのなら別に先輩の言うように誘いに乗ってもいいのかもしれない。
けどあの先輩のことだから肝心なことだけ覚えてるような気もするし。
やっぱりここは大人しくしてるのが正解なんだろう。
シャワー音の後に鼻唄が聞こえてくるからのんびり湯船に浸かってるんだなと思いながらレポートに集中することにした。


どのくらいそうしてただろう?
多分15分とか20分くらいだと思う。
ふと耳を澄ますと先輩の鼻唄が聞こえない。
振り返っても布団に目を向けても先輩は居ない。
何やら嫌な予感がして立ち上がってお風呂場へと先輩の様子を見に行くことにする。
溺れて死なれたらそれこそ大変なことになるし。


「椎名先輩?」


外から声をかけても返事は無い。
扉も湯気で曇ってて中の様子が見えないので仕方無いからその扉を開くことにした。


「何やってるんですか」
『の、逆上せた』
「はぁ。僕にどれだけ迷惑かけたら済むんですか先輩」
『ごめんなさい』


浴槽のへりに頭を乗せて先輩は息も絶え絶えだった。
まぁ少し酔いが冷めてきたみたいだからそこは良かったけれど。
仕方無く先輩を迎えに行くことにする。
服が濡れるのが凄い嫌だったけど脱ぐわけにもいかないしとりあえず靴下だけ脱いで風呂場へと足を踏み入れた。
あーバスタオルも必要だよね。ほんと面倒臭い。
先輩の裸を直視しないように気を付けながら(それでも少しは見えてしまう。これは不可抗力だよね)浴槽から助けてその身体を覆うようにバスタオルをかけて布団へと連れていく。
さっきの僕のことをからかう勢いが無くなったのは良いことかもしれない。


「先輩水飲みます?」
『飲む』
「どうぞ」
『ありがとツッキー』


とりあえず布団に寝かしてウォーターサーバーから水を持ってきた。
その水をちゃんと飲んでくれてるからとりあえず大丈夫だろう。
タオルに隠れてるけど手足や顔が血色良くピンク色に染まっている。
あ、これ以上ここにいたら僕駄目な気がする。


さっさと掘炬燵に戻ろうとしたのに立ち上がる前に手を先輩に掴まれてしまった。


「何してるんですか」
『もうちょっと隣に居てよツッキー』
「何されても知りませんよ」
『今日だけならいいよ』


その言葉は僕の理性をぶち壊すのに充分だった。あぁもう明日以降絶対に面倒なことになる。
けれどもう僕の理性はそれくらいじゃ止まりそうにも無かった。


ラブホで雨宿りをしようseries第三弾。
先輩にひたすら翻弄されるツッキーでした(笑)
必死に理性を抑えてたのにね。
まぁ据膳食わぬは女の恥でもあるよね、多分(笑)
2018/09/30

月島蛍の場合

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