及川徹はイケメンである。
爽やかで人当たりも良くバレーも上手で欠点など何も無いパーフェクトな男である。
これが私の彼氏の周りからの評価だ。
蓋を開けて見ればそんなことはなくて彼だって単なる一人の人間である。
勿論欠点だってある。周りがそれを見ないようにしているのかはたまた本人が見せないようにしているのかは謎であるけれど。


「凛ー見て見てー！こんなに誕生日プレゼント貰っちゃったよ俺」
『今年も沢山だねぇ』
「いやー俺ってほんとモテるよね！モテ過ぎて困っちゃう！」
「凛さん何で及川さんなんかと付き合ってるんですか？」
「ちょ！矢巾！？いきなり何てこと言うの？」
『えーそれは内緒』
「椎名それ怪しい」
『徹が幸せならそれでいいよ』
「及川には勿体無いよなー」
「だよなぁ」
「凛は誰にもあげないからね！」
「バーカ。誰が盗るか」
「はいはい、そろそろ練習始まるよ」
『今日も暑いからみんな無理しないように！』


徹と付き合ってるとよく聞かれる言葉。
「何で付き合ってるの？」もう何回言われたんだろう？
そんなの好きだから付き合ってるに決まってるのに周りはそれを理解してはくれない。
部員に限っては徹をからかうために言ってることが多いけれど。
寂しくないの？とかあんなにモテて不安じゃないの？とかも女友達にはよく聞かれるけれどあんなに分かりやすい徹が彼氏だから不安になったことなんて今まで無かった。


「凛ー」
『なぁに』
「岩ちゃんがもっとちゃんとしないと逃げられるぞって言うんだけど」
『何に逃げられるって？』
「凛に」
『えぇ。私が逃げるようなこと徹したの？』
「してないんだよねぇ。岩ちゃん何でそんなこと言ったんだろ？」
『何でだろ？まぁ岩泉なりの心配だったんでしょ。なんだかんだアイツ徹のこと好きだし』
「だよねだよね！俺も岩ちゃん好きだけどね！」
『私の次に？』
「当たり前でしょ」


モテるしチャラく見えるけれど徹って花巻や矢巾とかより一途な気がする。
女の子にキャーキャー言われることが多いから不誠実っぽく見えるんだろうけど。
実際はそんなことないしむしろとっても心配症で独占欲も強い。


「凛」
『んー？』
「誕生日プレゼントありがとね」
『大事な大事な徹のためですからね』
「凛からのプレゼントが一番嬉しかったから」
『一生懸命考えたかいがありました』
「俺ね、凛が彼女で良かったよ」
『急にどうしたのさ』


部活の後に徹の誕生日会を部員全員でやってその帰りのことだ。
いつもは岩泉も一緒だけれど今日は遠慮してくれたみたいで(後輩達を連れてラーメン食べに行ったらしい)珍しく二人きりの帰り道。
隣で穏やかに徹がポツリと呟いたのだった。


「凛はワガママ何にも言わないよね」
『言う必要無いんだもん』
「不安になったりしないの？」
『無いよ。だって徹私のこと大好きなの知ってるもん』
「それはそうだけど」
『徹のがたまに不安になっちゃうよね。それはごめんね』
「俺が独占欲強いだけだから」
『私だって徹のこと大好きなんだけどなぁ』
「それは俺だってちゃーんと知ってるよ」


繋いだ手を徹が握りしめてくるから私も同じくらいの強さで握り返す。
自分の気持ちが指先から相手に伝わればいいのに。
そしたらこうやって不安にさせることも無いのに。気持ちを１００%相手に伝えるのはとても難しい。


『徹の幸せが私の幸せだよって言ったら信じてくれる？』
「凛を疑ったことなんてないよ俺」
『エスパーになってよ徹』
「何だよそれー」
『そしたら私が何を考えてるか分かるでしょ？』
「それって俺のこと以外考えてないみたいだけど」
『だってそれが本当のことだよ。私は徹が考えてる以上に徹のことしか考えて無いよ。だから周りのこと考えてる暇なんて無いの』
「あぁ、そういうこと？」
『うん』


隣で徹が満足そうに微笑んだのが分かった。
言葉には出さないけれど私の言ったことが嬉しかったみたいで良かった。


「じゃあさ、俺がずっと幸せなら凛も幸せってことだよね？」
『そうだよ』
「浮気とかしても？」
『考えたことないけど浮気したいの？』
「しないよ。言ってみたかっただけだし」
『徹は私の嫌がることしないもん』
「凛も、だよね」


たまーに私のこと試すようなことを言うけれど私はそれにいちいち焦ったりしない。
だって浮気しないの知ってるもん。
私が徹しか見てないように徹も私しか見てないのは知っている。


『誕生日おめでとう徹』
「ありがと凛」
『これからも仲良くしてね』
「俺の方こそ宜しくだよ」


穏やかで山も谷も無いゆったりとした恋愛だけれど私達にはこのくらいがちょうどいいのかもしれない。
明日の明日もその明日も貴方が幸せでありますように。
レイラの初恋様より

明日の明日もその明日も貴方が幸せでありますように