『堅治、チョコレートだよー』
「いらね」
『はぁ?』
「甘ったるいし」
『だからねちゃんと』
「とにかくチョコは俺いらないから」


朝イチ、練習終わった堅治を捕まえてチョコレートを渡そうとしたらまさかの拒否をされました。
どうしてだろう?ちゃんと堅治のためにあんまり甘ったるくしないようにってオランジェットを作ったのにな。
中身を確認するでもなく即許否されてしまった。
私最近堅治のこと怒らせる様なことしたっけ?
多分してないはずだ。


せっかく朝練終わるの待ち伏せていたのに堅治の姿は既に無い。
え、私って彼女だったよね?


「すみません、昨日からずっとあぁです」
『青根?昨日から機嫌が悪いの?』
「昨日の朝練は普通だった」
『分かった。教えてくれてありがとう』


私の言葉に頷いてくれたので堅治のためのオランジェットをお礼に青根へと渡しておいた。
かなり激しく遠慮されたもののその後に出てきた元気な1年生に『皆で食べてね』と伝えたら大喜びで受け取って貰えたのでまぁいいだろう。


しかし堅治は何に怒ってるんだろう?
昨日は会ってないから全く予測が付かなかった。
クラスが違うと不便だよね本当に。


「椎名、昨日の話なんだが」
『んーまだちょっと考えたいんですけど』
「後一年しかないから早めに志望校絞ってかないとあっという間だぞ」
『そうなんですけど…』
「とりあえず何校かピックアップしておけよ」
『分かりました』


昨日の今日で志望校を絞れって言われてもねぇ。
バレンタインで頭がいっぱいだったよ先生。
堅治のこともあるしなぁ。
考えなきゃいけないことだらけだよほんとに。


お昼ご飯にでも堅治の機嫌を伺いに行かなきゃな。
ちゃんといつも通りお弁当も作ったしなんならバレンタイン仕様だ。


「いらない」
『え?』
「今日は弁当もいらない」
『何で?』
「お前さ」
『うん』
「やっぱいいわ」
『堅治、何かあったの?』
「何も」


その素っ気ない態度は何もなかったなんて言えないと思うんだけど。
お弁当までいらないだなんてかなり重症だ。
せっかく堅治のために早起きして作ったのに。
いつもより可愛くしてみたのに。
こっちのそういう気持ち考えないでそういう態度を取るならば仕方無い。
私もそういう態度を取るしかない。


結局お弁当は購買で遭遇した鎌先さんへと押し付けた。
堅治の彼女ってことで面識はあったから受け取って貰えて良かった。
喧嘩しましたって伝えたらギョッとしてたけど。


そのまま私達の関係は曖昧なまま自然消滅した形で終わってしまった。
私も堅治も歩み寄ることをお互いにしなかったのだ。
3年生が卒業し春になってあっという間に一年が過ぎた。


私は志望校の大学を一校に絞りその大学に合格することが出来た。
春からは東京で一人暮らしだ。
一年もたてば堅治のことを考えることも減った様に感じる。
どうしてこんな風になっちゃったんだろう?


卒業式が終わって友達とも別れて私は一人教室に残っていた。
ただなんとなく離れれなくて教室の窓から外でわいわいしている卒業生達を眺めていた。


「青根!離せって!」


廊下からそんな声が聞こえる。
これは懐かしい。堅治の声だ。
青根と何をしてるんだろう?
そんなことを思ってたらガラガラと私の教室の戸が開いた。


「青根!離せって」
「ちゃんと話すべき」
『二人ともどうしたの?』
「二口、最後だぞ」
「チッ、お節介しやがって」
『あの』
「二口の話聞いてあげて」
『うん、分かった』


それだけ青根は言うと二口の肩を叩いて去っていった。
話を聞いてとは?何だろう?


『堅治?』
「あー何か久々だよな」
『そうだね。去年のバレンタイン以来だね』


私は窓際で視線を外へと戻した。
堅治を見たまま話すのは何だか気恥ずかしかったのだ。
後ろで椅子を引く音がしたから堅治がそこら辺の席に座ったのだろう。


「凛、大学って東京のやつに決まったのか?」
『うん、そうだね』
「なら、良かったな」
『え?』


良かったってどういうことなんだろう?
堅治の言葉に驚いて振り向いてしまった。
堅治の表情は何故かとても穏やかだ。


『良かったってどういうこと?』
「お前さ、去年のバレンタインの前日に進路のことで担任と話してただろ。で、東京の大学に行くかで揉めてたよな?俺それたまたま聞いてたんだよ」
『それって』
「俺が聞いても良い条件だと思ったんだよな。このまま頑張ったら推薦も取れるって。でもお前さすげー迷ってただろ」
『確かにそうだけど』
「俺が居たからだろ?」
『え』
「俺は県外に出る予定全く無かったからさ」


もしかして、堅治は私のためにあんな態度を取ったの?


『じゃあバレンタインのも』
「全部わざとだったな」
『馬鹿じゃないの』
「なんだよ、お前のためだったんだぞ」
『そんなの全然嬉しくないでしょ』
「泣くなよ」
『泣いてないし!』
「いや涙出てるぞお前」
『これは鼻水だし!』


全部わざとだったとか堅治ほんと馬鹿過ぎるよ。
だったら嫌われて自然消滅とかの方がまだ良かったよ。
堅治の言葉にじわじわ涙が滲む。


『そんなこと今更言われても酷いよ』
「青根が話せって言うから」
『まだ好きなのにそんなこと言われたら困るじゃんか』
「あぁ、そっか」
『何』
「俺、別れるって言ってないよな」
『自然消滅したじゃん』
「凛の受験のために距離置いただけだし」
『遠距離になるよ』
「俺のこと好きなんだろ?」
『まぁ』
「俺もまだお前のこと好きだし遠距離でも大丈夫だろ」


なんだよ堅治、いきなり思い付いたみたいに言わないでよ。
しかも何でそんなに嬉しそうなのさ。
堅治が立ち上がってこちらへと近付いてくる。
相変わらず大きいなぁ。
私の腕を引くから抵抗せずに大人しくしてたら堅治が抱きしめてきた。
その背中にそっと腕を回す。
堅治の心臓の音が聞こえるみたいだ。


「相変わらず良い匂いすんな」
『髪の毛の匂い嗅がないでよ』
「ちゃんとさ、お前の人生大事にしてほしかったんだよ」
『馬鹿じゃないの。堅治が居ないと意味無いし』
「ん、俺もそれこの1年で感じたわ」
『ちゃんと遊びに来てよ』
「東京なんて考えてみりゃそんな遠く無いもんな」
『そうだよ』


この一年色々大変だったけどまさか堅治が私のこと考えてくれてたとはなぁ。
思い付かなかったなぁ。
そのおかげで東京の大学を選べたんだけどさ。
最終的に丸く収まったのならいいのかな。


『チョコもお弁当も無駄になったの思い出した』
「あれ?ちゃんと食ったぞ」
『は?』
「チョコは黄金川に返して貰ったし弁当は鎌先さんが俺んとこ持ってきた」
『そうなの?』
「お前がちゃんと食えってさ」


まさか両方ともちゃんと食べてるとは。
堅治はほんと馬鹿だ。
それなら普通に東京の大学行くの付き合ったまま応援してくれたら良かったのにね。


『鎌先さん良い先輩だね』
「あの弁当が可愛すぎて食えなかったって言ってたぞ」
『あぁ。免疫なさそうだもんね』
「筋肉の塊だからなぁ」


堅治が馬鹿なのは鎌先さん譲りなのかもしれない。
でもいいか。他に彼女も作らず一年間私のことを好きでいてくれたんだから。
一年萎んでいた気持ちが上向きになれた様な気がした。


よる様リクエスト。
二口君で切甘。
ありがとうございました!

CryLieRise

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