只今夏休み真最中。
木兎光太郎は朝から途方に暮れた。
九州の親戚のうちで不幸が有ったらしくそれに両親共々向かうと言うのだ。
彼一人ならば何も問題は無い。
タイミング良く今日からバレー部の合宿だ。
ただ1つだけ問題があった。
小学校1年生になる彼の妹だ。


「だからね飛行機がどうしても凛の分は取れなかったのよ」
「俺合宿で一週間泊まりだよ!」
「だから監督の先生に電話でお願いしたって言ったじゃないの」
「光太郎、凛の面倒ちゃんと見てやれよ」
「光ちゃんなら大丈夫だから!頼んだわよ!」


彼とその妹の意見を無視して両親は慌ただしく家を飛び出して行った。
残されたのは木兎光太郎とその妹だ。


「凛に説明もしねーでうちを出るとかどーすんだよ。説明から俺がするしかないのか?」


彼が何故ここまで頭を抱えているかと言うと原因はその妹にある。
彼とそっくりな容姿に対して中身は真逆なのだ。
人見知りな上に内気な妹を連れて一週間合宿を乗りきれるか彼は不安だった。


「とりあえず凛を起こすかな。泊まりの準備だけはしてってくれたから良かったよなぁ」


かと言って彼は基本楽観的である。
先程感じた不安もどうにかなるだろうと直ぐに追いやってしまった。
二階への階段を上がり妹を起こしに向かう。


「凛、おーきーろー!朝だぞ」
『光ちゃん?おはよー』
「ん、おはよー」
『ママは?』
「二人ともちょっと出掛けたぞ」
『どこに?』
「九州?だっけな?」
『どこにあるの?』
「遠いとこだぞ」
『いつ帰ってくるの?』
「一週間後だな」
『凛も光ちゃんも置いてかれた?』
「凛のことは連れてきたかったんだけど飛行機が取れなかったんだって」
『凛まで行ったら光ちゃん一人になっちゃうもんね』
「おう、そうだな」
『じゃあ凛ちゃんと光ちゃんとお留守番する』
「凛は良いこだな」
『うん』
「でな、俺は今日から合宿なんだよ」
『凛一人で留守電するの?』
「凛のこと置いてくわけないだろー。俺と一緒に合宿参加すんの!」


彼の妹の凛は寝起きが良い。
光太郎に起こされて直ぐに目を覚ました。
それからきょとんとしながらも両親が居ない説明を受ける。
よく分かってはなさそうだったが彼女なりに納得した様だった。
しかし続く合宿の言葉に表情を曇らせる。
人見知りで内気な凛だ。
知らない人が大勢いる所に行くことに抵抗があるのだろう。


『怖い人いる?』
「俺がいるから大丈夫だからそんな心配すんな!」
『分かった。準備する』
「俺先に朝メシ食ってるからな!泊まりの準備はもうしてあるから」
『はーい』


自分の兄が少しだけ頼りないことを彼女は知っている。
しかし一人で留守電する訳にも行かないことも分かっていた。
渋々返事をして準備することにした様だ。


「凛!大丈夫か?」
『うん、大丈夫だよ』
「バスでそのまま埼玉に行くからな」
『埼玉?』
「バスで一時間くらいだから」
『分かった』


凛の手を引いて光太郎が梟谷学園の校門を通り過ぎる。
入って直ぐ右に行けば体育館があるのだ。
既に二人以外の部員は揃ってる様だった。


「おー!遅れてすまーん!」
「木兎遅いよ!遅刻もいいとこ!」
「部室の鍵早く貸せって!持ってくもんあるんだよ!」
「悪かったって!投げるぞ木葉!」


光太郎が投げた鍵を木葉が受け取って猿杙と部室へと走って行った。
そして他の部員達がやっと光太郎の後ろにくっついている小さな女の子に気づいた。


「木兎、その子が妹さん?」
「あ、もう話聞いてんだな」
「木兎さんが遅刻するの珍しいですからね」
「きゃー!木兎にそっくり!」
「わ!本当に木兎にそっくりだね〜」
「可愛いな。ミニ木兎」
「はいはい、お前らストーップ!」
「何だよ木兎」
「木兎って意外とシスコンなの?」
「妹ちゃんと仲良くならせてよ」
「先輩方、多分木兎さんの妹さんは見た目そっくりですけど性格が真逆みたいですよ」
「えぇ!?」
「嘘でしょー?」
「木兎に似てたらこの時点で挨拶してるな」
「さすがあかぁーし!凛は人見知りだからビビらせたりすんなよ!」


戻ってきた木葉と猿杙も交えて光太郎の台詞を聞いた部員全員が自分の耳を疑った。
この兄が居て人見知りになる妹が信じられなかったのであろう。


「凛、顔が怖い人も何人かいるけど中身は怖くないからな。ちゃんと挨拶しろ」
『ほんとに怖くない?』
「俺が嘘ついたことあったか?」
『無い』


光太郎が未だに自分の後ろに引っ付いている凛に挨拶を促した。
頭をぽんぽんと安心させるように撫でた所でやっと凛は顔を覗かせた。
兄とそっくりなその顔に突っ込みたくなるのを赤葦以外全員が堪えている。
監督とコーチまでもだ。


『木兎凛です。小学校1年生です。今日から宜しくお願いします』


小さな声で挨拶をすると恥ずかしそうにペコリと頭を下げた。
光太郎以外の一同全員がその可愛らしい仕種に射ぬかれた様だ。


自己紹介はバスの中でしろとの監督の言葉でバスに乗り込むことにした。
光太郎と凛の遅刻が原因で時間が押しているのだ。


「木兎、最初は私達と馴染ませるのがいいと思うんだけど」
「あー確かにそうだな!」
「その後に監督とコーチね」
「練習中は俺面倒見てやれねえもんな」
「とりあえず一番後ろにでも座ろうか〜」
「おー。凛行くぞ」


白福の言葉に光太郎が頷いて最初にバスへと乗っていく。
その後をぴったりと凛が続いていく。


「木兎にべったりだね凛ちゃん」
「可愛いよね〜」
「俺達とも仲良くしてくれるかな?」
「鷲尾はちょっと分かんないけど他は大丈夫じゃない?」
「おい雀田!」
「まぁ鷲尾は顔がなー」
「ちょっと妹さんには怖いかもしれないですね」
「赤葦、お前たまーに辛辣なこと言うよな」
「ドンマイ鷲尾」
「木葉だって目付き悪いから怖がられるかもしれないだろ」
「お前の顔付きよりはましだろ」
「はいはい、そこでドングリの背比べを始めない!」
「さっさと乗らないと向こうに着くのも遅刻しちゃうよ〜」


白福の言葉を引き金に全員が我に返りさっさとバスへと乗り込んで行った。
一番後ろの席の窓側に凛が座っている。その隣が光太郎だ。
その反対側の窓側に雀田白福の順番に座って全員が揃った所でバスが出発した。


「凛、このおねーさん二人がうちのマネージャーな」
『マネージャー?』
「バレーに集中するために色々手伝ってくれる人な」
『うん』
「俺試合の時は凛と居てやれないからその時は大人しくちゃんと応援しててな」
『分かった』
「んでこっちが白福雪絵な」
「宜しくね〜」
『雪ちゃん?』
「雪ちゃんて呼んでくれるの〜?」
『うん、雪ちゃん』
「ありがとね、嬉しい」
「んでその隣が雀田かおりな」
「凛ちゃん仲良くしてね」
『かおちゃん?』
「ちょっと気恥ずかしいけど凛ちゃんだけは許しちゃうね」
「ちゃんと覚えたか?」
『うん、雪ちゃんとかおちゃん』


二人の名前と顔をして一致させる様に凛がゆっくりと呟いた。
相変わらず光太郎に少しだけ隠れているもののマネージャー二人とは目を合わせることが出来た様だ。
その様子に白福と雀田もホッと胸を撫で下ろした。


その後は監督とコーチだ。
マネージャー二人程スムーズには行かなかったがどうやら二人もちゃんと覚えれられた様だ。
その後からが至難だった。
凛が大人だと認識した監督とコーチのことは比較的直ぐに受け入れたのだがマネージャー以外の部員には人見知りが激しく発動したのだ。


「んじゃ凛次行くぞー」
「誰から行くー?」
「赤葦からじゃねえの?」
「赤葦は表情が乏しいから駄目」
「雀田先輩聞こえてますよ」
「だってアンタ小さい子に愛想を振りまくタイプには見えないから」
「間違っては無いですね」
「凛ちゃん〜ポッキー食べる〜?」
『ポッキー食べたい』
「イチゴとチョコレートどっちがいい〜?」
『んーイチゴ!』
「はい、どうぞ〜」
『雪ちゃんありがとう』
「どういたしまして。凛ちゃんはイチゴ好きなの?」
『ムグムグ、はい大好きです』


雀田と赤葦のやり取りを聞いても居ないのか凛と白福はのほほんとイチゴ味のお菓子について会話をしている。
いくつになっても女子は甘いものが好きなんだろう。
それは7歳も18歳も変わらない。


「じゃあ小見からかなー?」
「小見やんなら大丈夫かもな!」
「小見ー」
「俺からかよ!?」
「大丈夫大丈夫ー」
「凛ちゃん、後6人だけ覚えれるかな?」
『頑張る』
「おー。俺のチームメイトだからちゃんと覚えろよ!」
『うん』


その数十秒後、頑張るとは一体何だったのかとマネージャーと光太郎は頭を悩ませることになる。


「凛、小見やんだぞ!」
『う』
「木兎、無理させんなって」
「そうだよ木兎」
「凛ちゃん、小見は怖くないよ〜」
『……』


小見がバスの一番後ろの真ん中の席へと移動してからあからさまに凛の態度が変わった。
光太郎の影に隠れて出て来ないのだ。
仲良くなったマネージャーが話しかけても出て来ようとしない。
そのまま五分が経過し四人ともどうしようかと頭を悩ませた所で白福が動いた。
小見にイチゴ味のチョコレートをそっと手渡したのだ。
そのまま他の五人にもそれぞれ違う種類のイチゴ味のお菓子を配っていく。


「凛ちゃん、小見がイチゴのチョコレートくれるって」
『イチゴ?』


全員に配り終わって座席へと帰ってくると凛へと優しく話しかけた。
人見知りの小学生と仲良くなるには名案だろう。
凛がやっと光太郎の影から顔を出したのだ。
それも一瞬で小見と目が合うと再び隠れてしまう。


「凛、チョコレート貰わないなら俺が小見やんから貰っちゃうぞ」
『…たい。』
「ん?聞こえないぞ」
『チョコレート食べたい』
「チョコレート貰ったら小見と仲良くするんだぞ」
『小見…小見?』
「小見春樹だぞ」
「木兎俺の名前知ってたんだな」
「私もちょっとびっくりした〜」
「俺だって一応主将だぞ!」
「一応って自分で言っちゃうんだ」
『春ちゃん?』
「凛の呼びやすい様に呼べば大丈夫だぞ」
「イチゴのチョコレート食べるか?」
『うん、春ちゃんありがとう』


小見と凛との顔合わせは白福の機転の利いた行動で何とか上手くいった様だった。
そのまま同じ流れで猿杙と尾長と木葉をクリアしていく。
ちなみに呼び方はそれぞれ『大和くん』『渉くん』『秋ちゃん』に決まった様だ。
彼女には彼女なりの呼び方の拘りがどうやらあるらしい。
残りは二人。鷲尾と赤葦だ。
今までの四人は比較的凛に合わせてにこやかに接していた。
残りの二人は未知数だ。
それが光太郎もマネージャー二人も顔合わせを終えた監督やコーチ、部員達も不安だった。


「どっちから行く?」
「どっちも難しそうだよね〜」
「どっちでもいいだろ!次鷲尾な!」
「俺なー」


マネージャー二人が慎重に話し合っていた流れを光太郎がぶった切った。
二人とも一瞬驚いた顔を見せるも直ぐにやれやれと主将の行動を見守ることにする。
光太郎が突発的なのは今に限ったことではないのだ。
それは監督を始めとし全員が知っている。
鷲尾が一番後ろへと移動してきた。
凛は再び光太郎の後ろへと隠れてしまう。


「凛、イチゴの飴食べるか?」
「鷲尾、何でいきなり呼び捨てなのよ!」
「木兎も呼び捨てだろ」
「それはお兄ちゃんだからでしょ!」
「凛、鷲尾が飴くれるって。イチゴの飴大好きだろ?」
『飴は食べたい』


凛はイチゴ味のお菓子で一番好きなのが飴らしい。
そっと木兎の影から顔を出すも鷲尾と目を合わせることもなく直ぐに隠れてしまう。


「鷲尾の名前辰生なんだぞー」
『たつき?』
「幼馴染みのたっちゃんと一緒だな!」


どうしようかも鷲尾が困り果てた時に光太郎が凛へと鷲尾の名前を告げた。
幼馴染みのたっちゃんとは凛と同い年の隣に住む面倒見の良い男の子のことだ。
鷲尾の名前に興味を示したのか凛がおずおずと顔を覗かせた。


『お兄ちゃんはたっちゃんて言うの?』
「たつきって名前だな」
『たっちゃんて呼んでもいい?』
「いいぞ。飴食べるか?」
『うん、たっちゃんありがとう』


幼馴染みのたっちゃん効果なのだろうか?その日梟谷の部員に会ってから初めて凛は微笑んだ。
まさかの鷲尾が一番最初に凛を笑顔にさせたのだ。
それは光太郎以外に衝撃を与えた。


凛にイチゴ味の飴を与えてその頭をくしゃりと撫でると鷲尾は自分の席に戻っていった。
鷲尾に撫でられても凛は嫌がる素振りは見せずそれに対しても周りは少しだけざわついた。


「あ」
「どうしたの雪絵」
「鷲尾が最後だと思ってたから鷲尾に飴を渡したんだけどまだ赤葦が残ってるんだった」
「あー」
「飴だからしばらく無くならないよね」
「そういうことね」
「あかぁーし!最後はお前だぞ!」
「木兎さん、大きな声じゃなくても聞こえてますよ」


呆れた様に返事をして赤葦が移動してくる。
凛の態度は相変わらずで直ぐに光太郎の後ろへと隠れてしまう。


「白福先輩の作戦は見事でしたけど当分無理そうですね」
「ごめんね赤葦。木兎が勝手に鷲尾を呼んじゃうから」
「別にいいですよ」
「ほら凛赤葦だぞー」


その後いくら諭しても凛は光太郎の影から出てくることはなかった。
赤葦も大して気にすることなく自分の座席へと戻ってしまった。


「凛ちゃん赤葦怖かったかなー?」


白福の問いかけにふるふると横に首を振って返事をする。
怖いわけではなさそうなのでそこは一先ずホッとした。
しかしそれならば何故赤葦とは会話をしないのだろうか?
イチゴ味のお菓子も一応差し出したのに凛がそれを受け取ることはしなかった。
白福だけがそれを不思議に思い考え込んでいる。


「着いたぜ森然!」
『着いた?』
「おー!山だから涼しいぞここ」
『涼しいのはいいねぇ』


バスが森然に到着し光太郎は凛の手を引いてバスを降りる。
凛は初めて見る周りの景色にキョロキョロと顔を動かしている。


「俺一番乗りなー!」
「ちょ!木兎荷物!」
「凛ちゃん置いてってどうすんの!」
『光ちゃん待っ!』


光太郎は凛と繋いだ手を話して伸びをするとワクワクした表情で森然高校への階段を掛け上がって行った。
突然走り出した兄を追おうと凛もそれに続こうとする。
しかし直ぐに足元の石に躓いてしまった。
転ける!と凛が思いギュッと目を瞑った時だった。
転ける痛みに耐えようと目を瞑ったのに一向にその気配が無い。
どうしてだろうと不思議に思い目を開けると凛の身体は何故か浮いていた。


「走ると危ないですよ」
『ご、ごめんなさい』
「転けなくて良かったですね」


どうやら転ける前に赤葦が凛の身体を支えた様だ。
赤葦を前に凛は固まった。
先程まで自分を隠してくれた兄は既に行ってしまったのだ。
助けてくれたのは赤葦だがまだ打ち解けてはいない。


「凛、木兎はどうした?」
『あ、光ちゃん先に行っちゃったの』
「アイツ妹放ったらかしにして何やってんだ。赤葦、俺が木兎達の荷物持ってくから凛を連れてってな」
「鷲尾さんそれなら俺が」
「凛、赤葦の名前は京治だからな」
『はい』
「お前の荷物は木葉にでも持たすわ。頼んだぞ副主将」


二人が固まっていると鷲尾がやってきた。
自然と凛へと話しかけている。
それに普通に凛が返事をしているのを見て赤葦はほんの少しだけ表情をイライラとさせた。
さくさくと鷲尾が段取りを決めて去ってしまう。
残されたのは再び赤葦と凛だ。
他の部員も二人が仲良くなるチャンスだとばかりに自分達のことをしている。


『京治、くん?』
「そうですよ」
『さっきは無視してごめんなさい』
「緊張してたんですか?」
『少し』
「大丈夫ですよ。今から仲良くしてください」
『はい』


凛が赤葦名前をおずおずと呼ぶ。
それを聞いて僅かに表情を綻ばせた。
どうやらさっき転けるのを助けたことによって凛の態度が少し軟化した様に見える。
赤葦の言葉に気恥ずかしそうにも頷いたのだ。


「じゃあ行きましょうか」
『うん』
「転けると危ないので手繋いでいきますよ」
『はい』


赤葦が手を差し出すと素直に凛はその手を取った。
その様子に梟谷メンバーはホッとする。
そして二人で階段を上がって行った。


「赤葦大丈夫そうだね〜」
「そうだな」
「まさか一番最後になるとは思わなかったわ俺」
「飴持ってたのが赤葦だったら俺のが後かもな」
「鷲尾はたっちゃんのおかげだから飴が無くても大丈夫だったと思うよ」
「お前だけ無条件だったもんなー」
「まぁたっちゃんに感謝だな」
「ほらさっさと荷物運ぶよ〜」
「つーか何で俺が赤葦の荷物運ばなきゃなんないんだよ」
「何となくだ」
「ドンマイ木葉」
「ドンマイっす木葉さん」
「尾長!お前が持ってくれりゃいいだろー」
「尾長は他の荷物があるから無理だよ木葉」
「はいはい、文句言わずにさっさと歩くー」


雀田の言葉に全員が階段を上り始めた。


「そう言えば凛ちゃんは寝る時どーすんだ?」
「うーん、私達と一緒でもいいけど他のマネさん達もいるからねぇ」
「凛ちゃんに聞けばいいんじゃない〜?」
「それが一番いいかもな」


梟谷の面々がのんびりと会話しながら荷物を運んでいた時、木兎凛は本日二度目の人見知りを発動させていた。
光太郎を追って赤葦と二人で体育館へと辿り着くとそこには光太郎の他にも多数の見知らぬ人が居たのだ。
光太郎に話しかけようとするも周りの人達が気になって声をかけられずにいた。


「木兎さんのとこ行きますか?」
『知らない人沢山いる』


光太郎とワイワイと喋っているのは音駒高校バレー部の部員達だ。
どうやらまだ森然の部員達は来ていないらしい。


「あかぁーし!おせーぞ!お、凛赤葦と仲良くなったんだな!」


光太郎が入口にいる赤葦に気付いて手を振った。
その後に妹の存在に気付いたらしい。
音駒の面々を引き連れて入口へと歩いてくる。
光太郎が近付いてくるのが嬉しい半面知らない人達まで近付いてくるのに複雑そうな表情を浮かべている。
そしてさっと赤葦の後ろに隠れたのだった。


「木兎ーこのちびっこ誰なんだ?」
「俺の妹だぞ!」
「木兎さんの妹?」
「わ、ほんとだ!木兎さんにそっくりですよ!」
「木兎にそっくりだな」
「クロ、リエーフ二人とも怖がってるから止めてあげなよ」


赤葦の後ろに回り込んできた二人にびっくりして凛は赤葦のジャージをギュッと握りしめる。
そして二人から顔を隠す様に俯いた。


「凛さんは木兎さんと違って人見知りなんですよ。なので仲良くなるまでは近寄らないでください黒尾さん」
「俺、名指しなの?」
「木兎の妹なのに人見知りとか意外だな」
「へぇ、でも近寄らないと仲良くなれないんじゃねえの?」
「黒尾、凛は本当に人見知りだからそれ以上はストーップ!」


凛の反応を楽しんでるかの様に黒尾が近づくのを光太郎が身を挺して止める。
黒尾も光太郎の反応が見たかっただけなのだろう。
直ぐに凛をからかうことは止めた。


「木兎がそんだけ言うってことはほんとなんだな」
「だからみんなもクロみたいに木兎さんの妹に近付きすぎない様にね」
「研磨さんが言うなら」
「へーい」


孤爪が人見知りなことを知っている音駒メンバーは彼の一言で凛を放っておくことに決めた。
興味はあったのだけど彼らにとって孤爪の一言は重たいのだ。


「でも木兎、人見知り直す良いチャンスじゃねえの?」
「これでもだいぶ良くなってきてんの。焦ったら駄目なんだよ。なー凛」


未だに赤葦にベッタリな凛の頭を光太郎がヨシヨシと撫でた。
光太郎の言葉にこっくりと頷いている。


「木兎さん、マネージャーのとこに凛さん連れてきますよ」
「そろそろ練習始まるもんなー。じゃあ凛、雀田と白福のお手伝い頑張るんだぞ!」
『お手伝い?』
「お前も梟谷の見習いマネージャーなんだからな!」
『かおちゃんと雪ちゃんのお手伝いしたらいいの?』
「おう!頑張って手伝ってこいよ」
『分かった!頑張る!京治くん行こ』
「じゃあ二人の所にに案内しますね」


赤葦と手を繋いで凛は体育館を後にする。
ドリンクの準備をしてるであろう二人の所へと向かったのだろう。
それを黒尾と光太郎が見送る。
他の音駒のメンバーは既にレシーブ練習を始めていた。


「しっかし何で木兎の妹があんな人見知りになるかねぇ」
「あれ俺のせいだからなー」
「何したんだよ」
「凛が生まれた時俺小学校高学年だったかな?年が離れた妹だからすげー可愛がったんだよな!んで他人は一切近付けなかったの。そしたらあぁなっちゃったんだよなぁ」
「あーお前のせいだな」
「この一週間で少しは良くなるといいんだけどな」
「梟谷は大丈夫なんだろ?赤葦にベッタリだったし」
「ここだけの話だけどな赤葦には最後まで人見知りしてたぞ」
「マジか?鷲尾とか監督のが後かと思ったんだけど」


光太郎の話に黒尾は喉を鳴らして笑っている。
誰が聞いても似たような反応になるだろう。
それくらい意外な出来事だったのだ。


雀田と白福に付き添われ凛のマネージャー見習い業の一日はあっという間に終わった。
光太郎がバレー漬けなので夕飯もお風呂も二人と一緒だったのだ。
早めのお風呂から上がると光太郎の元へと二人は凛を連れて行った。
他校のマネージャーとはまだ打ち解けれず今日は光太郎と寝ると凛が決めたのだ。


「木兎ー!凛ちゃん連れてきたよー」
「おー二人ともありがとなー」
「まだ練習してるの〜?」
「後ちょっとだけな!」
「じゃあ凛ちゃんここで木兎の練習見てる?」
『うん』
「私達まだやることあるからまた明日ね」
『はい。今日一日ありがとうございました』
「明日も一緒に頑張ろうね」
「でも無理はしちゃ駄目だからね」
『雪ちゃんかおちゃんありがとう』
「凛ちゃんはほんとに可愛いねぇ」
「じゃあまたね」
『はい』
「木兎、あんまり遅いと食堂閉まっちゃうからね〜」
「おー分かってる!」


ここなら流球が当たることもないだろうと二人は凛を座らせて体育館を出て行った。
コートにはスパイク練をしている赤葦と光太郎そしてそれをブロックする音駒の面々がいる。
それを凛は大人しく座って見ていた。


「木兎さん木兎さん」
「あー?犬岡どうした?」
「妹さん今にも寝そうですよ」
「あーほんとだな」
「今日はこの辺にしときますか木兎さん」
「腹も減ったしなー」
「そろそろ行かないとマジで食堂閉まるぞ」


ブロック練は交代制なので休憩していた犬岡がうつらうつらしている凛に気付き木兎にそれを報告する。
それを合図に個人練習は終わることになった。


「あかぁーし頼みがあるんだけど」
「何ですか」
「多分木葉とさる辺りはもう教室に戻ってると思うから凛連れてってくれ」
「木兎さんが行けばいいと思うんですけど」
「腹が減って力が出ないから無理!」
「アンパンマンを呼ばないとですね!」
「おお!そうだな黒尾!」
「何また二人で言ってるんですか。分かりました。その代わり俺の夕飯もちゃんと確保しといてくださいよ」
「任せとけ!」
「凄い不安なんですけど」
「赤葦、俺がちゃんと用意しといてやるよ」
「夜久さんなら安心ですね。宜しくお願いします」


光太郎のワガママには慣れている。
大して嫌がる素振りも見せず赤葦は了承した。
音駒の1年が片付けを始めた中凛へと近付いていく。
既に3年の光太郎達は体育館から出た所だった。


「凛さん、ここで寝たら風邪引きますよ」
『んーうん』

凛の隣へしゃがんで声をかけると意識が完全に覚醒することは無さそうだ。
これはもう抱き上げて連れてった方が早いだろうなと赤葦は推測する。


「凛さん、布団で寝ないと駄目ですよ」
『んー抱っこ』


凛の方から赤葦へと両手を伸ばしてきたのでそのまま抱き上げることにした。
多分この状態では誰に抱き上げてもらったかは明日覚えていないだろう。


「体温高いな」


光太郎のあの様子だと明日以降も凛の面倒を見ることは増えそうだなと赤葦は思った。
雀田と白福程では無いにしろ。
でも妹が居たらこんな感じなのだろうかと考えると少しだけ楽しみになるから不思議である。


梟谷の部屋となっている教室に行くまでに色んな人にからかわれたがそれが不思議と嫌ではなかった赤葦京治であった。


ひかり様リクエスト。
ありがとうございました!
中途半端になってしまってすみません。合宿編にしたら初日しか書けず。
いつかこれは中編で続きを書かせていただきます!

Our little princess

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