就職祝い

『はじめちゃんとトオルちゃん就職おめでとー!』
「二人ともおめでとうございます」
「ありがとありがとー!」
「おー。ま、まだ卒業式残ってるけどな」
「卒論も無事終わったから後は卒業しちゃうだけだけどね!」
「徹君の卒論大変でしたけどね」
「綾さん!無事に終わったからいいでしょ!」


今日はうちではじめちゃんとトオルちゃんの就職祝いだ。いつもアヤさんのうちばっかりじゃ迷惑だしね。土曜日に合わせたからお昼からアヤさんと二人で豪勢に料理の準備をした。二人の好きなものばっかり作ったから嬉しそうだ。
ビールで乾杯して四人で料理を食べ始める。はじめちゃんは相変わらず揚げ出し豆腐から手をつけるんだなぁ。好物を最初から食べるの昔からほんと変わってない。


『トオルちゃんは東京だよね?』
「そうなるねー。何?やっぱりお兄ちゃんが遠くに行っちゃうの寂しいのみき?」
『アヤさんが居なくなるの寂しい』
「そっち!?」
「当たり前だろ。ふざけたこと言ってんじゃねぇぞクソ川」
「岩ちゃんまで酷い!」
「私も本当にいいんですか徹君」
「は?綾さん行かないなら俺も東京行かないよ!何回も話したでしょ!」
「後悔しませんか?」
「絶対しない!じゃなかったら親に挨拶行かないでしょ?俺が綾さんの両親に土下座までした意味考えてよちゃんと!」
「分かりました。じゃあもう言いません」
「お前すげぇな及川」
『トオルちゃん達結婚するの?』


トオルちゃんはアヤさんの言葉にご立腹のようだ。確かにトオルちゃんはもうアヤさん無しじゃ生きていけないだろうなぁ。ワガママ放題なんだもん。甘やかすだけじゃなくて叱る時はちゃんと叱ってるみたいだけど。そんな二人を微笑ましいと思いながらもふと疑問に思ったことを伝えてみた。


「みき聞いてくれる?東京に連れてくのは許可貰ったんだけどまだ甲斐性が伴ってないからそこは保留とか言われたんだよ!」
「そこは事実だろうが」
「俺絶対に綾さんに苦労させない自信あるのにさ!」
「まだ学生ですから仕方無いですよ」
「向こうには就職で行くのにさ!」
「しかしお前もよく決めたな」
『確かに。アヤさん悩んだりしなかったの?』
「二人とも何言っちゃってるの!?」


だってアヤさんはこっちで仕事してるし東京に行くってことはその仕事を辞めることになる。トオルちゃんが就職決まったとは言えこの選択って凄いことだよね。私とはじめちゃんの言葉にアヤさんは柔和に微笑んだ。私とトオルちゃんが大好きな笑顔だ。


「私のことよりも一人で東京行く徹君を想像したら心配で心配で」
「『あー』」
「綾さんは俺のこともう放っておけないからね!」
「威張って言うことじゃねぇだろが」
『トオルちゃんらしいなぁ』
「だからあまり悩んだりしなかったですね。私でいいのかなとは思ってましたけど」
『アヤさんじゃなきゃもう無理だと思う』
「それな」


私達の言葉に二人は本当に幸せそうに笑った。トオルちゃん、アヤさんに出逢えて本当に良かったね。


「あ、お前ら明日の午後暇か?」
「暇してるよー」
「明日なら仕事休みですし空いてますよ」
『どうしたのはじめちゃん?』
「明日の午後に部屋見に行くって言ったろ?」
『うん』
「バイトがどうしても人手が足りなくて俺行けそうにないんだよ」
『そっか』
「だからこいつらに付き合ってもらえ。及川はともかく綾さんなら頼れるだろ」
『はぁい』
「はじめさんにそう言ってもらえるのは嬉しいですね」
「ちょっと!岩ちゃん!俺も頼りになるよ!大丈夫だよ!」


トオルちゃんの必死な叫びをはじめちゃんは全力スルーしていた。あ、これ相手にするのが面倒になったんだきっと。ついでにアヤさんが隣でフォローしてるからそっちに任せたらいいと思ってる気がする。


次の日、午前中ははじめちゃんと私の実家に帰る。一応報告しといたけど直接挨拶するのがけじめだってはじめちゃんが決めたのだ。そうは言ってもうちのお父さんもお母さんも私がずっとはじめちゃんのこと好きなのは知ってるからなぁ。今更じゃない?


『お父さんは?』
「ごめんなさいねー。朝からふらっと出掛けちゃったのよ」
「そうですか」
「あ、はじめ君とのことを反対してるとかじゃないから気にしないでちょうだいね」
『じゃあはじめちゃんと一緒に住んでもいいの?』
「そりゃ良いに決まってるでしょ。勿論はじめ君が良いならだけど」
「俺はそのつもりで来たので」
「本当にうちの子でいいのかしら?」
『お母さん!?』
「この確認は大事なのよ。後から返却されるくらいなら今無理って言ってもらった方がいいでしょ?」
『そんなことはじめちゃんは言わないよ!』


お父さんは多分逃げたな。もう、ちゃんと家にいてねってお願いしといたのに!別に今だって半分同棲してるようなものなんだからいいでしょ?何を今更気にしているのか。ついでにお母さんもなんてことを言い出すのか。


「俺もコイツじゃなきゃ駄目だと思うんで」
『ほらね?』
「はじめ君が誠実なのはお母さんも知ってます。単なる最終確認ですよ」
「不自由はさせないつもりです」
「えぇ、はじめ君うちの娘を宜しくお願いしますね」
「こちらこそ」


私の隣ではじめちゃんが深々と頭を下げた。え、同棲の許可ってこんなに堅苦しいものなの?私だってもう二十歳越えてるのに?お母さん何でか目に涙が溜まってるよ?嫁入り前みたいになってない?変なのー。
お父さんとはまた次回話すってことでお開きになった。そのまま今度ははじめちゃんの家に連れていかれる。


「みきちゃんいらっしゃい」
「久しぶりに見たら綺麗になっちゃったなぁ」
『おじさんおばさんお久しぶりです』
「電話でも言ったけど」
「みきちゃんなら安心よね」
「そうだなぁ。小さい頃から知ってるしな」
「じゃあそういうことで」
『はじめちゃんに毎日美味しいご飯食べさせるつもりではいるので!』
「はじめもしっかり働きなさいよ」
「みきちゃんのこと放って遊びに行ったりするなよ」
「分かってる」


正直何ではじめちゃんちに連れて行かれたのかさっぱり分からなかったけど久しぶりにおじさんとおばさんの顔を見れて良かったかもしれない。そのままはじめちゃんはバイトに向かったから私はトオルちゃんとアヤさんと合流して不動産巡りをする。


「とりあえず間取りは?」
『んーそんな広くなくていいはず』
「みきちゃんもまだ大学生ですし1LDKで良いと思いますよ」
『あ!キッチンは広めで!』
「ここは?カウンターキッチンだよ」
「三口コンロもありますね」
『あ、ここなら場所も大学と会社の真ん中だ』


さくさくと部屋が決まる。契約ははじめちゃんがするので必要書類だけ貰って帰ることになった。今でも半同棲みたいなものだけど四月からはちゃんとした二人暮らしだ。それがなんだかワクワクして嬉しい。


「ちゃんと部屋決めてきたのか?」
『うん、これが間取りと書類』
「これくらいなら大丈夫だろ」
『家賃?』
「おお、予想より安かったから良かったわ」
『アヤさんがこのくらいの家賃の方がいいですよって』
「やっぱ頼んで正解だったな」
『うん、アヤさんほんと頼れるお姉さんだよ』
「ま、実際に及川と結婚するんだからそんなもんだろ」
『アヤさんがお姉さん嬉しいなぁ』
「良かったな」


不動産巡りを終えて帰って今日はうちでご飯だ。昨日もだけどほんと何作っても美味しそうに食べてくれちゃうからいいよねぇ。


『はじめちゃん、卒業祝い何が欲しい?』
「旨いメシ食えればそれでいいぞ」
『またそれー?』
「お前バイトもしてねぇんだから無駄遣いすんな」
『はじめちゃんの誕生日も卒業祝いも無駄遣いじゃないし』
「親の金なんだから大事にしろ。働き出してから色々すりゃいいだろ」
『お小遣い貯めたよちゃんと』
「親がお前のためにって出してくれてる金だから駄目だ」
『……分かった』
「お前の作るメシが一番旨いんだからそれでいいんだよ」


はじめちゃんの卒業祝いしたかったのにまたもや断られてしまった。けれどはじめちゃんが言うことも分かる。確かに私は大学に入ってからバイトを一切してないからお父さんお母さんにおんぶにだっこ状態だ。何ならはじめちゃんにも食費貰っちゃってるし。けれど少しだけ落ち込んだ。ご飯を作ってあげるだけなら誰にでも出来るし。そんな私をあやすようにはじめちゃんがわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。


『じゃあそのお金で親孝行する』
「ん、その方が喜ぶだろきっと。まぁ働き出してからでも遅くはねぇけどな」
『本当にご飯食べるだけでいいの?』
「おう。それでいいからお前は気にすんな」
『分かった。はじめちゃんこれからも宜しくね?』
「お前のとこの親にも約束したからな。当たり前だろ」
『私もはじめちゃんのために色々頑張るからね』
「頑張るのはいいけど頑張りすぎんなよ」
『大丈夫!』


それから交代でお風呂に入って晩酌をして今日はどうするんだろ?って思ったら一緒に寝てくらしい。うちで寝る寝ないは完全にはじめちゃんの気分だったりする。部活をしてた時はよく自分の家に帰って寝てたもんね。シングルベッドに二人じゃ疲れが取れないって。部活は引退しちゃってるから最近はうちでそのまま寝てくのも多いような気がする。


「国見に彼女が出来たってよ」
『そうなの?』
「矢巾が言ってた」
『そっかぁ。良かったねぇ』
「矢巾に一回連絡してみろよ」
『分かった』
「今なら多分大丈夫っつってたぞ」
『でも急に何で?』
「及川が東京行く前にバレー部で集まろうって話になったんだよ。そうなるとお前と国見のことがネックだろ?」
『あぁ、そっか』
「ま、またどうなったか教えろよ」
『りょーかい』
「ついでに金田一に春休みに帰ってくんのか聞いとけ」
『はぁい』


矢巾さんを通して国見と連絡を取ったのはその三日後のことだ。約二年ぶりに国見と話したような気がする。久しぶりでかなり緊張したけれど意外と普通に話せたような気がする。その四日後には影山と何でか五色君と四人で居酒屋にも行った。三人とも同じ大学だからか仲良くやってたみたいでホッとする。
それから何故か五色君の彼女さんの惚気話を散々聞かされて解散になった。
私としては国見や影山の話が聞きたかったのにだ。けれど五色君の話を穏やかに国見が聞いてるのを見て私もなんだか穏やかな気持ちになれた。
きっとトオルちゃんにとってのアヤさんみたいな人に国見も出逢えたんだろう。


『国見、あのね』
「俺は謝らないから」
『う』
「だからお前も謝るなよ香坂。俺ももう気にしてないし」
『痛み分けってやつだね』
「何だよそれ」
『え、ぴったりでしょ?』
「まぁ、確かに」
「お前ら何の話してるんだ?」
「さっきからさっぱり分かんねーぞ」
『「別に?」』


五色君と影山の質問に言葉が重なってしまって二人で笑ってしまった。二年もかかったけれどこうやって国見と一緒にお酒を飲める関係になれるだなんてなんだか不思議だ。
けれどやっと友達が戻ってきたような気がして嬉しくなった。


先にはじめちゃんが一番をさくさく終わらせてしまうことに決めました。後二話で終わると思います。
2018/11/06

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