ハッピーサマーウェディング

大学を卒業してはじめちゃんの転勤に着いていって早くも二年が経過した。お互いの生活も安定してトオルちゃんとアヤさんの結婚式もあったからそれがきっかけで私とはじめちゃんも入籍することになった。
みんなの移動のことも考えて結婚式は東京になった。タケルがディズニーランドに行きたいって言葉に絆されたわけじゃない…半分くらいはそれに絆されたような気がするけど。
こちらの仕事関係の人達も招待するからこれで良かったのかもしれない。
トオルちゃんとアヤさんは宮城で結婚式したしね。


「頭痛え」
『独身最後の夜だからって飲みすぎだよはじめちゃん』
「及川達が帰らせてくれなかったんだよ」
『ちゃんと間に合って良かったです』
「当たり前だろ」
「新婦様の準備がございますので」
「じゃあまた後でなみき」
『うん、はじめちゃん後でね』


昨日は私もアヤさんと日菜ちゃんと松川さんの奥さんと国見の彼女さんと過ごした。独身最後の夜だからってお互い男女に分かれたんだよね。松川さんの奥さんは高校生の時から知ってるけどまさか国見が彼女さんを連れてくるとは思って無かった。しかも少し気恥ずかしそうに「俺もその予定だから」とか言うんだよ?思わず笑ってしまった。しかもとびきり美人さんときたものだ。なのに物腰柔らかで目元が優しげで印象的だった。彼女同伴でもOKと言ったのはこっちだけどまさか国見が連れてくるなんて驚きだ。
アヤさんとはまた違った雰囲気だけれど二人とも優しいのは変わらなかった。おかげで初対面でも楽しく過ごせたような気がする。松川さんの奥さんのおかげでもあったけど。一番年上だったから私達のまとめ役になってくれたのだ。


その後は両親とホテルに泊まった。独身最後の親孝行だ。気恥ずかしかったけど松川さんの奥さんとアヤさんに言われたので『今までお世話になりました』をやってきた。二人とも涙目になっちゃって私も何故か涙が止まらなかった。


準備が整って後は式を待つのみだ。何だか今更緊張してきた気がする。マリッジブルーになることも全く無かったのになぁ。


「みきちゃん?」
『わぁ、日菜ちゃん!』
「私も来ましたよ」
『アヤさんまで』
「勇君と及川先輩が岩泉先輩のとこに行ったから」
「私達もみきちゃんに会いに行こうかって話になったんです」


お母さんもお父さんも慌ただしいらしくて一人で控え室でボケッとしてたら二人が来てくれた。お揃いのブルードレスが綺麗だよね。サムシングブルーだからってアヤさんが言い出したことだった。それをトオルちゃんにおねだりして確か日菜ちゃんのドレスもトオルちゃんが用意したような気がする。アヤさん恐るべしだ。
後は私のガーターベルトとハイヒールとブーケの差し色に青色が使ってある。幸せになりますようにってアヤさんが用意してくれた。それがとても嬉しかったりする。


『緊張してきちゃった』
「みきちゃん綺麗だよ」
「大丈夫ですよ。はじめさんに任せたらいいんですから」
『うん』
「早く綺麗なみきちゃんはじめさんに見てもらいましょうね」
「写真撮る時にはじめちゃんは見てるよ?」
「徹君曰くその時とは全然違うみたいですよ」
「そろそろお時間ですので」
「じゃあまた後でねみきちゃん」
『うん』


二人と入れ替わりでお母さんが戻ってきた。なんだかやっぱり気恥ずかしい。


「心配はしてないけれどはじめさんに迷惑かけたら駄目よ」
『うん』
「貴女が支えてあげなさい」
『分かってる』
「甘えるばっかりじゃなくてたまには甘えさせてあげなさい」
『うん』
「後はたまの失敗を許してあげなさいね」
『失敗?』
「男の人ですから付き合いもありますからね」
『分かった』
「幸せになりなさい」
『はじめちゃんがいれば大丈夫』


あぁもうお母さんまた涙目だよ。つられて涙が込み上げてきそうになるのをぐっと堪える。まだ挙式前だから泣いたら駄目だ。お化粧が剥げてしまう。
スタッフに呼ばれてお母さんとチャペルの入口まで向かう。この扉を開けばお父さんが居てその向こうにはじめちゃんがいる。
ギィとチャペルの扉が開いて私はそっと中へと足を踏み入れた。


お父さんが既に泣きそうな顔で私を出迎える。お母さんからお父さんへとバトンタッチをしてバージンロードをゆっくりと進んだ。周りからの視線が気恥ずかしい。だから真っ直ぐはじめちゃんだけを見て進んだ。
さっきアヤさんが言った意味が分かった気がする。タキシードだって一緒に決めたはずなのに写真も一緒に撮ったはずなのに今日のはじめちゃんが一番格好良い気がした。


お父さんからはじめちゃんへとバトンタッチが続いて神父さんの前に二人で並ぶ。変にドキドキしてきたよ。大丈夫かな?
リハーサル通りに式が進んでいく。結婚の誓約からの指輪の交換。意外にもはじめちゃんの方が落ち着いてるみたいだった。指輪もすんなりと嵌めてくれたし。逆に私はなんだか手が震えてしまった。それでも何とかはじめちゃんの指へと指輪を嵌める。


「誓いのキスを」


はじめちゃんと向き合って軽く屈むとベールをゆっくりと上げてくれた。私と目が合ってはじめちゃんが微笑んでくれてやっと私も落ち着けたような気がする。
それで目を閉じて顎を上げるととびきり柔らかい感触が唇に触れた。
はじめちゃんの顔が見れなかったのが残念だ。ちゃんと言われた通りに長めのキスだったから写真を楽しみにしておこう。


『緊張した』
「珍しくな」
『はじめちゃん笑わないでよう』
「ずっと顔が強ばってたもんな」
『私大丈夫だったかな?』
「大丈夫だろ。後から綾さんにでも聞いてみろ」
『そうする』


皆にお祝いされてバージンロードをはじめちゃんと歩いて退場した後。緊張しすぎて腰が抜けた。確かこの後は親族での撮影があるはず。列席者が移動した後にまたチャペルに戻るのだ。その後に披露宴になる。もうそんな堅苦しいことは無いはず。


「みき今日はとびきり綺麗さんだねー」
「はじめと結婚出来て良かったなみき」
『タケルごめんね』
「俺も今、彼女いるから全然ヘーキ」
『いつの間に!』
「おい、お前らうるせぇぞ」


親族と言ってもはじめちゃんちの家族とは何度も顔合わせてるから昔から親族みたいなものだ。だから軽口が止まらない。タケルも高校生だし彼女が居ても当たり前だよなぁ。いつの間にこんなに大きくなっちゃったのか。私達がいつまでも喋ってて撮影にならないからはじめちゃんに注意されたんだった。それにみんながどっと笑う。
親族で撮った写真はその瞬間を見逃すはずもなくとても良い写真になった。


『余興?』
「及川達がな」
『何するんだろ?』
「さぁな」


披露宴の余興でトオルちゃん達がまさかの女装でモーニング娘のハッピーサマーウェディングを歌ってくれた。これは大いに盛り上がった。だってみんなガチの女装だったんだもん。トオルちゃんと松川さん花巻さん矢巾さん渡さん狂犬ちゃんそれに金田一と国見と影山。東京に出て来てから影山ともちょこちょこ会ってたから招待状を送ったんだけどまさか余興にまで参加してくれるとは。


『振付け完璧だね』
「おお、すげぇな」


歌声は完全に野太い男声だったけれどガチの女装だったからみんな大盛り上がりだ。あちこちから写真を撮られている。え、私も写真撮りたい。あの衣装誰が用意したんだろ?きっとアヤさん辺りがみんな分作ったんだろなぁ。メイクは松川さんの奥さんと日菜ちゃんがやったんだろなぁ。みんな涙を流すくらいに笑っていた。
途中の台詞もちゃんとはじめちゃん仕様にしてあったし。


盛り上がった余興が終わって次はうちのお父さんとはじめちゃんのお父さんが二人で長渕剛の乾杯を歌ってくれた。さっきあんなに盛り上がったのに今度は違う意味でみんな涙目だ。何なら何故かうちのお父さんよりはじめちゃんのお父さんの方が泣いてたしね。
これには私もうるうるしてしまった。周りからも鼻を啜る音がちらほら聞こえたし。


「お色直しの時間となりますので新婦様が退場されます」
「ほんとに及川でいいのか?」
『ん、お母さんもいいって言ってくれた』
「アイツ泣くな」
『多分ね』
「新婦様のいとこの及川徹様此方へどうぞ」


お父さんズの歌が終わってお色直しのため退場する。普通は兄弟とかお母さんと退場するらしいんだけど私はトオルちゃんを選んだ。お母さんもそれでいいって言ってくれたし。
トオルちゃん立ち上がったはいいものの戸惑ってるなぁ。もう既に女装からスーツ姿だ。化粧もさっぱり落とされている。あの女装のままエスコートされても面白かったのになぁ。


「おい、さっさとしろ及川」
「分かった」


結局はじめちゃんに促されてトオルちゃんは私を迎えに来た。それにも笑いが起こる。みんなが笑顔でいいなぁ。嬉しいなぁ。


「みき、本当に俺でいいの?おばさんとかじゃなくて」
『トオルちゃんと歩きたかったんだよ』


トオルちゃんの差し出した手を取って立ち上がる。あぁもう既に涙目だし。腕を組み直してテーブルの合間を縫って退場する。トオルちゃんを弄る声だったり私達の写真を撮るフラッシュがあちこちで光っている。


「みき、幸せになってよ」
『はじめちゃんが旦那様だよ?幸せになるに決まってるよ。トオルちゃんとアヤさんみたいになるんだから』
「そうだね、岩ちゃんなら安心だね」
『そうそう』


鼻を啜るトオルちゃんと周りの声に答えて写真を撮ってもらいながら退場した。会場を出てトオルちゃんは直ぐに戻るように促される。トオルちゃん、大役がもう一回残ってるんだよ。
新郎の退場は大体が母親とすることが多いらしいんだけどはじめちゃんのお母さんがシャイでそれを全力拒否したのだ。だからこの際トオルちゃんと退場したら?って冗談で提案したらそれが通ってしまった。
はじめちゃんのお母さんもうちのお母さんも何故かノリノリでそれを許可した。はじめちゃんだけ凄い嫌そうだったけど。
二人が出てくるまで待ちたかったけど仕度があるから渋々その場を後にした。動画も撮ってるからまた後で観ればいいか。


お色直しは和装と迷ったけどディズニーのウェディングドレスにした。シンデレラのドレスに一目惚れしちゃったのだ。王子様のタキシードも格好良かったし。だから和装は写真だけ撮ってもらった。はじめちゃんは絶対に紋付き袴も似合うもんね。


『はじめちゃんやっぱり格好良いね』
「おう、お前も似合ってんな」
『へへ、ありがと』


お色直しの入場はキャンドルサービスだ。はじめちゃんと二人で全てのテーブルを回る。


「香坂綺麗になったな」
『金田一ありがとー!』
「国見、来てくれてありがとな」
「俺の時も二人とも呼ぶので」
「は?いつだよ。俺も呼べよ」
「影山お前空気読めよ」


「しっかしこんなに綺麗になっちゃうとはなぁ」
「想像以上だよなぁ」
『えへへ、松川さんと花巻さんに褒められたー!』
「花巻も早く続けよ」


『狂犬ちゃん余興参加してくれてありがと!』
「しゃーなしだべ」
「渡も矢巾もありがとな」
「及川さんがノリノリだったんで」
「あ、松川さんと花巻さんもです」


「みきちゃんほんと綺麗!ドレスも似合ってるし!」
『日菜ちゃんもサムシングブルーありがとね!』
「あ?何だよそれ」
「はじめさんは知らなくて大丈夫です」
「お前も色々ありがとな」
「徹君のためでもありますから」


『あの、私が言うのも変ですけど国見のこと宜しくお願いします』
「大丈夫。英のことは任せて」
「花巻に誰か紹介してやれよ」
「花巻君ねー今日で誰か見付けそうな気がする」
「ま、確かにな」


全てのテーブルを周りキャンドルに火を灯していく。はじめちゃんは渋ったけどこうしないとみんなと話せないから絶対にやりたかったのだ。はじめちゃんのことははじめちゃんママが説得してくれた。一生に一度のことなのだから花嫁さんの言うこと聞いてあげなさいって諭されてたなぁ。


「岩ちゃん!みき!こっち向いて!」

「みきちゃん次はこっち!」

「みきーお母さんの方も向いてちょうだいー!」

「みきちゃん次はこちらを向いてください」


「キリがねぇな」
『はじめちゃん笑顔えーがーおー』
「一枚ありゃいいだろ」
『みんなベストショットを狙ってくれてるんだよきっと』


キャンドルサービスが終わったら次はケーキ入刀だ。これも私のワガママだった。そういえば挙式から披露宴ではじめちゃんが決めたのって一つしか無いなぁ。これもはじめちゃんママのおかげだよねきっと。


「ファーストバイトのお時間です。まずは新郎様から花嫁様へどうぞ」


ケーキ入刀が終わってさくさくとファーストバイトの時間となる。みんなカメラ握りしめてるなぁ。相変わらず楽しそうだ。


「みき、目瞑れ」
『はぁい』
「何か懐かしい光景だな」
「岩泉さんの誕生日っすね」
「ちょ!別に今日目を瞑らす必要無かったよね!?」


周りからの視線が嬉しいと同時に気恥ずかしくもあったのではじめちゃんの提案に喜んで目を瞑らせてもらった。おかげで何にも気にしなくていいもんね。シャッター音があちらこちらからカシャカシャ聞こえるけれど私はあーんと口を開けてはじめちゃんからのケーキに集中した。あ、結構このケーキ美味しい。


「岩ちゃんは目を瞑らないでよ!」
『大きいスプーンきたね』
「みきちゃんの愛の分だけ食べさせろとか面白いな」
「岩泉さん!ちゃんと全部食べてやってくださいよ!」
『んじゃはじめちゃん参ります』
「おお」


新郎へのファーストバイトは大きなスプーンを手渡された。新婦の愛の分だけとか甘いもの苦手なのに大丈夫かな?ちらっとはじめちゃんを見ると「遠慮すんな」って笑ったからみんなの期待通りにがっつり食べさせてあげよう。


はじめちゃんへのファーストバイトも大いに盛り上がった。と言うか結局最初から最後まで盛り上がったよね。二次会もみんなとっても楽しんでくれた。
全ての日程を終えて今ははじめちゃんと二人きりだ。明日から新婚旅行だから今日は贅沢してホテルのスイートルームにお泊まりだ。はじめちゃんの両親がプレゼントしてくれた。


『楽しかったねぇ』
「盛り上がったな」


ソファに座ってはじめちゃんとのんびり過ごす。珍しくビールじゃなくてシャンパン片手にだ。見晴らしも凄く良くてほんと贅沢してるよね。今日からははじめちゃんの両親も私のお義父さんお義母さんだから親孝行ちゃんとしないとなぁ。


『はじめちゃん沢山ワガママ聞いてくれてありがとね』
「一生に一度だからな」
『はじめちゃんママ様様だね』
「みきが楽しんだのならいいわ」
『はじめちゃんは?』
「色々大変だったけどまぁ良い思い出にはなった」
『それなら良かった』
「お前が隣に居たしな」
『えへへ。あ、はじめちゃん聞きたいことがあったんだけど』
「ん?」
『誓いのキスははじめちゃんが決めたでしょ?』
「あーあれな」
『リハーサル前は額にするって言ってたのに急にリハーサルで変えたの何で?』
「調べたんだよ」
『何を?』
「誓いのキスのことに決まってんだろ」
『何か変わるの?』
「額は「友情のキス」、頬は「厚意のキス」、唇は「愛情のキス」って書いてあったからな」


まさかはじめちゃんが自らそんなこと調べると思ってなくてびっくりだ。返事が出来なくて不思議に思ったのかはじめちゃんが此方を向いた。私と言いたいことが分かったのか照れ臭そうに直ぐに視線を外されてしまった。


『私はじめちゃんのお嫁さんになれて良かったぁ』
「そんな当たり前のこと今更言うなよ」
『照れたのはじめちゃん?あ、トオルちゃんから電話だ』
「出なくていい」
『え』
「アイツも多分酔っぱらってんだろ」
『止まる気配が無いよ』
「いいから。んなもん放っておけ」


ブーブーと鳴り続けるスマホをポイッとそこら辺に投げ捨ててはじめちゃんが私に覆い被さってきた。あ、またスイッチ入っちゃってる。


「今からは俺とお前の時間な」
『うん』
「みき、ありがとな」
『私こそお嫁さんにしてくれてありがと』


私の頬に手が触れていつもの優しいキスが降ってきた。


2018/11/08

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