『衛輔!何で教えてくれなかったのさ!』
「何が?」
『黒尾の誕生日だよ!』
「俺も忘れてたからわりぃな」
『その顔、絶対にわざとじゃんかぁぁぁ!』


私は今、猛烈に凹んでいる。
今日はどうやら黒尾の誕生日だったらしいのだ。
衛輔は双子の弟でバレー部でリベロをしている。
私はと言うとバレー部の副主将の海と同じクラスで吹奏楽部の元部長だった。
黒尾とは2年の終わりの部活の部長会議で初めて知り合った。
それから部長会議で会った時に話したり、海や衛輔を通して話したりでそこそこ仲良くしてたと思う。
今じゃ完全に片想いだ。


衛輔より部活を先に引退した私はバレー部の面々と一緒に帰ることが減った。
どうやらバレー部は春校に向けて連日連夜練習を頑張ってるらしい。
私はと言うと吹奏楽の強い大学に行きたくて勉強を連日連夜頑張っている。
今日は友達とたまには学校で勉強しようってことで帰りが遅くなったのだ。


「久しぶりー」
『黒尾、久しぶりだねぇ』
「凛ちゃん、俺に何か言うことないの?」
『ん?あ、何か今日荷物多い?』
「マジか」
「凛さん、クロ今日誕生日だったんだよ」
『えっ!ごめん!全然知らなかったの。おめでとう黒尾!』
「ん、サンキュ」


久しぶりにバレー部のみんなと帰れることに浮かれて何で黒尾の荷物がいつもより多いかとか全然気にしてなかった。
最近は衛輔のクラスに遊びに行くことも減ったもんなぁ。
私が黒尾の誕生日を知らなかったことに彼は一瞬傷付いたような表情をした気がする。
研磨君に教えて貰って慌てておめでとうを伝えたら笑ってくれたけども。けども!


衛輔は私の気持ちを知ってるはずなのに教えてくれなかったとか酷い!
帰ってから私の抗議をベッドに寝そべって聞き流しているこの双子の弟が小憎らしい。
なんだっていつも邪魔するのさ!


『もう衛輔なんて知らないんだからぁぁぁ!』
「おいちょっと待てって」


後ろから引き止める声がしたけどもう知らないもんね。
バタン!と衛輔の部屋のドアを乱暴に閉めて自室へと戻った。


「凛、夜久と喧嘩したって本当に?」
『衛輔が悪いよ。黒尾の誕生日知ってて黙ってたとか』
「朝練で落ち込んでたよあいつ」
『知らん。あ、これ衛輔のお弁当。海から渡しておいて』
「それはいいけどさ。あいつシスコン拗らせてるから許してあげなよ」
『やーだー』


次の日の朝、朝練を終えて教室へとやってきた海が真っ先に話しかけてきた。
知らんものは知らん。落ち込むくらいならちゃんと黒尾の誕生日教えてくれたら良かったのに。
衛輔のお弁当を海へと押し付けた。
海は私の態度に苦笑いだ。


『シスコンシスコン言うけど衛輔は彼女いるじゃん。ズルい』
「別に凛に彼氏が出来るのを反対してるんじゃないと思うよ」
『黒尾のことに関してはなーんにもしてくれないよ。何なら邪魔ばっかりするんだもん』
「まぁそれは面白くないからなぁ」
『何が?』
「いや、こっちの話」


そう言って海は何故だか穏やかに笑みを浮かべた。
そうやっていつも達観して分かってるかのように微笑んでるのズルい。
その癖、肝心なことは何にも教えてくれないし。
あぁもうどうしようかな。
一日遅れで用意した誕生日プレゼント。甘いのが苦手だった気がするから甘さ控えめに作ったジンジャークッキー。
5組には衛輔がいるから行きたくない。
かと言ってバレー部にだって衛輔はいるわけで。
あぁもう!何処で渡したらいいのさ!


「で、俺の所にきたの?」
『うん、ごめんね研磨君』


悩みに悩んだ末に私は黒尾の幼馴染みのクラスへと休み時間に足を運んだ。
海は相談してもニコニコ顔で肝心の答えは出してくれそうになかったし。


「別に普通にクロのとこ行って渡せばいいと思うよ」
『一日遅れなんだもん』
「クロはそういうの気にしないよ」
『誕生日知らなかったのに慌てて用意したとか恥ずかしくない?』
「実際に用意したんでしょ?」
『そうだけど』
「夜久君と仲直りすればいいんじゃないの?」
『それは嫌だ』


何を言っても無理だ嫌だと言う私に研磨君は呆れた様に溜め息を吐いた。


「凛さんが無理なら仕方無いけどさクロモテるんだからね」
『えっ!』
「頑張らないと取られちゃうよ」


そこでチャイムが鳴って私は研磨君に教室から追い出された。
研磨君の言葉が頭で反響する。


「頑張らないと取られちゃうよ」


頑張らないとって私はこれ以上どうやって頑張ればいいんだろうか。


あれよあれよと放課後で私はまだ誕生日プレゼントを渡せずにいた。
どうしよう。とりあえず部活は始まっちゃうし教室で勉強でもしようかな?


「凛、帰らないの?」
『うん、今日も学校で勉強してく』
「分かった」
『海は部活頑張ってね』
「ありがとう。じゃあまた明日ね」
『またねー』


海を部活へと見送る。
さて今日は英語から始めようかな。


カリカリとシャープペンシルの音だけが教室へと響く。
静かだなぁ。今日はみんな切り上げるのが早くてさっさと帰ってしまった。


「お、凛ちゃん発見ー」
『黒尾?』


ガラッと教室の扉が開いて自分を呼ぶ声が聞こえたのでそちらへと視線を向けると黒尾が居た。
バレー部の赤ジャージ姿。久しぶりに見たなぁ。


「勉強進んでる?」
『ぼちぼち。部活はどうしたの?』
「今日さ、監督もコーチも居ないから自主練なんだよね」
『黒尾は?いいの?』


私に用事でもあるんだろうか?
教室の中へと入って来ると私の前の席へと座ってこちらを向く。


「やっくんと仲直りとかー」
『致しません』
「ぶひゃひゃ!それドラマの台詞じゃん!」
『一回使って見たかったの』


なんだ、黒尾まで喧嘩の仲裁にきたのか。それにムッとして黒尾から視線を外しノートへと戻した。
みーんな衛輔のことばっかりだもんな。
黒尾と二人きりだけど何かそれにイライラして勉強を続けることにした。


「凛ちゃん」
『致しません』
「まだ俺何にも言ってないよ」
『衛輔が悪いんだもん』
「何があったの?」


黒尾が何があったの?とか聞いちゃうから私のイライラは頂点へと達した。
何で黒尾がそんなこと聞いちゃうかなぁ。


『衛輔はねいーっつも人の恋路の邪魔をするんだよ。自分はちゃっかり彼女がいるのにさ!昨日だって黒尾の誕生日なのにさ全然教えてくれなくてさ。私知ってたら絶対にお祝いしたかったのに!そういうのも全部教えてくんないんだよ!謝ってもくれないしさ。今日だってクッキー焼いてきたけど衛輔のせいで渡しに行くタイミングなくてさ!』


本当に衛輔ってズルい。
そう吐き捨てて英語の勉強を続ける。


カリカリ


カリカリ


あぁもうまたこの文法間違えたし!


カリカリ


この単語の意味もいつも間違えるから要注意と。


カリカリ


あれ?黒尾から返答がない?


カリカリ


……………


私さっき黒尾に向かって何て言った!?


慌てて顔をあげるとそこには見たこともないくらい顔を赤くしている黒尾がいた。
耳まで真っ赤になっている。
えぇと、私さっき多分遠回しに黒尾のこと好きみたいなことを言ったような気がしなくも、ない。
黒尾の顔が赤いのが伝染したみたいにじわじわと自分の体温が上がってくるのが分かる。
どうしよう、あんなこと言うつもりではなかったのだ。


『くろ、お?』
「えぇと、それって凛ちゃんは俺のこと好きって解釈していいんだよね?」


照れたように黒尾がぽつりと漏らす。
私はそれに対して返事が出来ないでいる。
どうしよう。こんなこと言うつもりは全くなかったのだ。


「凛ちゃん?違うなら違うって言ってくれないと俺勘違いしちゃうよ」
『うん、勘違いしてくれていいよ。それで合ってる』


辛うじて黒尾の問いに返事をすると彼は見たことないような嬉しそうな顔をして笑った。
こんな顔もするんだなぁ。
ふと視線が交錯する。つい見とれてしまっていたようだ。


「凛ちゃん俺ね一目惚れだったの」
『え?』
「2年の終わりの部長会議で」
『あぁ』
「あの時はまだ名前もしらなくてさ。」
『私、衛輔の部活に全く興味なかったからなぁ』
「二度目の部長会議で隣の席になって名前を聞いてかなりびっくりした」
『うん、みんな最初はびっくりするよね』


衛輔とは仲良しだとは思うけど高校はクラスが同じになることがなかったから私達が双子なのを知ってるのは同じ中学のこか私達二人と同じクラスになったことがある人間だけだ。
名字が珍しいからね。
衛輔は私が学校で話しかけられるのを好きじゃないから近寄って来なかったし。


そこから黒尾と仲良くなって3年になって黒尾と衛輔が同じクラスになって私が海と同じクラスになったことからよく衛輔とも学校で話すようになったんだ。
黒尾目当てだったの最初から知ってたから衛輔はあんまり良い顔しなかったけど。


『ん?それって』
「だからね俺も凛ちゃんのこと好きなの」
『え?』
「夜久は知ってたんだけどなぁ」
『え?衛輔は私の気持ちも知ってたよ!』


あのやろう!私と黒尾の気持ち知っててお互いに黙ってたとかズルい!


「まぁやっくんはシスコン拗らせてるからね」
『言ってくれたら良かったのに』
「まぁでもそれで拗れることもあるからなぁ。俺は直接聞けて嬉しかったけど?」


黒尾はいつの間にかいつものような飄々とした感じに戻っていた。
もう少しさっきの顔見てたかったのに。


『うん』
「誕生日プレゼントちょうだい」
『大したものじゃないんだけど』
「クッキー焼いてくれたんでしょ?」
『どうぞ。一日遅れてごめんなさい』
「どうも」


催促されたので鞄からラッピングしたジンジャークッキーを取り出して黒尾に手渡した。
両手で大事そうに受け取ってくれる。


「でね、凛ちゃん」
『何ですか?』
「何で敬語なの?」
『何となく』
「やっくんと仲直りしてくれませんか?」
『えぇ。落ち込んでるくらいならいいじゃん』
「それがですね、リエーフがスイッチを入れちゃいまして」
『あ、シスコンとか言ったんでしょ』
「そうなりますね」
『衛輔は身長のこととシスコンだって言われると怒るからなぁ』
「どこからどうみてもシスコンなんだけどな」
『灰羽君って学ばないよね』
「言いたいこと言っちゃうからなあいつー」
『それで練習にならないと』
「いや練習にはなるけどこのままだと後輩達に死人が出るかも」
『スパルタなわけね。分かった、体育館に行こうか』
「ありがとな」


頬杖を付いて仕方無く返事をすると黒尾は私の頭をよしよしと撫でてくくれる。
えぇと、ちょっとそういうの恥ずかしいんですけど。


「凛ちゃん顔真っ赤ですよ」
『黒尾だってさっき顔耳まで真っ赤だったし』
「嬉しかったからさ」
『そうやって言うのズルい』


参考書とノートを鞄に閉まって黒尾と体育館へと向かう。
体育館の外からでも衛輔の怒鳴り声が聞こえて思わず苦笑いが漏れた。お怒りだなぁ。
黒尾はちゃっかり私の右手を握っている。
これ衛輔結局怒らないかな?


『衛輔ー!仲直りしにきたよー!』


二人でひょっこりと体育館の中を覗く。
衛輔は予測通り灰羽君にレシーブ練をさせてる最中だ。その背中に大声で話しかけた。


「凛?」


振り向いて私の姿を視界に捉えると持ってたバレーボールを放り投げこちらへと歩いてくる。
嬉しそうな顔してるなぁ。


「げ、お前!黒尾何やってんだ!」
「ん?凛ちゃんと手繋いでんの」
「離せよ!」
「やーだーね」


近くに来てやっと私の隣の黒尾を認識したんだろう。
繋がる手に顔をイラッとさせる。
ほんっとにシスコンだなぁ。


『衛輔、駄目だよ』
「は?」
「俺達付き合うことになりましたから」
『そういうことなので』
「はぁぁぁぁ?黒尾だけは絶対に許さねぇし!」
『衛輔に許可貰う必要ないもん』
「やっくん、これから宜しくね」
「黒尾だけは嫌だったのに」
「いつでもお兄ちゃんって呼んでいいからさ」
「呼ぶか!」
『仲直りしてくれる?』
「おう。お前とはな!」
『黒尾とも仲良くしてね』
「な!」
『ちゃんとバレーの応援行くから』
「……分かった」


魔法の言葉を使ってみた。
今までバレーと応援は行ったことがなかったのだ。
黒尾のことは好きだったけどスポーツ観戦に興味はなかったから。
衛輔にどんだけ頼まれても行ったことはなかった。
その魔法の言葉を使ってみたら効き目はばっちりであっさりと私達の付き合いは許可された。
渋々だったけど。


衛輔との喧嘩のおかげで黒尾と付き合えることが出来たのだからそこは感謝しておこう。



「なぁ、こないだ凛がさー可愛くてさぁ」
「凛はいつでも可愛いぞ」
「やっくん、姉離れそろそろしなよ」
「お前が彼氏のうちはぜってぇしねぇ」


「衛輔!こないだ黒尾がね!カッコよくてね!」
「あー分かった。分かったから」


だからこいつらがくっつくの嫌だったんだよ!
学校でも部活でもうちでも惚気話だぞ!
勘弁しろよ!


11月17日クロHAPPYBIRTHDAY!!!
一日遅れてごめんよ!

スターチスを君に

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