トオルちゃんの異変

最近?いやきっとこれは最近の話ではない。
部活に馴染んで周りを見る余裕が出来てからだ。
トオルちゃんがおかしい。
小学生の時にはなかった感覚。
普段はいつも通り飄々としているのに時々物凄い焦った顔をしている。
それは一瞬で周りの人はあんまり気付いて居ないだろう。
はじめちゃんは気付いてるかな?


それは私にとってとても衝撃的だった。
私には何でもこなしちゃうお兄ちゃん的存在だったから。いつだって何でも出来るのがトオルちゃんとはじめちゃんだから。
中学に入って何があったのだろうか?
あんなトオルちゃんは見たことがなかった。
個人練習をするから先に帰れと言われることも増えた。
待ってるって言っても聞いてくれなくなった。


どんどんそれは加速していく。
ついにそれは部活への支障をきたすようになってきて試合中に影山との交代を命じられていた。
トオルちゃんの変化をどう受け止めていいかも分からない。
どうにかしてあげたいのに私には何も出来なかったのだ。
私はまだまだ何も分かってない子供だったのだ。


「なぁ香坂」
『ん?何影山』
「及川さんサーブ教えてくんないかな?」
『トオルちゃんのサーブ凄いもんね。一緒にお願いしに行ってみようか』
「おう」


部活が終わって影山に話しかけられた。
トオルちゃんのサーブは確かに凄い。
だから私は安易に影山に一緒にお願いしてあげると言ったのだ。
身内が褒められたのが嬉しくてその時トオルちゃんが影山に対してどんな気持ちだったのか考えようともしなかった。


影山を連れてまだ体育館に残っているトオルちゃんの元へと向かう。良かった、ちょうどベンチに座ってるところだ。


『トオルちゃん!』
「及川さん、サーブ教えてくれませんか?」


二人でトオルちゃんに話しかけた時だった。
表情が恐い。私のことを見てない。
トオルちゃんが影山を見て手を振り上げようとした所でぎゅっと目を瞑った。
影山が殴られる?トオルちゃんに?何で?どうして?そんなトオルちゃんは見たくない。


「てめぇ、及川!今何しようとした!」


はじめちゃんの声が聞こえた。
恐る恐る目を開ける。そこにはトオルちゃんの腕を抑えるはじめちゃんの姿があった。
良かった、影山は殴られてないようだ。


「影山、悪いけど今日は終わりだ」
「あ…はい」
「みきも先に帰れ」
『はい』


二人の表情を見て何も言えなかった。
私もそこに混ぜて欲しいのに。
何にも言えなかった。
追い付けない、追い付きたいのに全然足りない。
私はこの日初めて二つ違いの年の差を悔やんだ。


「香坂、大丈夫か?」
『何が?』
「お前泣いてるぞ」
『あー』


影山に言われて自分が泣いてることに初めて気付いた。
これは多分悔しいのだ。
あの二人の間に入っていけないのが。
悔し泣きをしたのもこの時が初めてだったと思う。
泣いてることをこれ以上悟られたくなくてごしごしとジャージで涙を拭った。


『目にゴミが入ったみたいで』
「そうか」


影山はそれ以上聞いてこなかった。
お節介なタイプじゃなくて良かったと思う。


結局この日二人で何を話したのか知らない。
聞いてもどちらも教えてくれなかったのだ。
でも次の日からは私の知ってるトオルちゃんだった。
影山はちょいちょい意地悪をされてたけど。


打倒白鳥沢に向けての練習の毎日だった。
私も北川第一中学バレー部のために精一杯頑張ってたと思う。
二人には追い付けない。今はまだ無理だ。
そんな私に出来ることはマネージャーを頑張ることしかなかった。


そうして県大会の決勝で北川第一は負けて3年生は引退していった。
あまりにも短い二人との思い出。
でもこの短い間に私はバレーが大好きになっていた。
だから顧問に3年が引退したから辞めてもいいぞと言われてもマネージャーは辞めなかった。
ここでマネージャーを辞めても二人には追い付けないと思ったし、二人だけじゃなくて2年の先輩も同級生も好きだったからだ。


バレー部には朝練もある。
二人と登下校出来ることも少なくなった。
そしてまた会わない日々が続く。


でももう小学生みたいに寂しくなることも少なくなった。
マネージャーをやってるから毎日忙しく出来てたから。


これはまだ二人には追い付けないと敵わないと思ってた時。
置いてかれないように必死だった時。

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