プロポーズ

みきと一緒に暮らし始めてあっという間に一年半が過ぎた。大学時代と大して俺達の暮らしは変わらない。ただ俺が大学を卒業して就職したってくらいだ。
後は及川が綾さん連れて東京に行っちまってどっかの企業で相変わらずバレーをしてるってこと。俺も結局バレーから離れられなくて月島の兄貴のいるとこで社会人バレーを始めたってことぐらいだと思う。
あ、後はみきが国見と仲直りしたってとこくらいだな。


『就職どうしようかなー』
「お前とりあえず就職活動すんなよ」
『え、何で?』
「多分四月から東京に転勤になるんだよ」
『それなら東京で就職活動すれば良くない?』
「まだ本決まりじゃねぇし住むとこから遠かったら不便だろ」
『でもでも就職決まらないまま大学卒業したら私ニートになっちゃうよ?』
「はぁ?」


コイツは結局同棲する時の話の流れをちっとも理解していなかったらしい。何のためにわざわざおじさんおばさんに会いに行ったと思ってんだ。みきのおじさんと二人で飲みに行ったりしてやっと許可もらったんだぞ?その話も全部したよな?
……コイツその話も全部同棲の話だと思ってんのか?責任取れって最初に言ったのはみきだぞ?


「ウケる。みきが理解して無かったとかかなりウケるんだけど!」
「クソ川今度会ったときに蹴るからな。覚悟しとけよ」
「徹君?みきちゃんですかー?」
「綾さん違うよ!今日は岩ちゃん!」
「珍しいですね」
「綾さんにも話を聞いてもらったら岩ちゃん!」
「お前よりちゃんとしたアドバイスくれそうだしな」
「酷っ!」


家で電話するわけにもいかねぇから会社からの帰り道に及川に電話した。まぁ最初から及川じゃなくて綾さんに話を聞いてもらおうと思ってたからな、及川だけに相談するなら松川や花巻のが適役だろうし。


「みきちゃんて鈍感さんなんですね」
「俺達だって岩ちゃんが結婚を決めてるからおじさんとおばさんに会いに行ったと思ったのにねぇ」
「でもはじめさんちゃんとみきちゃんにプロポーズしたんですか?」
「責任取れってアイツが言うから当たり前だろとは言った」
「岩ちゃん!それは駄目!ぜぇったいに駄目!」
「あ?何でだよ」
「それじゃあ単なる結婚の約束であってプロポーズしたことにはならないですよはじめさん」
「何ならみきからのプロポーズになってるじゃん!男ならそこは自分から言わないと!」


みきが少しも俺のしたいことを理解して無いことを告げたら二人からの猛抗議の嵐だ。いや、ここまでしといたら普通理解出来るだろ?最近はみきの家からの援助も学費と最低限にしてんだぞ俺。


「とにかくちゃんとはじめさんからプロポーズしてあげてくださいね」
「あ!ちゃんと指輪も用意しなよ岩ちゃん!俺もこないだやっと綾さんの親から許可貰えたし!」
「指輪か」
「岩ちゃんのことだから指輪なんてあげたこと無いでしょ?ちゃんとした婚約指輪買ってあげなよ!」
「みきちゃんの指輪のサイズは私が聞いておきますね」
「悪いな」
「みきなら喜んで岩ちゃんのプロポーズ受けるだろうから頑張ってね岩ちゃん!」
「私も応援してますね」


電話を切った後に及川から「オススメの婚約指輪のブランド」なるものが大量に届いた。量が多すぎるだろと告げると2、3個に絞られたのが送られてきた。あぁ、きっとアイツも綾さんのためにあれこれ悩んだんだろうな。どれにしようかと悩んでいたら二日後に綾さんからみきの薬指のサイズが送られてきた。アイツら仕事早すぎだろ。
未だに俺の言いたいことを理解して無いからさっさと指輪用意してやらねぇとな。ニートにはなりたくないからやっぱり就職活動するなんて言われたら困るし。


及川と相談しながらみきの好きそうな指輪を選ぶ。俺から見たらさっぱり分からないから及川の意見は大事だ。こういうとこは茶化さずにちゃんと話聞いてくれるからな。腐れ縁だけどアイツもやっぱり大事な友達なんだよな。
及川と綾さんに確認してもらってこのデザインなら大丈夫だろって指輪を頼んで店頭に取りに行った帰り道。柄にもなくみきと出逢った時のことを思い出した。


最初は単なる及川のいとこだとしか思ってなかった。今じゃ考えられないくらい人見知りだったしな。それがどこに行くにも俺達の後ろを着いてきたからいつの間にか妹みたいな存在になってた気がする。
中学に入ってもそれは変わらなかった。中1中2はそれこそバレーの試合の応援に来たときくらいしか会わなかったしな。中3になってみきが入学して来た時だってそんな感じだ。俺と及川の妹分、そんな存在だった。


それが変わったのは高3に入ってからだ。みきの中学卒業の時だって高校入学の時だってまだ単なる妹分だったのにアイツはいきなり俺の彼女になるって購買で宣言したんだった。あれにはかなり驚かされたよな。冗談でも言っていいことと悪いことがあるって思わず怒りそうになったんだ。
それをグッと堪えてとりあえず誰にでもそんなことは言うなって注意したような気がする。や、ちげぇな。あの時は気が動転してたから結局そんなことするなって言ったような気がする。


それから少しだけみきを意識するようになったのは事実だ。まぁあんな風に言われたら誰だってそうだろ。ただでさえ部活の初練習参加の時にみきが松川達に『はじめちゃんはお兄ちゃんじゃない』って言ったのを聞いちまってたからな。あの時は何で及川は兄なのに俺は違うんだってイライラした気がする。及川より俺のがよっぽど兄らしいことしてたはずだったからイライラしたんだよな。この一言は結局夏まで引きずったんだよな確か。


それから色々あったような気がする。いつでもみきは俺に対して真っ直ぐだった。
けれど俺はそれに答えれなかったんだ。今更確認したことは無いけれどあの頃は多分及川もみきのことを好きだったとは思う。聞いた所できっと認めないけどな。「お兄ちゃんだからみきが好きなのは当たり前でしょ」とでも言いそうだし。けれど俺には何故かその確信があった。だから俺には及川を差し置いてみきの気持ちを受け入れることがどうしても出来なかったんだ。
だからみきへの気持ちにも気付かないふりをした。国見と仲良くしてるのを見ていっちょ前に嫉妬したりもしていたのにだ。


我ながらバカだったとは思う。今、俺の隣に居てくれるから良かったものの何かが少しでもずれたらもしかしたらみきの隣にいるのは及川か国見だったかもしれねぇんだもんな。
そういうのを引っくるめて今日アイツに話してやらないといけないんだろう。


「ただいま」
『はじめちゃんおかえりー!ご飯出来てるよ!』
「今日は何だ?」
『今日はクリームシチューです!』
「旨そうな匂いすんな」
『今日も美味しいよー』


栄養士の勉強をしてるだけのことはあるよな。みきは本当に料理が上手になった。前から下手くそでは無かったけど大学入ってから腕も上がったしレパートリーもすげぇ増えたもんな。俺のリクエストしたものも全部作るし。お前ほんと良い嫁さんになるぞ。


「おい」
『何ー?おつまみなら出したよはじめちゃん』
「いいからとりあえずこっちに来い」
『洗い物終わったら行くよ?』
「早くな」
『もー直ぐ行くってば』


夕飯を食い終わった所でみきを呼ぶ。正直洗い物とか後回しでもいいくらいだ。けれど家事に口出しすると煩いので大人しく急かすだけにして止めておいた。キッチンは常に綺麗にしておきたいっていつも言ってるしな。


『お待たせはじめちゃん』
「急かして悪かったな」
『急かしても急かさなくても一緒だから大丈夫だよ』
「ならいいわ」
『んでどうしたのさ』


追加の缶ビールをテーブルに置くとみきも俺の対面に座った。あれこれとつまみが並んでいる。一種類じゃ味気ないからと最近じゃつまみも何種類か並べてくれるんだった。


「お前就職活動諦めたか?」
『え』
「勝手に東京で就職活動してねぇだろな」
『まだしてないよ!』


みきは素直と言うかバカと言うか、多分俺には一生嘘付けないと思う。まぁ嘘を付けないんじゃなくて俺に嘘を付くことが無いんだろうけどな。咄嗟の一言に慌てて口を噤むけどもう遅いからな。


「しなくていいって言っただろ」
『だってニートだよ?せっかく栄養士の資格取れるのに大学卒業してニートとか!』
「俺がお前に仕事をやるよ」
『え?はじめちゃんの会社栄養士募集してるの?』
「違えよ。そういうんじゃねぇの」
『じゃあ』
「俺の嫁さんな」
『……え?』
「ほらこれ開けてみろよ」
『え、ほんとに?』
「お前が責任取れって言ったべ」
『でもでもまだ大学卒業してないし』
「後半年で卒業すんだろ」


この反応はやっぱり同棲する時の話がそういう話だったって分かって無かったんだな。みき以外はもうそうなるもんだと思ってんだぞ。みきは恐る恐る俺が渡した小箱の包装を解いている。


『わぁ、綺麗』
「婚約指輪な」
『いいのかな?』
「あ?何がだよ」
『だって凄い嬉しいよはじめちゃん!』
「んなもん良いに決まってんだろ」


早速指にはめて指輪を照明にかざしている。一番反射が綺麗なカットにしてもらったからキラキラしてんだろな、多分。


『あ、じゃあお父さんに挨拶にいかないとだね』
「バーカ。もう終わってんだよ」
『え?いつの間に!?』
「同棲する時にそういう話になってんだよ。おばさんとおじさんに聞いてみろ。呆れられるぞみき」
『……あ!だからお父さんは渋ったしお母さんは泣きそうだったの?』
「そうだろうな」
『えぇ!?だってはじめちゃん何にも言って無かったよ!』
「そこは悪いとは思ってる」


俺がちゃんと言って無かったのは悪かったな。同棲する時の流れで伝わってると思ってたからな。そこはしょうがないだろ。


「みき、ちょっとこっち来い」
『うん』


対面に座るみきを隣へと呼ぶ。呼べば大人しく俺の隣に移動してくるからほんと素直だよなぁ。あぁ、これは昔からだ。いつだって俺が呼べば直ぐに寄ってきてたよな。思い出して自然と頬が弛んだ。


「俺のことずっと好きでいてくれてありがとな」
『はじめちゃんしか見えなかったから』
「だからみき、俺と結婚」
『する!絶対にする!はじめちゃんのお嫁さんになるから!』
「お前また俺の言葉遮るのかよ」
『待ってらんなかったんだもん』
「プロポーズの言葉無かったとか及川達に言うなよ」
『言わない!俺の嫁さんに就職しろって言われたもん!』
「ん、ならいいわ」


付き合う時もこんな流れだったよな?まぁみきらしくていいか。あの時はみきから抱きついてきたから今日は俺から抱きしめてやることにする。


「東京着いてこいよ」
『うん、一緒に行く』
「向こう行ってから就職先探してもいいしな」
『そうする』
「いつも俺のためにありがとなみき」
『はじめちゃんが一番だよ』
「俺もお前が一番だからな」
『へへ、知ってる』


初めてのはじめちゃん目線。プロポーズ頑張りました(笑)
2018/11/07

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