『お兄ちゃん』
「どうしたの凛」
『明日、大丈夫かなぁ?』
「これが最後だよ」
『そうなんだけど』


自信、全く無いよ。そう小さく兄の前で呟くとふわりと頭を撫でられた。
いつだって優しいのが周助お兄ちゃんだと思う。
中学1年から約四年間の片想い。
誕生日だって毎年お祝いしようと思ってたのにプレゼントだって毎年用意してたのに気付いたら渡せずに三年が経過していた。


「英二は僕と大学違うからもう会えなくなっちゃうよ」
『それはやだなぁ』
「ちゃんと最後に伝えておいで」
『うぅ』
「凛」
『はい』
「英二は四年間好きだった人のことを笑ったりしないよ」
『う』
「明日、ちゃんと頑張れるよね?」
『…』
「姉さんにも明日は良い日って言われたんだろ?」
『うん』
「英二には伝えておいたから」
『え』
「明日ちゃんと英二が教室に行くの待っててよ」
『…わ、わかった』


せっかく周助お兄ちゃんが作ってくれた最後のチャンスだ。
これはもう頑張るしかない。
お兄ちゃんの部屋を後にして自室へと戻る。
裕太お兄ちゃんにも電話しようかな。
ベッドに座ってスマホから相手を呼び出した。


「凛?」
『久しぶり』
「どうした?兄貴と喧嘩でもしたのか?」
『違うよ。裕太お兄ちゃん元気にしてるかなぁって思って』
「元気元気!来年こそ青学を倒さないといけねーからな」
『青学は来年も強いよきっと』
「来年こそ越前を倒すからな俺」
『期待してるね』
「お前やっぱり元気なくね?」
『明日、菊丸先輩の誕生日なんだ』
「お前まだ告白してねぇの?」
『うん』
「兄貴はなんて?」
『最後だから頑張れって』
「だよなぁ。お前はさ、姉さんと兄貴と俺の可愛い可愛い妹なんだからさ」
『うん』
「当たって砕けてこい!」
『砕けたらやだよ!』
「ちげえよ。砕ける勢いでぶつかってこいってこと」
『えぇ』
「じゃないとお前絶対後悔するぞ」
『それは嫌だ』
「じゃあちゃんと気持ちぶつけてこいよ」
『分かった』
「年末には帰るから」
『楽しみにしとく』
「またな。明日頑張れよ」
『ありがとう』


ツーと通話の切れた音が聞こえる。
お姉ちゃんにも周助お兄ちゃんにも裕太お兄ちゃんにも頑張るって宣言したからには明日頑張るしかない。
三人は私の大好きな姉と兄達なのだ。


11月28日、放課後。
四年分の誕生日プレゼントを持って学校に登校したけど気付いたら約束の時間。
あっという間に一日は終わって帰りのHRの時間。
ブーブーとスマホが震える。
こっそり確認して見ればそれはLINEのメッセージを通知していた。


菊丸先輩:凛ちゃん!俺ちょっと遅れるけど教室でちゃんと待っててね!


それは菊丸先輩からのメッセージで私を気遣う言葉に自然と頬が緩む。
菊丸先輩に了解ですと返信してスマホをポケットへとしまいこんだ。


先輩と初めて会ったのは中学1年の時。
帰宅部だった私はよく周助お兄ちゃんの練習を見学しに行っていた。
そこで見つけたのが菊丸先輩だ。
自慢のお兄ちゃんの一人だから小学生の時も試合の応援には行ってた。
でもその時はいつもお兄ちゃんのことしか見てなかった。


菊丸先輩は練習でも元気いっぱいで楽しそうで本当にテニスが好きなんだなぁって思った。
そのアクロバティックなテニスに一目見た時から目が離せなくなったのだ。


その日は帰ってからお兄ちゃんを質問攻めした気がする。
名前から何から何まで。
思わずお兄ちゃんが苦笑いしたくらいだ。そこからずっと好きで。
私の気持ちに気付いたお兄ちゃんに手助けをしてもらいながら仲良くなっていったと思う。
お姉ちゃんとお兄ちゃん達に相談しながら三年間は過ぎていった。
裕太お兄ちゃんは最初苦手な話題だからとあまり聞いてくれなかったけど、高校に入って彼女が出来たくらいから色々聞いてくれるようになった。
三人に相談しながらも臆病な私はなかなか勇気を出せずにいたんだよね。
でもそれも今日で終わりだ。


気付いたらHRは終わっていてクラスメイト達は部活なり帰宅なりしていった。
友達達にも今日のことは伝えてある。
頑張れって口々に言って帰っていった。


「お待たせー遅くなってごめんね」
『全然大丈夫です!』


声をかけられ顔を上げれば教室の入口に菊丸先輩が居た。
誕生日だったからであろう、荷物が沢山だ。
人気者の先輩のことだ。きっと大勢の人に祝ってもらったんだろうな。


「1年の教室とか懐かしいなぁ」
『もうすぐ卒業ですもんね』
「後三ヶ月しかないとか実感沸かないよねー」


教室へと入ってくるときょろきょろと室内を見渡している。
3年生の教室とそんなに違うのだろうか?
先輩は荷物をその辺の机の上に置いて私の隣の席へと座った。


「んで、俺に相談したいことってなぁに?」
『えっ』
「不二が英二にしか聞けない悩み事だって言ってたよん」
『あぁ、確かに間違ってないです』


どうやって菊丸先輩の誕生日にアポイントを取り付けたのかと不思議だったけどそういうことか。
誕生日当日ならお誘いは沢山あっただろうに。


「んで、どーしたの?」
『先輩、お誕生日おめでとうございます』
「お!凛ちゃん俺の誕生日知ってたの?」
『はい、ずっと知ってたんですけどなかなかお祝い出来なくて』
「そんなのおめでとうって言ってくれるだけでいいんだよー!」


先輩は本当に優しい。
隣の席で笑顔でいてくれている。
後何回この笑顔が見られるのだろうか。
部活も引退して今はお兄ちゃんともクラスは違う。
学年の違う私が会えるのはたまたま廊下でスレ違う時くらいだ。
どうしよう、こんなつもりじゃなかったけど無性に寂しくなってきた。
じわりと視界がにじむ。


「凛ちゃん?どうしたの?何か困り事?不二にも言えないことって何があったの?」


私の様子がおかしいことに気付いたんだろう。
席を立ち上がると私の隣へ来てしゃがみこんだ。下から私の顔を覗きこんでいる。


『違うんです』
「泣く程辛いことじゃないの?」
『辛いんじゃなくて』
「違うの?」
『先輩に会えなくなるなぁって思ったら悲しくなっちゃって』
「どうして?まだ三ヶ月もあるよ」


涙が頬を伝う。
それを下から菊丸先輩が指で拭ってくれる。
本当に先輩はいつだって優しい。
心配そうに私のことを見つめている。
言わなくちゃ。今日を逃したら私は一生この気持ちを言えない気がする。


『先輩、私中学1年の時からずっと先輩のこと好きだったんです』


ポツリと小さな声で呟いた。
先輩の顔は見れなくて用意しておいたプレゼントの紙袋に視線を移して。
見ないままそれを先輩に差し出した。


『中学1年の時からのプレゼントです。四年分受け取ってください』
「ありがと。凛ちゃん、ちょっと立ってくんない?」
『はい?』


差し出したプレゼントを先輩は受け取ってくれたけどそれを直ぐに空いた机へと置く。
中を確認してくれないのかな?と思いつつも先輩に言われた通り立ち上がった。


瞬間、先輩に抱き上げられた。
え?えぇっ!?
足が宙に浮いて私より下に先輩がいる。
何で?どうして?


「俺も!俺も凛ちゃんのこと好きだよ」
『先輩!重いですから降ろしてください!』
「軽いから大丈夫大丈夫!」
『危ないですからせめて座ってください』
「もー心配症だなぁ」


私を抱き上げたままその場でくるくる回るから慌ててそれを止める。
渋々と私が座っていた席に座ってくれた。
自然と私は先輩の膝の上だ。
慌ててて気付かなかったけど先輩私のこと好きって言った?
言ったよね?
先程言われた言葉と今の現状にじわじわと恥ずかしさが込み上げる。
至近距離に先輩の顔があって目が合った。
嬉しそうに笑う先輩を見ていたかったけどそれは同時に私を見ているってことでその事実に耐えれなくて視線を外した。


『先輩、恥ずかしいので降ろしてください』
「駄目ー!目をそらしたから降ろさないよー」


こんなに意地悪な人だっただろうか?
恐る恐る先輩の方へと視線を戻す。
これで降ろしてくれるだろうか。
先輩の膝に横座りしてるから私が見下ろしている。


「やっぱり離したくないから降ろさないよ」
『えぇ!』


横から先輩にギュウと抱きしめられた。
嬉しいけど嬉しいんだけどやっぱり恥ずかしいよ!


「俺ね、最初は妹が居たらこんな感じなのかなって思ってたの」
『先輩は末っ子ですもんね』


先輩が私の肩にぐりぐりと頭を埋める。
くすぐったいな。でもこんな先輩は初めてで嬉しくなった。


「だから不二が羨ましくなったんだよね」
『お兄ちゃん?』
「こんな可愛い妹がいていいなって」
『そうなんですか』
「最初はそう思ってたんだけど、次はおチビが羨ましくなった」
『越前君?』
「だって凛ちゃんずっとおチビと同じクラスでしょ?」
『たまたまですよ』
「んーだからね、ずるいなって思ってたの」
『先輩って可愛いこと言うんですね』
「可愛いって言わないの。気にしてんだから。でね、おチビが羨ましいって思った時に気付いたの。あ、俺凛ちゃんのこと妹じゃなくて女の子として好きなんだなって」
『ふふ』


先輩の言葉に恥ずかしさより嬉しさが勝ってきた。頬が自然と緩んでくる。
先輩の膝に座ったまま先輩の方を向いて下を向いたままの頭を抱きしめる。


『私も先輩のこと大好きです。初めて見た時から』
「ん、あんがと」


お姉ちゃんお兄ちゃん、私ちゃんと言えたよ。
菊丸先輩に好きだって言えたよ。
ちゃんと伝えれて良かったよ。


それから二人で四年分の誕生日プレゼントを開けた。
赤いニット帽に赤いマフラー。
赤い手袋に赤いリストバンド。
それを見て先輩は笑ってた。
「俺の好きなものばかり」って凄く嬉しそうに笑ってくれた。


「ねぇ周助」
「何?姉さん」
「周助は菊丸君の気持ち知っていたの?」
「英二は分かりやすいからね」
「菊丸君に告白させたら良かったんじゃないのかしら」
「僕はそんなに親切じゃないよ」
「シスコンね」
「裕太と決めたんだ。凛の応援は全力でするけど英二の応援は全力でしないって」
「裕太もなの?貴方達本当にシスコンなのね」
「凛には内緒だよ」


2017年11月28日菊丸ハッピーバースデー!!!

探し求めるネリネ

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