『英おはよー』
「はよっす」
『金田一もおはよー』
「おはようございます」
『寒いけど今日も朝練頑張ろうねー』
「「っす」」


冬の朝練は正直かなり辛い。
ジャージに着替えて体育館に着くと凛先輩が既に元気に動き回っていた。
1つ上の俺の彼女の椎名凛先輩。いつだって元気だ。


『京谷おはよー!』
「おー」
『朝練最近ちゃんと参加してて偉いぞ偉いぞー』
「ガキ扱いすんなって何回も言ってるべ」
『してないよ。これ普通ですー。あ!矢巾!今日は朝練これからやれって』
「何?あー分かった」
『宜しくねー』


凛先輩は俺の彼女だ。
けど最近なんかすげーもやもやすることが多い。
3年が居た時は気にならなかったのにだ。


『矢巾、今日って数学課題出たっけ?』
「数学と英語のプリント出ただろ」
『げ、英語もか』
「ついでに日本史もな」
『あーマジか。分かったーありがとね』
「数学結構難しそうだったからな」
『分かんなかったら明日聞くね』
「代わりに英語教えろよ」
『任せとけ。んじゃお疲れー』
「お疲れー」


放課後の部活が終わって帰ろうとした時に凛先輩が矢巾さんに話しかけた。
先輩と一緒に帰るわけだから俺はその会話が終わるのを待ってるわけだけどまた何かもやもやした。
何でこんなに2年の先輩達だけにもやもやしてんだろ。
及川さんにだってこんなにもやもやしたことはない。
凛先輩をかなり可愛がっていたのにだ。


『英!ごめんねー帰ろっか』
「はい」


先輩に促されて部室を後にする。
俺どうしちゃったんだろ。


『英?』
「何?」
『機嫌悪い?』
「機嫌悪くは無いっす」
『悪くはってことは何かあったってこと?』
「あー。別に大丈夫です」


正直このもやもやを上手く説明出来るか自信がなかった。
だから適当に誤魔化しておいた。
機嫌が悪いわけじゃないはずだし。


『大丈夫だったらそんな顔しないでしょ?』
「そんな変な顔してます?」
『悩んでそうには見えるけど』
「まぁ」
『何かあった?』


凛先輩は俺の事に関しては目敏い。
少しの変化でも直ぐに見付けてしまう。
それを鬱陶しいとか思ったことは無いけど今回のは気付いてほしくなかった。
何かカッコ悪い気がするし。
でもそう言った所で放っておいてくれる人でもない。


「なんかあったとかじゃないですよ」
『じゃあ何に引っ掛かってるの?』
「それは」
『英、何でも話してくれた方が嬉しいよ。それが嫌なことでも良いことでも。そんなんじゃ嫌いにならないからさ』


俺に話すように優しく声色で諭してくる。
凛先輩はいつだってそうだ。
俺が話すまでは諦めない。


「3年が居た時は別に気にならなかったんです」
『うん』
「何かもやもやしてて」
『何に』
「矢巾さん達に」
『何でさ』
「俺の知らない凛先輩を知ってるから」
『そういうことね』
「俺の知らないところで、先輩はどんな時間を過ごしているんだろうって。俺は最近それがとても知りたいんです」
『部活以外は一緒にいれないもんね』
「凄いカッコ悪いこと言ったんで忘れてください」
『え、嫌だよ』


渋々俺が考えてたことを伝えたけど言葉にしてみて初めてもやもやの正体が分かった。
これは単なるヤキモチだ。
凛先輩と同じ時間を過ごしている2年の先輩達に対してのヤキモチだ。
それに気付いて猛烈に恥ずかしくなったし自分が小さい人間な気がして落ち込みたくなった。


「や、忘れてください。俺かなりカッコ悪い」
『そんなことないよ。私だって後少し遅く生まれてたら良かったのになぁって思うときあるし』
「ほんとですよ」
『そしたら英と一緒に成長出来たのにねぇ』
「ヤキモチみたいなこと言ってすみません」
『英が私のことちゃんと気にしてくれてて嬉しいから大丈夫だよ』
「そうですか」
『でもなぁ、一回矢巾にクラスで私がどんな風か聞いてみればいいよ』
「え?」
『そしたらきっと安心すると思うよ』
「凛先輩が教えてくれたらいいと思うんですけど」
『恥ずかしいから嫌だよ』
「矢巾さんに聞けば教えてくれるんですね」
『うん、帰ったら電話でもしてみたらいいよ。きっと教えてくれるから』


先輩を家に送り届けた帰り道に矢巾さんに電話をしてみた。
家に帰るまで待てなかったのだ。
そしたら矢巾さんが渋々教えてくれた。
凛先輩は教室にいるときだって俺のことしか考えてないって。
いかに自分の彼氏がカッコ良くて可愛いかを友達にずっと話してるって聞いた。
矢巾さんに対してもそんな感じらしい。
まだ他にも色々あるみたいだったけど気恥ずかしくて途中で止めてもらった。
つまんないヤキモチなんて妬くなよとまで言われてしまったのだ。


矢巾さんってチャラそうな癖に意外と色んなとこちゃんと見てんだな。
もやもやしてた気持ちがすっと消えていくのが分かった。
俺が知らないと思ってただけで見てないとこでも凛先輩は凛先輩なんだな。
何にも変わったりしないんだよな。
それが無性に嬉しかった。

俺の知らないところで、先輩はどんな時間を過ごしているんだろう。俺はそれがとても知りたかった。

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