及川→二口の順で2つ詰めこみました


及川徹の場合


お昼に部室に集合だよ!
来なかったら分かってるよね?


徹からの半ば脅しの様な連絡に思わず溜め息が漏れた。
全く、もっと他に言い方は無いのだろうか?
まぁいいか。徹がワガママなのは私だけにだから許してあげよう。
知らないうちに溜め息を吐いた私の唇は緩んでいた。


『徹ー?来たよー』
「俺のお昼はー?」
『はいはい、ちゃんと作ってきましたよ』
「俺は別に牛乳パンでもいいんだけどね」
『毎日は栄養のバランス悪いから駄目だよ』
「凛がそうやって言うから食べてあげるんだからね」
『うん、ありがとうね』


まるで子供だ。
付き合う前はそんな風に見えなかったのにな。
あぁでも徹から告白された時に言ってたな。


「凛ちゃんは俺のこと甘やかしてくれそうだったから」


いつもの余裕のある表情とは違う寂しそうなその顔に惹かれたんだった。


「玉子焼き甘くしてくれた?」
『うん、今日は甘くしておいたよ』
「タコさんウインナーは?」
『ちゃーんと入れてあるよ。ちなみにカニさんも作りましたよ』
「俺のために?」
『そうだよ。徹のためにぜーんぶ作りましたよ。私も食べるけどね』
「俺のためって言うなら俺が食べてあげないとね」
『残さず食べてね』


徹の目の前にお弁当箱を広げていく。
前にお弁当箱をそのまま渡したらご機嫌ナナメになったのだ。
食べる準備が整った所でフォークを渡した。


「箸じゃないの?」
『今日はオムライスもあるからスプーンとフォークにしたんだけど。お箸の方が良かった?』
「んーじゃあ凛が食べさせてよ」
『しょうがないなぁ』


フォークはやっぱり嫌だったのかな?
お箸の方が良かったのかもしれない。
でも不機嫌になってるわけじゃないから大丈夫みたいだ。
徹からフォークを受けとる。
勝手におかずを選んだりはしない。
ここもちゃんと透に聞いた方が喜んでくれるのだ。


『徹、何から食べたい?』
「んー玉子焼き」


私に食べさせろって言ったのに徹は既にスプーンを持ってオムライスを食べ始めていた。
ほんと自由だなぁ。
でもそんな徹も凄い可愛いと思う。
他者がいる時は絶対にこんな風に甘えてこないから。


『はい、どうぞ』
「ん」


徹の口元に玉子焼きを運んであげる。
一口で食べてもぐもぐと咀嚼している。
あ、口元に笑みが浮かんだから甘さはちょうど良かったみたいだ。


「まぁまぁかな」
『ありがとう』


徹が私のお弁当を褒めることは殆ど無い。
最初は凄い戸惑ったけど最近は表情を見て判断する様にしている。
そしたら大して気にならなくなった。


徹におかずを食べさせながら合間に自分のお弁当を食べていく。
ここで大事なのは私のお弁当はあくまでも徹に食べさせてる合間に食べるってことだ。
自分のお弁当メインにしたら忽ち徹の機嫌は悪くなるのだ。


誰に話してもきっとこんな徹はみんな信じられないだろう。
岩泉は薄々気付いてるのかもしれないけど。
こないだ「いつもアイツがごめんな」って岩泉に言われたのだ。
『謝るようなこと全然されてないよ』って笑顔で返したら何故かホッとしてた気がする。
幼馴染みは幼馴染みなりに心配してたのかもしれない。


「凛」
『んー』
「ご馳走さま」
『明日は何食べたい?』
「別に毎日じゃなくてもいいんだよ」
『私が徹に作ってあげたいんだけど駄目かな?』
「凛は俺のこと大好きだよね」
『そうだね』
「じゃあ明日はミートボール食べたい」
『かしこまりました』


お弁当を食べ終わったら膝枕でお昼寝タイムだ。
最近部活も今まで以上に頑張ってるから疲れてるんだよね。
明日のお弁当の話が終わったから寝るのだろう。
それ以上徹からは何も返事はなかった。


徹の頭をそっと撫でる。
最初はびっくりしたみたいで肩を震わせたけど最近は慣れたみたいだ。
何も言わないからそのまま撫で続けてることが多い。
てっきり怒られると思ったんだけどね。


「凛」
『なぁに?』
「ずっと俺の側に居てよ」
『うん』
「俺凛じゃないと駄目だからさ」
『徹が隣に居ていいって言うなら離れませんよ』
「ならいいんだ」


起きてたのか。
突然声を発すからちょっとびっくりした。
珍しく可愛いことを言ってくれたから余計にびっくりしたし。
あぁでもこうやってたまにデレる徹も本当に可愛くて好きだ。
徹のワガママなら何でも聞いてあげるからね。
外ではいつも頑張ってる徹だから私の前だけでは自然体で居て欲しいんだ。
そう強く思った。



二口堅治の場合


春高バレーの宮城県予選。
うちの高校は青城に負けた。
茂庭達と学校が終わって慌てて向かった時には既に1セット目が終わってて2セット目だけしか応援出来なかったことが悔やまれる。
やっぱり学校サボっておけば良かった。


「先輩達は引退したけど卒業する前に間接的でもいいから全国に連れてってやりたい」


そう堅治が言ってたことを思い出す。
茂庭達は気にせずに後輩達に会いに行ってたけど私は会いに行けなかった。
きっと堅治も今は私には会いたくなかっただろうし先に家に帰ることにした。


堅治は茂庭から主将の座を譲り受けて尚且つチームの要のエースだ。
プレッシャーもあるだろう。
茂庭達が居た時みたいに何でも感情を出すってことが出来なくなってるみたいだった。
相手チームを煽ることは前と変わってないみたいだけど。
マイナスの感情ってのは周りに見せなくなったって青根が言ってた。
だから凛さんがちゃんと聞いてやってくださいって。


青根は堅治に勿体無いくらい良い友達だと思う。
本当に周りのことを良く見てる。
さて、今日は何を作ろうかな?
ハンバーグにでもしようかな?


高校入学と共に親の転勤が決まって私は学校の近くのアパートに一人暮らしだ。
堅治と付き合う様になったのは2年の冬。
当時の3年が春高バレーの予選で負けて引退してからだ。
堅治からのアプローチに私が根負けしたのが始まりだった。
入部して直ぐに「アンタと付き合えるの俺くらいです」って言われてそれからずーっとしつこかったんだ。
今思うと失礼な話だよね。
茂庭達まで巻き込んで「一回付き合ってやれよ」とまで言われたんだった。
まぁアイツらは私を堅治の世話係りにしたかったんだろうけど。


それから一年たった。
最初は根負けした形だったけど今じゃ堅治より私の方が相手のこと好きなのかもしれない。


『もしもし堅治?』
「凛さん?何で部活来なかったんすか」
『え、先に家に帰るって連絡したよ』
「茂庭さん達は来てくれたんすよ」
『知ってるよ』
「俺待ってたんですけど」
『呼んでくれたら良かったのに』
「嫌ですよ。俺が凛さんに来て欲しかったみたいじゃないすか」
『堅治今そうやって言ったよね?』
「俺が呼んだってのが嫌です」
『ごめん』
「夕飯何ですか?」
『ハンバーグにしようかと』
「俺さっき皆でビクドン行って来ちゃったので嫌っす」
『えぇ』
「鍋食べたい。凛さんの塩鳥だんご鍋」
『材料はあるけど』
「じゃあそれにしてください。ハンバーグ明日食います」
『分かったよ』


遅いなと思ってたらまさか皆でご飯食べに行ってたとは。
一言びっくりドンキーに行きますって連絡くれても良かったんじゃないの?
きっと茂庭達と戯れるのに必死だったんだろうなぁ。
仕方無い。ハンバーグの種は形だけ作って冷凍しておこう。
堅治がワガママなのは今に限ったことじゃない。
と言うか最近そのワガママが激しくなってると思う。
これも主将とエースって言うプレッシャーからきてるんだよねきっと。


『おかえりー』
「ただいま。腹減った」
『びっくりドンキー行ったんじゃないの?』
「普通のやつしか食べてねえっすもん。足らない」
『じゃあ鍋の材料沢山用意しといて正解だったね』
「そうっすね」


すたすたとうちに上がり込み定位置のテレビの真ん前の席へと堅治が座る。
遠慮とかほんとしないよね。
鍋の準備を終えて私も座ることにした。


『はい、どうぞ』
「っす」


電話の時と雰囲気が違う。
不機嫌なのかなんなのか。
その表情はどこかイライラしてる様に見えた。


『堅治?食べないの?』
「食べますよ。急かさないでください」
『ごめん』


グツグツと鍋の煮込む音とテレビのバラエティーの音声だけが部屋に響く。
どうしたのだろうか?
器に盛った鳥だんごとにらめっこしてる様にも見える。
どれだけそうしてたんだろう?
その鳥だんごを堅治がパクリと口にした。


鳥だんごを食べて堅治の表情が歪んでいく。
あぁきっとこれは涙を堪えている。
きっと今日は今までそういう感情を抑えてきたんだろうな。


『お鍋しょっぱかったかな?』


私も自分の器に盛った鳥だんごを口にする。今日も改心の出来ばえだと思う。
けど堅治にはそう言わない。
泣ける理由を作ってあげないと彼は泣けないから。


「そうっすね。いつもよりしょっぱいですよ」
『ごめんね。塩加減間違えちゃったみたい』


それから堅治はボロボロと涙を溢しながらひたすら食べた。
私も何も言わなかった。
ただ堅治の隣で一緒に鍋をつつく。


「凛さん」
『どうしたの?』
「こっち来て」


鍋を食べ終わって洗い物をしてる時だった。
まだ半分も洗い終わって無いんだけどな。
いつもだったら待ってもらうけど今日は特別だ。
途中で洗い物を中断して堅治の元へと向かう。
定位置の座椅子に座ったままの堅治の隣へと座り込む。


「俺、先輩達と春高バレー行きたかった」
『うん』
「凛さんも連れてきたかった」
『うん』
「カッコ悪いな」
『堅治には来年があるよ』
「茂庭さん達も凛さんも居ないじゃないっすか」


あぁもう今日はかなり重症だ。さっきあれだけ泣いたのにまた悔しそうに表情を歪めている。
嫌がられるかなと不安になったけど膝立ちで堅治を横から抱きしめた。


『私も茂庭も鎌先も笹谷も県内にいるよ。来年も伊達工応援に行くよ』
「俺は今年行きたかったんす」
『堅治の気持ちはほんとにほんとに嬉しいよ。茂庭達にも伝わってるよ』
「俺もっとちゃんと先輩達引き止めれば良かった」
『茂庭達は春からインターハイで引退って決めてたよ』
「でも俺達が強く言えば」
『堅治。駄目だよ』
「何が」
『泣いていいから。もう後悔はしちゃ駄目だよ』
「何でそんなこと言うんすか」
『私達より黄金川達のこと見てあげて』
「俺はアイツらより」
『堅治、その先は絶対に聞きたくないよ』
「…分かってます」
『私達が堅治達を可愛がった様に堅治達もちゃんと下を可愛がってあげてね。卒業しても嫌って言われても遊びに行くって決めてるんだから』
「それ言ったの鎌先さんですよね」
『バレた?』


本当に手のかかるこだなぁ。
アイツらより茂庭さん達ともっとバレーしたかったとか言うつもりだったんだと思う。
そんな言葉は堅治に言ってほしくないから途中で言葉を遮った。
そう思ってくれるのは嬉しいけど言葉にしたら駄目だ。
堅治は主将なんだから。
でもやっと口調が和らいだ気がする。
泣かせずに済んだみたいだ。


「凛さんいつまでそうしてるんすか?」
『堅治が落ち着くまで』
「俺もう大丈夫っす」
『本当に?』
「襲ってもいいならそのままでもいいっすよ」


堅治の言葉に慌てて離れることにした。
いつもの堅治だ。
私の反応に勝ち誇った表情をしている。


『離れた所で無駄みたいな顔してるよね』
「最近鋭いっすね。今日ツレんち泊まるって行ってあるんで」
『嘘、そんなの聞いてない』
「嫌とは言わせないですよ」
『言わない、よ』


さっきとこの態度の違いはなんだろう?
あぁでも気まぐれなのは今日だけじゃない。
と言うか最所からうちに泊まるつもりだったんだから気まぐれでも何でも無い。
むしろ計画的な犯行だ。
さっきまで泣いて落ち込んでたとはとても思えない。


まぁでも元気になってくれたのなら良かった。
私の前だけでしかきっと泣けないから。
その癖泣いてるのを指摘されるのを嫌がる面倒な彼氏だけどこれからもお世話してあげよう。
大好きな堅治のために。



『徹はね私にだけ甘えてくるの』

『堅治はね私の前でしか泣けないの』

『ワガママな彼氏だよね』

『それが可愛いんだよ』

『分かるそれ』

『あ、堅治から連絡きた』

『私も徹から連絡きた』

『迎えに来るって』

『徹も珍しく来るみたい。二口君大丈夫かな?』

『んー今から来なくていいって言った所で逆効果かな』

『この際四人でご飯行こうか』

『いいねそれ』


この後睨み合う二人を宥めるのが大変でした。
迎えに来るなんて珍しいことやっぱり断れば良かったと後悔した彼女二人でした。


モモ様リクエスト。
ありがとうございました!
悩みに悩んだ末及川と二口詰め込んじゃいました(笑)

絶対的カレシ

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