『孝支、明日は朝大丈夫そう?』
「悪い、明日も一緒に登校出来そうに無い。ごめんなー」
『何で?私も朝練あるのに』
「ちょっとしばらく無理そうなんだよ」


しばらくって何で?
今日だって昨日急に朝一緒に登校出来ないって言われたし。
こんなこと今まで無かったのだ。
朝練が終わって教室に現れた孝支に一番に話しかけたら両手を合わせて謝られてしまった。
こうなったら何を聞いても理由を話してはくれないだろう。
3年になってやっと同じクラスになれたのにな。


私と孝支は幼馴染みだ。
2年の冬にやっと幼馴染みの関係から抜け出して彼氏彼女ってやつになれたのに。4月からこんなんじゃ幸先不安になってきた。


『じゃあお昼は』
「悪い。昼もちょっと後輩に付き合わないといけないんだよ」
『え』
「ごめんな。帰りは一緒に帰れるから。ほんとごめん!」


孝支に謝られると私はそれ以上は言えない。
『分かった』って返事するしか無かった。
昼は後輩に付き合わないといけないのは分かったけど朝練一緒に登校出来ないってのは納得いかない。
何で?でも聞いたって結局孝支は曖昧にはぐらかすんだろう。
いつだってそう。言えることは直ぐに教えてくれるけど言えないことはどんなに頑張ったって教えてくれない。
それは幼馴染みから彼女になっても変わらない。
私って孝支の何なんだろ?
付き合ったって幼馴染みの時と何にも変わってない気がする。


『孝支?眠そうだね』
「んーちょっとなー」
『そっか』
「何だよ、どうかしたのか?」
『私も部活で疲れてるだけだよ』
「凛も部長だもんなー」
『今年こそ全国大会狙ってるからね』
「お互い頑張るべ」


聞けば良いのに。
たった一言『どうして朝練一緒に登校出来ないの?』って聞けばいいのに拒絶されたくなくて聞けなかった。
しつこく聞いたら教えてくれたかもしれないのに。


孝支、私って孝支にとって本当に彼女なの?


気になったらもうじわじわと不安しか浮かんで来なかった。


『潔子、お昼一緒に食べよ』
「菅原は?」
『しばらく無理みたい』
「珍しいね」
『そうなんだよね』
「何かあったの?」
『何かあったとかではないよ』
「そう」


誰かに聞いて欲しくて去年同じクラスだった潔子の所へとお昼に突撃したのに結局肝心なことは話せなかった。
潔子も自分から積極的に世話を焼くタイプじゃない。
私から話さないと聞いてくれないだろう。
けどどうしても話せなかった。


潔子とは最初仲が悪かった。
と言っても私が一方的に苦手だっただけだ。
孝支からずっと話は聞いてたからてっきり孝支は潔子のこと好きだと思ってたんだ。
仲良くなったきっかけは一緒に文化祭の実行委員をやってから。
その時に潔子が「私は菅原のこと何とも思って無いし菅原も私のこと何とも思って無いから」って素っ気なく言ってくれたからだ。
私の態度でバレバレだったんだよね。


「凛、思い込むとマイナスベクトルに走りやすいんだから駄目だよ」
『分かってる』
「その顔は全然分かって無いよ」
『うん』
「言いたくないなら聞かないけど」
『ごめんね』


せっかく潔子から珍しく気にかけてくれてるのにどうしても話すことは出来なかった。
誰かに話したいと思ってたのは私なのに。
あぁ何でこうも私は面倒臭いんだろう。


「凛?聞こえてる?」
『ごめん、全然聞いてなかった』
「そんなに部活キツいのか?」
『先生が張り切ってて』
「ちゃんと寝れてる?」
『それは大丈夫だよ』
「あんま無理すんなよ」


孝支との帰り道も最近はあんまり楽しめない。
朝も昼も別々だからほんとは仲良くしたいのに。
疑い始めた気持ちはどんどん暴走する。
私の頭を撫でて家の前でバイバイした。
付き合う前だったら些細なことだって全部直ぐに話せたのにどうして今は話せないんだろう。
私に歩き出す孝支の背中を見つめることしか出来ない。


孝支、行かないでよ。
私しんどいよ。辛いよ。
私に気付いて。
私のことちゃんと見て。


涙で視界がぼやけてきた。
行かないでって言えたらいいのに。
言えない私は意地っぱりだ。


急に孝支が足を止めた。
どうしたのだろうか?


「やっぱり泣きそうだな」


くるりと方向を変えてこちらへと戻ってきた。
何で?どうして?


「何となく凛が泣いてる気がしたから」


孝支はそう言って穏やかに微笑った。
何故頬笑むのだろう。
こっちはこんなに苦しいのに。
でもそんな孝支の穏やかな表情を見てホッとしたのは私だった。


「凛、とりあえず目立つから家に入るべ」


孝支に促されて私の家へと二人で入る。
ホッとしたのにポロポロと涙は溢れてこんなんじゃお母さんに合わせる顔が無い。
どうしようかと思ってたのにそこは小さい頃からの付き合いの幼馴染みだ。
お母さんにさくさくと説明をしてくれた。
数学の宿題をするって名目ならお母さんも不審に思わないだろう。
私の部屋へと二人で上がっていく。


『孝支は何で分かったの』
「何となくな。まだ泣いてるの?俺ちゃんと気付いたのに」
『だって気付くと思わなかったから』
「嬉し泣きってこと?」
『そうじゃない』
「どうしたんだよ」


二人でベッドへと座る。
いつもの定位置だ。
孝支は泣いてる私を見ても焦ったりはしてなさそうだ。
何で彼女が泣いてるのに心配したり焦ったりしないんだろ。


『孝支はやっぱり私のこと好きじゃ無いの?』
「凛は俺のこと好きじゃ無いの?」
『質問に質問で返すのはズルいよ』
「俺の初恋って凛なんだよね」
『え』
「そっからずーっと好きなんだべ」
『そうなの?』
「だから凛以外好きになるとか絶対に無いんだけど」


孝支の初恋が私でそれからずっと私のこと好きだなんて初耳だ。
私の初恋は孝支じゃない。
そんなロマンチックな展開では断じて無い。
何なら小学校だって中学校だって好きな男の子の相談は孝支にしてた。
私が孝支を好きになったのは高校生になってからだ。
孝支の言葉に戸惑ってしまった。
どうしよう。クッションを膝に抱いてそろりと孝支の様子を伺う。
目が合うと孝支はいたずらっ子の様に顔の表情を崩した。


「俺がこんだけ好きだったのに凛は全然気付かなくてさ」
『ごめん』
「だから凛が泣きそうなのは分かるんだよ」
『ありがと』
「お礼じゃなくて何をそんなに一人で悩んでたわけ?そっちが知りたいんだけど」
『朝練一緒に行けないって言うから』
「それだけ?」
『理由も教えてくれなくて私って孝支にとって何なんだろって思ったらぐるぐるしちゃって』
「それ帰りに聞いてくれたら答えたぞ俺ー」
『何で教室じゃ駄目だったのさ』
「大地が居たから教室は無理だべ」
『何で澤村?』


気付いたら涙は止まっていて会話も孝支のペースだ。
思わぬ所で澤村の名前が出てきたから驚いてしまった。
そしたら孝支が説明してくれた。
新しく入部する1年の朝練の前の朝練に付き合ってること。
澤村には内緒だから知られたくなかったこと。
一人は凄い上手なセッターで正直焦ってること。
もう一人はバレーはまだまだ下手くそ。
でも身体能力は凄くて期待値が高いってこと。
二人共練習熱心で先輩としてどうにかしてあげたいってこと。
全部話してくれた。


「俺もその日の帰りに言えば良かったな。ごめんな凛」
『私もちゃんと聞けば良かったから』
「ほんとにな。直ぐにマイナス方向に考えるの悪い癖だぞ」
『ごめんなさい』
「ま、別に直さなくてもいいべ」
『え?』
「俺なら気付けるしそんだけ俺のこと好きってことだろ?」


私の腕のなかにあったクッションは気付いたら孝支に取り上げられていてそれを抱きながら孝支はにししと笑った。
あぁもう孝支には敵わないな。


「もう大丈夫か?」
『うん、大丈夫』


いつの間にかしんどいのも辛いのも苦しいのも無くなってた。
私の様子がおかしかったのなんて孝支にはバレバレで。
私が好きになるずっとずっと前から私のこと見ててくれたんだ。
少しだけ自信が持てた気がする。


「凛ー孝ちゃんうちでご飯食べてったらー?」
『はーい!』
「甘えまーす!」


階下からお母さんの声が聞こえる。
孝支が夕飯近くに遊びに来るといつもこの流れだ。
ちなみに私が孝支のうちに遊びに行っても同じことが起こる。
幼馴染みだからって付き合っても何も変わらないって不安に思ってたけど考えてみたら幼馴染みって関係はそもそも恋人以上な気がする。
だからそんなに不安に思うことなかったのかもなぁ。


「孝ちゃん、凛がまた面倒なこと言ったんでしょ?」
「少しだけ」
『孝支!そこはそんなこと無いですよって嘘でも言ってよ!』
「このこったらいつもごめんなさいねー」
「でもこんな凛に付き合えるの俺くらいだと思いますよ」
「パパ聞いた?この感じだと凛遠くにお嫁に行かなくて済みそうね!」


お父さんと二人でセイダイニお茶を吹き出した。
お母さんと孝支は二人でニコニコしている。
あぁ、孝支ってうちのお母さんに似てるんだ。
穏やかなのに人の変化には敏感で。
私はお父さんに似て不器用だってお母さんによく言われたからきっと私達はお似合いなんだと思う。


エル様リクエスト。
切甘なスガさんになったかな?
スガさん楽しかったけど難しかったー!
ありがとうございました!

曖昧feeling

prev | next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -