「クリスマス?んなもん別になくてもいいだろ」
『駄目だよはじめ。幼稚園でサンタクロースはいるって話になってるんだよ』
「俺、サンタはいねぇって親に言われたけどな」
『はじめははじめ。一樹にはサンタはいるよって私も言っちゃったの』
「日本にはサンタクロースは来ねぇって伝えとけよ」
『もー!わざわざ子供の夢を壊すことしないでよ』
「どうすりゃいいんだよ」
『サンタクロースはいるって言ってくれたらいいよ。後は私がやるから』
「おう、頼むな」


他の年間行事は進んで協力してくれるのに何でクリスマスだけは非協力的かなぁ。よっぽどクリスマスに嫌な思い出とかあるんだろうか?
毎年毎年サンタクロースは居なくていいだろって言うんだもんなぁ。
これは付き合ってる時からそうだった。
クリスマスプレゼント?それってやらなきゃ駄目なの?面倒臭ぇ。
ずっとこんな感じ。よく別れなかったよね私。
だから私とはじめの間にクリスマスプレゼントを贈り合うってことはなかった。
付き合い始めの時は流石にあげたかな?
私には無くて大喧嘩したけど。


はじめはきっとサンタクロースが嫌いなんだな。
そう一人納得して一樹のために色々と準備することにした。
一樹は今年で5歳。大学卒業した年に出来ちゃった子供だ。
クリスマスにワガママ行って泊まりで遊園地に行った時だと思う。
昼間は私にはじめが付き合ったから夜は俺に付き合えよってよく分からないワガママを言われたんだっけ。
クリスマスプレゼントは毎年無いけど結局色々楽しんでるよね私達。
子供が出来たって伝えた時もはじめ嬉しそうだったもんな。
「じゃあ結婚するべ」って言い方は素っ気なかったけど。


「ママー」
『なぁに?』
「サンタさん来てくれるかな?」
『良い子にしてるから来てくれるよ』
「ほんと?」
『大丈夫だよ』
「パパにもサンタさん来てくれるかなぁ?」
『パパは大人だからなぁ。どうだろ?』
「サンタさんって子供にしか来ないの?」
『そうだねぇ』
「ねぇじゃあママ」
『何?』
「僕ね――――」
『それいいね』


一樹とスーパーに行った時のこと。
可愛い息子の可愛い提案に私は乗ることにした。
これはきっとはじめも喜んでくれるかもしれない。


クリスマスイブ。
今日は日曜日だから家族三人でのんびりした。
出掛けようかって一樹に聞いたのに「パパ仕事で疲れてるから」って返事がきたのだ。
我ながらしっかりした息子だと思う。


そう思ってたのにどうやら及川からクリスマスプレゼントが届くのを待ってたらしい。
いつの間に約束していたのだろうか?きっと11月に遊びに来たときにさりげなく聞いて帰ったなあいつ。
さっさと結婚すればいいのに。
相変わらず独身生活を謳歌してるみたいだった。
はじめと一緒に及川から届いたプレゼントに夢中になって遊んでいる。


その間にクリスマスディナーの準備が出来るからいいけども。
いつもよりほんの少し豪勢な夕食を取りケーキを食べてお風呂に入ると一樹はさっさと寝てしまった。
「ママ、あれ宜しくね」と私に耳打ちして。


それからはじめと一緒にリビングでお酒を飲んでいる。
二人の時間は貴重だ。
一樹が生まれてからは三人の時間がぐっと増えた。それはそれで凄い幸せな時間だけど二人の時間は独身時代に戻ったみたいでまた別の幸せな時間だった。


「凛」
『何ー?』
「プレゼント置いて来たぞ」
『ありがと』
「これ、お前知ってた?」
『何がー?』


はじめにサンタクロースからのプレゼントを一樹の枕元に置いて来て貰った。
戻ってきたはじめの手には一枚の便箋。
一樹からのサンタクロースへのプレゼントの催促の手紙だとは思うんだけど、はじめはなんだか楽しそうだ。


『仮面ライダーのおもちゃが欲しいじゃないの?』
「下に1つ増えてんぞ」
『えっ知らない』
「弟か妹が欲しいだと」
『あー』
「そろそろいいんじゃねぇ?」
『働こうと思ってたんだけど』
「俺の給料でもやっていけるべ」
『はじめに頼りきりなのもなぁ』
「俺はうちに居て欲しいけどな」
『んー?』
「帰ったらお前らが居てくれるから仕事頑張れんの」
『いいの?』
「おう。それで毎日笑って美味しいメシ作れよ」
『分かった』
「じゃあ行くぞ」
『へ?』
「もう1つの願い叶えてやんねぇとな」


ズルい。そうやって言われたら断れないじゃないか。
はじめに促されるまま寝室へと移動した。
一樹との約束忘れない様にしなくちゃな。


25日の朝。
良かった、私の方がちゃんと先に起きれた。
一樹と用意したはじめへのプレゼントを枕元へと置いて朝食の準備をする。


「ママー!サンタさん来た!」
『良かったねぇ』
「ちゃんとお願いしたやつだった!」
『サンタさんは何でも知ってるからね』
「お願いした手紙なくなってたからちゃんと聞いてくれるかな?」
『他にも何かお願いしたの?』
「んー内緒!パパ起こしてくる!」
『はーい』


もう1つのお願いは私には内緒なんだ。思わず口元から笑みが溢れてしまった。
嬉しそうだったしやっぱりもう1つの願い事も叶えてあげないとな。


ダイニングテーブルに朝食の準備が整った時だった。
一樹がはじめの手を引いてリビングへと入ってくる。


「ママ!ママ!パパにもサンタさん来たよ!」
『そうなの?』
「ほら見て!」


空いた方の手には私と一樹が選んだはじめへのプレゼントが抱えられている。
はじめは目でお前だろと私に訴えているけどそれはスルーすることにした。


『良かったねぇ』
「ママ!ママにはサンタさん来た?」
『え?』


どういうことだろう?
ちらりとはじめの様子を伺うと片手でごめんと謝ってる様に見えた。
あぁ、そういうことね。
私達の息子は私とはじめ両方にサンタが来るようにお願いしたのだろう。


『ママにもサンタ来たよー』
「ママは何を貰ったの?」
『内緒ー』
「えぇ!教えてよ!」
『幼稚園から帰って来たら教えてあげるね。早く朝御飯食べないと遅れちゃうよ!』
「あ!食べる!パパも食べよ」
「そうだな」


一樹の気を反らす事に成功した様だ。
一言私に言っておいてくれても良かったんじゃないの?
はじめの馬鹿。
さっさと一樹を幼稚園へと送りに行くことにした。
はじめは一人で準備して会社に行っちゃえばいいんだ。


「凛、おかえり」
『はじめ?何でまだいるの?』
「有休使った」
『年末忙しいんじゃないの?』
「土曜日休日出勤したからな」
『あぁ』


幼稚園の送迎バスまで送って帰るとはじめがまだうちに居た。
この時間はうちを出てないとおかしい時間だからびっくりしたけどどうやら有休だったらしい。


『それなら一樹休ませたのに』
「今日はお前に時間使いたかったんだよ」
『珍しい』
「普段頑張ってくれてるからな。プレゼントもありがとな」
『一樹がパパにもサンタさん来たら喜んでくれるかなって言ったんだよ』
「あぁ」
『私にはサンタクロース来なかったけどね』
「ちげぇよ」
『はじめも一樹に言われたんじゃないの?』


リビングへと戻り二人分の珈琲を入れるとソファへと座らされた。
まだ洗濯とか掃除とか色々やることあるんだけどな。


「ほらよ」
『何これ』
「なんだっけな?セカンドマリッジリング?だとよ」


ぽんと綺麗に包装された小箱をはじめに渡された。
え?想定外なんだけど。


『クリスマスプレゼント?』
「ちげぇ。結婚5年目だからな」
『買ってきてくれたの?』
「まぁな」


小箱を開けてみるとそこには指輪が2つ入っていた。
ちゃんとはじめの分もあるんだ。


『2つ?』
「店員がな、旦那さんの分もあった方が奥様は喜びますよって教えてくれたんだよ」
『はじめ』
「なんだ」
『ありがと、大好き』


小箱からそっと指環を取り出してはじめの薬指にそっとはめてみた。
結婚指輪と重ね付けしても問題無さそうだ。
そうしたらはじめも同じ様にしてくれた。
なんか結婚式のこと思い出しちゃった。


「照れ臭いな」
『ちょっとね』
「昼メシ食いに行くぞ」
『え?夕飯に行こうよ』
「今日はお前のために休んだんだから一樹には内緒な」
『もう。じゃあさっさと洗濯してくるね』


はじめの言葉に嬉しくなってしまった。
一樹にはちょっと悪いけどママはパパとデートしてくるね。
ソファから立ち上がってリビングから出ようとした時。


「凛」
『なぁに』
「愛してる」
『私の方がはじめも一樹も愛してますから』
「知ってる」


不意打ちの愛してるが飛んできてびっくりして変な風に返事をしてしまった。
普通に私も愛してるって言えば良かったのに。
普段愛してるだなんてねだっても言わないのに。
ずるいよはじめ!
顔が熱いのは気のせいじゃない気がしてそそくさと洗濯機に向かった。
一樹にクリスマスプレゼント自慢出来るな。


薬指にはめられた2つの指輪を見て自然と綻んでしまう。
来年からははじめにも毎年プレゼントをあげようかな。
きっと喜んでくれるはずだ。

岩泉家の場合

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