『あーかや遊ぼー』
「は?俺ゲーセン行くつもりだったんすけど」
『私も行くー』
「凛先輩格ゲー弱いじゃ無いっすか」
『見てるだけでいいからさ』
「彼氏はどうしたんすか」
『忙しいって言うんだもん』


テニス部マネージャーの凛先輩。
俺の1つ上の3年だ。
彼氏は俺の3つ上だから面識は無い。
テニス部OBってのは知ってる。
俺が中学に入った時から付き合ってるはずだ。
二人は俺の付け入る隙も無いくらいラブラブだって柳先輩が言ってたはずなんだけど最近どうやらそうじゃないみたいだ。


凛先輩は俺のことを後輩として可愛がってくれている。
後輩の中じゃ一番仲が良いって自分でも思う。
だから二人で遊びに行くことも前からちょこちょこあった。
けど最近その頻度が増えてきてる気がする。
俺は凛先輩のこと中学の時からずっと好きだったから別にいいんだけど。
彼氏と何かあったんだろうか?


「やっぱりカラオケ行きませんか?」
『いいの?』
「ゲーセンは一人でも行けるんで」
『ありがとう赤也!今度のテストもちゃんと見てあげるからね!』
「約束っすよ!」
『任せとけ!』


凛先輩がいるならゲーセンじゃなくてもいい。
それなら二人きりになれるとこに行こう。
ブーブーとスマホがLINEの通知を告げる。
確認してみると柳先輩でそこには一言「付け入るなら今だぞ」とだけ書かれていた。
相変わらず抜け目ねぇよなあの先輩は。
いつもだったら丸井先輩が便乗して来そうなのにどうやらそれも柳先輩が制してるみたいだった。
だから俺達のやりとり皆黙って聞いてたんすね。


『じゃあ行こうか』
「そうっすね」
『じゃ皆お疲れ様ー』
「お疲れっすー」
「赤也、宿題もちゃんとやるんだよ」
「朝練遅刻するなよ」
「気をつけて行ってくるんだぞ」
「切原君、遅くなる様でしたらちゃんと椎名さんをうちまで送るんですよ」
「へーい」


後三人から何にもねぇなと思ったら口パクで頑張れと言ってるみたいだった。
先輩達にはやっぱ敵わねぇよな。
俺の気持ちを知らないのは隣の凛先輩だけだ。


『カラオケなんて久しぶりだー!』
「そうなんすか?前はよく彼氏と言ってませんでしたっけ?」
『あーそうだね』
「何かあったんすか?」


カラオケの個室に付いて早々に本題に入ることにした。
オーダーしたドリンクも来たからこれで誰にも邪魔をされることは無い。


『んーちょっとね』
「凛先輩、俺話くらいなら聞きますよ」
『でもなぁ』
「幸村部長達とは違って俺は先輩の彼氏知らねぇし」
『確かにそうだねぇ』
「俺じゃ力不足ですか?」
『そんなことないよ』


何を歌おうかとデンモクを操作していた手が止まった。
先を促したいけど俺は先輩の言葉を待つことにしたんだ。
急かさないってのは結構大事ってこれまた柳先輩がいつか忘れたけど言ってた。


『誰にも言わないでね』
「言わないっすよ」
『彼氏、浮気してるみたいなんだ』
「はぁ?」
『まだ分かんないけど』
「何で浮気だと思ったんすか?」


デンモクを操作する手は止まったままだけど凛先輩の視線はデンモクに落ちたままだ。
俺もしかしたら泣かせるかもしんねぇ。
俺が悪いわけじゃないけど。
つーか浮気?凛先輩を放って浮気とか許せねぇし。


『先週の日曜日にね』
「部活休みでしたね」
『バイトだから会えないって言ってたの』
「はい」
『一人でウィンドウショッピングしてたんだけどさ』
「あー」
『女の子と歩いてるの見ちゃったんだよね』
「彼氏のバイトって」
『塾の先生』
「バイトってわけじゃなさそうですね」
『やっぱりそう思う?』
「まぁ凛先輩だってこうやって俺と二人で遊んでますけどね」
『そうなんだけどっ!』


付け入るなら今だって言われたけど俺は地雷を踏んだみたいだ。
一気に先輩の声が震える。


「嘘をついてまで女と会ってたのはってことすか?」
『わ、私は赤也と遊ぶ時だって嘘ついたことないもん』
「まぁでも二人で遊ばれるのは彼氏も嫌だったんじゃないすか」
『そんなこと無いよ。信用してるって言ってくれてたし彼氏も今までは女の子と二人で遊ぶ時は教えてくれたもん』
「あーそれなら浮気っすね」
『やっぱりそうだよね』


凛先輩は既に涙声だった。
やっぱ泣かせちまったか。
でも俺だったら彼女が自分以外の男と二人で遊ぶのは嫌だ。
だからそこに関しては凛先輩の肩を持つわけにはいかない。


「どーするんすか?」
『分かんない』
「じゃあ」
『うん』
「別れたらいいんすよ、とにかく。そんで俺と付き合ってください」
『え』
「俺だったらそんな不安にさせることしません。凛先輩以外の女とはぜってぇ遊ばない。凛先輩にも俺以外の男とは遊んでほしくねぇけど」
『赤也?』
「いいじゃないすか。先輩だって俺のこと少しは気に入ってくれてるでしょ?」
『それはそうだけど』
「ならとりあえず別れる。んで俺と付き合ってください」
『赤也はいいの?』
「俺は先輩じゃなきゃ嫌なんすよ」


凛先輩はそれを聞いて考え込んでるみたいだった。
5分くらいそうしてたと思う。


『本当にいいの?』
「俺が彼氏じゃ恥ずかしいっすか?」
『そんなことないよ。赤也はかっこよくなった』
「じゃあいいじゃないっすか」
『分かった』


そう呟くと先輩はスマホを取りだして何やらぽちぽち操作している。
直ぐに先輩のスマホが震える。
それを確認すると先輩は寂しそうに笑った。


『終わったよ』
「何したんすか?」
『別れようって連絡した。そしたら直ぐに分かったって連絡来ちゃった』
「あっさりですね」
『そうだね、きっと向こうにはもう気持ちが無かったのかも』
「泣いていいんすよ」
『赤也今日は一段とかっこいいね』
「これからもっとかっこよくなって凛先輩を惚れさせてみせますから」
『馬鹿』


そう言って先輩は一粒涙を溢してから微笑んだ。
やっとだ、やっと俺のとこに凛先輩が来た。
好きだなんて軽々しく言えなかった。
俺のこと長い片想いを「好き」の一言で済ませたくなかったんだ。


「歌いますか」
『そうだね!歌う!』


時間まで凛先輩と散々歌ってから帰った。
勿論ちゃんとうちまで送っていった。
柳生先輩にも言われたし。
や、そうじゃなくても送ってったけど。
帰り際に凛先輩が『これから宜しくね』ってちゃんと言ってくれたのが嬉しかった。
まだ俺のことは恋愛の好きじゃなくてもいい。
でも絶対このチャンスは逃さない。
惚れさせてみせるからそれまで待ってろよ凛先輩。

別れろよ、とにかく。そして俺と付き合えばいい

prev | next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -