Lovely friendship

軽いリョ桜乃気味。苦手な方は注意です。


『どうしてこんなことに』
「凜ちゃん、手が止まってるよ?」
『ニンジンが恨めしい』
「ニンジンに罪はないよ」


桜乃と二人、家庭科室で今日の夕飯のカレー作りに勤しむ。これが男子のゴールデンウィーク合宿の夕飯じゃなかったら喜んで作ったのに!
高校一年になって桜乃と二人でダブルス頑張ろうねって話してたのに結果がこれじゃあんまりだ。その辺りの恨みをニンジンとジャガイモにぶつけても仕方無いと思う。
入部当初のことを思い出してみても溜息しか出てこなかった。


『えぇ!先輩それ本気ですか!?』
「今年度から男子団体にミクスドが追加されるの。枠は一つなんだけど念のため二人寄越してほしいって竜崎先生からお願いされてね。一年生からでいいって言われたから。二人とも頼んだ!」
「えっと、本当に私でいいんですか?」
「桜乃もだいぶ上手くなってるから大丈夫よ。桜乃がいかないと凜もいかないだろうしね」
『私まだいくって言ってない!』
「桜乃がいくならいくでしょう?」
『ぐ』


桜乃が断るわけがない。竜崎先生の孫だからってのもあるし、越前がいるってのもあるだろう。それを抜きにしたってこの三年間でだいぶテニスは上達した。優しい桜乃のことだから先輩のお願いにはNOと言えるわけがない。
だから私も先輩の申し出を断れなかったのだ。


「凜ちゃん、そろそろ機嫌直して」
『だって桜乃とダブルスやりたかったんだもん』
「このままずっとではないって部長もおばあちゃんも言ってたから大丈夫だよ」
『本当に?なんだかんだ三年間こっちにいるのは嫌だよ私』
「とにかくほら今はカレーに集中しよう?」
『うう、わかった』


桜乃にそう言われたらもう何にも言えなかった。諦めてカレー作りに集中する。乾先輩のレシピ通りに作ればいいから問題ないけど、夕飯作りを私と桜乃にだけ任せるのって間違ってない?私達マネージャーじゃないんだけど!


「あ、いたいた」
「河村先輩お疲れ様です」
『…お疲れ様です』
「二人ともお疲れ様。俺も練習終わったから手伝うよ」
「でも」
『先輩に手伝わせるわけには』


マネージャーじゃないにしろ先輩に手伝わせるのは違うような気がする。レギュラーしかいない合宿ではあるけれど、越前とか越前とか越前とかいるよね?


「俺は慣れてるからね。後から英二もくるってさ」
『越前にやらせたらいいんですよ先輩』
「凜ちゃん!リョーマくんにやらせたら大変なことになるよ!」
「越前はこういうこと不得意だからなぁ」


私の提案に河村先輩は苦笑いだ。不得意だろうと手伝わせることに意義があると思うのに。


「こういうのは適材適所だよ椎名さん」
『先輩がそう言うのなら宜しくお願いします』
「うん、俺や英二に任せてよ」
「えっとじゃあこっちお願いします」
「乾のレシピ通りだから簡単だしね」


私の不満げな表情に気付いたのか河村先輩が越前のフォローをした。可愛い後輩ってやつですもんね。桜乃が越前のこと好きになるのもわからなくはないけど、こうも先輩達から可愛がられてるとなんだか悔しい。


「おっ待たせー!」
『エージ先輩お疲れ様です』
「お疲れ様です菊丸先輩」
「ありゃ、凜ちゃん不機嫌さんなの?」
『不機嫌じゃないです』
「あ、凜ちゃんが不機嫌なのはいつものことか!」
「菊丸先輩!?それを言ったら」


エージ先輩の言葉に桜乃がアワアワしている。男子部に移動してから不機嫌なのは毎日のことだし事実だから否定しない。桜乃がそれを聞いて慌てるのもいつものことだ。
でも練習はちゃんと真面目に参加してるし、ミクスドも上達してるとは思うので不機嫌に関しては触れないでほしい。


『ダブルスしたかったのに』
「あー俺もその気持ちなんとなくわかるよ凜ちゃん」
「英二は中三の時に大石と組めなかったことあったからね」
「そうそう!でもさ、あん時の経験が今に繋がってると思うんだよねー」
『大石先輩と組めなかった間の経験ですか?』
「うんうん、だからさ凜ちゃんも不機嫌でいないでもっと楽しんでミクスドの経験積もうよ!」


手を動かしながらエージ先輩の言葉に耳を傾ける。そういう考え方もあるのか。でもそう簡単には納得出来ない。割りきりたくない自分がいる。


『じゃあエージ先輩は大石先輩とじゃなくて私と組むことになっても平気なんですか?』
「痛いとこついてくんね」
『だって気になります』
「凜ちゃんそんな言い方しなくても」
『だって私達エージ先輩達みたいになりたいねってダブルスの練習続けてきたんだよ?』
「それはそうだけど」
「にゃはは、それはすっごく嬉しい!」
「それで、英二はどう答えるんだい?」


同調出来るペアって貴重で、私と桜乃はまだまだだけどいつかそうなれたらいいねって二人で目指してきたんだ。それをこんな風にダメにされるとは思ってなかった。
河村先輩が私の質問を引き継いでエージ先輩に聞いてくれている。エージ先輩はどう答えるんだろう?


「んーそれが必要なら仕方無いんじゃないかな?」
『そんなあっさり割り切れるものですか?』
「団体で優勝するのに必要なら俺は指示に従うよ。勿論大石とペアでダブルス出来るのが一番だけど、ミクスドも良い経験になるだろうからさ」
「英二らしい意見だね」
「先輩って感じです」
『エージ先輩にそやって言われたら何にも言えない』
「ずっとじゃないんだからさ、この際ミクスドも楽しんじゃおうよ凜ちゃん」
『……はい』


悔しいけどエージ先輩の言ってることは正しい。目標にしている先輩にこう言われてしまっては不機嫌でいるわけにもいかないような気がした。


「で、何でアンタはそんな不機嫌なわけ?」
『私も大石先輩と組みたかった』
「あぁ、俺と組むのが嫌だったってことね」
『越前とが嫌とかじゃなくて大石先輩と一度組んでみたかったの!それかエージ先輩!』


翌日、今日は一日越前とミクスドを組むらしい。何でよりによって越前なのか。
桜乃は大石先輩と組んでいる。それがかなり羨ましい。越前が嫌とかではないけど、やっぱりミクスドをするならばダブルス上手い人の方がいい。越前ダブルスの経験少ないらしいし色々大変なんだよ。


「とりあえず俺の足は引っ張らないでよ」
『それ私の台詞ね越前』
「上等じゃん、今の言葉忘れんなよ」
『そっちこそ』


テニスの技術はやっぱり凄いけど越前やっぱりミクスド向いてない!勝手過ぎるでしょ!
一日ペアを組まされたけど終わってから私はボロボロだった。


「困ったね」
『先生、越前はミクスド無理だよ』
「しかし不測の事態があると困るだろう?お前さんなら誰にでも合わせることが出来ると思って呼んだんだが」
『へ?』
「なんだい?聞いてなかったのか。あたしは椎名を指名したんだよ。桜乃はそのついでにね」
『えぇ。先生は私が桜乃のダブルス組みたいの知ってたでしょー?』
「だからダブルスは来年以降おやりと言ってるじゃないか」


一日を終えて竜崎先生の元へと抗議しにいく。越前にシングルス以外の試合やらせたらダメだよ。そう伝えたら渋い顔をされた。不測の事態があろうとも越前とのミクスドでは勝てる試合も勝てないと思うの。


「仕方無いねぇ。もう少し越前とウマを合わせてくれんか?」
『えぇ』
「とりあえず今日の夕飯を越前と作っとくれよ。そうすりゃ少しは仲良くやれるようになるだろうし。あぁ、桜乃も手伝いに使ってくれていいから。そんじゃ頼んだよ椎名」
『えぇ!?』


私と桜乃の楽しい時間ががが。いや別に越前がいてもいいけどさ。その方が桜乃のためにもなるけどさ。まぁ今日もきっと河村先輩やエージ先輩が手伝いに来てくれるから大丈夫かな?そう思ってたのに、だ。


「ごめんね、手伝いは禁止されたんだよ」
「だからおチビと三人で頑張ってね凜ちゃん!」
『うう、ズルい』
「凜ちゃん、頑張ろう。リョーマくんも宜しくね」
「別に。今日の献立和食みたいだし手伝ってもいいよ」
『と言うか、越前は強制だからね』
「おチビ!さっさと手を動かさないと終わらないぞー?」
「エージ先輩ヤジ飛ばすだけなら練習してきてもいいんすよ」
「俺はもう今日のメニューぜーんぶこなしたからね!身体休めんのも大事なんだぞおチビ!」
「英二、あんまり越前に絡まないでくれよ。全然作業が進んでいかないから」
「あーそれは困る」


河村先輩のおかげでエージ先輩が越前に絡むのを止めてくれた。これで作業がスムーズに進む、はず。


「竜崎それ塩って書いてある」
「え?あ!ほんとだ!」
『桜乃、こっちが砂糖だよ』
「わ、ありがとう!」
「へぇ、椎名って意外と料理出来るんだ」
『これくらい普通だよ。桜乃だって出来るし』
「竜崎は凡ミス多すぎ」
「ご、ごめんねリョーマくん」
『越前が気付いて料理が無事だったから問題無いでしょ』
「まぁね」


なにその満更でも無さそうな「まぁね」は。意外とこの二人は上手いことやれてるのかな?そうなのかもしれない。桜乃が奥手過ぎてまったく進展してなさそうだけど。
桜乃が潤滑油の役目をしてくれたおかげでその日の夕飯は大した問題もなく作ることが出来た。


「ねむ」
『私も眠たい』


ちゃんと夕飯を作ることが出来たのに竜崎先生から次の指令が出されてしまった。次の日の朝食を越前と二人で作れとのことだ。桜乃は手伝い禁止。一緒の時間に起きてくれたけど「凜ちゃん頑張ってね!」と笑顔で送り出されてしまった。


「竜崎は?」
『桜乃は乾先輩の手伝いにいったよ』
「そう」
『手伝わないにしてもこっちに来てくれたら良かったのにね』
「別に。アイツはアイツで仕事があるなら仕方無いんじゃない」


今日の朝食のメニューを二人で割り振って作っていく。越前は包丁くらいならそこそこ使えたのでサラダを担当してもらった。
桜乃のこと聞いたの越前なのにその言い方はなんなのさ。


「椎名も少しくらいは竜崎を見習ったら」
『え、突然何の話』
「だからさ、竜崎ばっかに構うのやめたらってこと」
『えぇ、イヤだ』
「少しは俺の言った意味考えたりしないわけ」
『桜乃と仲良くするなってこと?』
「そういう意味じゃなくて…いいやバカに何言ってもムダだった」


私の隣で越前が呆れたように溜息を吐いた。ちょっと!越前に溜息を吐かれるようなこと私してないよね!抗議をするように越前を睨めばまた息を吐く。


「だからさもう少し周りに視線を向ければってこと」
『別に他の女の子とも仲良くやってるよ?』
「アンタってさ、ほんとバカだよね」
『は?』
「俺は女子の話なんて一つもしてないけど」


女子の話なんて一つもしてない?ってことは男子の話ってこと?全然意味がわからないんだけど。あ、それってもしかして!


『私が桜乃を構いすぎてるから越前との時間がないってこと?』
「…そんなこと一言も言ってない」
『えぇ、怪しいなぁ』
「アンタも少しくらい周りの男に目を向けたらってこと。ここまで言わないとわからないとかほんとバカだよね。そしたら少しくらい竜崎みたいな可愛げ出るんじゃない?」
『あぁ、なるほど』


それってさ、越前は桜乃のこと可愛いって思ってるってことだよね?なにそれ!凄い!青春っぽい!


「余計なこと考えないでよ」
『え?』
「俺が言いたいのそっちじゃないから。ま、別に間違ってないけど」
『え!?それってそれって!』
「だからそっちの話してないって」


その後は私が何を言っても越前に無視された。桜乃が可愛いのは私が一番知ってるんだからね!そう伝えると鼻で笑われた。まぁでも越前もそう思ってるのなら少しくらいミクスド仲良く組んであげてもいいかなとは思ったよ。友達が褒められるのは嬉しいよね。


ミクスドは何故か二日連続で越前と組まされたけど、昨日に比べて比較的ちゃんと出来たと思う。おかげで夕飯は桜乃と二人で作ることになったのだ。竜崎先生に許された!


『明日は不二先輩と組んでいいって言われたの!』
「それなら良かったね」
『桜乃は?』
「私は…リョーマくんとだって」
『おお!青春だね!』
「え、何で青春になるの!?」
『え、だって越前と組むんでしょ?嬉しくない?』
「それは嬉しいけど、大丈夫かな?リョーマくんの足を引っ張らないかな?」


大量の唐揚げをひたすら二人で揚げていく。越前とのミクスドが終わって桜乃と二人での夕飯作り。プラス明日は不二先輩と組めるから私はテンションが高かった。逆に桜乃はかなり不安げだ。


『でも昨日大石先輩に褒められてたでしょ?』
「そうだけど」
『今日だってエージ先輩に褒められてたじゃん』
「大石先輩も菊丸先輩もダブルス慣れてるから。でもリョーマくんは違うでしょ?凜ちゃんも大変そうだったし」
『私と越前は壊滅的にウマが合わなかったのが原因だからなぁ。桜乃は大丈夫だよ!』


越前も桜乃には気を遣うだろうしね!そんな風に伝えたら慌てふためきそうなのでそこは止めておいた。変に緊張させて失敗させたくないし。明日は不二先輩と組めるのか!かなり楽しみだ!


「へぇ越前がそんなことをね」
『これからの二人が楽しみですよね!』
「越前が言いたかったのはそこじゃないと思うけどね」
『邪魔するなってことじゃないんですか?』
「それは間違ってないだろうけど、そろそろ君も竜崎さんみたいに恋愛したらって意味じゃないかな?」
『えー』


不二先輩と軽く打ち合いながら昨日のことを報告する。後から越前がからかわれてしまえばいい。単にそう思い付いただけだった。なのに先輩はそっちの話じゃなくて私の話に食い付く。


「だって君このままだと結局越前達の邪魔になりそうだし」
『桜乃の邪魔はしませんよ多分』
「どうかな?越前に取られたってモヤモヤするんじゃない?」
『あーそれはあるかもです』
「素直だね」
『よく言われます!』
「へぇ、つい最近までミクスドイヤだってごねてたのにね」
『それは!前の話なんで忘れてください不二先輩!』


その話は禁止ですよ先輩!エージ先輩に言われてミクスドも後のダブルスの糧になるって気付いたから不機嫌だった私は忘れてほしい。


「いいよ、忘れてあげる。その代わりちゃんと周りにも目をやること。いいね」
『周りですか?』
「せっかく青学の男子テニス部にいるんだからもっと周りの男子に目を配ってみるといいよ」
『あぁ』
「試合になれば他校にも揃ってるからね。あ、越前は…まぁ大丈夫か」
『越前は論外ですね』
「それなら安心だ」


結局桜乃離れをしろってことなんだろうなぁ。不二先輩も越前もそうやって言ってくれたらいいのに。あ、いきなりそう言われてもムリか。
桜乃のためにも少しは周りの男子を見てみようと思いました。


『てことで私桜乃離れするから!』
「えっと、うん。わかった」
『あ、でも桜乃が一番の友達なのは変わらないからね!』
「それは知ってるから大丈夫だよ。でも急にどうしたの?」
『桜乃の恋愛を真剣に応援しようと思って』
「えぇ!?」


手料理の要素どこに行った!初めて書いた友情夢楽しかったです!
青学全員出すのは長くなるから断念しました!
2019/08/14
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