「くっそー!せっかくの誕生日だってのに台風かよ!ふざけんなよ!」
『有休取った意味だよねー』


岳人がどうしてもって言うから名古屋のレゴランドに行く予定だったのに台風が関西に直撃ってことで計画が中止になった。
まぁ私はそれでいいんだけどね。
レゴに興味無かったしあ、でもレゴホテルはちょっと泊まりたかったけど。
こっちは雨がちょっと降ってるくらいだもんねぇ。岳人が納得いかないのも分かる気はする。


「すげぇ楽しみにしてたんだぞ俺!」
『台風じゃ仕方無いよ。結局今日は休園してるみたいだし』
「俺の誕生日台無しだし!」


この調子で岳人は朝からかなり機嫌が悪い。
名古屋行きを止めたのは私だもんね。
それは悪いと思ってる。
朝はまだ新幹線も通常通り動いてたからとりあえず名古屋までは行くって聞かなかったのだ。
それをどうにかこうにか宥めて諦めてもらった。


『また今度ちゃんと一緒に行こう?ね?』
「そりゃ当たり前だろ!そうじゃなくて今日どーすんだって話!」


いい年して何をごねてるんだか全く。
まぁ確かにこっちは台風の影響無いもんなぁ。
さっきからあれこれ頑張ってるけどちっとも機嫌が良くならない。
仕方無い、最終兵器を投入しよう。
跡部こっちに居てくれるかなー?


未だゴキゲンナナメの岳人にバレないようにこっそり跡部へと連絡する。
困った時の跡部頼みなのは高校の時から変わらない。
それも跡部が結局いつだって私達氷帝テニス部部のお願いを聞いてくれるからなんだけどね。
私達も私達だけど跡部もうちらのこと大好きだよなぁ。


跡部は運良く日本に居てくれたらしい。
ついでに他の部員も集めてくれるって言うんだから部長はいつまでたっても本当に頼もしい。
これで岳人も機嫌が直るといいんだけど。


『岳人、お出掛けしよう』
「この雨の中どこに行くんだよ」
『内緒』
「はぁ?悪いけどパス」
『そんなこと言わずにさ』
「嫌だ、ね」


跡部から迎えが着いたって連絡がきたのに岳人は誘っても出掛けようとしてくれない。
物凄いレゴランドを楽しみにしてた気持ちは分かるけど拗ねすぎじゃない?
その時インターホンが鳴る音がした。
跡部からの催促だろう、多分。


『樺地?』
「ウス、ちょっと失礼します」


玄関を開けたら樺地がのそりと入ってきた。
あぁ、樺地なら無理にでも嫌がる岳人を連れ出せるだろう。
やっぱり跡部は凄いなぁ。


「樺地!?お前何しに来たんだよ!?」
「話は後からです」
「ちょ!何すんだよ!降ろせ!」
「椎名先輩、向日さんの靴持ってきてください」
『うん、分かった』
「お前!凛!樺地に降ろせって言えよ!」
『岳人、私が言った所で無理だよ』


樺地はさっさとリビングに向かって岳人を担ぎ上げた。
忍足とかに来られても岳人が動くかは分かんなかったしこれはナイス判断だ。
岳人は樺地にぶちぶちと文句を言ってるけどこうなったら無駄だよね。
出掛ける準備を整えて私も二人の後を追った。


「おめでとさん岳人」
「は?何でお前ら全員揃ってんだよ」
「お前の誕生日だからだろ。男が名古屋に行けなくなったくらいで拗ねてんじゃねぇ」
「ぐ」
「跡部、岳人の誕生日なんだからその話はいいじゃねぇか」
『そうだよ跡部!みんなを集めてくれてありがとね!』
「跡部になら簡単なことだよね」
「俺は突然過ぎて驚きましたがね」
「まぁまぁ日吉。せっかく久しぶりにみんなで集まったんだからさ」
『あれジローは?』
「芥川さんはそこで寝てます」
『相変わらずだなぁ』


跡部家御用達のリムジンには既にみんなが揃っていた。
こうやって全員で揃うのは久しぶりだよねぇ。
岳人はまだどこかフキゲンそうだけどまぁそのうちどうにかなるでしょ。


「で、何処に行くんだよ跡部」
「横浜に出来た室内アミューズメントパークに行く」
『あれ?あそこってまだオープンしてないよね?』
「せやなぁ、今週の土日やなかったか?」
「あれもうちのグループで作ったからな今日は貸切だ」
「相変わらずスケールがでけぇよ」
「は?マジで言ってんのかよ跡部」
「俺様が嘘をついたことあるのか?」
「や、ねぇけど」
『岳人、良かったね。確か逆バンジー無かったっけ?』
「おお!思い出した!あれ挑戦したかったんだよ!」
「ゲ」
「日吉嫌そうな顔してるね」
「俺はやらないですからね向日さん」
「俺!お前らと一回ずつ挑戦すんぜ!」


さすがバンジージャンプ好きだ。
一瞬で機嫌が直ってしまった。
日吉が物凄い嫌そうな顔してるけど華麗にスルーしてるし。
9回も逆バンジーに挑戦するとか岳人にしか出来ないだろうなぁ。


「よし、着いたぞお前ら」
「跡部これほんとに貸切ってマジマジー?」
『ジローやっと起きたね』
「ジロー!俺と楽しむぞ!」
「がっくんの誕生日だからね!俺も全力で楽しむC〜!」
「お前らはしゃぎすぎだろ!ってもう行っちまったし」
『まぁまぁ。そこはせっかくだし童心に戻ろうよ宍戸』
「20時までだからな」
「まだちゃんとこの後があるんだね跡部」
「当たり前だろ。やるからには徹底的だ。俺様に抜かりはねぇ」
「ほな俺らも楽しまなかんな」
『だねぇ』


これ全部オープン前の貸切とか贅沢だなぁ。
あ、遠くでジローと岳人が私達に早く来いって言ってるや。
機嫌も直ってくれたし私もみんなと楽しもうかな!


「椎名は良かったんか?」
『何がー?』
「岳人と二人きりのが良かったんとちゃうん?」
『んーでもいつも二人きりだしなぁ。それに私じゃ岳人の機嫌直せなかったんだよ。跡部サマサマって感じだよねー』
「まぁ跡部にはほんま敵わんわ」
『だよね』
「お前らそんなことで何してんだ」
「みんなはしゃいどるなぁと思て」
『保護者的な気分に浸ってたり』
「アーン?何言ってんだ。さっさと次のエリアに行くぞ」
「おん、今行くさかい」
『跡部もなんだかんだ楽しんでるみたいだね』
「気分転換になるんやろ。忙しいてしゃーないみたいやし」
『なるほど』


二十代半ばにしてみんなが楽しめるか多少心配だったけど関係無かったみたいだ。
こうやって集まったら年齢なんてきっと関係無いんだろうな。
高校時代と変わらず楽しんでいる。
それは私だって忍足だって同じだと思う。
ただ私達は昔からどちらかと言うと傍観してることが多かっただけだ。
そのたびに跡部や岳人や滝が呼びに来るんだった。
あぁ、やっぱり今もそれは変わらない。


「凛ー!」
「岳人が呼んどんで」
『指名いただいたし行ってくるかな』
「お前も楽しむといい」
『ん、跡部いつもありがと』
「礼はいらねぇ。お前らが楽しんでくれりゃそれでいいからな」
『跡部も忍足も楽しみなよ!』


二人の返事を聞かずに岳人とジローの元へと向かう。
両側の日吉と鳳がげんなりしてる気がするけれどそこには触れないでおこう。


『何ー?』
「今からあれ乗るぜ!」
「室内のジェットコースターだって!すっげぇ!」
『おお、楽しそうだね!』
「何でそんな楽しそうなんですか椎名さん」
『楽しんだもの勝ちだよ日吉』
「宍戸と滝も早く来いよ!」
「跡部と忍足も早く早く〜!」
「向日さんて苦手なもの無いんですかね」
『怖い話くらいじゃない?』
「あぁ、そんなこともありましたね」
「日吉、後からやり返したら駄目だよ」
「止めるなよ鳳」
『ほら、行くよ2年坊主達ー』
「ウス」
「ちょ、引っ張らないでもらえますか」
「2年坊主っていつの話をしてるんですか」


張り切って岳人とジローが行っちゃったからそれに続くように日吉を引っ張って連れていく。
後ろを確認するとちゃんと鳳と樺地も着いてきている。
その後ろに宍戸達も来てるからホッとした。


コースターは2人×5列でちょうど10人乗れる仕様だ。
前から岳人とジロー、私と日吉、鳳と宍戸(相変わらず仲良しだな)滝と忍足、最後に跡部と樺地の順で座った。


「マジマジちょーすっげぇ!」
「な!かなり期待出来るよな!」
「何で俺が二列目何ですか」
『どこに座っても一緒だって日吉』
「楽しみですね宍戸さん」
「まぁな」
「忍足は絶叫系平気なの?」
「岳人に付き合わされてばっかやったからなぁ。平気にならん方がおかしいやろ」
「お前ら最後まで楽しめよ!」
「ウス」


跡部の声と共にジェットコースターがスタートする。
あちこちキラキラしてて凄い綺麗だ。
てっきりスペースマウンテンみたいに暗いかと思ったのに真逆だ。
それには隣の日吉も感嘆の声が漏れていた。


「凛!ここオープンしたらまた来ような!」
『ジェットコースターまた乗りたいからいいよ!』
「がっくん俺も〜俺も誘って〜!」
「んじゃ侑士も誘ってまた四人で来るか!」
『決まりね!』
「お前ら俺の意見は無視か」
「ユーシは俺の誘い断らねぇからな!」
「断らないC〜」


確かに忍足は岳人の誘いを断らないよね。
こればっかりはそう言われてもしょうがないよ。
そして最後のアトラクションの逆バンジーまでやってきた。
岳人本当に全員と一回ずつやるつもりかな?
二人乗りだから最低でも9回だよ?
あ、でも岳人のことだから終わってから最後にもう一回とか言っちゃう気がする。


「すげぇ!かなり楽しみだぜ」
『うわぁ』
「ゲ」
「世界一の高さで作ったからな」
「マジマジ?跡部すっげぇ!」
「こないとこで本気出さんでも」
「凄いですね宍戸さん」
「あぁ」
「かなりの高さあるね」
「滝さん、余裕です…ね」
「ふふ、どうかな?」


バンジージャンプは岳人に付き合ったことがあるけど逆バンジーは初めてだ。
けれどこの高さは正直引いた。
出来ればやりたくないけれど今更そんなこと言えない。
岳人ヤル気満々だし、顔がキラキラしてるし。


「ほな誰から行く?」
「俺俺!がっくんと最初にやる〜!」
「じゃあ最初はジローだね」
「じゃあ行こうぜジロー」
「楽しみ楽しみ〜!」
「次は誰が行く?」


ジローが意気揚々と立候補してくれて良かったかもしれない。
二人を見送った後の空気は重い。
誰も立候補しようとしない。


「椎名さんが行けばいいんじゃないですか」
『日吉!なんてことを!』
「忍足、お前が行け」
「俺なー。ま、岳人のためやししゃーないか」
「次はどうするの跡部」
「じゃあ樺地お前が行くか」
「ウス」


そのまま何故かさくさくと跡部が順番を決めてしまった。
ジロー→忍足→樺地→跡部→日吉→宍戸→鳳→樺地→私の順番だ。
最後とか、まさかの最後とか!


ジローから跡部くらいまではみんな余裕そうだったけど日吉からは何だか見てるだけで具合が悪くなりそうだった。
あの樺地ですらちょっと顔色が悪くなってた気がする。


「凛!最後お前だけだぞ!早くしろって!」
「ほんまにバンジー好きやなぁ」
「ずっと座りっぱなしなのにまだ楽しそうですよね」
「俺は二度とやりたくないです」
「俺も日吉に賛成」
「えー超楽しかったのに〜!」
「凛って!」
「はよ行ったり」
『えっまだ心の準備が』
「若、椎名を連れてってやれ」
「跡部良いこと言うね」
「分かりました」
『えっ!?』
「行きますよ椎名さん」


抵抗しても力で敵うはずもなくずるずると日吉に引きずられて岳人の元まで連れてこられてしまった。
いつもだったら絶対にそんなこと率先してやらないくせに。
これはさっきのジェットコースターの仕返しなんだと思う。


「おせーぞ凛!」
『うん』
「俺がいるから大丈夫だって!な?」
『大丈夫じゃなかったら困るよ岳人』


さくさくと岳人の隣に座らされて係員の人に準備をさせられる。
去り際の日吉の顔ったら本当に憎らしかった。
絶対に鼻で笑ってたし!


「凛、俺さお前に話したいことあるんだよ」
『え?』
「だから話したいことがあるんだって!」
『今!?』
「そ、今だから言いたいこ」


逆バンジーのカウントダウン中に岳人が妙なことを言い出した。
聞いてあげたいけれど今は多分無理。
岳人が話してる途中でカウントダウンがゼロになってそこからはもう自分の叫び声しか聞こえなかった。


「お前俺が言ったこと聞いて無かっただろ!」
『うん、ごめん。叫ぶので精一杯だった』
「ぐったりしとるなぁ」
『胃がひっくり返りそう』
「ここで吐かないでくださいよ」
「お水貰ってきました」
『ありがとね鳳』
「向日、もうここで言っておけ」
「あ?何でだよ」
「何言ってんだよ跡部」
「さっきも今もあんまり変わらないよ向日」
「何々?何の話〜?」


叫び過ぎて喉はカラカラだし胃をぐっちゃぐちゃにかき混ぜられたみたいに気持ちが悪い。
鳳が係員の人に水を貰ってきてくれたので有り難くそれを一気に飲み干した。


『あ、話って何だったの岳人』
「コイツもこう言ってんだからいいだろ」
「バンジーしながらプロポーズすんのが俺の夢だったんだぞ!クソクソ跡部め!」
『「「「「………」」」」』
「アホやな岳人」
「激ダサだな」
「がっくんついに椎名と結婚すんの〜?おめでと〜!」
「ジロー、まだ椎名は返事をしてないよ」
「と言うかまだプロポーズもしてませんよ」
『…、ふ。あははっ!』
「お前!何で笑うんだよ!」
『バンジージャンプしながらプロポーズとか岳人らしいなぁって』
「小さい時からの夢だったんだぞ!」
『うん、岳人らしいよほんと』
「椎名ーがっくんと結婚すんの〜?」
「芥川さんが聞いてどうするんですか」
『私以外岳人と結婚出来ないでしょ?するよする。私岳人のお嫁さんになるよ』


まさかプロポーズされるとは思ってなくて「バンジーしながらプロポーズすんのが俺の夢だったんだぞ!」なんて言われて笑わない女子は居ないだろう。
でもそれが岳人らしくて私達らしくていいんだと思う。


それから何故かホテルのチャペルまで連れて行かれて疑似結婚式まで跡部にやらされた。
どうやら跡部はこれから本格的に忙しくなって世界中に行かなきゃいけないらしくて結婚式に参加出来るか分からないらしい。
だからってこんな勝手な結婚式あるだろうか?
まぁタダで綺麗なウエディングドレス着れたからいいんだけどさ。
岳人のタキシードも格好良かったしみんなもそれぞれ跡部が用意したスーツを着ててなかなか男前だった。
それからみんなで記念撮影をしてディナーを堪能して解散となった。


『機嫌直ったのなら良かった』
「今日名古屋でプロポーズする予定だったんだよ」
『それで機嫌が悪かったの?』
「ちゃんとしたとこで言いたかっただろ!」
『別に岳人がプロポーズしてくれるのなら何処でも嬉しかったのに』
「俺はちゃーんと色々計画してたんだからな!」
『でもみんなで会うのも楽しかったね』
「まーな。久しぶりだったもんな」
『跡部と樺地は無理でも他の6人にはちゃんと来てもらおうね』
「おう!」
『誕生日おめでとう岳人』
「ん、ありがと凛」


がっくん誕生日おめでとう!
氷帝でわちゃわちゃしたかったの!
2018/09/12

プロポーズ大作戦

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