私の彼氏は浮気性だ。
もう何度別れようと思ったことか。
今だってそうだ。私が同じ教室にいるって言うのにクラスの女子達と遊びに行く計画をしている。
推薦で大学受かったらからって浮かれすぎじゃないですか?


「んじゃ今度の火曜にカラオケな!」
「ブン太!仁王君も来る?」
「おーアイツも呼べば来るぜ絶対」
「切原君はー?」
「あー部活終わってからなら来れんだろ」
「ありがとー!」
「みんなで楽しもうねー」


見慣れた風景なわけでこのやり取りを心配するクラスメイトも今はもう居ない。
もしかしたら私達が別れたと思ってるのかもしれない。
同じ大学にするの間違えたかもなぁ。
最初は物凄い悲しかったし寂しかった。
けど最近はそんな感情もどこかに行ってしまった様な気がする。


「凛!帰ろうぜ!」
『お一人でどうぞ』
「なんだよ機嫌悪いな」
『誰のせいだと思ってるの?』
「あ?俺が悪いのかよ」
『女の子と遊ぶ約束ばっかりしてさ』
「付き合いだろい?もうすぐ卒業なんだぞ俺達」
『殆どが推薦で立海じゃん』


馬鹿なのかな?
卒業だから寂しいねとか何言ってんのって思っちゃう。
うちのクラスの大多数はそのままエスカレーターで立海の大学だ。
ブン太と喋るのも煩わしいのでさっさと帰ることにする。


「おい!置いてくなって!」
『一緒に帰る気がございません』
「そんな怒るなよ」
『もう怒る気力も無いんだって』
「はぁ?何でだよ」


私に追い付いてブン太は意味が分からないと眉間に皺を寄せた。
いや、意味が分からないのは私の方だ。
毎回毎回女の子達と遊ぶ約束をしている彼氏を目の前にして笑っていられる彼女がいるなら教えてほしい。


『あのさ、もういいよ』
「何がだよ」
『だから付き合わなくていいって』
「お前それ本気で言ってんの?」
『嘘で私がこんなこと言うと思ってるわけ?』


こんなみじめな気持ちになるのも限界だ。
そんなに女の子が好きなら彼女なんて作らなきゃ良かったんだよ。馬鹿ブン太。


「つーか気に食わないことがあるなら言えよ」
『はぁ?』
「お前今まで別に何も言わなかったじゃねえか」
『私が悪いって言いたいわけ?』
「お前声がでけえよ。ちょっとこっち来いって」
『嫌だ』
「いいから」


私の抵抗も虚しくズルズルとブン太に引っ張られて空き教室まで連れてこられた。
これ以上何を話すことがあるって言うんだろうか。


「とりあえず座れって。そんで落ちつけ」
『落ち着いてます』
「なあ、そんなに俺が他の子と遊ぶのが嫌だったのか?」
『彼氏が自分の見てない所で女子と遊ぶのを許す彼女がいるなら紹介してほしいものですね』


促されるままに椅子へと座らされる。
仕方無い。
とりあえず話に付き合ってあげることにする。


「んだよ、それなら言えば良かっただろい」
『お前は大人だから許してくれるだろって言ったのどこのどいつだったっけ!?』
「凛そんな大声出すなって。つーか俺そんなこと言ったか?」


ブチりと堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がする。
空耳では無いはずだ。
ブン太がそうやって言うから今まで我慢してきたのにコイツそれを覚えてなかったとか。
じわりと視界が滲む。
何でブン太なんかのために泣かなきゃいけないんだろうか。


『付き合い始めた時に言ったし!合コンの予定あるけど付き合いだし心配すんなって!お前は大人だから許してくれるだろって!何なの!それからずっとじゃん!いつだって私のこと放ったらかしで他の子遊んでばっかりで!そんなんだったら彼女作らなきゃ良かったんだよ!浮気してると思っても仕方無いでしょ!もうやだ!別れる!ブン太なんか嫌いだ!』


ポロリと零れ落ちた涙と共に今までの不満が爆発した。
ボロボロと涙と共に吐き出される辛辣な言葉達。
酷い言い方をしてると思う。
でももう涙も言葉も止まらなかった。


『もう絶対に別れる!ほんとやだ!何で言わなきゃ分かってくれないの?ブン太があぁやって言ったから今まで黙ってたのに酷いよ!忘れてたとか酷いよ本当に!』
「凛、ちょ落ちつけって」
『落ち着けるわけないでしょ!もういいよ。好きに遊んだらいいでしょ!ブン太何て知らない!一生沢山の女の子と遊んでたらいいんだよ!』
「俺が悪かったからもう泣くなって」


座ってる私に被さる様にブン太が抱きしめてきた。
今更そんなことしたって遅いよ。
遅いんだよ。


『離して。今更なんだから。そんなことしたって許さないんだから。もうほんとやだ』


ぐっと正面のブン太の胸板を押し返すもびくともしない。
抱きしめられたくらいじゃ許してあげれそうにもない。


「許さなくていいから俺の話も少しは聞けって」
『嫌だっぜっ絶対に聞きったく、無いんっだから』
「泣き過ぎてしゃっくり出てんぞ」
『ブン太、のっせいじゃんか!もう、離してよ!』
「嫌だね」
『わっ私に、ひっく拘るっふ、必要…もう無いでしょ!』


何で私に拘るのさ。
別に彼女が欲しいなら他に作ればいいでしょ。
さっさと私のこと解放してくれたらいいんだよ。


「俺が何となく言った言葉を守ってたんだなお前」
『な、何なのっふ…それ』
「付き合い始めて直ぐの時の話だろ?あれは付き合う前から決まってた合コンだったんだよ」
『だった、らひっ、最初からっふそう言えばっ良かった、でしょ』
「それでも行くなって言われたら面倒だろい?だから多分ああやって言ったんだよ」
『多分?』
「覚えてねえからそこは俺が悪かったな。ごめん」


涙もしゃっくりも止まらない。
まさか私が引きずってる言葉をブン太が忘れてるだなんて思ってもなかった。
呆気に取られてブン太に抵抗する力を緩める。
押し返した所でこのままだろうし抵抗するだけきっと無駄だ。


『浮気は浮気だし』
「だから浮気なんてしてねえよ」
『女子と遊ぶ約束してるじゃん』
「あのなぁ、俺お前以外女子と二人きりで遊んだことねーし」
『そんなの分かんないし』
「今日のだって聞いてりゃアイツらが仁王と赤也目当てなの分かるだろ」
『ブン太かもしれないじゃん』
「あー俺ってそんなに信用無いのか?」
『無い』
「まぁあったらこんな風に泣かせてねーな」


ブン太は何を言ってるんだろうか?
今更何を言ったってそれを信じることは多分出来ないと思う。
浮気じゃないってどうしたら信じれるんだろうか?
今の所信頼度はゼロだ。


「何言っても信用出来ないんだろうけど今までのだって全部俺が間に入ってただけだからな」
『何が』
「恋愛の仲人してたってだけだっつーの。浮気してたと思ってたのかよ」
『だって教えてくれなかったし』
「凛だって聞かなかっただろい」
『ブン太が大人だからって言うから』
「それは俺が悪かったから!せっかく泣き止んだんだからもう泣くなって!」


聞かなかったんじゃなくて聞けなかったんだ。
なのにそんな風に言うのは酷い。
そう思ったらまたじわりと涙で視界が滲む。
ブン太が慌てて鞄からタオルを取り出した。
部活引退してるのにね。
いつでも部活に顔出せる様にってラケットもタオルも入ってるんだよね。


「お前ひっどい顔してんな。マスカラ剥げてんぞ」
『ブン太が悪いんじゃん』
「分かったから。俺が悪いのは分かってるからそう責めんなって」


ごしごしとそのタオルで私の顔を拭いてくれる。
そのタオルを見て私の今の顔は本当に酷いんだろなって分かった。
タオルが色んな色で汚れてるから化粧がきっとぐちゃぐちゃだ。


「後からちゃんと顔洗えよ」
『うん』
「俺のこと信用出来ないってのは分かった」
『別れる』
「いや別れねえし」
『は?』
「俺は浮気してねえもん。凛じゃないと嫌だし」
『私はブン太ともう無理だよ』
「じゃあ俺の目見て嫌いって言い切ったら別れてやるよ」


ブン太は私の前にしゃがんで下から私の顔を覗きこんでいる。
嫌いってブン太の目を見て言うの?
そんなの


簡単に言えると思ったのに。
ブン太とのにらめっこに負けたのは私だった。
真剣な顔をして見つめてくるから何故か目を逸らしてしまったのだ。


「言えないんだろ?」
『言える』
「そんなムキになるなよ」
『言えるよ』
「凛、俺はお前のことしか好きじゃねえの」
『……』
「信用がゼロなのは分かったけどもうお前の嫌がることはしねえから。俺ともっかいちゃんと向き合えって」


あれだけ大泣きして嫌だ嫌いだ別れるって言ってたのにいざブン太を目の前にしたらそのどれか1つも口にすることは出来なかった。
あれだけ別れようと思ってたはずなのに。


『ほ、本当にしない?』
「火曜日もカラオケ行かねえから」
『女の子と遊んだりしない?』
「凛が嫌ならしねえよ」
『絶対に?』
「おお、ちゃんと約束するから」


またじわりと涙が浮かんでくる。
今日は涙腺が馬鹿になってるのかもしれない。


「おい何で泣くんだよ」
『分かんない』
「嬉し泣きか?」
『それは違う』
「泣くなって。凛が泣くのだけは駄目なんだよ俺」
『でも止まらないんだもん』
「あーもう。お前でも子供みたいな言い方するんだな」
『だって何でこんなに涙が出るのか分かんないよ』
「分かったから。もういっそ泣けるだけ泣いた方がいいかもな。こうしててやるから」


そう言って立ち上がると再び私を覆うように抱きしめた。
とんとんと優しく背中を叩いてくれる。
ブン太の久々の温もりに甘えて私はしばらく子供の様に泣きじゃくった。


『あれ?』
「おーおはよう。よく寝てたな」
『私寝ちゃってたの?』
「泣き疲れたんだろな」


気付いたらブン太の腕の中に居た。
場所も椅子じゃなくてブン太は床に座ってるみたいだった。
私にはブン太のブレザーがかけられている。


『ごめん。寒くなかった?』
「一応暖房は付けたから大丈夫だぞ」
『風邪ひいたりしないでね』
「もし風邪ひいたらちゃんと見舞いに来いよ」
『うん』
「落ち着いたか?」
『もう大丈夫だと思う』
「別れる気はなくなった?」
『ブン太が約束してくれたから』
「お前が寝てる間に火曜日も断っといたから」
『うん』
「二人で遊びに行くか」
『分かった』


ブン太の腕の中の居心地が良くて目が覚めてもそのままで居た。
今まで我慢してた分の反動かもしれない。
でもそんな私を優しく見つめるブン太がいるからこれでいいのかもしれない。


「凛、もう別れたいなんて絶対に言わせねえからな」
『うん』


ゆっくりとブン太の顔が近付いてくるからそっと目を閉じることにした。




その三日後、まさかの風邪を引いたのは私だった。
あの時のキスが原因だった様な気がしなくもない。
でも休んだ私のお見舞いにブン太が来てくれたから良しとしよう。
これからは沢山沢山甘えさせてもらうことに決めたのだ。


「凛、玉子粥出来たぞ」
『食べさせて』
「しょうがねえなぁ。一応冷ましてやるけど火傷に気をつけろよ」
『うん』


七海様リクエスト。
ありがとうございました!

号哭センチメンタル

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