「ここのイタリアンは絶品なんだよ柳君」
「確かに。これは美味しいですね」
「君の口にも合ったみたいで良かったよ」
「何か気を遣わせたでしょうか?」
「和食の方が良いかと迷ったものでね」
「確かに和食も好きですがイタリアンも好きですよ」
「それなら良かった」


会社の得意先に誘われて行ったイタリアン。普段食べることは滅多に無い。
しかし彼が絶品だと言うだけのことはある。
ここのイタリアンは本当に美味しかった。
今度凛を連れてくるとしよう。
きっと顔を綻ばせて喜ぶだろう。


「デートにも最適だぞここは」
「顔に出てましたか?」
「何となくそう思っただけだから気にしないでくれ。そうかやっぱり特定の相手が居たか」
「と言うと」
「君は好青年だからな。うちの娘をどうかと思ったんだがな」
「ご期待に添えなくて申し訳ありません」
「そこまでバッサリ断ってくれるといっそ清々しいな」


豪快に俺の返事に笑ってくれた。
そんなことで気を損ねる様な相手では無いだろうが少しホッとした。


「凛、今度の休みはイタリアンでも食べに行かないか」
『イタリアン?蓮二好きだっけ?』
「今日、得意先との付き合いで行ったレストランが美味しかったんだ」
『蓮二がイタリアンを美味しいって言うの珍しいね』
「そうだな。だからお前と一緒に食べてみたいと思った」
『蓮二はいつもそうだね』
「何がだ?」


家に帰って早速凛をイタリアンに誘うことにした。
こういうのは早い方が良い。
きっと凛の喜ぶ顔を見るのが俺は一番好きなんだろう。


『よく仕事で外食して帰ってくるでしょ?口に合った物を食べた時っていつもそうやって直ぐに誘ってくれるから』
「美味しい物を食べさせてやりたいだろ」
『うん、だからねそれが凄い嬉しいよって話』
「お前は本当に食事をするとき美味しそうに食べるからな」
『子供扱いしてません?』
「それは気にするな」
『それって子供扱いしてるんじゃん』


ソファに二人で並んで座っているものの俺の言葉が不服だったらしくふいと顔をテレビの方に向けてしまった。
そういう所も子供だと思うんだが、言ったら余計に不貞腐れるので黙っておいた。


「嫌ならば止めておくが」
『えっ!嫌だよ!行きたいよ!』
「ならば予約しておこう」


俺の言葉に驚いた様な声を上げて視線が重なった。
こういう反応も子供っぽいと先日精一に言われたのを忘れたのだろうか?


『また子供扱いしてるよねその顔』
「俺の考えてることお見通しなんだな」
『蓮二には負けるけどね』
「そんなにむくれるな。ちゃんと予約しておくから」


知らないうちに表情が和らいでいたのだろう。そこを突っ込んで凛はますます顔を険しくする。
ぽんぽんとあやすように頭を撫でてやるも表情が柔らかくなることはない。
そうだな、これも子供扱いみたいなものだったな。


「子供扱いしてるつもりは無いんだがな」
『絶対嘘だ』
「お前の反応がいちいち可愛いから仕方無いだろう」
『可愛い!?』
「そうやって拗ねたり驚いたり笑ったり怒ったりくるくる表情が変わるのは俺の前だけだからな」
『そう言われたら何も言い返せないじゃないか』
「そうだな」


そうやって返事をすると凛はもう何も言わなかった。
テレビに集中したらしいので俺も手元の小説に集中することにする。


例えば出張で北海道へ行っても中国へ行っても美味しい料理を食べて一番に思い出すのは凛のことだ。
それはいつでも変わらない。


凛の美味しそうに食べる表情を見ているのも楽しいし一人で食べても美味しいのだ。きっと二人ならばもっと美味しく食べれるだろうとつい思ってしまうのだ。
それがもう身に染み付いてしまっている。
昔はこんな風に考えたことはなかったと思う。食事と言うのは単に (生存に必要な栄養を取るために)毎日習慣的に物を食うこと。ただそれだけだと思っていた。
効率良く栄養を摂取することが大事だと思っていたのにな。
俺も変わったものだな。


美味しい物を食べると一番に浮かぶのはいつだって君の顔。

美味しい物を食べると一番に浮かぶのはいつだって君の顔

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