「ねぇ、本当に先輩達にもチョコあげるの?」
『リョーマしつこいー。せっかく受験も終わって部活に来てくれるんだからあげるに決まってるでしょー』
「別にチョコじゃなくてもいいじゃん」
『もう決めたんだってば。キッチンに居られると邪魔だよ!』


さっきから口を開けばその話だ。
よっぽど私が先輩達にチョコを渡すのが嫌みたいだ。
隙を付いてはキッチンに顔を出してそうやって言ってくる。
菜々子さんが私達のやり取りを見てクスクスと笑っている。


「ヤキモチですねぇ」
「そんなんじゃ!ないし」
『えっヤキモチなの!?』
「違うし。カルピンと遊んでくる」


菜々子さんの言葉に二人して驚いたけどリョーマはさらりと否定して去っていった。
カルピンを探しに行ったのだろう。
そうだよねぇ、今更先輩達にヤキモチなんて無いよねぇ。


「凛さん、あれはきっとヤキモチですよ」
『えぇ、嘘だぁ』
「リョーマさん素直じゃ無いですから」
『それは間違いないですね』


越前家にお世話になり始めてから今年の春で四年になる。
父が南次郎さんと親友で仕事の関係でアフリカに赴任することになったのでここでお世話になることになったのだ。
リョーマとの最初の印象はお互いに「サイアク」だったのを覚えている。
顔を合わせたら口喧嘩してたもんなぁ。
それがいつの間にかお付き合いすることになるとは中1の時にはお互い絶対に思ってなかったと思う。


後は生チョコを冷やして朝にでも切り分けたら完璧でしょ。
ミルクチョコとホワイトチョコとイチゴの生チョコ。
皆、喜んでくれるといいなぁ。
そもそもリョーマはチョコ嫌いなんだから気にしなきゃいいのにね。


バレンタイン当日。
朝から早起きして生チョコを切り分けてラッピングしていく。
我ながら味も見た目も上出来だと思う。
それを相変わらず不機嫌な表情で見つめているリョーマ。
うーん、寝起きだから不機嫌ってわけでは無さそうだ。


「ねぇ、何でそんなに楽しそうなのさ」
『相手が喜んでくれるかなとか想像したら楽しくない?』
「リョーマ男の嫉妬は見苦しいぞ」
「はぁ?そんなんじゃないし」
『ちゃんとリョーマの分も用意したよ?』
「チョコ嫌いだし。俺、先に行くから」
『えっ!』


先に行くとか酷くない?
南次郎さんの言葉にイラッとしたのだろう。
さっさと朝食を終えると本当に先に行ってしまった。
どこまでワガママなのか。


「叔父様のせいですよ」
「アイツはほんっと誰に似たんだろうな!」
『南次郎さんでは無さそうですね』
「反面教師みたいなものなんでしょうねぇ」


南次郎さんが豪快に笑ってる横で菜々子さんが冷静に呟いていた。
うん、私もそれが正解だと思う。
しかしこの家は色々と寛大と言うか放任主義と言うか自由だなぁ。
普通だとそういうことにならない様にって言われそうなものなのにあっさり私達の関係に気付きあっさりと許されてしまったのだ。
「駄目って言った所でそーゆーのはとまるもんじゃねえからな」って南次郎さんがニヤニヤしてたのを思い出した。
あ、そろそろ行かないと朝練に遅れてしまう!


3年の先輩達はさすがに朝練には参加しないので2年と1年に終わってからチョレートを配る。
ほんっと細やかながらのチョコレートなんだけどみんな喜んでくれたから良かった。
100円のチョコなんだけどね。
新レギュラーの桃先輩と海堂先輩達には3年の先輩達と同じチョレートだ。
リョーマにはまだ渡してない。
と言うか家に置いてきた。
荷物増えるの嫌だしさ。


って言うかリョーマはどうやらまだ不機嫌みたいだ。
一切話しかけてこないし目すら合わない。
バレンタインのチョコくらいでこんなに機嫌が悪くなるとは思ってなかったよ。


放課後、後は残りのチョコを3年の先輩達に渡すだけで私のミッションは完了する。
一日あっという間だったなぁ。
部活が終わって先輩達へとチョコレートをお配りする。


『先輩方、1年間ありがとうございました』
「ヤッター!凛ちゃんからのチョコだ!」
「すまない椎名」
「こら英二はしゃぎすぎだよ。椎名さんありがとう」
「これは手作りなんだろうか?」
『違いますよ乾先輩。さすがに先輩方に手作りのチョコレートは渡せませんよ!』
「別に手作りでも良かったのにな」
『不二先輩!無理です無理です無理です!』
「椎名は相変わらず面白い反応をするね」
『河村先輩!不二先輩がからかってくるのが悪いんですよ!』
「そのチョコ旨かったっすよ!」
「桃もう食べたの?」
「朝練の時に貰ったんで。な!海堂!」
「お前と一緒に済んじゃねえ!」
「おチビー何でそんなにぽかんとした表情してんだよー」


相変わらず先輩達がいると賑やかだなぁ。
さくさくと先輩達にチョコをお渡しした。
菊丸先輩の言葉に私もリョーマのことを見ると確かに口が半開きだ。
不機嫌になってるかと思ったのにどうやら違うみたい。


「何でもないっす」
「あー凛ちゃんからのチョコ無いから拗ねてるんだろ!」
「違うっす。俺のは帰ってからなんで」


リョーマはハッとすると表情を引き締めた。
いつもの勝ち気な表情だ。
言葉に自信があるもんねぇ。
その一言のせいで桃先輩に髪の毛ぐしゃぐしゃにされてるけど。


「桃先輩止めてくださいって。凛、そろそろ帰るよ」
『はーい』
「んじゃ越前、椎名また明日なー!」
『桃先輩海堂先輩また明日ー!』
「ういーっす」
「凛ちゃんありがとねー」
『先輩達もまた暇だったら遊びに来てくださいねー!』


リョーマがさっさと部室を出ていくからその背中を追っかけた。
朝とは大違いだ。


「ねぇ、昨日作ってたチョコは誰にあげたのさ」
『あれは桜乃とか朋ちゃんとか友達用だよ』
「へぇ、そうだったんだ」
『え?何で?』
「別に。最初からそう言っておけば良かったのに」
『聞かなかったじゃん』
「あの流れだったら先輩達にあげるやつだと思うでしょ」


あぁ、そういうこと?
手作りをあげると思ったから不機嫌だったのか。
それが実際は市販のやつだったからあんな間抜けな顔をしてたわけね。


『やっぱり菜々子さんの言う通りヤキモチだったんじゃん』
「別に」
『照れるなよー』
「照れてないし」


リョーマをからかいながら帰宅する。
私の言うことに全部言い返してくるリョーマ面白いなぁ。
帰って制服から着替えるとリョーマ用のチョコ代わりになるプレゼントを持ってリョーマの部屋へと向かう。


『リョーマー入るよー』
「別にいいけどノックして直ぐにドア開けるならノックの意味無いよね」
『一応礼儀として必要なんじゃないかと』
「凛ならいいけどさ」


リョーマも既に私服に着替えていてこないだ発売されたゲームをしている。
それやるなら私も誘ってよ!


『ワールド楽しい?』
「ぼちぼちかな」
『私も一緒にやりたいし!』
「自分の部屋に戻れば?」
『それがつまんないんだよねー』
「じゃあここにテレビとPS4持ってくれば?」
『あ!それいいね!』


リョーマの提案に乗ることにした。
オープンワールドの世界観は素敵だけど隣で出来ないってのはイマイチだったのだ。
リョーマの提案に自室のテレビとPS4を移動させることにした。


『これで一緒にモンハン出来るねー』
「凛、大事なこと忘れてるよね?」
『何が?』
「俺のバレンタインは?」
『あ!』


よしこれでリョーマと狩りに行けるぞって張り切ってたのに話が脱線した。
と言うか当初の目的を思い出した。
そうだ!まだ肝心なもの渡してない!
私の反応にリョーマは喉を鳴らして笑っている。


『そうだよ!忘れてたし!』
「ワールドのが俺より大事なんだね」
『リョーマとワールド一緒にやりたかっただけだし』
「あっそ」


またひねくれたことを言ってー!
一緒にやりたかったんだから仕方無いでしょ!
そうやって反論してみれば少しだけ照れた様に返事をしてきた。
耳が赤いよリョーマ。
とりあえずリョーマのために用意したお煎餅の詰合せを渡す。


『はい!お待たせ』
「待ってないし。凛が忘れてたんじゃん」
『開けて開けてー』


ラッピングしてあるからまだ中身は分かんないよね。
それを丁寧に開封していく。


『凄い凄い?』
「よくこんなに集めたね」
『えびせん草加煎餅塗れ煎餅片っ端から集めてみたよ!』
「しかももしかして全部バレンタイン仕様なの?」
『そうそう!全部ハート型なの!』
「へぇ、やるじゃん」
『嬉しい?ねえねえ嬉しい?』
「まぁ少しはね」


返事は可愛く無いけどお煎餅の詰合せをあれこれ見ながら表情は嬉しそうなので良しとしよう。
それからファンタグレープを持ってきて二人でモンハンに夢中になった。
夕飯を食べてお風呂に入ってそれからもモンハンを二人で楽しんだ。


『あれ?寝てた?』
「狩りの最中で寝落ちするのほんと迷惑なんだけど」
『ごめん』


気付いたらリョーマのベッドの上だ。
寝る前は普通に座ってた気がするからリョーマがきっと運んでくれたんだろう。
リョーマはちょうどモンハンを終わらせた所だった。


「凛、ちょっと詰めて」
『部屋に戻るよ私』
「別にいいじゃん、ほら」
『これ怒られない?』
「別に大丈夫でしょ。さっきも夜更かしはするなよって言って戻ってったし」
『放任だなぁ』


まぁ今から自分の部屋に戻るのも確かに面倒だ。
眠いしね。壁側にずれるとリョーマが隣に入ってきた。


「凛、バレンタインサンキュ」
『リョーマのためだし』
「朝はゴメン」
『気にしてないさ』
「ん、ならいいや」
『おやすみ』
「オヤスミ」


睡魔が限界だったのでそのまま直ぐに寝れた気がする。
うーん、緊張感も何にも無いよね私達。
次の日起こしにきた倫子さんには朝から怒られたけども。
夜更かしはするなよって注意してったのは南次郎さんだったらしい。
さすがに倫子さんは怒るか。


「責任は取るからいいでしょ」


って倫子さんにぼそりと呟いたリョーマにバレない様に笑ってしまったのは内緒の話。
南次郎さんは反面教師だと思ってたけど似てるとこもありそうだなやっぱり。


京様リクエスト。
あんまり甘くならなかった気がする。
リョーマの甘難しいなぁ。
リクエストありがとうございました!

Japanese cracker night

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