『ちょ!金ちゃん!?そないことしたらアカンよ!』
「凛ー!ちょっとだけやって!」
『いくら暑いからってそれはアカン!』
「いーやーや!」


この暑いのに金ちゃんも凛さんも何を朝からごちゃごちゃやってんのやろ。
これもいつものことだからそれに構う人間は俺を始めとしておらんけれど。
部室の外で二人の声がさっきから攻防を繰り広げている。


「凛ちゃん達何をしとるんやろね?」
「小春、見に行ったら巻き込まれんで」
「謙也さん見に行ってきたらどうッスか?」
「財前、俺を足に使うなっちゅーの」
「バレましたか」
「隠してなかったやろ」
「蔵リンも銀さんも居ないのに困ったわぁ」
「財前お前が行って来いよ」
「はぁ?嫌ッス」
「そないなこと言わんでほら行ってらっしゃいな」


結局小春さんに無理くり部室から出されてしまった。
あの人ら人使い激しすぎるんすわ。
金ちゃんが自由人やからって大体いつも面倒事は俺に押し付ける癖そろそろ止めてくれんかな。
小さく溜息を吐いて渋々声の主達の元へと向かう。
今日は何が原因で揉めてるんやろか?


「これで涼しゅうなるっておとんが言っとった!」
『だからそれはアスファルトの話であって土の上はアカンのやって!』
「やってみな分からんやろー?」
『あ!金ちゃんアカンってば!』


「アンタら何をしてるんスか」と声をかけたかったのに俺の言葉は大量の水とともに押し流された。
金ちゃんが水道にホースを繋いで水を撒き散らしたのだ。
それがたまたま俺に直撃したんだった。


『ざ、財前!?』
「財前涼しそうでえぇなぁ」
「びしょ濡れなんスけど」
「ワイも水浴びしてもえぇ?」
『ちょ!金ちゃん!?財前は水浴びしたくてしたわけじゃ無いんよ』
「えぇーなぁちょっとだけ」
『アカン!練習始まるでさっさとコートに行く!』
「凛のケチー」
『白石に言うで。ほんで毒手の』
「毒手は嫌や!練習してくる!」


凛さんの声のトーンがいくらか落ちたことによって金ちゃんも怒ってることに気づいたらしい。
逃げるようにコートに行ってしまった。
残されたのは俺と凛さんや。


『財前ビショビショやなぁ』
「何で半笑いなんスか」
『水も滴るいい男って言うやろ?』
「思いっきりびしょ濡れなんですけど」
『風邪ひいたらアカンから着替えんとな。部室行くで』
「別にそのうち乾くと思うんスけど」
『アカン。ほら行くで』


凛さんが俺の腕を掴んで引っ張るから諦めて着いて行くことにした。
頑固なこの先輩は言い出したら人の話を聞かへん。


『もうみんなコート行っちゃったみたいやな』
「練習始まる時間ですから」
『えぇと、確かこの辺りに』
「何をやってるんスか」
『こないだ練習用のTシャツを小春ちゃんと作ったんよー。それをこの辺にしまったはずなんやけど』


部室に着くなり台に乗ってロッカーの上をあさってるけどその木の台そろそろガタがきてるから使うの禁止って話になったの覚えて無いんかな?
案の定グラグラと不安定になっとるし。
つーか練習用のTシャツって何やろ?
小春さんと凛さんが作ったとか嫌な予感しかせーへんし。


『あった!この段ボールの中やで!』
「凛さん足元気ぃつけんと」
『大丈夫やって!』
「その台ガタガタですやん」
『そうだっけ?』


凛さんが足元を確認しようとした瞬間バキッと嫌な音を立てて台が崩れた。
凛さんがバランスを崩して台から落ちるとこを下から抱きとめる。
俺もおかげでバランス崩して倒れたわけやけど凛さんには被害が無さそうで良かったわ。


『財前!?だ、大丈夫?ごめんなぁ』
「せやから言ったやないッスか」
『どこも痛ない?大丈夫?』


倒れた俺の腰に馬乗りになったまま凛さんが顔を覗きこんできた。
あーもう、無防備過ぎるんとちゃいますか。
俺だって一応男なんですけどいつになったら気付いてくれるんスかアンタ。


『財前?どっか痛いん?』
「ま、しゃーないッスね」
『しゃーないってどないしたん?』
「俺、今日誕生日なんスよ」
『知っとるに決まっとるやろ』
「だから誕生日プレゼント貰いますわ」
『ちゃんとみんなで用意したで?』
「凛さんからだけ欲しいんで」


『何を言うてるの?』って言いたかったんやろうけど言葉になる前に俺の唇で塞いでやった。
いつまでも男の上に馬乗りになったままでおるからアカンのですよ。


『え』
「誕生日プレゼント貰いましたんで」
『ざ、財前?』
「そーゆーことッスわ」
『ちょ、待っ』
「いい加減そこを退かないと今度はキスだけじゃすまないッスよ」
『ご、ごめん』


慌てて俺から凛さんが退いた。
少しだけ惜しい気がするけど殴られなかっただけマシやな。
急に口数が減った凛さんが可愛ぇ。


「意外とマシなTシャツッスね」
『なぁ』
「んじゃ俺着替えるんで」
『財前、今のは』
「そーゆーことって言ったッスよ」
『どういうこと、なんかなって』
「俺はあんなこと誰にでもせんし」
『う』
「これ以上言わせるんならまたキスするで」
『わ、分かった!先コート行くでな』


頬を赤くしたまま凛さんは部室を出て行った。
逃げられた気がするけどまぁ嫌われたわけや無さそうやしえぇか。


結局この日の部活後の誕生日会で小春さんにえらい怒られることになった。
凛さんが小春さんにこっそり相談したらしい。


「あのこウブなんだからちゃんと大事にしたりよ!」って小春さんが言うっちゅーことは凛さんも満更では無かったってことやな。


「金ちゃんのおかげやなー」
「ワイ頑張ったで白石!」
「たまたまやろ」
「せやけど二人とも鈍感過ぎやで。さっさとくっつけば良かったんに」
「凛ちゃん顔真っ赤にして可愛かったなぁ」
「財前に襲われたんかと思ったわ」
「さすがにいきなりそこまではせんやろ」
「ま、しばらくはそっとしとこな?変にからかうと財前怒るで」
「蔵リンがそう言うのなら」
「えーおめでとうって言ったらアカンのー?」
「一週間後に言ったり金ちゃん」
「一週間は内緒なんやな!」
「何にせよめでたいことよ」
「そうねぇ。ほんと良かったわぁ。アタシもキュンキュンしたい!」
「小春!お前には俺がいるやろ!?」


財前ハピバ!
四天宝寺のわちゃわちゃ楽しいなぁ。
2018/07/20

キスから始まる秘め事

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