short立海乙女のポリシー→コイスルオトメその後のお話


初夏だって言うのにもうすぐ弦一郎の二十歳の誕生日だって言うのにほんとにほんとになんなの最近!


「なんじゃ、機嫌が悪いのう」
『そんなことはありませんお祖父様』
「堅苦しい喋り方じゃのう」
『仕方ありません。茶会の最中ですよ』
「お前の父親が主催しとるんじゃ、少しぐらい力を抜いてもいいじゃろ」
『跡継ぎなんだからそんなこと出来ませんよ』


高校を卒業して弦一郎は大学へと進学しその1年後あたしは弦一郎の後を追わなかった。
茶道家になるのに大学での勉強は必要ないと思ったからだ。
お祖父ちゃんはしきりに進学を薦めてきたけれどあたしはそれを断った。
今更それを後悔することになるとは。
お父さんがそれを喜んであたしにもあれこれと仕事を割り振るのだ。
まだぺーぺーだって言うのに困ったものだよほんと。
おかげで弦一郎に全然会えていない。
高校3年の時だってあんまり会えなかったのに新年度になってからまだ一回も会ってないんだよ!


「凛、最近元気が無いのう」
『お祖父様の気のせいです』
「疲れとるんじゃのう」
『少しだけ』
「そうじゃ!それならじじい孝行してもらおうかの」
『何がですか?』
「休みをとってじいと温泉に行くぞ!」
『は?』
「おーおー素の顔が出おったの。まぁ楽しみにしておれ」
『ちょ!お祖父様!?』


茶会の途中だったためにそれ以上は話を聞けなかった。
うん、お祖父ちゃんと二人の温泉もきっと楽しいだろうけどそういう問題じゃ無いんだよ。


「凛?お前はこんな所で何をしているんだ」
『弦一郎こそ何してるんすか』
「久しぶりじゃのう」
「今日は儂の提案に乗ってくれてありがとのう」
「なぁにうちの孫も最近腑抜けとったからの!ちょうど良かったわ!」
「『は?』」
「儂らは熱海まて行ってくるからの」
「お主らは予定しとった箱根の旅館に向かうとええぞ」
「明日の夜に駅で待ち合わせじゃからの」
『お祖父ちゃん何を』
「もう旅館にはお金も振り込んであるから心配せめんでええからな」
「じゃあ行きますか」
「釣り楽しみですなぁ」
「手塚も誘ってやりましたわ」
「では三人で勝負ですな」


5月20日、日曜日の朝からお祖父ちゃんと駅に向かうと弦一郎に遭遇した。
かなりびっくりしたと思う。
まさかこんなとこで会えると思ってなかったから。
そしたら切符を買いに行ってたお祖父ちゃんが戻ってきて二人分の切符をあたしに手渡した。
弦一郎のお祖父ちゃんまでやってきてさくさくと二人で話を進めてしまう。
そして駅の改札をくぐる二人を呆然と見送った。


「か、変わりはないか?」
『久々に会う第一声がそれっすか』
「だから聞いたのであろう」
『元気っすよ。着物も一人で着れるようになったっす』
「そうか、それも自分で着付けたのか?」
『そうっすね。自分で選んで着付けましたよ』
「お前によく似合っているな」
『大学に入って変わったっすねぇパイセン』
「何がだ」
『照れなくなったっす。あ、電車の時間が近いですし行きますか』
「お前はいいのか?」
『ほら、早くしないと電車が行っちゃいますよ!あ、荷物は任せたっす』
「うむ」


最初はかなーりびっくりしたけれどお祖父ちゃんが作ってくれたご褒美ならば遠慮しなくても良さそうだ。
お小遣いもたんまり貰ったし後は久々に会う弦一郎を堪能するだけだ。
堅物な弦一郎のことだから行かないとごねられても困るのでさっさと改札を通り抜けることにした。
あたしの荷物を押し付けちゃったけど当たり前のようにそれを運んでくれている。
相変わらず優しいっすね。


「なかなか会えなくてすまなかった」
『そうっすよ!もう5月の半ば過ぎたし!』
「何回か訪ねてみたもののお前が居なかったのだ」
『予定を聞いてくれたら良かったじゃないっすか!』
「それはそうなのだが一目だけでも顔を見れたらいいと思ってたのでな」
『弦一郎、大学でモテたりしてないっすか?』
「なんだいきなり」
『何でもないっす』


弦一郎があたしが居ない間にうちに来ていたなんて話は一切聞いていない。
きっとこれはお父さんの仕業だと思う。
うちで唯一あたしと弦一郎の縁談に渋ったんだ。
しかも理由が「まだ早くないか」この一言だった。弦一郎を気に入らないとかじゃなくて一人娘のあたしに恋人が出来るのが気に入らなかったらしい。
それをあたしに直接は言わないから余計にたちが悪い。
と言うか弦一郎は大学に入ってから変わった気がする。
男子なら当たり前のことなのかもしれないけど女子の扱いが上手くなってる気がする。
大学でもそうなんだろうか?
……あぁもう!今更大学行っておけば良かったと思っちゃったよ!


「急にどうしたんだ?」
『熱はないですって!』


電車に乗り込み弦一郎と横並びに座る。
当たり前のように窓側を譲られたけどこのスマートさになんだかもやもやする。
柳生先輩とか幸村先輩とかはサラッとやれちゃちそうだけど弦一郎にされると何でこんなにもやもやするんだろうか。
そんなことを車窓の風景を眺めながら考えていたら横から額へと手が伸びてきた。
焦りすぎてその手を振り払ってしまった。


「久々に会うと言うのにどうしたんだお前は」
『弦一郎が変わっちゃったみたいで嫌だ』
「俺は別に何も変わってなかろう」
『前はこんなに気が利かなかったっす』
「それは、……ではお前は前の俺の方が良いと言うのか?」
『それは違うけど、何で変わったのか分かんないから嫌だ』
「全く。子供みたいな駄々を捏ねおって」
『まだ18歳ですもん。子供っす』
「投票権があるのに何を言ってるんだ」
『成人は二十歳からっすよ。あ!』
「電車で大声を出すんじゃない」


二十歳で思い出した!
明日は弦一郎の誕生日だ!
まさか今日会うと思ってなかったから何も用意していない。
お祖父ちゃん!サプライズはいいとしても誕生日プレゼント用意出来てないよ!


『あ、すいません』
「どうしたのだ急に」
『ちょっと忘れ物を』
「戻らなくて大丈夫なのか?」
『とりあえず大丈夫っす』


戻った所でプレゼント悩んでて忙しくて買いに行けてなかったから無いんすよ。
誕生日プレゼントちゃんと用意したかったのに!


「凛」
『どうしたんすか?』
「俺が変わったのはお前の影響を受けてのことだからな」
『へ?』
「間抜けな顔だな」
『あ!笑いましたねパイセン!』
「お前の顔が悪いのだぞ」


また恥ずかしげもなく弦一郎がさらりと嬉しいことを言った。
弦一郎だけ先に大人の階段登っちゃってるみたいでズルい。
悔しいから嬉しいことは黙っておいた。


「箱根についたらどこに行くのだ」
『何も決めてなかったっす。お祖父ちゃんと二人だと思ってたし』
「そうか。お前は箱根には行ったことがあるのか?」
『初めてですよ』
「分かった」


何が「分かった」なんだろうか?
でもそれから弦一郎は何も教えてはくれなかった。ひたすらスマホとにらめっこしてたし。


『箱根についたー!』
「まずはロープウェイに乗るぞ」
『ロープウェイっすか?』
「黒たまごと言うものがあるらしい」
『へえ、面白そうっすね』


それから食べたら寿命が伸びるって言う黒たまごを二人で食べて箱根神社に参拝して縁結びの御守りを弦一郎に買ってもらった。
女性用の赤いのを男性が。男性用の白いのを女性が持つと縁が長続きするんだって。
教えてもらったので私の赤い御守りを差し出すと直ぐに交換してくれた。
最後に箱根海賊船に乗って景色を堪能してからお祖父ちゃんの予約してくれたホテルへと向かう。


『凄いっすねパイセン』
「あぁ、そうだな」


通された部屋は最上階のお部屋だった。
なんと露天風呂付きだ!
部屋があまりにも豪華でテンションが上がってしまう。


『弦一郎!景色が凄い綺麗っすよ!』
「そうはしゃがなくとも景色は逃げないぞ」
『早く早く!』


ソファに座って寛ごうとしてる所を捕まえて露天風呂の方へと連れていく。
テラスに出ると露天風呂と立派な二人掛けのソファが並んでいた。


『自然が綺麗っすねー!』
「お前は本当に無邪気なのだな」
『ん?』
「何でもない」


自然に目を奪われていると後ろから声をかけられる。
結局テラスのソファに座ってるけど弦一郎の表情はなんだかとても穏やかだ。


「夕飯まではまだ時間があるな」
『そうですね』
「ならば俺は大浴場へと行ってこよう」
『分かったっす!』
「お前はゆっくりと露天風呂を堪能するといい」
『はーい』


あ、二人で入りませんか?ってお誘いすれば良かった。
絶対断られるだろうけど。
さて、せっかく譲ってもらったのだから露天風呂を堪能することにしよう。
のんびりと湯に浸かって景色もお湯も存分に楽しんで涼んでるとやっと弦一郎が戻ってきた。


『遅かったっすね』
「つい長風呂になってしまった」
『気持ち良かったっすもんね』
「あぁ、そうだな」
『じゃあご飯に行きましょうか!』
「そうするとしよう」


弦一郎もちゃんと自分で浴衣着れるんだなぁ。
まぁ当たり前か。
部屋を出て夕食を食べに行くとする。
手を伸ばすとちゃんと私の手を握ってくれるのがまたもや嬉しい。
その手の体温が意外と冷たくてきっとまた気を遣ってくれたんだなぁ。


食事も本当に美味しかった!
弦一郎と二人ってのが良かったのかもしれない。
これはお祖父ちゃんに感謝感謝だよねほんとに!


『食べた食べたー!』
「美味しかったな」
『はい!また来ましょうね!』
「そうだな」


繋いだ手をゆらゆら揺らしても今日は注意されないみたいだ。
今日はなんだかいつもより甘やかされてる気がする。


『あ、明日は大学の講義大丈夫なんですか?』
「大丈夫だ」
『なら良かったっす。今日は夜更かし出来ますね!』
「何で夜更かしなど」
『なーんーでーでーも!たまにはいいじゃないっすか』
「お前は変わらないな」


部屋に戻るとそこにはシャンパンが用意されていた。
えぇ、私まだ未成年だよお祖父ちゃん。
弦一郎はいいって言わないよきっと。


「これは……」
『弦一郎の誕生日だからってお祖父ちゃんが用意してくれたみたい』
「そうか。しかしお前は駄目だぞ」
『ですよね』


シャンパンに添えられたカードを読むとそこには嬉しい一言が書かれていた。


『弦一郎!これ!ノンアルコールのシャンパンだって!』
「それなら一緒に飲めるな」
『せっかくならテラスで飲みましょ!さ!さささ!』
「少しは落ち着かんか凛」
『むーりーでーすー。あ、シャンパングラス持ってきてくださいね!』


シャンパンの入ったバケツごとテラスへと移動する。弦一郎は観念したのだろう。
ちゃんと後ろからついてきてくれた。
まだ日が替わるには少し時間があるけれどまぁいいよね。
シャンパンの包装を解いて栓を開ける。
ポンッと小気味良い音が響いた。


『はい、弦一郎の分』
「あぁ」
『じゃあちょっと早いけど弦一郎二十歳の誕生日おめでとう!』
「うむ。ありがとう」


カチンとグラスを合わせてシュワシュワとしているシャンパンを一口飲む。
ノンアルコールだって言うからシャンメリーみたいに甘ったるいのかと思ったけど全然そんなことなかった。
飲みやすくて美味しい。


『弦一郎、誕生日プレゼント用意してなくてごめんなさい』
「そうなのか?」
『え?』
「いや、俺はこれが誕生日プレゼントなんだとてっきり」
『ある意味誕生日プレゼントかもしれないっすけどあたしからのプレゼントじゃないですもん』


この箱根一泊旅行をプレゼントだと勘違いしてくれてたのは良いことだけどかと言ってそれはあたしからじゃない。
お祖父ちゃん達二人からってのが正しいんだと思う。


「そう気にするな」
『ちゃんとお祝いしたかったんすよ!』
「ではこうしよう」
『どうするんすか?』


隣に座っている弦一郎の方へと首を向けるとグラスのシャンパンを飲み干している。
どうでもいいけど上下する喉仏って男性的で見てるとなんだかドキドキするよね。
どうでもいいことだけど。


ぼやっとそんなことを考えていたら気付いた時には弦一郎の顔が目前に迫っていた。
驚く暇もなくあたしのファーストキスはあっさり拐われてしまった。


『は』
「このくらいそろそろ貰っても問題無いだろう」
『や、まぁそうっすけど』


今更ドキドキしてきたんすけど!
いきなりどうしたんすかパイセン!
変わり過ぎじゃないっすか!?
……これ本当にノンアルコール?


空のグラスに再びシャンパンを注いでいる。
それを奪って確認してみるとそこにはしっかりとアルコール度数が書かれていた。
……お祖父ちゃん嘘ついたな!
や、あたしはお父さんの晩酌に付き合えるくらいお酒は飲めるけどもしかして弦一郎はお酒が弱いのかもしれない。


そろっと隣の弦一郎の様子を確認する。
確かにいつもより表情がどことなく緩んでる気がする。
だからあんなにも大胆だったんだ。
これ明日覚えてないとか言わないよね?


「凛」
『なんすか』
「俺は警察官になりたい」
『へ』
「だから式が遅くなるかもしれないがちゃんと待っててくれないだろうか」
『いいっすよ』
「そうか」
『先輩重いっす』
「たまにはいいであろう。久々に会ったのだぞ」


横からずしりと体重をかけてきた。
さっきまで甘ったれてたのはあたしなのにいつの間にか立場が逆転だ。
でもこんな弦一郎は後にも先にも今日だけな気がするから堪能させてもらうことにしよう。
警察官になりたいってのは初耳だから明日お小言を云うことになりそうだけど。
でも弦一郎が警察官って似合ってると思う。


さて、きっと今日のことは覚えてないだろうからあたしも弦一郎にワガママを聞いてもらおう。
普段してもらえないことをお願いしなくちゃな。


弦一郎、二十歳の誕生日おめでとう!
明日も箱根観光楽しもうね!


誰そ彼様より
長くなりすぎてしまった(゚Д゚≡゚Д゚)
この乙女のポリシー関連の夢主と真田が好きです(笑)
そして真田はお酒弱そうな気がするって言う妄想。誕生日おめでと!
2018/05/21

今夜はきっと素敵で無敵

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