青と夏

「夏休み始まるぞ」
『最後の夏だねぇ』
「高校最後、な」
『だね』


クラスメイト達が何処に行こうかとかワイワイ楽しそうだ。
夏が終わったら受験まっしぐらだからはしゃぎたくなる気持ちも分かるなぁ。


「苗字は?何かすんの?」
『花火には参加するかなぁ』
「俺も花火は参加する予定!」
『夜久も?』
「部活あるからプールとか海は参加出来ないんだよ」
『あぁ、そっか。じゃあ花火楽しみだね?』
「学校のプール忍び込んで花火とか正気じゃないよな」
『でも確実にバレなきゃ安全だからねぇ』


うちの学校は水泳部の大会が終わったらプールの水を抜いてしまう。
そこに忍び込んで花火をしようってのが私達の計画。
水泳部の子が後輩から鍵を借りてくれるらしい。
公園で花火して近所の人に通報されるよりはマシだろう。


高校最後の夏休み。
沢山沢山楽しめたらいいな。


「てかアンタ結局恋愛の一つもしないで高校生活を終わらすつもりなの?」
『えっ?』
「そうだよー結局恋愛の話全く無かったし」
『えぇと』
「いいなって想う人すらいないわけ?」
「いっつも私達の話の聞き専みたいになってたしこれでも心配してたんですけど」
『うーん』
「最後の夏なんだからね。勉強も大事だけどたまには恋愛のことも考えてみなよ」


終業式の帰り道、友達二人にそんな風に言われたけれどイマイチピンと来なかった。
友達の恋愛話にキュンキュンしたことはあっても自分が誰かにときめくようなことこの三年間に一度も無かったのだ。
夏期講習も始まるしそんなことしてる暇はあるのだろうか?


「苗字」
『はい』
「ちょうど良かった。今暇か?」
『はぁ。帰るだけなんで暇です』
「バレー部の二人いるだろ?アイツら部活で夏期講習参加出来ないから課題だけ渡さなきゃいけなかったんだが忘れててなぁ」
『届けてくればいいんですか?』
「体育館にいるだろうから頼んでもいいか?」
『いいですよ』
「じゃあ頼んだぞ」


どさりと二人分の課題を手渡される。
げ。これって夏期講習分全部だよね?
この量を夏休み中に私もこなさなきゃいけないわけだよね。ちょっとこの量に気が滅入った。
まぁ私はちょっとずつ学校でやればいいだけだけどいっぺんに渡される黒尾と夜久はもっと大変だろなぁ。


「ちょ!黒尾さん止めてくださいよ!」
「お前が始めたんだろ!ほら!冷たくて気持ちいいだろー?」
「おい!黒尾!こっちにも水かけんの止めろ!」
「俺はもうずぶ濡れなんでーすー!やっくんも濡れろ!」


何やら騒がしい声が聞こえる。
水浴びでもしてるのかな?
でも水浴びの出来るような場所あっただろうか?


「次は俺の番ですからね!」
「リエーフ止めろって!」
「もう充分涼んだだろが!」
「二人とも覚悟!」


次の角を曲がったら体育館だ。
黒尾と夜久の声も聞こえるからさっと課題を渡して帰ろう。帰って家で涼もう。そう思ってたのにだ。
角を曲がった瞬間に私に盛大にホースから出た水が降りかかった。


「苗字?」
「苗字ちゃん!?」
『冷た!』
「黒尾さんと夜久さんが避けたせいですよ!すんません!大丈夫っすか?」
『ふっ!あははっ!びしょ濡れなんだけど!』


暑くてしょうがなかったから突然水を浴びることになっても怒れなくて笑ってしまった。
黒尾と夜久はポカンとしてるしもう一人の多分後輩の子かな?その子はなんだか慌てている。
それが余計になんだか面白かった。


「お前ホース振り回すなら考えろよ!」
「夜久さん痛いっす!謝ったっすよ!」
『夜久、いいよ。大丈夫。ふ、ふふっ!』
「ほら、笑ってるっすよ!」
「そういう問題じゃねぇんだよ!」
「苗字ちゃんリエーフがごめんなー」
『ううん、大丈夫だ…よ』


黒尾が謝りながら頭からタオルを被せてくれた。わしゃわしゃと私の髪の毛を拭いてくれてるけれどなんだかそれが気恥ずかしい。
『大丈夫だよ。自分でやるよ』って伝えたかったのに顔を上げたら至近距離に黒尾の顔があってなんだかよくわからないままドキドキした。
黒尾もずぶ濡れでいつもと髪形が違ったからかもしれない。
と言うかわざわざ私の背丈に合わせて黒尾が屈んでるからこんなにも顔が近くにあるんだろう。
うわ、何これ凄い恥ずかしい気がする。


「ったくリエーフがごめんなー」
「だから俺はすみませんって謝ったっすよ!」
『私も暑かったから大丈夫だよー。黒尾達ほどずぶ濡れじゃないし』
「苗字はこんなとこまで何しにきたんだ?」
『あ、そうだった!課題!』
「「「課題?」」」


心臓がドキドキしたまま黒尾の手からタオルを奪い取り自分で拭くことにした。
もう、変にドキドキしちゃったじゃん。
下半身までびしょ濡れにならなくて良かった。
夜久の一言にここまできた理由をやっと思い出した。
先生から預かった課題をとりあえず鞄にしまっておいて良かったかも。
手に持ってたら今頃使い物にならなくなってただろう。
鞄から二人分の課題を取り出してそれぞれに手渡す。


『夏期講習の課題だって』
「「あー」」
「何すかそれ?」
『大学行くためにやらなきゃいけない夏の課題的な?』
「こんなにあるのかよ」
「すげぇだりぃ」
『ま、頑張りたまえ。んじゃ私帰るから』
「あ!苗字ちょい待ち」
『ん?』


涼しくはなったけど今度はなんか濡れて気持ち悪くなってきたのでさっさと帰って着替えよう。
そう思って帰ろうとしたら黒尾から待ったの声がかかって振り返る。


『ぶ』
「暑いけどそれ着て帰れよ」
『何これ』
「うちの音駒ジャージ」
『何で』
「何ででも。いいから着て帰りなさい」
『でも』


顔にジャージがクリーンヒットしたんですけど黒尾君。
この暑いのに長袖のジャージなんて着て帰れないと思うよ。
怪訝そうに黒尾を見つめると小さく息を吐いてこちらへと近付いてきた。
え、何で近付いてくるのか。


「苗字ちゃん濡れたせいで色々透けてるんですけど」
『!?』
「だから必要だと思うよジャージ」
『う、うん。ごめん、ありがと』
「素直で宜しい。また夏期講習の日にでも返してくれたらいいから」
『分かった』
「じゃあまたな」
『うん、またね。夜久もまたねー』
「おー。またな」


そうか、その確認はしていなかった。
確かにうっすらと下着が透けてるのでいそいそと黒尾のジャージを着ることにする。
暑いからさっさと帰ることにしよう。
夜久何かあったかな?何かいつもと態度違った気がするけど。
黒尾のジャージからは嗅ぎ慣れない柔軟剤の匂いがしてなんだかまたもやドキドキした。


「は、まさかの黒尾?」
『や、別に好きとかそういうんじゃなくてちょっとドキドキしただけと言うか』
「あちゃーまさかの黒尾か」
『だからまだ好きとかじゃないよ?ドキドキってこういうことを言うのかなって思っただけだし』
「黒尾は彼女いるよ」
『そう、なんだ』
「ほらその顔単にドキドキしたってだけの顔じゃないし!」
『だからそういうんじゃ』
「名前、がっつり残念って顔してるよ」
「黒尾タイミング考えてよー」
『いや、黒尾のせいじゃ』
「あぁもう不毛な恋に片足突っ込んだねアンタ」
「まぁそういう時もあるよね」


次の日さっさと黒尾へとジャージを返してそのまま昨日あったことを友達へと報告した。
そっか、黒尾彼女いるんだ。私そんなこと全然知らなかった。
この胸がズキズキするのはきっと気のせいじゃない。友達に言われたからとかではない気がした。


「花火ー!」
「お前ら静かにしろって!」
「夏休みは守衛さんも居ないから大丈夫だってー!」
「プールはSECOMもついてないしなー」
『あはは!みんな楽しそうだねぇ』
「ほんっとはしゃぎ過ぎだよね」


夜の学校に忍び込んでの花火は結局八人くらいしか集まらなかった。
でもこの人数で良かったかもしれない。
これ以上多かったらさすがに煩いだろうし。
色々な手持ち花火を楽しんだ後友達と二人プール際へと座って線香花火を楽しむ。
他の六人はまだ手持ち花火に夢中だ。
そこには黒尾の姿もあって気付いたら目で追っている自分がいた。
夜久達と楽しそうに花火を振り回している。


「アンタやっぱり黒尾なんだね」
『そうみたい』
「何で黒尾なのか。夜久でも良かったんじゃないの?」
『そんなこと言われても』
「まぁ黒尾にドキドキしちゃったのならしょうがないか」
『ごめん』
「こればっかりはしょうがないよねぇ」


心配してくれていたのに彼女持ちの人を好きになってごめんね。
でも友達が言うようにこればっかりは仕方無い気がする。


「じゃアタシと勝負しよ?」
『え?』
「線香花火どっちが長く続くかの勝負」
『それでどうするの?』
「アタシが勝ったらアンタ黒尾に告白してきなよ」
『は?』
「それでさっさとフラれておいで」
『や、それは無理。さすがに無理!』
「アンタが勝ったら言わなくていいから」
『え、でも』
「勝負に勝てばいいんだって!ほらやるよ!」
『本気なの?』


言われるがままにせーので線香花火に火を付けた。これは勝たないと困る。
つい最近好きになったばかりなのに告白なんて無理!無理に決まってる!
焦ってはいてもパチパチと爆ぜる線香花火がとても綺麗だ。
負けたくないけれどその儚さについ見とれてしまった。
ふと誰かの視線を感じたような気がして顔を上げたけれど六人共まだ手持ち花火に夢中みたいだ。気のせいだったのかな?


「名前!アンタの落ちたよ!」
『あー!』
「アタシの勝ちー!」
『ほんとに落ちちゃってるし』
「余所見をしたのが悪いー」
『さっきの本気?』
「本気。夏の間に告白しなよ。それでフラれておいで。慰めてあげるから」
『酷いー』


余所見をしたせいなのが原因なのかは分からないけれど勝負にあっさり負けてしまった。
フラれておいでとか酷いと思う。
けれど友達の言う意味も分かる。
黒尾とその彼女は付き合い長いらしいから別れるなんて絶対に無いみたいだし。
そんな不毛な恋愛をぐずぐずしてるくらいならさっさとフラれて新しい恋見つけろってことなんだろね。
分かってるけど私本当にちゃんと黒尾に告白出来るのかな?


「お前らもこっちに参加しろよ!」
「二人ともはーやーく!」
「花火終わっちまうぞ!」
「行く?」
『うん、とりあえず今日は楽しむ!』


ピョンと二人でプールへとジャンプして六人の輪に加わることにした。


「苗字!苗字!この花火やってみ!すげぇ綺麗だぞ!」
『やるやる!』
「俺の火分けてやるよ」
『ありがと!』


黒尾から花火を手渡され火をお裾分けしてもらう。
こんな何でもない行動なのに少し前なら何とも思わなかったはずなのに今はなんだかとてもドキドキする。好きになっただけでこんなにも変わるものなんだなぁ。


「苗字俺にも火ちょーだい」
『はい夜久ー』
「おーサンキュ」
『あ、夜久のも綺麗だね!線香花火の派手なやつみたい!』
「んじゃお前にもやるよ。最後の一本な?」
『わ!ありがとー!』


線香花火みたいにパチパチ爆ぜてこの手持ち花火もとっても綺麗だ。
隣の夜久を見ると目が合って自然と笑ってしまう。
夜久とはこんなに自然と話せるし普通なのにな。恋って不思議だよねほんと。


『あれ今日は夏期講習参加?』
「体育館が使えないんだよ。んで監督が学生らしく勉強してこいって」
「正直しんどい。この量追い付くとか無理」
『まぁまぁ。分かんないとこあったら教えてあげるから』
「マジか!苗字ちゃん天使!」
『大袈裟な』
「苗字ほんと助かった!ありがとな」
『あ、でも私も全部分かるか微妙なとこ』
「そこはしゃーない」
「三人で何とか乗り切ればいいだろ」


夏期講習は強制では無いからお盆になると参加人数がぐっと減る。
そんな時の黒尾と夜久の参加だった。
私の友達二人もお爺ちゃんちに行くとかで欠席だったから二人が来てくれて良かったかもしれない。


「苗字とやっくんはそっちなんだなー」
『うん、うちこっちー』
「一人寂しく帰れよ黒尾」
「へーへー。俺は一人で帰りますよ」
『あれ彼女は?』
「今頃沖縄じゃね?帰省先が沖縄とか羨ましいよなー」
『じゃあお土産楽しみだね』
「どーせパイナップルハイチュー渡されて終わりだぞ」
「そこはシークワーサーハイチュー頼んどけよ」
『シークワーサーのハイチューなんてあるの?』
「苗字食べたことないの?」
『うん、知らない』
「んじゃ頼んどくかなー」


ちょっとした興味本位だった。
あぁ、聞かなきゃ良かった。
黒尾は彼女のこと考えただけでこんな顔をするのか。
それでも私のためにと彼女にシークワーサーのハイチューをお土産にお願いしようかと考えてくれたことが嬉しくてズキズキとドキドキがいっぺんにやってきた。


「じゃあなー。やっくんはまた明日!」
「研磨に夜更しすんなって伝えとけよ」
「俺は研磨の保護者じゃないんでーすーけーどー」
「似たようなもんだろ」
「苗字もまたな!」
『うん、またね』


嬉しくて苦しくて、幸せで辛くて、甘くて苦くてドキドキしてズキズキする。
恋愛ってのはこんなにも複雑だったんだな。
黒尾の背中をただ見てることしか出来ない。
駄目だ。このままじゃなんか駄目な気がする。


『夜久、ちょっと先帰ってて』
「は?」
『またね!一緒に帰れなくてごめん!』
「おい、ちょっと待てって!」


夜久の手がこちらへと伸びてきていた気がする。その手に捕まる前に私は走り出していた。
曲り角を曲がって消えた黒尾の背中を追って。


『黒尾!』


走って走って走って曲り角を曲がった所で黒尾の背中へと声をかける。
何をしてるの私。何を言うつもりなの私。
今じゃなくてもいいはずだ。でもきっと今じゃなきゃ駄目なんだ。
声をかけられた黒尾がゆっくりと振り返る。


『私ね黒尾のこと好きだ!』


肩で息をしながら今の私の気持ちが全部伝わるようにと全力で叫んだ。
御近所迷惑だとかもうそんなことはどうでも良かった。ただこの気持ちをちゃんと黒尾に知ってほしかったんだ。


「悪い。俺彼女いるから苗字の気持ちには答えれない」
『うん、知ってる。聞いてくれてありがと!またね!』
「苗字、気をつけて帰れよ」
『大丈夫!』


何が大丈夫なのか。全然大丈夫じゃない。
これは精一杯の虚勢だ。
出来る限りの笑顔で黒尾に手を振って元の道へと戻る。
分かっていたはずなのに。彼女がいるんだから答えは一つしか無かったはずだ。
分かってたはずなのにこんなに悲しいだなんて思ってなかった。


曲り角を曲がった所で私の歩みは止まる。
ぽたりぽたりといつの間にか涙が落ちてきた。
好きだって伝えたことに後悔はしてない。けどこんなに悲しいだなんて辛いだなんて聞いてない。
友達がこっちにいるときにすれば良かった。


「苗字?ってお前何で泣いてるんだよ」
『夜久?わ、私ね黒尾にフラれちゃったの』
「そうかよ」


呆然と立ち尽くす私へと声がかかった。
それでやっと目の前に立つ夜久の存在に気付いたんだった。
ちょっと困ったような顔をして夜久はタオルを取り出すと私の顔へと押し付けた。


「ここ目立つからちょっと歩くぞ」
『何でここにいるのさ。泣けてくるじゃん』
「俺が居なくても泣いてただろ」


人が居てくれたことに心底ホッとして独りぼっちじゃないことに安堵して涙がどんどん出てきた。
夜久に腕を引かれるまま後ろを着いていく。
涙は後から後から止まらない。


「お前泣きすぎ」
『夜久がいるからだよ』
「ま、泣けるだけ泣いとけよ」
『うぅ、優しくされると余計に泣ける』
「黒尾に彼女いるの知ってて何で告白なんかしたんだよ」


人気の無い公園のベンチに座らされる。
「ちょっと待ってろよ」と告げて夜久はペットボトルのスポーツドリンクを買ってきてくれた。
涙はまだ止まらないけれどだいぶ落ち着いたとは思う。これも夜久のおかげだよね。


『好きって伝えないと前にも後ろにも進めないと思った』
「後ろにもって何だよそれ」
『分かんないけど言わなきゃと思ったら止まらなくなった』
「そっか」
『夜久が居てくれて良かった。先に帰ったと思ってたし』
「苗字が何するかなんとなく想像出来たし」
『え』
「苗字見てたら黒尾のこと好きなのかなとは思ってた」
『夜久鋭いんだね』


タオルから顔を上げて夜久を見たら凄くムッとした表情をしていた。
え、怒らせるようなこと私何か言ったかな?


「鋭くねぇよ」
『え、でも』
「全然鋭くねぇの!泣き止んだのなら帰るぞ」
『夜久?怒ってるの?』
「怒ってない!」


全然怒ってるよね?え、何でだろ?
立ち上がるからそれに合わせて立つとすたすたと歩いていってしまう。
慌ててその背中を追って隣へと並ぶ。


『やっぱり怒ってる?』
「全然」
『その顔説得力無いよ。やっぱり泣く女の子は面倒だった?』
「違え。とにかく帰るぞ!怒ってないから気にすんな!」
『わ、分かった』


何度確認しても怒ってないって言うけれどやっぱりその表情はどこかムッとしていた。
やっぱり面倒だったのかもしれない。
けれど私は夜久が隣に居てくれて良かったと思う。おかげでちゃんと泣けたような気がするから。面倒だったよねごめんね。
でもありがとう。泣き止むまで隣に居てくれて本当にありがとう。


「はーい、スイカきたよー!」
『ありがとー!』
「夜久がいるとこで告白したとかバカなのアンタ」
『夜久には先に帰っててって伝えたよ』
「名前は仕方無いよ。恋愛初心者だし」
『バカとか酷い』
「夜久に同情しちゃうアタシ」
「まぁおかげで黒尾のことはスッキリしたんだからいいんじゃないの?」


数日後、夏期講習の帰りに学校近くにある駄菓子屋へと寄り道した。
「スイカあります」とかもう駄菓子屋じゃなくなってるよね。
駄菓子屋の前のベンチへと三人で並んで座る。
風鈴のチリンとした音が耳に心地好い。
あの告白から黒尾にも夜久にも会ってないけれど私の心はスッキリとしていた。
やっぱりあの日に告白するのは大事だったのかもしれない。
シャクシャクとスイカを噛ると瑞々しくてなんだか夏っぽい味がした。


「まぁ、まだ夏はあるしね」
「こっからは夜久に頑張ってもらお」
『何で夜久?』
「「何でもない」」
「あ!黒尾と夜久!」
『ほんとだー!二人ともお疲れお疲れー!』
「意外と平気そうだねアンタ」
『ん、もう大丈夫』
「苗字、それちょーだい!」
『あ!』
「俺にスイカはー?」
「「ありませーん」」
「クロ、帰るよ」
「んじゃまたな」
『またねー』
「「バイバーイ」」


バレー部と思われる集団がちょうど前を通りかかったのだ。
友達が黒尾の名前を呼んでも全然平気だった。
きっとあの涙と一緒に黒尾への気持ちも流れちゃったのかもしれない。
通りすがりに私の手から夜久がひょいとスイカを拐っていってしまった。
食べかけなのに私のスイカなのに。
でも相手が夜久だから許してあげよう。
こないだのスポーツドリンクのお礼だよ。
後輩の子に何やら言われてその子を蹴り上げている。あぁ今日は怒ってなさそうで良かった。


風鈴がチリンと心地好い音色で鳴った。




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