これは排球short
マリッジ珍道中の続きとなってます。
出産ネタが混じるので苦手な方はご注意ください。



「凛先輩久しぶりです!」
『仁花ちゃん久しぶりだねー』
「結婚式以来ですね。わ!お腹もだいぶ大きくなりましたねー」
『もうすぐ予定日なんだ』
「そんなときに泊めてもらうなんてすみません!」
『出張でこっちに来るときは気にせずに泊まりに来てって言ったのはこっちなんだから気にしないで』


夏がもう直ぐそこまで迫っている。
あぁ、この一年本当にあっという間だったなぁ。
翔陽との子供を妊娠して一人で産むって決心してそれから周りを巻き込んでドタバタしたんだった。
スガにも潔子にもみんなに感謝している。
お腹が目立つ前にと慌ただしく式を上げたのも今では懐かしい思い出だ。
予定日一週間前に仁花ちゃんが仕事のついでに遊びに来てくれた。


『どれくらい居られるの?』
「凛先輩の予定日が近いってお母さんに言ったら日向だけじゃ頼りないからって一週間いただいてきました!なので何でも言ってください!」
『あれ?仕事は?』
「今日で終わらして来ちゃいました!あ、迷惑だったらすみません」
『仁花ちゃんなら大歓迎だよ。翔陽も忙しいから一人じゃ心細かったの。ありがとうね』


仁花ちゃんが一週間もこっちに居てくれるなんて嬉しい。
正直一人じゃ少しだけ心細かったのだ。
翔陽には実家に帰ってって頼まれたけど今月は翔陽の誕生日もある。
だからこっちで産むって決めたのは私だった。


『翔陽の誕生日も三人でお祝い出来るねぇ』
「日向の誕生日って」
『明日だよ』
「あぁ!私スッカリ忘れてました!」
『大丈夫大丈夫。一緒に料理作るの手伝ってね?』
「勿論です!」


仁花ちゃんと一緒にスーパーに買い物に行って今日の夕食を何にしようか二人であれこれ悩む。
仁花ちゃんが泊まりに来たよって翔陽に伝えたらどうやら影山と西谷と月島もうちに遊びに来るらしい。
せっかくなら三人とも明日来てくれたらいいのに。
いっそ今日誕生日会にしちゃおうかなと結局ケーキも一緒に買ってきてしまった。
沢山買い物出来たから仁花ちゃんが居てくれて良かった。


『あ』
「凛先輩?どうしました?」
『仁花ちゃん…』
「先輩?大丈夫ですか?」
『もしかしたら陣痛始まったかも』
「えぇぇぇぇぇ!?どっ!せっ!どうします!?きゅ、救急車呼びますか!?」
『仁花ちゃん、大丈夫だから。落ち着いて。一旦深呼吸して。大丈夫だから』
「ひゃ、ひゃい!」


家に帰ってからで良かった。
冷蔵庫に食材をしまっている時に下腹部に鈍痛がしたのだ。
慌てる仁花ちゃんを落ち着かせてトイレへと確認しに行くとおしるしも出ている。
あぁこれ翔陽の誕生日に合わせてくれたのかなぁとか呑気に考えてしまった。


『やっぱり陣痛みたい』
「えぇ!?じゃあ救急車ですか!?」
『んーまだ10分間隔じゃないからなぁ』
「凛先輩何でそんなに落ち着いてるんですか!あ!日向にも連絡しないと!アイタっ!」
『仁花ちゃん大丈夫?』
「小指をぶつけました」


仁花ちゃんが私の代わりに慌ててくれているから冷静に落ち着けたのかもしれない。
おかげで病院にも連絡出来たしね。
初産だから早めに来るようにって先生に言われたからそろそろ準備をしなくちゃ。
あ、翔陽にも連絡しないとね。


『あ、もしもし翔陽?』
「凛さん?何かあったの?」
『陣痛きたみたいなのそれでね』
「凛さん陣痛きたって大丈夫なんですか!?」


単刀直入に言い過ぎたかもしれない。
電話の向こうで翔陽の大声が聞こえて慌てて受話器を遠ざける。


「あー椎名?」
『その声は岩泉?』
「今は日向か」
『ややこしいから椎名でいいよ』
「アイツ喜びすぎて話になんねぇからとりあえず替わったわ」
『まだ本格的な陣痛始まってないんだけどね』
「大丈夫か?俺の嫁さん行かすか?」
『そっか。岩泉のとこは去年産まれてるんだね』
「おー。だからまぁアイツの気持ちも分からなくもねぇからな」
『仁花ちゃんいるから大丈夫だよ。ありがとね』
「んじゃとりあえずいつも通り練習の後帰してもいいか?」
『うん、平気だよ。わざわざありがとね』
「おう。頑張れよ」
『やっと会えるから大丈夫』


「じゃあな」の後で「練習再開すっぞ」って声がして「おれ早退」「嫁さんがしなくていいってよ」ってやり取りまで聞こえて電話が切れた。
翔陽が慌ててる姿が目に浮かぶ。
私も頑張るから翔陽も練習頑張ってね。


「凛先輩!タクシーきました!」
『仁花ちゃんありがとう。せっかく来てくれたのにごめんね』
「いえ!このために来たと言っても過言ではないので!」
『仁花ちゃんが居てくれてほんとに良かった』
「私が一番に赤ちゃん見られるかなぁ?」
『どうかなぁ?このこ次第だよね』


予め入院の荷物は準備しておいたからそれを持ってタクシーへと二人で乗り込む。
仁花ちゃんが頻りに「妊婦なんでくれぐれも安全運転でお願いします」って運転手さんへと伝えている。
気持ちは分かるけど妊婦じゃなくても安全運転じゃないと駄目だよ仁花ちゃん。


病院に到着したのは午後16時過ぎだった。
このままだと翔陽の誕生日より早く産まれてくるかなって思ってたけどそこからが長かった。
確かに初産は長いとは聞いてたけどここまで長いとは。
練習が終わった翔陽が駆けつけても私はまだ陣痛室にいた。
翔陽が来てくれたから仁花ちゃんはとりあえず西谷達に任せておいた。


「凛さん?大丈夫?」
『背中痛い』
「おれマッサージするから」
『翔陽』
「何?」
『来てくれてありがとうね』
「そんなの当たり前だし」


結局、分娩室に入れたのは朝方のことだった。
初産は大変だって聞いてたけどここまで大変だとは思わなかったよ。
そこからは痛みで余り覚えてない。
翔陽がずっと隣に居てくれたことだけは覚えてるけど。
赤ちゃんの泣き声で我に返ったのだ。


「元気な男の子ですよ」
『ありがとうございます』
「凛さんおれ泣きそう」
『翔陽もありがとう』
「おれのためにありがとう凛さん」
『このこも翔陽と同じ誕生日だね』
「お父さんと同じ誕生日なんて素敵ですね」
『二人とも誕生日おめでとう』
「凛さん、おれきっと今日のために生まれてきたんだと思う」
『え?』
「なんかそんな気がした」


私と赤ちゃんの頭を交互に撫でて涙目で翔陽が言ってくれた。
なんて幸せな言葉なんだろう。


「おれきっと凛さんとこのこが居るからここにいるんだよ」
『翔陽が居てのこのこだと思うんだけど』
「上手く言えないけどそれ違う気がする。二人が居てのおれなんだよ」


翔陽の言葉に私まで目頭がジンとしてしまった。


赤ちゃんを一旦預けて病室へと向かう。
出産を終えた疲れからか私は直ぐに寝てしまった。
隣で翔陽が手を握ってくれてたかもしれない。
朝方までずっと一緒に居てくれてありがとね翔陽。


翌朝、といっても私が目を覚ましたのは9時過ぎだ。
起きたら既に病室の前には沢山の人の気配がする。
それに翔陽が応対してるのが聞こえる。
産まれた当日に見に来なくても良かったのに。
これも翔陽がみんなから愛されてるんだろなぁと思って笑ってしまった。


「凛先輩!起きたんですか?」
『仁花ちゃんおはよう』
「凛さん起きたの!」
「椎名ちゃーん!赤ちゃん見てきたよ!」
『ぐっすり寝ちゃっててごめんね』
「先輩!赤ちゃんちっちゃくて可愛かったです!」
「まだお猿さんみたいだったよねー」
「及川さんそんなんだから結婚出来ないんスよ!」
「ちょ!飛雄冷たい!」
「ここ病室なんで静かにしてもらえませんか」
「ツッキーまで!?」


花瓶に花を生けた仁花ちゃんが病室へと入ってきてそこからみんなが雪崩れ込んできた。


「おい、いい加減にしろよお前ら」
「廊下まで響いてたっスよ」


最後に岩泉と西谷の姿まで見えたからほんとに笑ってしまった。
今日も練習あるんじゃないの?


「今日午後からなんだよ練習」
『そうなの?』
「第一陣が見に来たんですよ凛さん」
『第一陣?』
「黒尾達も来たいって煩かったからな」
「交代で来ることにしたんです」
「確かに全員で来たら病院が迷惑しちゃいますもんね」
「やっちゃんそれ酷いー」
「えっ!?あ、及川さんすみません!」


みんなが揃うとほんと賑やかだなぁ。
やっちゃんが及川にからかわれている。
それから及川に月島が辛辣な言葉を浴びせて岩泉から蹴られるまでが一連の流れだよね。


「名前もう決めたのか?」
「おれは凛さんに決めてもらおうと思ってたんで」
『カケル。翔陽の翔って書いてカケルだよ。男の子なら絶対カケルって決めてたの』
「お前ほんと愛されてんな日向」
「はい!」


岩泉からの翔陽の返事で空気がほんわかしたのだった。
第二陣と交代するからと第一陣が帰っていった。仁花ちゃんもみんなを見送りに行ったから今は翔陽と二人きりだ。


『翔陽、誕生日おめでとう。ちゃんとお祝い出来なくてごめんね』
「そんなことない。元気な赤ちゃん産んでくれてありがとう。凛さんも無事で良かった」
『これからも私と翔のこと宜しくね』
「さっきも言ったけどおれ今日のために自分が生まれてきたと思うから。凛さんと翔が居てのおれなんだよ。だから凛さんこそおれと居てくれてありがとう。おれすげー幸せだから」
『旦那さんにそんなこと言ってもらえるなんて私は世界一幸せな奥さんだね』
「おれが凛さんを世界一幸せにするってのは決まってるんです」


私こそ翔陽に生まれてきてくれてありがとうだよ。こんなに沢山の幸せをくれてありがとう。
誕生日おめでとうね翔陽。


それから一週間はかなり慌ただしかった。
翔陽とうちの親も宮城から孫の顔を見に来たし土日にはスガ達も来てくれた。
部活は大丈夫だったんだろうか?
こんなに沢山の人にお祝いされて私も翔陽も翔も本当に幸せだなぁとしみじみ思いました。


ずっと続きを書きたかったのです!日向の誕生日祝いに書いてしまった(笑)誰が読むんだって言う出産ネタでした。日向誕生日おめでとう!
2018/06/21

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