「姉ちゃん、明日ってヒマ?」
『荷物も大体まとめたし暇だよーどうした秀?』
「練習観にこねえ?向こう行ったら当分来れないだろうし」
『そんなことないよー。ちょくちょく帰ってくるよ!可愛い弟のために!』
「俺は別にそんなんじゃないよ。んじゃ明日な」
『おっけー』
私が大学から東京に行っちゃうから秀は寂しいんだよねきっと。
引っ越しは明後日だから明日くらいはワガママを聞いてあげちゃいましょうかね。
しかし年々素直じゃなくなってくよなぁ。
昔は私の後ろから離れなかったのに。
この話をしたらいつの話だよって呆れたように言われちゃったけど。
小学校低学年までですよーだ。
当日、昨日のうちに荷造りを完璧に終わらせて朝から早起きをした。
お母さんの代わりに秀にお弁当を作ってあげるのだ。
私って良いお姉ちゃんしてるよね本当に。
「量多くない?」
『皆で食べたらいいじゃん』
「そゆことね」
『秀の好きなもの沢山入れといたからね』
「姉ちゃん」
『何?』
「そろそろ弟離れしなよ」
『えぇ』
「彼氏とかちゃんと作りなよ。大学生になるんだからさ」
秀から衝撃的な一言を言われてしまった。
弟離れしなよとか冷たくないですか?。
「ずっと姉ちゃんと一緒にはいてやれないんだからさ」
『急にそんなこと言われても』
「意外と気付いてないだけだよ」
気付いてないってどういうこと?
聞こうと思ったときには秀はもう玄関へと向かっていて慌てて追い掛けてる間にそのことはすっかり頭から抜けた。
「おい何してんだ」
『あ、狂犬ちゃんちゃんと練習来てるんだねぇ。偉い偉い』
「馬鹿にすんなよ」
「姉ちゃん、来て早々に京谷に絡むなって」
『はーい』
「それで今日はどうしたんですか?」
『国見も金田一も卒業式ぶりだー!練習観にきたんだよ!』
「ついでに手伝いもな」
『え!?』
「まだマネージャーの後釜決まって無いんだよ」
「凛さん手伝ってくれるなら練習に集中出来ますね」
『う、金田一がそう言うのならばお手伝いするしかないじゃないよね』
「姉ちゃんって金田一お気に入りだよな」
『秀の次にね!』
「それは知ってる。じゃ準備してきてよ」
秀からジャージを渡された。
何故に私のジャージのある場所分かったんだ。
しかもこれお気に入りのやつ。
荷造りの時に探したらなくて落ち込んだんだぞ。
『何でこれ秀が持ってるのさ!』
「俺のタンスに混じってたぞ」
『お母さんが間違えたのか』
「多分なー」
見付かって良かった気がするけど秀も秀でそれなら直接返してくれたら良かったのになぁ。
まぁこうやって返ってきたのなら良かった良かった。
「凛さん」
『どうした金田一』
「あの、ちょっといいすか?」
『うん、いいよー?』
練習の休憩中にこそっと金田一に呼び出された。
これはあれか!ついに金田一にも好きな人が出来たとかでその相談かしら?
秀は一人でこなしちゃうこだから相談とかしてこないんだよね。
さすが私の第2の弟!
体育館裏へと二人でこっそり移動する。
『で、どうしたのさ金田一』
「あの、今日国見の誕生日なんです」
『え?』
「だから凛さんからも祝ってやってくれないかなって」
『何故に昨日言ってくれなかったのか!?』
「凛さんが今日来るの知らなかったんですみません」
え?国見の誕生日?
そんなの全然知らなかったし!
昨日聞いてたらもっとちゃんとお祝い出来たのに。
金田一の誕生日は及川が張り切ってたから一緒に盛大にお祝いしたけど国見の誕生日は3月なのか。
盲点だったよ。出来る限り部員の誕生日はお祝いするって決めてたのになぁ。
『金田一、私ちょっとだけ出掛けてくるから!』
「えっ?」
『適当に誤魔化しておいて!』
「ちょ!凛さん!?」
聞いたからには少しでもちゃんとお祝いしてあげたい。
ってことで国見の好きな塩キャラメルを買いに行くことにした。
正式な部員じゃ無いしサボったって怒られないだろう。
最寄りのコンビニで塩キャラメルを箱事大人買いする。
これ以外に思い付かなかったのだ。
ほんの少しでも国見が喜んでくれたらいいなぁ。
練習へと遅れて合流する。
何故か監督やコーチに心配された。
金田一はどんな誤魔化し方をしたんだろうか?
「凛さん大丈夫なんですか?」
『え?大丈夫だよ』
「矢巾さんが生理痛が酷いって言ってました」
『!?』
昼休憩に入って直ぐに国見がやってきた。
おめでとうって一番に言いたかったのにその前にガツンと衝撃を受ける。
そうか、金田一は悩んだ結果秀に相談したんだね。
それは間違ってないけどないけれど!
国見の口からまさか「生理痛」ってワードを聞く日がくるなんて思ってなかったよ!
「凛さん?やっぱり体調悪いですか?あんまり無理しないでしんどかったら帰った方がいいですよ。明日引越しって矢巾さんが言ってたし」
珍しく国見が饒舌だ。
それも私を心配してくれてるからだろう。
早く弁解しなくては。
私は今別に生理中ではない。断じて違う。
国見にそれを誤解だと伝えるのがなんだかもどかしかった。
『あのね、違うの』
「何がですか?」
『体調不良とかじゃなくて金田一から今日が国見の誕生日って聞いたから塩キャラメル買いに行ってたの。知らなくてごめんね。誕生日おめでとう国見!』
生理じゃないって言えなくて変な風に誤魔化しちゃったけど後半の誕生日に関した部分はちゃんと言えたはずだ。
「そうですか」
『うん、後でちゃんと渡すね』
あれ?国見から返事が無い。
ついでになんだかあんまり嬉しそうじゃない。
塩キャラメル貰いすぎて嫌いになったとかじゃないよね?
「凛さん、俺他に欲しいものあるんですけど聞いてくれますか?」
『いいけどそれって高かったりする?』
「どうですかね?」
『高かったら買えないよ?』
「買い物には行かなくて大丈夫です」
『それなら大丈夫かな?』
「俺全然相手にされてない自覚はあるんですけど凛さんが欲しいです」
買わなくていいってことは手作りで何か作れってことなのかなぁ?とかのほほんと考えてた。
本日三回目の衝撃が頭から爪先へと駆け抜けていく。
「凛さんが欲しい」とは?
「やっぱり全然気付いてなかったのかよ」
「みたいですね」
「及川さん達あれこれしてくれてたんですけどね」
「鈍感過ぎるべ」
思考回路がショートした私の後ろで秀達が好き勝手に話している。
あぁそう言えば卒業前に及川達があれこれしてくれてたなぁ。
あれは私のためとかじゃなくて秀のためだと思ってた。
松川とかにも「国見とかオススメだぞ」って言われたことあるや。
そうか全部が全部国見のためだったのか。
「俺も姉ちゃんのことは心配だったから最後の最後は国見の後押しすることに決めたってわけ」
「意外だったけどな」
「姉ちゃんはブラコンだけど俺はシスコンじゃねーし」
「二人ともここで喧嘩は止めてくださいよ」
「凛さん、別に今ここで返事をくれって言わないんでもう1つお願いしてもいいですか?」
『難しくない?』
「多分」
『一応聞いてみる』
「俺、2年後凛さんと同じ大学行きます。だからその時まで待っててくれませんか?」
『えっ』
「どうせ彼氏なんて出来ないだろうし予約しといてもらいなよ」
『秀なんてこと言うのさ』
「彼氏作る気でいたの?」
『それは違うけど』
「ほらね。俺もさ国見なら安心だし」
予約しといてもらいなとは?
え?なんか私が国見のこと好きみたいな流れになってない?
「姉ちゃん、不思議そうな顔してるけどさ多分国見のこと嫌いじゃないよ」
『それは当たり前だよ』
「そうじゃなくて姉ちゃんの中の恋愛的線引きの内側に国見は立ってるよって話な」
『は?』
「国見も不思議そうな顔すんなって」
「初耳です」
「多分俺しか分かんないもん」
恋愛的線引きなんて自分でも考えたことなかったのにどうしてそれを秀が別ってるのかさっぱりだった。
「とりあえずさ、国見のお願いは聞けそうなの?」
『う、うん』
「あざっす」
「良かったな国見」
「後は押すだけだべ」
何か秀達に押し通された気がする。
勢いでうんって言ってしまった。
でも国見に「凛さんが欲しい」「同じ大学行きます」って言われて全然嫌な気持ちじゃなかった。
むしろなんだか嬉しかったんだ。
その流れで国見とは大学に入ってもちょこちょこと連絡を取った。
一年過ぎた頃には秀より連絡回数が増えていた。
その一年後の国見の卒業式に及川や秀達を連れてお祝いに行った。
その時に改めて私からお付き合いを申し込んだ。
あの時の国見の顔は今でも忘れない。
驚いた後にとても良い笑顔で笑ってくれたんだ。
もうそれだけで充分なくらいに。
「凛さん」
『なぁに?』
「俺の願い事聞いてくれてありがとう」
『結局私から告白しちゃったしなぁ』
「あれは驚きました」
『秀が急かすから』
「矢巾さんって結局シスコンなとこありますよね?」
『ほんとにー?』
18歳の誕生日は二人でお祝いした。
この先もずっとずーっと誕生日を祝えますように。
2018年3月25日国見ハピバ!