排球middleアイネクライネの続編です


赤葦君とお付き合いを始めて2ヶ月が過ぎた。
とっても穏やかな2ヶ月だったと思う。
これも全部赤葦君のおかげなんだよね。


「椎名ー!タオルー!」
『はーい』
「木兎!さっきタオル私が渡したでしょ!」
『えっ』
「バレた?」


木兎さんに呼ばれてタオルを渡しに行ったのに背中から雀田先輩の声が飛んでくる。
赤葦君とお付き合いを初めてからも木兎さんは雀田先輩と同じ様に私に接してきた。
「あれは単に甘えてるだけだから」って雀田先輩に教えてもらってからは特に気にすることなく接することが出来てると思う。


「木兎さん、タオル落としてましたよ」
「あかぁーし!拾ってくるなって!」
『赤葦君、はいタオル』
「椎名さんありがとう」
「なぁ!お前らって何でまだ赤葦君椎名さんなんだ?」


木兎さんに赤葦君がタオルを渡している。
そしたら木兎さんからさらりと疑問をぶつけられた。
え、それ私と赤葦君がいる時に聞くんですか?


「部活中なんでこうなんですよ」
「あ、そーゆーことね」


赤葦君の返事に納得したようなしてないような曖昧な顔をして木兎さんは去っていった。
赤葦君はそう言ったけど私が名前で呼ばれたことは未だ無い。
あぁきっと私が困るだろうからってまた先回りをしてくれたんだろう。
お付き合いをしてからも赤葦君は変わらない。
いつも私を気遣ってくれている。


『ありがとう赤葦君』
「凛って呼びたくないわけじゃないからね」


それだけ言うと赤葦君も練習に戻っていった。
別にそこは気にしてなかったのに。
あぁでももしかしたら後からもやもやしてたかもしれない。
そういうのもいつも全部先に教えてくれる。
最近の告白も全部彼女がいるからと断ってくれてるらしい。
相手に彼女が誰かを聞かれても答えないのもきっと私のためなんだと思う。


クラスメイトに赤葦の彼女って誰って聞かれたけど私はそれに答えることが出来なかった。
ちゃんと私って言った方が良かったのだろうか?
でも赤葦君が黙ってくれてるのに私がそれを主張するのは違う気がした。


「凛ちゃん」
『はい』
「赤葦とは仲良くやってる?」
『はい、大丈夫です』
「まぁ赤葦だから気にしてないんだけどね」
『雀田先輩』
「ん?」
『クラスメイトに赤葦の彼女って誰って聞かれたんですけど私それに答えれなかったんです』
「うん」
『どうしたら良かったかなって』
「赤葦の彼女かぁ。私も聞かれるからなぁ」
『先輩は何て答えてるんですか』
「赤葦が秘密にしてるならそれがいいのかなって思ってるよ。凛ちゃんに嫌な思いしてほしくないし」
『すみません』
「謝る必要は無いよ。木兎もそれについては周りの質問に知らないって柄にもなく空気呼んでるからねぇ」
『そうなんですか』
「木兎は意外と出来るこだよ」


雀田先輩が赤葦君とのことを聞いてくれたから疑問をぶつけてみた。
でも木兎さんも周りに黙ってくれてるなら私が彼女ってことを周りに言う必要は無いのかもしれない。


『もうすぐ代表決定戦だね』
「音駒と井闥山と戸美とだね」
『音駒もちゃんと残ってて良かったね』
「そうだね。最初に音駒とだよ」
『そうなんだ』
「大丈夫だよ」
『え』
「開催地枠があるから、ちゃんと音駒も春高行けるよ」
『赤葦君は何でもお見通しなんだね』


赤葦君と帰ることにも慣れたいつもの帰り道。
春高バレーの話になった。代表決定戦まで残れたからきっとうちは大丈夫だろう。
けど初戦に音駒だと彼らは春高に行けるのだろうかと心配になった。
それがまた顔に出てたのだろう。
ちゃんと教えてくれた。


「椎名さんのことはいつも見てるから大体何を考えてるか分かるよ」
『それちょっと恥ずかしいね』
「事実だよ」
『私も赤葦君の考えてること分かる様になりたいなぁ』
「じゃあさ、俺が何を考えてるか当ててみて」
『えっ?』
「考えたら直ぐに分かるよ」


突然赤葦君から難題を突き付けられた。
赤葦君が何を考えてるか?
考えたら直ぐに分かるって言うけどなんだろう?
隣で赤葦君がクスリと笑う。
いつも優しいのにたまにこうやって私をからかう様なことを言う。
でもそんな赤葦君も穏やかで全然嫌になんてならなかった。


「今日の部活がヒントだよ」
『部活中?』


今日あったことと言えば木兎さんに名前の呼び方で絡まれた話だろうか?
それくらいしか思い当たる節は無い。
と言うことは。


『名前?』
「そうだね」
『凛って呼んでくれるの?』
「それもだけどそれなら」
『うん』
「京治って呼んでくれないかな?」
『え』
「俺も凛って呼びたいしそれ以上に京治って呼ばれたい」


赤葦君のことを名前で呼ぶの?私が?
いいのだろうか?
付き合っているのだから問題無いとは思う。
でも何となく戸惑ってしまうのだ。


「凛、二人の時だけでいいから」


凛と名前を呼ばれて心臓が跳ねる。
あぁそうか好きな人に名前で呼ばれるのってそれだけで幸せだ。
赤葦君が名前で呼んでくれるだけでふわふわと何かで包まれたみたいに気持ちがほんわかした。
だったらこの気持ちを赤葦君にもお返ししないといけない。


『京治、君』
「ありがとう」


名前で呼んだだけなのに隣の赤葦君は凄く嬉しそうに表情を和らげた。
私達は似た者同士なのかもしれない。
きっと赤葦君もさっきの私と同じ気持ちになってくれてるはずだ。


『京治君』
「何?」
『京治君はいつも私の気持ち分かってくれるでしょ』
「そうだね」
『私も京治君が何を考えてるのか先回り出来る様になりたい』
「うん」
『でもね、分からない時は聞いちゃうかも。その時はちゃんと教えてね』
「当たり前だよ」


そうやってまた優しく微笑んでくれるから私は再び幸せな気持ちで包まれた。
どうやってこの気持ちを伝えたらいいんだろう?


『名前で呼ばれるだけでこんなに幸せな気持ちになれるんだね』
「凛だけだよ」
『うん、私も京治君だけだと思う』


ふと視線を合わせるとまた穏やかな気持ちになれた。
今までだって名前で男子から呼ばれることはあった。
でもこんな気持ちになれたのは京治君だけだ。


ねぇ京治君、名前で呼ばれただけなのに「好きだよ」って言われてるみたいだよ。
そんな風に言ったらまた穏やかに笑うだけなんだろうな。

名前で呼んでくれないかな?

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